果糖中毒――19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?

  • アメリカの平均女性の服のサイズは4号だ。それなのに、10号より大きなサイズを置いていない店はあまりにも多い。婦人服店の多くは、いまや「見栄っ張りサイズ」(1950年に1号だったサイズを、現在の6号にしたもの)を使っているが、それでも人口のかなりを占める女性が、何も買うことができないでいる。
  • もう10年も前のことになるが、サンフランシスコに地元の4時間フィットネスクラブの看板が立っていた。それに描かれていた地球外生命体の横には、こんなキャッチフレーズに添えられていた。「奴らがやって来たときには、太っちょから食べ始めるぞ!

 

食べる量を減らすとエネルギーが燃えにくくなる

  • 肥備大流行を引き起こしたもののヒントは、そこらじゅうに転がっている。今こそ余分なカロリーがどこに行ったかを調べるときだ。肥満のジレンマへの答えは、そうしたデータのなかにある。
  • 「どの食べ物からとろうがカロリーは同じ働きをする」という考えには、問題が3つある。まず、食べ物が大量かつ簡単に手に入る昨今、カロリーを燃やし尽くせる人などいない、という事実だ。1枚のチョコレートチップクッキーのカロリーを燃やすには、約30分間ジョギングしなければならない。ビッグマックを1個食べてしまったら、自転車を4時間も漕ぐことが必要になる。でも「ちょっと待って」とあなたは言うかもしれない。「オリンピック水泳選手のマイケル・フェルプスは1日1万2000キロカロリーもとっていたのに、全部燃やし尽くしたじゃないか」と。
  • もしそれが私たち全員に当てはまるのなら、ダイエットと運動は効果を発揮するはずだ。食べた量より多くのカロリーを燃焼できれば体重は減るはずだから(第13章参照)。そして、ダイエット薬も効くはずだ。薬を飲んで、体内に入れる食物を減らしたり、体が吸収するカロリーを減らしたりすれば、体重は減るはずだから。だが、薬は約束どおりの効果を届けてはくれない。最初のうちは効き目があっても、しばらくすると体重が減らなくなる(第4章参照)。
  • なぜだろう? 薬を飲まなくなるから?いや、そんなことはない。ではなぜ薬の効き目がなくなるのか?その答えは、「体は脳より賢いから」だ。エネルギー消費量が、減少したエネルギーの摂取量にあわせて減ってしまうのである。だから、どの食べ物でとろうがカロリーは同じ働きをする、とは言えないのだ。なぜなら、カロリーの消費量は体にコントロールされていて、摂取されたカロリーの量だけではなく、その質にも依存しているからである。

同じ炭水化物でも「果糖」は必ず脂質になる

  • 2つめの問題は、もし「どの食べ物でとろうがカロリーは同じ働きをする」のだとしたら、脂質はどんなものでも同じ働きをすることになってしまう。脂質はどれも燃やされると、1グラムにつき90キロカロリーのエネルギーを放出することになっている。だが、実際には脂質はすべて同じではない。よい脂質(たとえば抗炎症性のような貴重な特性を持つもの)もあれば、悪い脂質(心臓病や脂肪肝疾患などをもたらすもの。第10章参照)もある。
  • 同様に、あらゆるタンパク質もアミノ酸も、どれも燃やされると1グラムにつき41キロカロリーのエネルギーを放出するということで、すべて同じ働きをするということになってしまう。だが、タンパク質には、食欲を減らしてくれる質の高いもの(たとえば卵)もあれば、インスリン抵抗性とメタボ症候群に関連性が見出されている分枝鎖アミノ酸を大量に含む質の低いもの(たとえばハンバーガーのパティなど)もある(第9章参照)。
  • 最後に、あらゆる炭水化物も、燃やされるとき、1グラムにつき4・1キロカロリーのエネルギーを放出するから、すべて同じにならなければならなくなる。だが、実際にはそんなことにはならない。炭水化物の分解に関する個々のデータを詳しく見ると興味深いことがわかる。炭水化物には、2つのクラスがある。つまり、デンプンと糖分だ。
  • デンプンはブドウ糖グルコース)だけでできていて、あまり甘くなく、体内のあらゆる細胞でエネルギー源として使われる。糖分にはいろいろな種類があるが(ブドウ糖ガラクトース麦芽糖、乳糖など)、私がここで(および本書全体をとおして) 「糖分」と言うときには、「甘い」糖、つまり、果糖分子を含んでいるショ糖〔砂糖の主成分〕と異性化糖を指す「異性化糖とは、主にトウモロコシから作られる高フルクトース・コーンシロップのことで、含まれる果糖が30%未満のものは「ブドウ糖果糖液糖」、3%以上10%未満のものは「果糖ブドウ糖液糖」、3%以上のものは「高果糖液糖」と呼ばれる]。
  • 果糖は非常に甘く、例外なく脂質に代謝される(第11章参照)。これが悪者ナンバーワンだ(悪者はほかにもいる)。果糖は、この厄介な物語において、あなたをダークサイドに引きずり込もうと手ぐすねひいている、肥満帝国のダース・ベイダーだ。

