頭のいい人のセンスが身につく 世界の教養大全

  • 世界の教養大全というより、世界の雑学大全という感じ。ただ科学的なエビデンスを中心にまとめられているので、質のいい雑学の集積として楽しめる。

電子レンジで、食べ物はどこから温まる?

  • カレーやシチューを温めると、だいたい温度がムラになる。
  • お察しのとおり、電子レンジは「なにもかもまんべんなく」温められるわけではない。
  • 「マイクロウェーブ・オーブン」すなわち電子レンジは、電磁波放射を利用した調理器具だ。この電磁波は、「電磁スペクトル」では電波と赤外線とのあいだに分類されている。
  • 「マイクロウェーブ」とは、「マイクロ波」のこと。この電磁波が「マイクロ波」と呼ばれるのは、波長が電波よりはるかに短いからだ。
  • マイクロ波の汎用性は極めて高く、いろいろな器具や装置に利用されている。
  • 携帯電話ネットワーク、Bluetooth(ブルートゥース)のようなワイヤレス通信機器、GPS 装置、電波望遠鏡、レーダーなどもすべて、それぞれ異なる周波数のマイクロ波を活用するしくみだ。
  • マイクロ波は電波よりも大きなエネルギーを運ぶが、電磁スペクトル上ではX線ガンマ線が位置する危険ポイントから遠く離れたところに分類されている。
  • 電子レンジが直接食べ物に熱を加えるということはない。電子レンジが温めるのは、水だけである。
  • 電子レンジ(の中で放射されるマイクロ波)の周波数は、水の分子を励起状態にする、つまり活発化するだけなのだ。マイクロ波のエネルギーが均等に食べ物に伝わることで、まず食べ物に含まれている水分が温められ、その水分の熱で食べ物が調理されるというしくみである。
  • ほとんどすべての食べ物に多少の水分が含まれているものだが、完全に乾燥している食材はどうだろう。
  • たとえば、コーンフレーク、米穀・パスタ類などは、電子レンジで調理することは不可能だ。
  • スープの真ん中にある(水の)分子のほうが、スープの表面や皿の周辺近くの分子より先に加熱されるということもない。実は、それと反対のことが起きる。
  • スープの濃度がどこも一定だったら、表面にいちばん近い水分が熱工ネルギーの大半を吸収してしまうからだ。
  • こうした点では、電子レンジでの加熱調理は普通のオーブンでの調理とあまり違わない。
  • ただ、電子レンジの場合はマイクロ波によって(普通のオーブンより)短時間に深いところまで加熱が進むという利点はある。
  • たしかに、食べ物の真ん中だけが熱くなることもたまにあるが、どういう種類の食品でもそうなるわけではない。
  • たとえば、アップルパイは、内側より外側のほうが乾燥しているので、水分の多い真ん中が外側のパイ生地より熱くなる。
  • 電子レンジの機能は水の分子を励起状態にすることなので、どれだけ長く加熱しても食べ物が(水の沸点である)100℃より高温になることはめったにない。
  • だから、電子レンジで調理された肉は軟らかくはあるけれども、強火でのあぶり焼きではなく、むしろ弱火でコトコト煮た肉に近い食感になる。
  • 肉やジャガイモをカリッと色よく焼き上げるには、だいたい240℃かそれ以上の温度が必要だ。
  • ともあれ、この便利な調理器具はもともとレーダー開発の副産物として1940年代に誕生したものだ。
  • 1945年、アメリカの軍需製品メーカー「レイセオン」所属の技術者パーシー・スペンサーは、「マグネトロン」と呼ばれる発振器(電気をマイクロ波に転換する、レーダーの主要な装置)を製造していた。
  • あるとき、彼は作業服のポケットに忍ばせていたチョコバーが完全に溶けていることに気づく。
  • マグネトロンが発したレーダー電波を浴びたからだと考え、ためしに金属の箱をつくってマイクロ波を放射。急造品の電子レンジで彼が最初に調理した食べ物は、ポップコーンだった。
  • 2回目の実験では、生卵1個をまるごと使って見事に爆発。卵の中の水分が急激に蒸発したからだ。
  • レイセオン」社の動きは素早かった。1947年に最初の電子レンジを商品化。そして1960年代後半には、より小型の一般向け電子レンジがアメリカの多くの家庭で使われはじめた。
  • その後、長年のうちにあれこれと不穏な噂(体に悪いとか、食品の栄養素がなくなるとか)が飛び交いはしたものの、電子レンジはいまや、アメリカで90%の普及率を誇るキッチン用品である。

