戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法

  • 自分たちよりもはるかにビジネス経験、人生経験が豊富なクライアントの経営陣に対して、高い付加価値を提供しなくてはならないのだから、ハードルはきわめて高い。
  • 頭脳的にも、身体的にも、そして精神的にも、「尋常ではないタフさ」が求められる。それが、この仕事が「知的体育会系」と呼ばれる所以だ。
  • だから、本音をいえば、私はこの仕事を「楽しい」と思ったことが一度もない。
  • やりがいは大きいし、さまざまな業種の、さまざまな会社の、さまざまなテーマに関与できるので、「面白い」と感じることは多い。
  • でも、「面白い」は「楽しい」ではない。
  • 30代前半だった駆け出しコンサルタントのころは、クライアントの社長への最終報告会の前日には一睡もできず、「自分の分析は正しいのだろうか」「本当にこんな提言をしていいのだろうか」と自問自答を繰り返した。胃が痛くなるほどの強烈なプレッシャーと不安を感じていた。

 

  • 戦略コンサルタントという仕事の本質をひと言で表現すれば、それは触媒(Catalyser)である。
  • 依頼を受けたクライアントの中にまじりこみながらも同化することをせず、化学反応を起こし、変化を加速させ、変革の実現をお手伝いするのが私達の仕事だ。
  • 内部だけで進める変革にはリスクもある。
  • ともすると内輪の論理に陥り、客観性、合理性に欠けたり、世の中の変化を見誤ったり、議論が収束せず、無用に時間がかかることもある。
  • 誤った合理性に執着することほど不合理なことはない。にもかかわらず、多くの会社は「自分たちは合理的にやっている」と思い込み、自前主義から脱却できないでいる。
  • 戦略コンサルタントは「アウトサイダー」である。
  • 社内の力学や過去の常識に染まらず、何のしがらみもない「部外者」だからこそ、「インサイダー」ではなかなか言えないこともズバッと指摘できる。「アウトサイダー」という立ち位置こそが、私たちの強みの源泉である。

 

  • 戦略グループをほぼゼロから立ち上げるという組織開発に関与できる点も、私
    にとっては大きな魅力だった。
  • 私はもともと誰かが敷いた「線路の上を走る」より、自分の手で「線路を敷く」ことに興味をもつタイプである。
  • ゼロから戦略グループを立ち上げるので手伝ってほしいという要請を、私は受け入れることにした。

 

  • 「何でもいいから、何かで有名になれ。名前を売れ」
  • キースは、欧米では自他共に認めるSCMの第一人者だった。
  • 「SCMの専門家になろう」と決め、それを磨いてきたからこそ、その分野では誰もが認めるプロフェッショナルになった。
  • 私は、何か特定の分野の専門家になるつもりはなかった。
  • どんなテーマであろうが、経営トップに適切な助言ができる「引き出し」の多いコンサルタントになりたいと思っていた。
  • しかし、キースと出会って、「顔」を売ることがいかに重要かということを認識するようになった。
  • プロフェッショナルとして生きていくのであれば、自分の「顔」をもつことが大事なのだと彼は私に教えてくれた。

 

  • いま戦略コンサルタントに求められているのは、ロジカル・シンキングを超える「クリエイティブ・シンキング」である。
  • 常識にとらわれない、斬新な発想、ユニークなアイデアを生み出さなければ、クライアントに付加価値をつけることは難しくなっている。
  • ロジックを突き詰めようとすると、結論はひとつの方向に収斂していく。
  • 自然科学の世界では真理を突き止めるために、徹底的に理詰めで考えることは大切なことだが、ビジネスの世界では誰もが思いつくような同質的な答えに何の価値もない。
  • ロジカルに考えたうえで、その結論を超える何かを見出すためには、ロジックに「ひねり」を加えなければならない。「ひねり」こそ「面白い」と言われるための源泉である。
  • 「ひねる」とは「物事を回転させて、異なる角度から考えてみる」という思考法だ。「右脳」に長けた人は、直感的に「ひねり」ができる。ほかの人が思いつかないようなアイデアが、ごく自然に思いつく。普通の人とは異なる感性、感覚をもっていて、常識にとらわれない新しいこと、面白いことが頭に浮かんでくる。
    そんな人と出会うと、うらやましいと思うが、残念ながら「左脳人間」の私にはそんな芸当はできない。
  • しかし、戦略コンサルタントという仕事をしている以上、常識的なロジックを超えた何かを生み出さなければ、クライアントを成功へと導くことはできない。
  • ロジカルに考えたうえで、ロジックを超える。それこそが、「クリエイティブシンキング」なのである。