果糖の量がこの100年で6倍に激増

  • 「どの食べ物でとろうがカロリーは同じ働きをする」という考えにまつわる第3の問題は、元米国保健福祉省長官のトミー・トンプソンが2004年に口にした「とにかくぼくらは食い過ぎなのさ」という言葉に表れている。一見すると、私たちは今、あらゆるものを以前より多く食べるようになったように思える。だが本当は、「あらゆるもの」を多く食べているわけではない。実際には、以前より多く食べるようになった食品もあれば、食べるのが減った食品もある。そういった食品が何であるかを知れば、肥満の世界的大流行を阻止する鍵が見つかるはずだ。
  • 米国農務省は、消失する栄養素について記録をとっている。そうしたデータを見ると、肥満の世界的大流行が加速しても、タンパク質と脂質の合計摂取量は比較的一定のままに留まっていることがわかる。しかし、1980年代に米国医師会、米国心臓学会、米国農務省がこぞって「低脂肪」食習慣に切り替えるガイドラインを作成したため、総摂取カロリーの割合に脂質が占める割合は低下した(0%から8%に減少)。タンパク質の摂取量は、5%前後と、比較的一定の割合を保っていた。
  • しかし、総摂取カロリーが増えたのに、脂質の総摂取量が変わらなかったとすれば、何かほかの栄養素の摂取が増えたはずである。その答えは、炭水化物のデータを調べればわかる。実は、総摂取カロリーに占める炭水化物の割合は、10%から5%に増えていたのだ。
  • 私たちが摂取する炭水化物は確かに両方のクラスとも(すなわちデンプンも糖分も)増えていたものの、総摂取カロリーにおけるデンプンの総摂取量は、49%から51%に微増しただけだった。ところが、果糖の摂取量は8%から12%に増加し、場合によっては(特に子どもたちのあいだでは)、総摂取カロリーの15%にまで達していたのである。
  • というわけで、私たちが以前より多く口にしているものは糖分、しかも特に果糖であると考えるのが筋だろう。私たちが口にする果糖の量は、過去30年間に2倍になり、20世紀の100年間では6倍になった。世界的なジレンマを解く鍵は、人々の食生活におけるこの変化を理解することにある。
  • 現在固く信じられている考えにあるこれら3つの矛盾点から、ある教訓を導くことができる。それは、「カロリーによって働きが異なる」ということだ。というより、次のように言いかえたほうがいいかもしれない。「燃やされるカロリーはすべて同じ働きをするが、口にするカロリーは同じ働きをするわけではない」と。そしてここにこそ、肥満の世界的大流行を理解する鍵がある。つまり、私たちが口にする食品の質は、食べる量に影響を与えるのだ。それはまた、カロリーを燃やしたいと思う気持ちにも影響を与える。では、「肥満は自己責任」論は? それは本物の科学によって粉砕されるべき都市伝説の1つだ。