涼しさを保つために何色の服を着るべきか?

  • 白っぽい服のほうが涼しいのは当然では?
  • 学校では、薄い色の服を着るほうがいいと教えられる。
  • 白は日光をはね返し、黒は逆に吸収するから、少しでも涼しく過ごすには薄い色の服を着るほうがいい、と。だが実際は、それほど単純ではない。
  • 暑い国々では、地元住民は黒っぽい服を着ることが多い。たとえば、中国の小作農や南ヨーロッパに住む年配の女性たちは、昔ながらの慣習として黒い服を着るし、サハラ砂漠遊牧民であるトゥアレグ族はインディゴブルー(青藍色)の衣装を好んで身につける。
  • 濃い色の服に涼しさを保つ効果があるのは、熱を処理するプロセスが常に並行して2つあるからだ。つまり、太陽から浴びる熱と、体から外へ放っ熱の両方が同時にあるということ。
  • たしかに薄い色の服は太陽光の熱を反射するが、体の熱をうまく放射するのは濃い色の服のほうなのだ。
  • 暑い気候の土地に住む人々は、わざわざ直射日光の当たるところに立ち止まろうとはしない。このことを考えに入れれば、濃い色に軍配が上がる。
  • なぜなら、日陰にいるあいだ、より涼しくなれるのは濃い色をまとっている場合だからだ。
  • これに加わるのが風の要因。非常に暑い場所で生活する人々が、体にぴったりのオーバーオールや特注のスーツを着ることはまずない。彼らが着るのは、ゆったりとした――最大限の空気循環を可能にする――長めの衣類だ。
  • 1978年、鳥の羽衣色彩の重要性を研究する調査結果が出た。それによると、暑い無風状態では、白い羽毛が熱を逃がすのにいちばん有効だが、風が時速11キロを超えたとたんに、黒い羽毛が――軽くて柔らかな羽の場合——いちばんの冷却機能を発揮したという。
  • ちなみに、黒毛牛と白毛牛を使った実験でも、同じような結果が出ている。
  • これを人間に当てはめると、穏やかな微風しか吹いていないときでさえ、ゆったりした黒い服を着ていれば、熱を吸収する以前に発散できるということになる。

水は1日何杯飲むべきか?

