転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール

  • 転職のOSをアップデートせよ
  • 私がヤフーで働いていた時代に、当時の上司であり代表取締役社長だった宮坂学(現東京都副知事)さんは、社員に対して「株式会社俺」の意識を持つことの大切さを頻繁に語っていました。
  • 「株式会社俺」とは、自分にとっての幸せが最大限になるように、自分自身の経営者になるということ。 宮坂さんは自分という会社に「会社事業部」「家族事業部」「アウトドア事業部」といった事業の柱を持っていて、「株式会社俺」の時価総額は幸せの総量で表されると語っていました。
  • 仕事は大事だけど、それだけで幸せになることはできない。家族や友人などのステークホルダーが存在する中で、バランスを取りながらトータルとして幸せになることが大切だというわけです。

 

  • 「株式会社俺」の視点で働くという発想が当たり前になってきたと思います。
  • 前述したように、個人の働き方は自分主体へと徐々に変わりつつあります。 会社の言う通りに従う受け身の働き方から、「自分がどうすれば幸せになれるか」を能動的に考える働き方へと移行しています。
  • 個人は、自分の市場価値を高めることに注力し、市場価値を高める手段として「転職」を積極的に活用するという発想が求められるようになります。
  • 転職は「ゴール」ではなく、あくまで手段ということです。
  • 「自分主体」と言うと、他人の迷惑をかえりみない自己中心的な転職をイメージする人もいます。残念ながら、まだまだ日本では自分主体の転職と、いわゆるジョブホッパーとが同列に扱われてしまう空気があります。

 

  • 大事なのは「ある期間に成し遂げたいこと」を明確にすること
  • 今後、プロジェクトベースの働き方が一般化すれば、プロジェクトごとにどんな成果を出せたのかが問われるようになります。 出したインパクトの大きさに応じて給料が決まっていくことになるでしょう。
  • もちろん、転職をしないまま同じ会社で成果を出してポジションを上げていくのも一つの方法ですが、転職を繰り返していく働き方も当たり前になっていくでしょう。
  • 転職の回数が多いからといってネガティブに受け取られることもなくなっていくはずです。

 

  • 転職者を受け入れる側である会社の意識も変わらなければなりません。単純に
    「忙しくて人が足りないから採用する」ではなく、「この金額で、これだけの期間内にこういう仕事をしてほしい」と明示し、それを履行できる人を採用し、約束した期間はサポートすることが求められます。
  • 個人と企業のマインドが変われば、半年や1年という短期間で成果を出し、次々と転職を繰り返す人が現れるかもしれません。そういう人が会社から認められる風潮が定着すれば、転職をするたびに名声が上がり、待遇がよくなる可能性もあり得ます。 これこそ、まさに転職が自分の市場価値を最大化する手段となった状況と言えるでしょう。

 

  • 個々のタグは他にも多くの人が持っているため、それ単体では市場価値は生まれません。しかし、それぞれの掛け合わせで考えれば、そのような人材の希少性は一気に高まり、これがすなわち市場価値になります。
  • さらに市場価値を高めたいときには、希少性をより高めるためにどんなタグを掛け合わせたらいいのかを考え、そのタグが得られる仕事に転職をすればいいのです。

 

  • ただやみくもにスキルを身につけても、結局自分の市場価値は上がらす、望み通りの転職ができないということになりかねないのです。
  • そもそも、転職に際して、なぜ多くの人がスキル思考に執着しているのかというと、会社でやるべき仕事が不明瞭だからです。
  • 総合職とは、平たく言えば「どんな仕事でも言われたことはやる」ということ。 そこで「能力」とされるのは課題遂行能力、職務遂行能力であり、実態は漠然としています。
  • 仕事の内容が漠然としていると、成果も判断しにくくなります。だから多くの会社では、年次や経歴の長さに応じて昇進や昇給が決定されています。

 

  • 高度成長期の日本では、終身雇用の約束が確実に履行されていたため、スキル思考でも順調にキャリアアップできました。
  • 風向きが大きく変わったのは、90年代の終わりから2000年代初頭にかけての就職氷河期の時代です。当時は、不況による上場企業の倒産が大きなニュースにもなり、会社側が日本型雇用を維持できなくなりつつあることが明らかとなってきました。
  • あれから20年近くが経過し、その間もだましだまし終身雇用の幻想を維持してきたわけですが、世界金融危機 (2007~2010年)と2020年のコロナショックによって、いよいよ会社の体力が消耗し、終身雇用の約束を果たすことが困難となってきました。
  • 今、日立製作所などの一部の大企業を中心にジョブ型雇用への移行が行われているのは、まさにスキル思考からの脱却を象徴する出来事と言えます。

