その問題、数理モデルが解決します

数学を用いて観察される現象を分析する方法を一般に(数理)科学といい、科学は大きく自然現象を分析する自然科学(物理学など)と社会現象を分析する社会科学(経済学など)に分けることができる。中学や高校の物理学では数学が用いられ、自然科学の基礎的な方法論を学ぶための導入が適切になされているのに対し、公民や地歴といった分野は伝統的に人文学的な側面が重視されすぎており、社会科学の基礎的な方法論が適切に教えられていないことが多い(教える側の能力の問題でもありそうだが)。本書は社会現象の数理的な分析に関心がある中学生や高校生にとって、社会科学的方法論を学ぶ第一歩としておすすめできる。また、科学的な方法論に馴染みのない大学生や社会人にとってもよい導入になると思われる。とくに統計的検定の説明は、「数学の苦手な人が数学の苦手な人にする説明」としては最高レベルでに分かりやすいと思った。

 

アルバイトの配属方法

  • アルバイトを店舗に配属させる方法としてDAアルゴリズムが有効である
  • DAアルゴリズムは安定的なマッチングを実現する
  • このアルゴリズムは、アルバイト側から申し込む場合と、店舗側から申し込む場合とで、一般的には異なる結果を生む。ただし、どちらも安定的である
  • マッチングが安定的であるとは《お互いに現在の相手を捨てて新たにペアをつくったほうがよい》というペアが存在しないことである

チョコレート実験

  • 価格が0円になったときに生じる不思議な効果については、行動経済学者によるおもしろい実験がある。彼らは大学のカフェテリア利用者に対して、追加的にチョコレートを買うかどうかの選択を提示して、その行動を観測したんだ」
  • 「へえ、おもしろそう」
  • 「この実験は、被験者によるチョコレートの追加購入に《小銭を取り出すのが煩わしい》という取引コストがかからないように工夫してある」
  • 「どうやったの?」
  • 「すでに何かを購入してレジに来た人だけを対象にしたんだ。だからチョコレートを購入しなくても、どのみち別の商品の料金を支支払う人が被験者になっている」
  • 「なるほど。面倒だから買わないって言う人はいないわけね」
  • 「そういうこと。この条件で、被験者に提示された第1の選択肢はこうだ。
    リンツのトリュフチョコ 14セント
    ハーシーのキスチョコ 1セント
  • レジの横に2種類のチョコレートと値段が提示され、1人1個しか購入できない。この選択肢をカフェテリア利用者に提示したところ、リンツを選択する者が30%、ハーシーは8%、どちらも選択しない者が62%だった」
  • リンツが高級なチョコレートで、ハーシーが普通のチョコレートってことだね。14セントってことは、1ドル100円とすると14円か。うーん、この値段なら私もリンツを選ぶかな。あれ、おいしいんだよねー」
  • 「次に、価格をそれぞれ1セントずつ下げた選択肢を使って比較する。
    リンツのトリュフチョコ 13セント
    ハーシーのキスチョコ 0セント
  • ハーシーは、最初の条件で、1セントだったから、1セント下げると0円になる。結果はどうなったと思う?」
  • 「そうだな・・・。無料になったからハーシーを選ぶ人が増えたんじゃない?」
  • 「そのとおり。ハーシーを選択する者が31%、リンツが13%、どちらも選ばない者が56%となった。つまりハーシーは無料になったとたん、急に人気が出た」
  • この選好の逆転をゼロ価格効果と呼ぶことにしよう。

Zero as a Special Price: The True Value of Free Products

https://www-2.rotman.utoronto.ca/facbios/file/ZeroPrice.pdf

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