社会人のための物理学I 古典物理学

  • 速さは式(2.1)、(2.3) で表わされる「量」(スカラー)であるが、この速さに方向を加えたものを速度という。
  • たとえば、真北に向かう自動車 A と同じ一定の速さ vで真南に向かっている自動車 B は速さは同じでも速度は異なることになる。日常生活においては、速さと速度が厳密に区別されることはないし、それで支障はないが、運動を厳密に扱う物理学においては区別する必要がある。
  • 速度は“大きさ”のみを表わすスカラー(量)ではなく、“大きさ”と“方向”持つベクトル(太字)で表わすのが好都合である。
  • たとえば、交差点 X から速さ vで真北に向かう自動車 A の速度をvとすれば、同じ速さで真南に向かう自動車 B の速度は-vになる。ところで、自動車や電車についているスピードメーターが“速度計”とよばれることが多いが、これは正しくない。時速60km で真北に向かっている時も真南に向かっている時も、その計器が表示するのは“60km/h"であるが、これは“速度ではなく“速さ”である。
  • ちなみに、英語で“速さ”は “speed”、“速度”は“velocity"である。だから、あの計器をスピードメーター(speedometer )とよぶのは正しい。ほとんどの英和辞典では、この speedometer”に「速度計」という日本語訳をあてているが、これは物理学的には正しくないのである。正しくは「速さ計」と書かれるべきである。

 

  • 一般的に、重い物体の運動はゆっくりであるし、軽い物体の運動はすばやい。これから、“運動”について、さらに物理的理解を深めるために、ここで“重さ”とは何かについてきちんと考えておこう。
  • われわれにとって最も身近な“重さ"は体重ではないだろうか。体重をどの重さには[kg]のような単位が使われる。しかし、表1.1を見れば[g]という単位には“重さ”ではなく“質量”という言葉が使われている。”重さ”と“質量"は違うのだろうか。
  • じつは、重さと質量は“似たようなもの”ではあるが、厳密には異なり、以下の理由で、物理学で使われるのは質量である。
  • 質量は、物質の量である。それは、物体あるいは物質が持っている、場所によって変わることがない固有の量の一つであり、簡単にいえば“動きにくさ”を表わす量である。一般に“mass(質量)”の頭文字をとってm という記号で表わされる。
  • それに対し、重さ(一般に“weight”の頭文字をとって w という記号で表わされる)は物体、物質にはたらく重力の大きさで、質量に重力加速度gをかけた量(重量)でw=mgとなる。
  • われわれは、日常的に「私の体重は60キログラムだ」などのようにいうが、これは物理的には正しくない。物理的には「60キログラム重」と“重”をつけなければならない。この“重” は w = mgの"g"のことである。
  • 重力加速度 g の値は場所によって変化するので、重さも場所によって変化することになる。たとえば、月面の重力加速度は地球表面の重力加速度のおよそ1/6なので、体重 60kg 重の人が月面で体重を測ればおよそ 10kg重となる。
  • このように、“重さ”は場所によって変わってしまうので、扱いが厄介である。したがって、物理学では場所によって変わることがない固有の量である“質量”を用いるのである。

  • 気柱が 1m の面積に及ぼす圧力が気圧だから、上空にいくほど気圧が低くなるのは容易に理解できるが、それに加え図 2.10 に示す大気柱の大気密度は一定ではなく、上空にいくにつれて気圧は一層低くなり、5km上昇するごとに約1/2になることが知られている。

 

  • 物体の落下という現象は、物体と地球との衝突という方が正しい。その衝突を起こさせる力が重力である。

 

地震の波

  • 地震は、地殻の断層のずれや火山の噴火などの自然の力によって発生する地面の振動によって発生する地面の振動である。その地震の際、震源から放射状に拡がる波が地震波である。
  • 地震波は大きく実体(body) 波と表面(surface)波に分けられる。実体波にはP(primary)波とよばれる縦波(揺れは“横”)と S(secondary)「波とよばれる横波(揺れは“縦”)が存在する。地震に横揺れと縦揺れがあるのはこれらの波のためである。
  • 地球の半径は約6400km で、その内部構造はおよそ図3.30 に示すようになっている。地球をゆで卵にたとえれば、殻が地殻、白身マントル、黄身が核である。マントルは地球の全体積の83%、質量では68%を占めており、そのほとんどはカンラン岩質の岩石である。核は溶融状態の外核と固体の内核に分けられる。いずれも主成分は金属鉄であり、地殻やマントルが岩石物質であるのと対照的である。外核では溶融した鉄が対流しており、そのような導電性流体の運動によって、核があたかも巨大な発電機となって磁界が発生し(第5章参照)、これが地球の磁場の元になっている。
  • P波とS波は、図3.30 に示すように、地球内部での伝播、不連続面での反射の結果である。
  • 縦波であるP波は地殻が圧縮あるいは伸張され、その疎密がバネの波のように伝わるものである。一方、横波であるS波は地殻のずれや変形がロープの波のように伝わるものである。地上で感じる揺れ、すなわち地震は、図3.31 に模式的に示すように縦揺れと横揺れになる。もちろん、震源ではP波とS波が同時に発生するが、P波はS波より速く伝わるので、観測点ではまず縦揺れがきて、それから間をおいて横揺れがくる。この“間”の長さ(時間)から震源までの距離が計算できる。
  • 地球表面の薄い地殻の曲面に沿って伝わる表面波の速さは最も小さい。しかし、地震によって生じる波で振幅が最も大きいのは、たいていの場合、表面波である。これは幾何学的に考えれば、P波やS波は3次元的に拡がるので震源から観測点までの距離をdとすれば、振幅が1/dに比例して小さくなるのに対し、2次元的に拡がる表面波では一方に比例して小さくなるためである。ある観測点での地震波の記録の一例を図 3.32 に示す。