 

  • 転職2.0の時代に「スキル思考」に代わる考え方となるのは「ポジション思考」です。 ポジション思考とは、目指すポジション、すなわち役割を明確化すること。
  • 例えば、エンジニアであれば、PM(プロダクトマネージャー)、あるいはリードエンジニアが目指すポジションとなります。
  • ただし、ポジション=役職ではありません。
  • 営業職であれば、大企業向け営業担当か中小向け営業担当かによってもポジションは異なりますし、新規営業と既存営業でもポジションは異なります。 ポジションによって求められるスキルが異なるため、外資系企業では、ポジション別の採用を行っており、日本でも同様の会社が増えています。
  • 要するに、求人票やジョブディスクリプション(職務記述書、職務の内容を明記した文書)に記載されている職務内容が一つのポジションであるということです。

 

  • いずれにせよ、場当たり的に行動している人ほど、何の根拠もないのに「これだけ行動しているのだから、必ず報われるはず」などと思い込みがちです。
  • これは「努力すれば報われる」という価値観を教えている日本の教育のせいでもあります。しかし、本来は「正しい努力をすれば報われる」が正解です。努力の仕方を間違うと、物事は徒労に終わってしまうことを知っておきましょう。

 

シナジーがあなたの能力をアップさせ、市場価値を最大にする

  • 「会社で選ぶ」に取って代わるのが「シナジーで選ぶ」というコンセプトです。キャリアアップに求められるのが「タグ」であることは前述しました。タグを得るには、どの会社に在籍していたかではなく、会社で何を達成したのかが最も重要です。
  • そこで不可欠となるのが、自分がいかにその会社で力を発揮して成果を出せるかどうかという視点です。言い換えれば、個人と会社とがお互いに助け合いながら必要な役割を果たし、相乗効果で成果を出す=シナジーを生み出すということです。
  • シナジーを重視する場合、個人は自分の経験や能力を会社がちゃんと活かしてくれるのか、またそれをさらに伸ばすための投資をしてくれるのかという視点で会社を選ぶようになります。
  • 一方会社側は、適切に投資をすればハイパフォーマーとして活躍して成果を出してくれる人を積極的に採用するようになります。
  • シナジーを生み出せれば、働くのが楽しみになりますし、次に転職するときにも自信を持って自分をアピールできるようにもなるのです。

 

  • 「やりたいことがないのって人としてダメなんですか?」
  • 私自身、若い人からこういった相談を受ける機会がしばしばあります。
  • こういう悩みを抱えている人には「やりたいことがない」こと自体を悩まなくてもいい、とアドバイスしています。
  • 私がお勧めしたいのは、「やりたいこと」を無理矢理見つけ出すのではなく、今やっている仕事の中で、ワクワクすること、楽しさを感じられることは何かという棚卸しから始めることです。
  • 棚卸しすると「気が進まないけど、仕方なくやっている仕事」 「やっていて満足感がある、やりがいを感じる仕事」のふるい分けができるはずです。
  • ふるい分けをしたら、「やっていて満足感がある、やりがいを感じる仕事がもっとできる仕事は何なのか、どこにあるのか」という視点で考えればいいのです。

 

  • タグ付けでネガティブな転職理由をポジティブに変換できる
  • 読者の中には、今の会社に不満がある、仕事がつまらない、上司がムカつくといった理由で転職を考えている人もいるでしょう。今の我慢する働き方から抜け出すために、転職という手段を活用する。 その発想自体は間違ってはいません。
  • ただし、ネガティブなモチベーションだけではおそらく幸せな転職を実現するのは困難です。なぜなら、ネガティブなモチベーション以外に志望理由がない人を、会社は採用したいと思わないからです。
  • 実は、自分のタグを認識するプロセスは、ネガティブなモチベーションをポジティブに変換する作業でもあります。
  • 自分は何にストレスを感じているのかを把握し、どうすればそのストレスを解消できるのか。その答えの手がかりは、自分のタグを見つけ出す過程の中で見つかるはずです。
  • 基本的には、自分のタグを活かせる仕事=充実できる楽しい仕事だからです。
  • 自分のタグを明らかにする中で、人は自分の価値に気づきます。自分の価値を突き詰めていけば、ステップアップもできるし、大きな仕事もできるようになるのです。