 

余分な「貯蔵ホルモン」の出所をつきとめる

  • たとえどんなメカニズムによっていようが、インスリンがレプチンシグナルをねずみと人の両方で遮断するのは確かだ。インスリンは、体の中でエネルギーを脂肪細胞に貯めさせ、脳の中では、レプチン抵抗性と「脳の飢餓」を引き起こす。インスリンはこのようなワンツーパンチを繰り出して、「暴食と怠惰」、体重増加、そして肥満を世界中にはびこらせているのだ。
  • こうした考え方は、肥満に関する考え方を逆立ちさせる。通常は、「物を食べたのなら、燃やしたほうがいい。さもないと、体に溜まってしまう」と考える。この場合、体重増加は、2つの行動、つまりエネルギー摂取の増加 (暴食)とエネルギー消費の低下(怠惰)の結果とみなされる。しかし、データが示しているのは、まったく逆のことだ。
  • エネルギーの貯蔵は生化学的なプロセスで、患者がコントロールできるものではない。エネルギーを燃やすことは、生活の質に通じる。というのも、エネルギーを速く燃やさせるもの、たとえば運動、エフェドリン(この薬は市場から撤収された)、カフェイン(効き目は2時間ほど)などは、気分をよくしてくれるからだ。一方、エネルギーをゆっくり燃やさせるもの、たとえば飢えや甲状腺機能低下などがあると、気分は悪くなる。つまり、エネルギー保存の法則は、体が次のように考えているとして再解釈されるべきなのだ。「エネルギーを貯めたいのだけれど、燃やされてしまうことがわかっているので、食べなければならない」と。この解釈では、生化学的プロセスがまずあって、体重増加はそのあとに来る。そして行動は、生化学的反応の結果である。
  • 肥満とは、脳内で起きた生化学的な変化のことである。レプチン抵抗性を促して結果的に体重が増え、体がエネルギーバランスを続行しようとして行動が変わる。「暴食」と「怠惰」という、一見すると性格の欠陥のように見えるものは、肥満の原因ではない。それらは肥満の結果だ。生化学的反応が行動を生み出すのであって、その逆ではないのである。この生化学的変化の要となるのにインスリン、すなわちホルモンだ。現代の大部分の人々は、体重にかかわらず、同じ量のブドウ糖に対し、30年前に比べて2倍の量のインスリンを分泌している。ここに、1470億ドル(肥満対策にかかる1年間の財務費用)の疑問がある。もしインスリンが悪者で、私たちは皆、人類の歴史始まって以来の高インスリン血症に陥っているのだとすれば、この余分なインスリンはいったいどこから来たのだろう?そして、どうやったらこの傾向を元に戻せるのだろうか?

 

ファストフードには一応「栄養」が4つある

  • だが、私たちがここで問題にしているのは依存性だ。だから、ビッグサイズでいくことにしよう。ここで典型的なファストフードメニューの栄養成分表示ラベルについて考えてみたい。内容は、ビッグマック1個、Lサイズのマックフライポテト、そしてLサイズのコカ・コーラ(約940cc)だ。
  • 糖分について「1日あたりの推奨摂取量%(%DV)」が記載されていない理由は、現在のところ、糖分については、1日あたりの推奨摂取量というものが存在しないからだ。

 