  • 1日に水を2リットル(コップに約8杯分)飲めという説があるが....?
  • 「人間は毎日ひっきりなしに水分を失っている。排泄し、汗をかき、そして単に呼吸をするだけでも体内の水分は奪われている。だから、脱水症を起こさないために水分補給は適宜行われなければならない。とはいえ、1日にコップ3杯もの水を飲むべきだというアドバイスは明らかに間違っている。
  • 1945年の『ブリティッシュ・メディカルジャーナル』誌に掲載された記事に、「成人は毎日2.5リットルの水分をとるべきだ」とのアドバイスがあった。しかし、これには続きがあって、「この水分量のほとんどは、調理された食べ物に含まれている」とも書かれていた。このときから60年以上たった今でも、この重要な結びの文言は見落とされたままだ。
  • いずれにしても、通常の食事で十分な水分がとれるので、(理論的には)わざわざ水やその他の飲み物を飲む必要はまったくないのである。むしろ、普通に食べて飲んだうえに水を大量に飲んだりしたら、それだけおしっこが出る。
  • 「水を飲むと体内が浄化され、シミのない肌を保つことができる」とは、よくいわれることだが、まともな証拠が示されたことはない。もしかすると腎臓は、過剰な塩分を短時間に取り除きやすくなるかもしれないが、たとえばポテトチップスを食べ過ぎたりアルコールを飲み過ぎたりしたのでないかぎり、大量の水を飲んでも特にいいことはないのだ。もちろん慢性的な脱水症によって、肌が潤いも弾力も失ってしまうことはある。しかし、余分に水を飲んだからといってしわが消えることはないし、シミやクスミのできにくい肌になるわけでもない。
  • 脱水症の治療には、水以外のものも必要だ。失われた糖分や塩分なども補わなければならないので、たとえばスイカを食べてみるのもいい。スイカには、カルシウム・マグネシウムカリウム・ナトリウムの他に、豊富な糖分も含まれている。パパイヤやココナッツやキュウリやセロリを食べるのもいいだろう。
  • 塩分と糖分が不足すると、体中にまんべんなく水分が行きわたらなくなる。それでもスイカみたいなものを大量に食べたら水太りすると思うなら、水に溶かして経口補水液をつくる粉末を薬局で買うこともできる。こういう粉末にもグルコースと塩が含まれているから脱水症のときに便利だ。ただし、これを使うにもやはり十分な水を調達しなければならない。というわけで、結局はスイカに勝るものはないということになる。なにしろ、92%が水なのだから。
  • ところで、水分のとり過ぎも命取りになる場合があるのをご存じだろうか?
  • 体内の塩分濃度が異常に低下したときに引き起こされる「低ナトリウム血症」だ。余剰水分が血液から他の細胞に排出されると、その細胞は膨張して破裂する。その結果、吐き気や頭痛さらに見当識障害が起き、やがて死亡することもあるのだ。

鼻血が出たらどうする!

  • 鼻をつまんで上を向く?
  • 頭を上に向けてはいけない!
  • 鼻血が出たときに上を向くと、血液が逆流してのどに入ってしまうこともあるからだ。血液を飲み込んだら、胃が刺激されて吐き気や嘔吐を起こしかねない。さらには、血液が気道に入って肺に達したら、窒息してしまうこともありえる。
  • いちばん正しい対処法は、背中をまっすぐにして腰かけ、頭をやや下に向けること。
  • 頭の高さを心臓より上の位置に保っておけば、出血は徐々に減っていくし、下を向くことで鼻からの逆流を防げるからだ。
  • 『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌によると、親指と人差し指で小鼻の柔らかいところを押さえると、たいていの場合は5~10分で止血できるという。
  • 外からの圧力で血液が固まりやすくなるからとのこと。また、冷湿布やアイスパックを鼻のつけ根に当てるのも効果的。それでも出血が20分以上続いたり、そもそも鼻血の原因が頭部の強打だったりしたら、すぐに医師の診察を受けたほうがいい。
  • 鼻血は、医学的には「鼻出血」と呼ばれる症状。
  • もっとも一般的な原因は、顔面にパンチを食らうこと。もう1つは、鼻をほじることだ。この2つに次いで多いのは、鼻の中に網状に張りめぐらされた細い血管が、気圧や気温の急激な変化で切れてしまうこと。
  • こうした気圧や気温の変化は、寒冷気候や屋内の集中暖房によって引き起こされる場合もあれば、単に鼻のかみ方があまりにも激しくて起きる場合もある。
  • ほとんどの鼻血が、鼻の前方の部分——鼻骨の下または鼻中隔(訳注:鼻の左右を仕切る壁のような部分) からの出血だ。この部分は「キーガルバッハ部位」とも呼ばれ、顔面にある4本の静脈がここでつながっているため傷つきやすくなっている。
  • 名前の由来となったヴィルヘルム・キーゼルバッハは、19世紀ドイツの解剖学者。とりわけ耳鼻咽喉の研究を専門とし、鼻血に特化した教科書『Nasenbluten』(ドイツ語で「鼻血」を意味する)を執筆した。
  • また、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの分泌が女性の月経中に減少すると、血圧が上昇し、そのために鼻腔の血管が膨張して破裂することがある。これは単なる鼻血ではなく、「代償性月経」という名前で知られる気をつけるべき症状だ。

寝る前にチーズを食べるとどうなる?