 

  • キャリアコンサルタントをIRと見立て、フィードバックをもらう
  • 転職エージェントのキャリアコンサルタントなどと面会する時間を作って、とにかく話をしてみるのも有益です。外部の視点から、自分のタグを評価してもらうのです。
  • 自分を株式会社と見立てたときに、職務経歴書有価証券報告書、キャリアコンサルタントはIRのようなものです。だからこそ、転職を考えていなくてもカウンセリングとしてキャリアコンサルタントに会ってみることはとても重要なのです。
  • 特に転職エージェントの社員は、今どの業種のどの会社に人材が不足しているのかをよく把握しています。
  • 例えばエンジニアであれば、「こういう言語が書けて、こういう経験がある人は、どの会社ものどから手が出るほど欲しがっている」といった情報を持っています。そういった情報を聞けば、仮に自分がそのタグを持っていた場合、転職に成功する可能性が高いと判断できます。
  • 逆に、自分の手持ちのタグでは勝負できないとなれば、タグを得るための勉強や経験を積まなければならないとわかります。

 

  • そのタグが手に入る仕事に転職する
  • 新しいタグを入手する第2の方法は、タグが手に入る仕事に転職することです。
  • 現業で経験を重ね、成果を出すことは重要です。 しかし、経験は時間に伴って得られるものでもあり、経験を重ねているうちに時間を浪費することにもなりかねません。
  • 現業で、賞味期限が短いスキルばかり身につけていたのでは、経験に反比例して自分の市場価値が下がる恐れもあります。
  • その場合は、会社を飛び出して直接新しいタグが得られるような職種に就いたほうがよいと判断できます。
  • 成長マーケットの中でも、会社はめまぐるしく興廃を繰り返しています。理想を言えば、成長途上にあり、かつ自分の興味のある仕事をしている会社に飛び込み、5~10年のサイクルで転職を重ねていくのが、最も市場価値を高める方法だと考えられます。
  • 繰り返しになりますが、社内外をフラットな目線で見て、どちらにも動けるようなマインドを維持しておくのが理想と言えるでしょう。

 

  • 意外かもしれませんが、外資系では「根回し」が非常に重視されています。
  • というのも、日本企業の場合は組織=承認ラインであるため、目の前にいる上司から承認を取ることがすべてです。
  • 一方で、外資系の場合、ポジションと紐づいて責任が与えられており、例えば営業の予算とマーケティングの予算では決裁者が異なります。
  • 特に、彼らはオープンな場で自由に意見を述べるので、事前に根回しをして賛同を得ておかないと、会議の場で反対意見が噴出して収拾がつかなくなる恐れがあります。
  • そのため、縦横斜めから社内のネットワークを駆使した事前の根回しが不可欠となるわけです。会議に諮る前に「これで異論はないね?」と繰り返し、いろいろな人に確認を取っておくのがセオリーなのです。
  • 私も、入社直後はひたすら社内ネットワークの構築に努めましたし、新しく人が入ってくるときには、ネットワークづくりのサポートに注力しています。

 

  • 外資系企業では、 Thank you を言う、個人を褒める文化が根づいています。
  • 日本人は人を褒める経験に乏しいので、私自身も、いまだに違和感を覚えることがあるくらいです。しかし、とにかく相手を立てる、褒めるというのを積極的に行わなければなりません。
  • 「偉い人がいる会議の場でこの人を褒めておかないといけない」
  • 「メールで一言お礼を伝えておかないといけない」
  • 実は、四六時中そうしたことに気をつかっているのが外資系企業です。 そうしないと、相手はすぐに失望してしまうし、次の機会に協力してもらえなくなるのです。
  • 繰り返しますが、こうしたギャップは「いい・悪い」以前の文化の違いです。 外資系企業への転職を考える場合は、経験者などから十分なアドバイスを受けておくことが、ギャップを乗り越えるためのカギとなります。