ファストフードの「栄養」1・塩分

  • この食事例には1380ミリグラムのナトリウム(塩)が含まれている。2005年のアメリカ連邦栄養ガイドは、ナトリウムの「許容限界摂取レベル」を1日2300ミリグ
    ラムに定めた。この例で、ナトリウムの「1日あたりの摂取量に占める割合」が54%になっているのは、そのためだ。平均的なアメリカ人は、食事にさまざまな加工食品が含まれているために、1日3400ミリグラム以上のナトリウムをとっている。塩分は、食品業界にとって、食品を保存し賞味期限を延ばす手段の1つだ。そのため、塩分の多さとカロリーの高さは、ほぼ常に一緒に存在する(ポテトチップスがいい例)。
  • とはいえ、塩分には依存性があるのだろうか? 塩分への依存性を支持するデータは、現在のところ、動物モデルに関するものしかない。ラットを使って行われた研究で、ドーパミンが塩分に反応してシグナルを伝達することと、オピオイドモルヒネに類似した作用を持つ物質)を投与すると、ラットが塩をドカ食いすることが判明している。
  • 人間では、塩分の多量摂取は依存症のせいというよりも、学習して身に付けた好みであると伝統的にみなされてきた。しょっぱい食べ物の好みは、幼い頃に学習したものである可能性が高い。乳児は、生後4カ月から6カ月までに、母乳、粉ミルク用の水、そしてそれ以外の食べ物に含まれる塩分に基づいて塩の好みを確立する。
  • だが、人は明らかに塩分摂取量を調節することができる。たとえば、副腎疾患があるために塩分を渇望する患者は、適切な薬物が与えられれば、塩分摂取量を減らすことができる。さらに、塩分の好みは学習して変えることが可能だ。たとえば、高血圧症の成人は、12週間以内に低塩の食生活に嗜好を慣らすことができる。というわけで、依存物質の基準に照らすと、塩分はその基準を満たしているとは言えない。

ファストフードの「栄養」2●脂質

  • ファストフードにとって、多量の脂質は、満足感を与えるために欠かせない要素だ。この食事例の脂肪含有量は、1日2000キロカロリーを摂取する人の1日あたりの推奨脂質摂取量の89%までを占めることになる。
  • 飼養研究によると、脂肪由来の余剰カロリーは、炭水化物由来の余剰カロリーより効率的に貯蔵されることがわかっている(脂質由来の場合が90-95%であるのに対し、炭水化物由来の場合は75-85%だ)。したがって、脂質は体重増加の代表的な決定因子であると従来みなされてきた。動物は、断続的に純粋な脂肪を与えられると、それをドカ食いする。しかも、摂取するタイプの脂質にかかわらず、ドカ食いに走る。ということは、ファストフードに含まれている過食を促す要因は、脂質が含まれているということであって、脂質の種類は関係ないのだ(第10章参照)。
  • とはいえ、ラットモデルは、脂質への依存については、耐性や離脱症状といった、ほかの依存特性を示していない。それでも、いわゆる「高脂質食品」はほぼ常に、デンプン(ピザなど)も、糖分(クッキーなど)も豊富に含んでいることには注意が必要だ。実際、糖分を加えると、正常体重の人々の高脂質食品への好みが有意に高まる。そういうわけで、高濃度の脂質と高濃度の糖分の組み合わせは、高濃度の脂質だけの場合より依存度が高いと考えられる。