  • 今晩、ぜひ試してみてほしい。いい夢を見られるという。
  • 2005年、「ブリティッシュ・チーズ・ボード」という英国の(チーズ産業を促進する)団体によって、ある調査が実施された。その目的は、「寝る前にチーズを食べると、睡眠中に悪夢を見る」という悪質な噂を食い止めることだった。
  • 調査の結果は歴然としていた。参加した200名のボランティアは、それぞれ就寝前に20グラムのチーズを食べたが、全体の4分の3以上が「安眠できた」と報告。彼らは悪夢など見なかったという。
  • ただし、参加者のほとんどが、ハッキリ夢の内容を覚えていたとのこと。
  • 興味深いことに、食べたチーズの種類によってそれぞれ異なる夢を見たことも判明した。
  • チェダー・チーズを食べると、有名人にまつわる夢を見て、レッドレスター・チーズを食べると、子どものころの思い出が夢でよみがえるらしい。
  • また、ランカシャー・チーズを食べた人たちは仕事がらみの夢を見たというが、チェシャー・チーズを食べた人は誰もいっさい夢を見なかったという。
  • さらに、同じチーズを食べても、性別によって見る夢は違うらしく、たとえばスティルトン・チーズを食べた女性たちの80%が、「話をする縫いぐるみ」「菜食主義のワニ」「ラクダと引き換えに人身売買される、ディナーパーティの客」といった奇妙な夢を鮮明に覚えていた。
  • 結論としては、チーズを深夜に軽くつまむのは完全に無害ということだ。そのうえ、セロトニンという脳内の神経伝達物質を産み出す必須アミノ酸トリプトファン」を多く含んでいるため、チーズにはストレスを和らげ安眠をもたらす働きがあるといわれている。
  • イギリス産チーズの種類は新製品も含めて実に豊富に揃っているが、それでも国民1人当たりのチーズ摂取量では、フランスがイギリスの2倍も多い。そして、そのチーズ好きのフランス人たちも、なんら問題なく快眠できている。

テストステロンが男性におよぼす影響とは?