 

  • 「知識格差」「情報格差」がなくなった現在、戦略コンサルタントは何を武器にクライアントに付加価値を提供すべきなのか。私はそれをずっと考えながらこの仕事をしてきた。
  • 私が行き着いた結論は、「熱量」である。「熱量」とはエネルギーである。
  • 変革を実現するためにはエネルギーが不可欠である。どんなに素晴らしい変革のシナリオを描いたところで、「熱量」が乏しければ、実現はおぼつかない。
  • 戦略コンサルタントにとって「合理性の追求」は不可欠だ。経営は理詰めでなくてはならない。そのために、客観的な分析、冷静沈着な思考、的確な判断が求められることは昔も今も変わらない。
  • しかし、「合理性の追求」は必要条件であり、十分条件ではない。
  • いくら合理性を担保しても、「熱量」が足りなければ結果には結びつかない。

より専門的な知識や情報を武器に付加価値を提供するべき、とならない辺り、コンサルタント=究極のアマチュアだな、という印象を受けた(もちろん熱量の重要性を否定するつもりはないのだが)。

 

あなたは「4つの人材区分」のどれか?

  • 戦略コンサルティングファームの場合は、そこで働くコンサルタントは全員プロフェッショナルを目指さなければならない。プロフェッショナル・ファームを標榜する以上、それは当然のことだ。
  • しかし、一般の事業会社の場合、全社員がプロフェッショナルである必要はない。さまざまな職種、役割があり、それぞれの持ち場で貢献してもらうことが求められる。
  • ただし、事業会社においても、会社に何の貢献もしない 「ぶら下がり社員」を抱えている余裕などない。
  • 「あなたは会社のために何ができるのか?」が問われている。
  • それでは、事業会社における人材は、これからどのように区分されていくのか。私は次の4つに大別されていくと考えている。
  1. 経営リーダー人材
    経営を司る経営トップ、取締役、執行役員といったトップマネジメント層およびその予備軍。社内から昇進、昇格するのが基本だが、外部の「経営のプロ」を招聘するケースもこれからは増えていく。
  2. 高度専門職人材
    企業価値を高めるために不可欠な高度専門的な仕事を担うプロフェッショナル人材。それぞれの分野、機能において卓越した専門性、経験を有する。
    社内での育成のみならず、外部人材の活用も必須。 この中から、「経営リーダー人材」が生まれる可能性もある。
  3. ナレッジワーカー人材
    現場における価値創造活動において付加価値の高い仕事ができる人材。
    ものづくりの現場、営業の現場、サービスの現場などにおいて、実績と経験に裏付けられた高い付加価値を提供するエキスパートである。
  4. マニュアルワーカー人材
    付加価値の高くない仕事に従事する人材。
    代替性の高いコモディティであり、やがてAIやロボットなどにとって代わられる可能性が高い。
  • 「①経営リーダー人材」と「②高度専門職人材」は、市場性のあるプロフェッショナルと位置付けられる。
  • 「③ナレッジワーカー人材」は、会社の中ではとても有用であるが、市場性は限定的である。いわば、会社の中において価値のある社内エキスパートである。「マニュアルワーカー人材」がやがてテクノロジーによって淘汰されていくとなると、企業が必要とする人材は、「①経営リーダー人材」「②高度専門職人材」というプロフェッショナルか、社内エキスパートとしての「3ナレッジワーカー人材」のみとなる。
  • このいずれかに該当しなければ、あなたは会社にとって「不要な人」ということになる。つまり、新たな時代においてビジネスパーソンが直面する根本的な問いかけは、次の言葉に凝縮される。
  • 「プロフェッショナル」として勝ち残るか?
    「エキスパート」として生き残るか?
    それとも、「コモディティ」として淘汰されるか?
  • 日本企業の人材戦略は、今後10年で間違いなく激変する。その潮流についていけなければ、あなたの未来はない。