ファストフードの「栄養」3 ● カフェイン

  • 炭酸飲料はファストフードの食事に欠かせない。マクドナルドのバリューセットでLサイズの炭酸飲料を飲んだら、カフェイン摂取量は約58ミリグラムになる。ソフトドリンクメーカーはカフェインを香料添加剤とみなしているが、目隠しテストをしてみると、頻繁に炭酸飲料を飲む人でも、カフェイン入りのコーラとカフェイン抜きのコーラの違いがわかる人はたった8%だ。
  • したがって、炭酸飲料におけるもっと妥当なカフェインの役割とは、すでに高い報酬(糖分)が得られるようになっている飲み物のセイリエンス(特徴を際立たせるもの)をさらに増すためのものだと言うべきだろう。カフェインの依存性については十分に確立されており、「精神疾患の分類と診断の手引 第4版新訂版』に定義されている身体的および精神的な依存基準をすべて満たしている。
  • 実のところ、カフェインを摂取する人の最大30%までが、依存症の基準を満たしている可能性があるのだ。頭痛(脳における血流速度の増加が原因とされる)、疲労感、そして作業能力の低下は、すべてカフェインの離脱時に見られるものだ。さらに、断続的なカフェイン摂取が増えると、耐性が生じる。
  • 子どもたちはカフェインをソフトドリンクやチョコレートから得ているが、大人は主にコーヒーと紅茶からとっている。250cc弱のカップに入った淹れたてのコーヒーには、淹れ方にもよるが、5~200ミリグラムほどのカフェインが含まれる。コメディアンかつ社会評論家だった故ジョージ・カーリンが、コーヒーを「白人のクラック〔高純度のコカイン」と呼んだのは有名な話だ。
  • とはいえ、今日、チェーンレストランで、ストレートのコーヒーを頼む人はほとんどいないだろう。スターバックスの客を調べた調査では、ほとんどの人がブレンドされた飲み物を頼んでいた。いっこうに人気の衰えない「グランデ」のモカ・フラペチーノ(ホイップクリームなし)のカロリーは260キロカロリーで、砂糖の量は53グラムになる。したがって、コーヒーや炭酸飲料に含まれているカフェインは、すでに乱用物質としてよく知られており、食物依存現象の重要な部分になっている。

ファストフードの「栄養」4・糖分

  • 人間の「糖分依存」については、事例報告こそ山のようにあるが、本格的な依存症なのか、それとも単に習慣的なものなのかは いまだにはっきりしない。炭酸飲料をファストフードの食事に加えると、糖分摂取量は10倍になる。コカ・コーラ社は、現在全米で販売されている清涼飲料の42%はダイエット飲料(「コカ・コーラ ゼロ」など)だと言っているが、マクドナルドで購入された飲料のうち71%は砂糖入り炭酸飲料だった。
  • 実のところ、2009年の時点において、砂糖が含まれていないマクドナルドのメ
    ニューは7品目しかなかった。つまり、マックフライポテト、ハッシュポテト、ソーセージパティ、チキンマックナゲット(ソース抜き)、ダイエットコーク、ブラックコーヒー、アイスティー(砂糖抜き)である。
  • 炭酸飲料の摂取は、それだけで肥満に関連しているが、ファストフードの食事をとる人の炭酸飲料の摂取量は、それ以外の人より明らかに多い。大規模に広まっている「炭酸飲料依存」という現象が、依存物質としてすでに判明しているカフェインを含むことによって拍車がかかっている可能性が高いのだ。
  • ネズミのモデルでは、糖分には依存物質のあらゆる基準が当てはまることが判明している。まず、ラットに断続的に砂糖を与える(制限したあとに与える)とドカ食いする。次に、ラットは砂糖を与えられなくなると離脱症状の兆候を示す(歯をガチガチさせる、体がブルブル、ガクガク震える、不安になる)。3つめに、2週間砂糖を遠ざけると、砂糖を渇望して探す行動を示し、より多くの砂糖をむさぼるようになる。サルバドールの炭酸飲料の例と同じだ。上昇したドーパミンレベルがドカ食いを常時促し、耐性の形成に歩調を合わせて、過剰摂取が時とともに増大するのだ。
  • 最後に、砂糖に依存したラットでは交差感作が生じ、砂糖への依存が、アルコールまたはアンフェタミンの摂取に容易に切り替わる。これらのデータから、砂糖には依存性があること、そして、炭酸飲料には二重の意味で依存性があることは明らかだ。

 