  • 攻撃的な男性は「男性ホルモンが過剰」なのでは?
  • 通説に反し、人を好戦的にするのは、あくまでもテストステロンの欠乏である……過剰なテストステロンはわれわれをより友好的にするらしい。
  • テストステロンはもっとも作用の強い男性ホルモンだが、これは女性の体内でも分泌される。ただし、男性に比べると極めて分泌率は低い。男女ともに、テストステロンによって筋肉量が増加し、骨密度が高まり、その結果、骨粗しょう症になりにくくなる。
  • 2009年、スイスのチューリッヒ大学教授アーンスト・フェールは、120名の女性にテストステロン錠剤あるいはプラセボ錠剤(偽薬)のどちらかを与え、ロール・プレイング形式の実験を行った。
  • ほぼ神話と化したテストステロンの評判の威力はあまりにも強く、このホルモン剤を与えられたと思い込んでいた(が、実際にはプラセボ錠剤を服用した)被験者の全員が、好戦的かつ自己中心的な行動をとり、対照的に、本当にテストステロンを服用した被験者たちは、より公平な態度を保ち、なおかつ、優れたコミュニケーション能力を示したという。
  • テストステロンについては、動物にある攻撃性との関連が明らかなことから、つい最近まで、人間に対しても同じような効果があると考えられていた。どうやら、それは事実に反することらしい。
  • どちらかというと、(人間にとっては)テストステロンの数値が低いほうが気分障害や攻撃傾向の原因になるようだ。
  • テストステロンに関する研究は、開始されてからまだ10年ほどしか経過していないので、その働きの全体像はいまだに解明されていない。
  • だが不思議なことに、男の赤ちゃんは生後1カ月もしないうちに、13歳から19歳にかけて分泌されるテストステロンのほぼ同量を一気に分泌するということは確認されている。
  • そして、およそ生後6カ月ごろまでに、その量はほとんど検知されないほどまで減るという。
  • 2004年、イタリアにあるピサ大学のドナテッラ・マラッツィティとドメニコ・カナレの両教授は、それぞれ12名ずつの男女で構成されたグループ2つを対象にテストステロン分泌のレベルを測定した。
  • 「ラブ・グループ」と名づけられたほうには、過去6カ月間に恋に落ちた人々が、「コントロール・グループ」と名づけられたほうには、パートナーとの長期にわたる安定した交際をしている人か既婚者、あるいは独身者が割り振られた。
  • 測定の結果は、一目瞭然。ラブ・グループの男性12名のほうが、コントロール・グループの男性12名よりもテストステロンの分泌レベルが低く、その一方で、ラブ・グループの女性12名のほうが、コントロール・グループの女性12名よりも同ホルモンの分泌レベルが高かった。
  • 両教授は、「新たな恋愛関係の形成期には、両性間にある情緒面の違いを一時的に取り除くか、あるいは減らすために、こうした明らかにバランスのとれたホルモン分泌が双方に起きるのかもしれない」と推論している。
  • ホルモンは、体内の器官にある分泌腺から放出される化学物質である。それは血流を使って、その器官とは別のところにある細胞組織へと特定のメッセージを運び、そこになんらかの影響を与えると考えられている。
  • オキシトシン」は、母性愛的な絆づくりと関係のあるホルモンである。親しみを込めて、「抱擁物質」と呼ぶ生物学者たちも多い。このホルモンには、恐怖心・不安感・抑圧感を減らし、親子の絆に加えて、社会的および性的な絆の形成を促進する働きがある。
  • 神経経済学者たち(心理学と経済学と神経科学とを結合させ、意思決定がどのようになされるかを研究する人々)は、「インベスター(Investor)」なるゲームに被験者を参加させる形の実験を行った。その結果、オキシトシンを鼻の上にスプレーするだけで、一挙にプレイヤー間の信頼度が倍増することが判明したという。

人間のおならの成分は?