 

  • プロフェッショナルとして認められ、その世界でのし上がっていこうとするマインドと能力をもつ者だけが勝者となる時代へと突入しようとしているのだ。
  • サッカー元日本代表の三浦知良選手は、こう語っている。
  • 「2部や3部では『練習環境をよくしてほしい』といった声をよく聞く。でもね、自分が上にいかない限り、環境なんて良くならないんだ。(中略)環境を改善してもらうのを夢見るより、自分でその環境へいく。生き残りたいなら、今いる場所を出てでも、上がれるだけ上がらないとね」
  • この言葉にプロフェッショナルの本質が凝縮されている。居酒屋で同僚たちといくら愚痴をこぼしたところで、何も変わらない自分の人生を変えるのは、自分自身しかいない。

 

自分の可能性に蓋をするなー「きっとできる。自分にはそれだけの可能性がある」と信じる

  • こうした私の考え方に否定的な人もいるだろう。
  • 「そんなことを言えるのは、あなたが勝ち組だからだ」と感じる人もいるかもしれない。しかし、私自身の30年のキャリアを振り返ると、平穏なときなど、ほとんどなかったといっていい。
  • 一見、華麗な転身を遂げ、成功を収めてきたように見えるかもしれないが、じつはいつももがき、悩み、自問自答していた。
  • そんな中で、私自身がいつも大切にしていたのはたったひとつ、「自分の可能性に蓋をしない」ということだった。
  • 「戦略コンサルタントになんてなれるのだろうか」「プロジェクトで結果は出せるのだろうか」「自分はプロジェクトを売ることができるのだろうか」「社長である私に、社員たちはついてきてくれるのだろうか」「本なんて書けるのだろうか」......。
  • 自分の居場所やキャリアのステージが変わるたびに、不安や弱気が頭をもたげていた。そんなとき、私は「きっとできる。自分にはそれだけの可能性がある」と自分に信じ込ませ、奮い立たせてきた。
  • そして、実際に多くのことを実現させることができた。
  • どんな人にも、その人ならではの才能や力が潜んでいると私は信じている。
  • でも、ほとんどの人は、そうした可能性に自分で蓋をしてしまい、活かせないでいる。本当にもったいないと思う。
  • 自分の可能性を信じられるのは、自分だけなのだ。

 

  • 真のプロフェッショナルは優れたチームプレイヤーでもある。それはサッカー
    ラグビーなどのプロスポーツの世界を見ても同じである。
  • これから求められる「和」は、たんなる同質的な「仲良しクラブ」ではない。
  • 共通の目標、ゴールを実現するために、ひとつのチームとしてまとまりながら、それぞれの専門性を発揮する。そうした「新たな和」が求められている。
  • 私は22歳でBCGに転職し、ボストンで研修を受けた。そのときに教えられた言葉のひとつが「多様性からの連帯」 (unity from diversity) だ。個性や多様性をもつ戦略コンサルタントが、ひとつのチームとして、時にぶつかり合い、時に刺激し合いながら、目標を達成する。そこからプロ同士の連帯感が生まれてくる。
  • いま日本企業に求められているのは、「健全なコンフリクト」である。
  • それぞれがそれぞれの意見や主張をぶつけ合い、対立や衝突を恐れずに、共通のゴールに向かって突き進んでいく。 未来を創造するためには、そのプロセスが欠かせない。
  • 「和」は最初から存在するものではない。
  • 「健全なコンフリクト」の結果として生まれるものである。

「ゆでガエル」から脱却するのは、あなただ!