糖分は短時間だけ脳を幸せにする

  • おおざっぱに言って、肥満の人は幸せではない。問題は、その不幸せ感が肥満の原因なのか、それとも肥満の結果なのかという点だ。現時点では、どちらが正しいと言うことはできないし、両方とも正しいということも完璧にありえる。
  • その理由はこうだ。幸福は単なる趣味のレベルの状態ではない。幸福は、神経伝達物質セロトニンが媒介する生化学的状態でもある。「セロトニン仮説」によると、重篤な臨床的うつ病は、脳内にセロトニンが不足することが原因だということになっている。そのために、脳内セロトニンを増やす「ウェルブトリン(一般名ブプロピオン、日本では販売されていない)や「プロザック」(一般名フルオキセチン、日本では未承認の処方箋医薬品)のような選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が治療に使われる。興味深いことに、これらの薬は肥満の治療にも使われている。セロトニンの合成を脳内で増大させる方法の1つは、大量の炭水化物を食べることなのだ。
  • 何が言いたいのかは、もうおわかりだろう。もしあなたのセロトニンが欠乏していたら、あなたはどんなことをしてでもセロトニンを増やそうとする、ということだ。大量の炭水化物、とりわけ糖分をとれば、当初は一石二鳥の効果が得られる。つまり糖分は、セロトニンの輸送を助け、短期間、快楽を幸福の代わりにもたらすのだ。
  • しかし、やがてD受容体がダウンレギュレーションされると、同じ効果を得るために、もっと大量の糖分が必要になる。インスリン抵抗性はレプチン抵抗性を引き起こし(第4章参照)、脳は体が飢えていると判断して、持続する不幸感に対するささやかな快楽を生み出すためにドカ食いの悪循環を引き起こす。この悪循環は誰にでも起こり得る。

 

内臓脂肪をピンポイントで増やす「ストレスホルモン」

  • ストレス、肥満、代謝性疾患の結びつきの起点にあるのは、副腎(腎臓の上にある臓器)が出す「コルチゾール」 ホルモンだ。コルチゾールはたぶん、あなたの体のなかで最も重要なホルモンだろう。というのもコルチゾールが足りなくなったら死んでしまうからだ。ほかのホルモン、たとえば成長ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモン、水分保持ホルモンなどが欠乏しても、体調がすぐれずつらい生活を送ることにはなるが、命を失うようなことはない。だが、コルチゾールが足りなくなったら、あらゆる種類の体のストレスに対処できなくなってしまう。
  • ハーバード大学疫学教授のデイビッド・ウィリアムズは、2008年にPBSで放映さ
    れたドキュメンタリーシリーズ『不自然な原因 (Unnatural Causes)』でこう述べている。「ストレスは、私たちをやる気にさせます。私たちが暮らす今日の社会では、どんな人でもストレスを抱えています。ストレスを抱えていない人とは、死んでいる人のことです」
  • コルチゾールが急増すると、脱水症状になったときにショック状態に陥らずにすみ、記憶力と免疫機能が向上し、炎症反応が抑制され、警戒心が増す。通常の場合、コルチゾールはストレスがつのる状況(ライオンに追いかけられているときや、当然知っているべきことを知らなかったと上司に怒鳴られているようなとき)にピークに達する。コルチゾールは、少量かつ急増期間が短いかぎり、必要不可欠なホルモンだ。
  • だが、大量のコルチゾールに長期間さらされると、ゆっくりとではあるが、最終的に命が奪われる。プレッシャー(社会的、家族的、文化的なプレッシャーなど)に容赦なく見舞われると、ストレス反応は何カ月も、ときには何年も「オン」状態になる。コルチゾールが血流にみなぎると、血圧が上がり、糖尿病につながる血糖値の上昇を招き、心拍数も増える。
  • 人間について行われた研究によると、コルチゾールは特に「カンフォートフード」(なじみがあって食べると気分がよくなるスナックや菓子)によるカロリー摂取を押し上げるという。だがコルチゾールはむやみに体重を増やすわけではない。コルチゾールが増やすのは内臓脂肪なのだ(第8章参照)。これは、心血管疾患とメタボ症候群に関連付けられているタイプの脂肪蓄積である。

 