  • くさいのはメタン?
  • メタン(ガス)はほとんど含まれていない……むしろ、メタンをまったく含まないおならのほうが多い。
  • 人間のおならは、おもに窒素でできている。空気中に漂う窒素を吸い込んで、それが溜まったものがおならということだ。
  • われわれは、1人あたり平均してだいたい1日に1.5リットルのおならを出す。
  • 1日の放屁は、10~15回。その多くが、睡眠中の「出来事」である。おもな成分は、5種類の無臭ガス。ほとんどの場合、窒素が60%を占め、あとは水素(20%)・二酸化炭素(10%)・酸素(5%)・メタン(4%)だ。こうしたガスの比率は、計算に入れるいくつもの変数で違ってくる。
  • つまり、われわれの生活スタイルや体調で、おならの成分比率は変わるということ。
  • たとえば食べ物をガブガブと素早く飲み込む人や、新陳代謝率が高い人のおならは、酸素がより多く含まれる。また、炭酸飲料をたくさん飲めば、おならの中の二酸化炭素の割合がアップする。より役立つガス」が腸に再び吸収されることになり、一方、おならを我慢したりすると、水素や酸素のような「(放出すれば)窒素濃度が高まる・・・・・という具合だ。
  • 中でも重大な変数は、日ごろわれわれが何を食べるかである。ひとくちに炭水化物または糖質といっても、その種類は実に幅広く、中には人間がきわめて消化しにくい「多糖類」と呼ばれるものもある。
  • そのうちの3つーラフィノースとスタキオースとベルバスコースは、胃腸科専門医の間で「腹部膨満の要因」として知られているものだ。
  • われわれが腹部膨満、つまり、ガスが溜まって腹部がパンパンに張ってしまう状態になるのは、この3つが、エンドウ豆を除く豆類やキャベツや芽キャベツや全粒の種などに大量に含まれているからなのだ。
  • これらの糖類は、胃や小腸の中の酵素でほとんど消化・吸収されることなく結腸まで達する。そうなると、もう地獄である。
  • なにしろ、結腸内に生息している何百種ものバクテリアが寄ってたかってこのごちそうにありつこうとするわけだから。
  • そうして貪り食いながら、無数のバクテリアたちはさまざまなガスを排出し、人間はガス抜きせざるを得ない状態に追い込まれる。
  • しかも、厄介なのは豆類だけではない。小麦、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれるデンプン質(米のデンプン質は例外)は、どれもこれもバクテリアの常食メニューだ。
  • そのうえ、果物に含まれる糖質の多くとパンやビールの中のイースト(酵母)菌も同じくバクテリアの大好物。こういうものが合わさって、ガスの量が増えるということだ。
  • ちなみに、臭いのもとになるのは、肉、卵、カリフラワーのような硫黄を多く含む食べ物である。
  • 爆発する可能性のあるガス、すなわち可燃性ガスであるメタンについては、おおかたの予想に反して、全人類の大半が体内で生成することがまったく不可能なガスだということが判明している。
  • 「体内で発生するメタンは、「メタン細菌」または「メタン生成菌」とこれは菌と名がついているがバクテリアではなく、生物の分類上では、まったく違う系統である。地球上最古の生命形態といわれるアーキア、すなわち「古細菌」の仲間だ。
  • このメタン細菌を腸内フローラに含んでいるのは、人類のおよそ3分の1だけだといわれている。なぜそうなのかは誰にもわかっていないが、少なくとも遺伝によって決まることだけは確かなようだ。
  • 両親ともメタン細菌保有者だった場合、その子どもがメタン生成能力を持って生まれる確率は95%だという。
  • 最後に、ある仮説を紹介しよう。
  • 太古の時代に生きたいくつかの民族が、より繊維質の多い野菜類を食べる習慣を持ち、やがてメタン細菌に依拠して食べ物からエネルギーを抽出するようになった。
  • ちょうど、ウシやヒツジと同じように(メタンを豊富に生成する家畜の出すゲップは、現在では、地球全体から1年に排出される温室効果ガスの約20%を占めるといわれている)。
  • アメリカのアリゾナ州立大学で2009年に行われた調査の結果、メタン生成能力を持つ人々には、そうでない人々よりはるかに、未消化の食物を脂肪に変換して体内に備蓄する能力があるため、肥満になるリスクが高いことがわかった。身もふたもない言い方をすれば、太っている人ほどたくさんおならをするということだ。

木は何からできている?