  • 経済同友会代表幹事である櫻田謙悟さん(SOMPOホールディングスグループCEO)は、「まじめなゆでガエルになっていないか」と警鐘を鳴らす。
  • 「まじめなゆでガエル」とは、「日々がんばっているけれど、外の世界が見えておらず、がんばる方向性を間違えている人」のことだ。
  • 日本企業はいま大きく生まれ変わろうとしている。変わらなければ生き延びていけないのだから、経営者たちは本気だし、必死だ。問題は社員たちだ。

 

「社内価値」ではなく「市場価値」で勝負する

  • これまでのビジネスパーソンの大半は、会社の中で役に立つ、会社の中で選ばれる人間になることを目指した。
  • 社内で評価され、認められれば、出世の階段を駆け上がり、給料も上がる。 人材評価の軸は、常に「社内価値」がベースだった。
  • しかし、プロフェッショナルは「社内価値」ではなく「市場価値」にこだわる。社内のみに通用する能力に依存するのではなく、より普遍的な能力、経験値を高めることができれば、自分を活かす「場」はいくらでも広がる。
  • 「もし転職するとしたら、あなたにはいくらの値がつきますか?」
  • それこそが「市場価値」である。
  • 自分を高く評価してくれる、高く買ってくれるところに身を置くのが、プロフェッショナルの基本である。
  • もちろん、期待値が高ければ、責任やプレッシャーは大きくなる。しかし、その責任感やプレッシャーこそが、プロフェッショナルにとっての動力源なのである。

 

「プロセス」ではなく「結果」にこだわる

  • プロフェッショナルとは「仕事人」である。
  • 自分に課せられたミッション、役割を確実に遂行することを期待されて、プロフェッショナルとしての扱い、処遇を受ける。
  • だから、プロフェッショナルにとっては「結果」がすべてである。
  • 一回一回が真剣勝負だ。気を抜くことなどできない。
  • たとえどんなに「プロセス」が適切だったとしても、「結果」を伴うことができなければ、「プロ失格」の烙印を押される。
  • 私はローランド・ベルガーのコンサルタントたちに、「会社へのコミットメント」は求めていない。
  • 会社を好きになってくれる、仲間を大切にしてくれる気持ちはありがたいし、嬉しいが、仕事で成果を出せなければ何の意味もない。
    プロフェッショナルにとって大切なことは、たったひとつ。それは「仕事へのコミットメント」だ。

 「相対」ではなく「絶対」で勝負するー「自分にしかできない何か」を追求する

  • 分野は何であれ、最も価値の高いプロフェッショナルとは、唯一無二の「絶対価値」を生み出すことができる人材である。
  • 「代替性のない」 (irreplaceable) 人材こそが、究極のプロフェッショナルと言える。
  • 他者との相対比較の中で己を磨くのではなく、「自分にしかできない何か」を追求し、比較対象のない絶対的な存在を目指す。
  • そのためには、自分の強み・弱み、長所・欠点を冷静に分析し、何を磨くのか、何を伸ばすのかを戦略的に見極めることが求められる。
  • 己を知ることこそが、プロフェッショナルへの第一歩である。

パラダイム 「他律」ではなく「自律」で行動するー「上司」は自分自身

  • プロフェッショナルに「上司」は必要ない。「上司」がいるとすれば、それは自分自身である。
  • 真のプロフェッショナルチームは、共通のゴールや大きな方針、最低限のルールしか設定しない。過剰なルールや縛りなどの管理強化が、プロフェッショナルの創造性ややる気を毀損することを知っているからである。
  • プロフェッショナルは他者の命令や指図で動くのではなく、あくまでも自分自身の主体性で判断し、行動する。あくまでも「自主管理」が基本だ。
  • それができない者は、どんなに優れた才能を持ち合わせていたとしても、所詮アマチュアである。

「アンコントローラブル」は捨て、「コントローラブル」に集中する

  • プロフェッショナルにとって悲観的な状況とは、コントロール可能な選択肢がひとつもない状況のことである。
  • 自分でコントロール可能な変数 (controllable) が存在する限りは、けっして諦めず、常に楽観的に物事を考える。
  • 自分がコントロールできるものは何かを探し出し、そこに集中し、突破口を見出そうとする。コントロールできないもの (uncontrollable) に固執したり、嘆いたりはしない。
  • 真のプロフェッショナルは、一瞬で大きく流れを変えることができる。
  • それは何が「コントローラブル」で、何が「アンコントローラブル」なのかを見抜き、コントロール可能なものに集中し、専念するからである。