  • 土から養分を吸い上げるとか……?
  • 空気からできている。
  • 小さな種子を大木に変える原材料は、土からではなく空から取り込まれる。
  • 少量の必須ミネラルは土壌から吸収されるが、樹木の大部分は加工された空気である。木の葉は、太陽からの光エネルギーを化学エネルギーに変換する。
  • このエネルギーが、空気中の二酸化炭素から炭素を再形成し、その炭素と、雨水に含まれる水素とが結合して炭水化物を生成する。この炭水化物のうちおもなものが「セルロース(繊維素)」で、これが樹木の細胞壁をつくる主要物質なのだ。
  • こうした化学反応が完了すると、木は不要になった酸素を空気中に放出する。中くらいの大きさの木から出る酸素の量は、だいたい人間1人が呼吸するのに必要な量と同じだ。
  • これが、「光合成」という奇跡である。あらゆる生命体が植物を糧にして生きている以上、地球上でいちばん重要な生物学的プロセスといっていいだろう。
  • ジャイアントセコイア(訳注:ヒノキ科セコイアデンドロン属)の木は、世界中でいちばん重い生物だ。
  • 重さ6,000トン、高さ95メートル、幹の直径12メートルの巨木もある。
  • 樹皮の厚さも1メートル半にまでおよぶが、種子は極めて小さく、その重さは0.009グラム、完全に成長した木の重さの約10億分の1しかない。
  • そして成長するのがいちばん速い木でもある。種子から急速に成木になるために、ジャイアントセコイアは空気だけではなく火も必要とする。
  • 硬い球果(訳注:マツやヒノキなどの裸子植物の果実)が開いて種子が土にばらまかれるには、山火事の熱が必要なのだ。そのために、アメリカ合衆国(農務省)森林局はセコイアの林に定期的に火を放つ。
  • 世界でいちばん小さな木はドワーフウィローだ。この低木は、グリーンランドツンドラ(凍土)地帯に自生していて、高さは5センチほど。
  • 樹齢9,555年と測定されたのは、2008年、スウェーデンで発見されたノルウェートウヒ(訳注:マツ科トウヒ属の針葉樹)。地球上でもっとも長く生きている植物であり、有機体であるということになる。
  • ただし、何をもって「単一の」有機体とするか、厳密に定義するのは難しい。というのも、アメリカのユタ州には推定8万年も生き続けている「根系」を持つアメリカヤマナラシの林があるのだ。
  • 現在、もし古紙のリサイクルのしくみがなかったら、世界中で1日に使われる紙を供給するために、1,200万本もの樹木が伐採されていただろう。
  • つまり、毎日、約250平方キロメートルの森林が地上から消えていたかもしれないということだ。

山登りでどのくらい高くまで来たかを知る方法は?

  • ドローンで測る?
  • 紅茶をいれてみるといい。昔から一般的に使われている方法は、湯を沸かし、その沸騰した湯の温度を測るというもの。
  • 水が沸騰し始めるのは、水面から蒸気が飛び出そうとする圧力(蒸気圧)が外気圧より高くなったときである。
  • 大気中の圧力(気圧)は、高度が上昇するにつれて(メートル単位とはいかないまでも)かなりきちんと下がっていく。そして、高度が300メートル上がるごとに、水の沸点は摂氏1度ずつ下がる。
  • というわけで、たとえば標高4,500メートルの山(モンブラン山頂は、標高約4,800メートル)では、水は摂氏84.4度で沸騰する。エベレスト山頂では摂氏77度で沸騰し、標高2万3,000メートルの地点では室温で沸騰してしまう(これほど高いところに、室温を保つ部屋などあるはずもないが)。
  • この計測方式は「hypsometry(日本語では『測高法』)」と呼ばれている。ギリシャ語の「高さ」を意味する「hypsos」と、「測定」を意味する「metria」からできた語だ。
  • マーク・トウェインは、旅行記『A Tramp Abroad』(1880年刊行、邦訳版は1996年出版の『ヨーロッパ放浪記』)の中で、スイスアルプス遠征のおりに、山の高度を計算しようと豆のスープに気圧計を入れて煮立たせたと語っている。
  • できあがったスープには、「気圧計の味」がしっかりついたという。しかも予想外に、このスープは好評だったので、トウェインは遠征隊の料理人に毎日同じスープをつくらせたそうだ。
  • 料理人が使った気圧計は2つ。1つは正常に働き、もう1つは壊れていた。
  • まともな気圧計と一緒に煮込んだスープは「上官の食堂」へ、壊れた気圧計と煮込んだスープは「その他の隊員たち」に出されたという。
  • 太平洋のマリアナ海溝にあるチャレンジャー海淵(かいえん)は、世界でもっとも深い海溝だ。海底の水圧は、海面の1,100倍。もしここで紅茶を一杯いれたくなっても、しばらく待たなければならない。なにしろ、やかんの湯が沸きだすのは、水温が摂氏530度になってからなので。