子ども時代のストレスは肥満リスクを上げる

  • 2万9000人におよぶイギリスの公務員の健康を記録した「ホワイトホール研究」と
    いう影響力のある研究がある。1970年代から始められたもので、30年以上続けられ、今でもフォローアップ研究が行われている。最初の頃研究者たちは、心臓発作の発生率が最も高いのは、上級管理職だろうという仮説を立てていた。しかし、真実は逆であることがわかった。最も高いレベルのコルチゾール血中濃度と慢性病が見られたのは、いちばん低い階級グループだったのである。
  • この傾向は最下層のグループだけに当てはまるものではなかった。上から2番目のグループは、トップランクのグループより病気を発症する率が高く、上から3番目のグループの病気発症率は上から2番目のグループより高く、上から4番目のグループの病気発症率は上から3番目のグループより高い、というふうに、一貫して同じ傾向が見られた。死亡率と罹患率は、喫煙などの行動因子を調整したあとでも、社会的地位の低さと相関していた。同じことは、アメリカについても言える。糖尿病、脳卒中、心臓病といった病気は、ストレスを最も抱えている人たち、すなわち中流と下層階級のアメリカ人のあいだで、最も広がっているのだ。
  • ストレス因子は、子どもたちにも深刻な影響を与えている。貧困のなかで暮らしているアメリカの子どもたちは20%近くにもおよぶ。食と住まいの不安定さが生涯にわたって残す傷は脳にとって有害であり、脳の構造を幼い時点で変化させる。とりわけ、コルチゾールは食物摂取を抑制する働きのあるニューロンを殺してしまう。
  • 幼いときにしっかりした土台が築けるかどうかは、成長してからの健康と摂食パターンを大きく左右する。したがって、子どもの頃にストレスを被ることは、思春期および成人期に肥満になるリスクを押し上げる要因になるのだ。
  • ストレスの低い閾値と高い「コルチゾール反応性」をもたらすと考えられる因子には、社会経済的地位の低さ、仕事のストレス、女性であること、ダイエットすることが多いと回答すること(慢性的にダイエットを繰り返していることを示す)、そして総合的に見て、やる気と自信に欠けていることなどがある。
  • どこに行くにもバスを3台も乗り継がなければならず、2つ以上の仕事を掛け持ちし、どうやって食べ物を手に入れるか始終心配し、次の家賃が払えるかどうか不安にさいなまれる……。こんな状態では、どの不安材料も、精神状態だけでなく体の状態にも大きな悪影響を与えてしまう。
  • 長引くコルチゾールの分泌が何年も続くと、人は食べ過ぎるようになる。とはいえ、どんな食べ物でも食べる量が増える、というわけではない。人間について行われた研究による ると、コルチゾールは特に「カンフォートフード」(高エネルギー密度の食べ物、つまり脂肪と糖分のたっりつまった食べ物)によるカロリーの取り込みを押し上げることがわかっている。夫の帰宅が遅くなり、子どもたちも泣き止まない。すると、「ベン&ジェリーズ」アイスクリームが突如姿を現す、という事態が起きるわけだ。

睡眠時間が短い人は太りやすい

  • ある種の人々がストレスによるドカ食いに陥りやすい素因は何だろう? 1つ言えるのは、それはストレスそのものではなく、ストレスに対する「反応」であるということだ。ストレスは、美しいと感じる基準が観る人によって違うのに似ている。同じレベルのストレスであっても、人によって被る度合いが違うのだ。
  • 慢性ストレスは「カンフォートフード」をより多く食べさせるとはいえ、そうなるのは、コルチゾール反応性の高い人だけだ。ストレスを受けると食べ物にはけ口を求める「ストレス・イーター」は、ストレスを感じている期間に、インスリン、体重、夜間のコルチゾール分泌(通常、夜間のコルチゾールレベルはとても低い)において明らかな増加を示す。
  • カリフォルニア大学サンフランシスコ校〔UCSF。主に医学部を専門とする大学院大学で、医学部は世界のトップレベル]の私の同僚であるエリッサ・エペルの研究によると、心理的なストレス要因への反応として最も多くコルチゾールを分泌したのは、高脂肪の甘い食品を最も多く食べたグループだった。ストレスはまた、摂食パターンと脂肪細胞が「プログラム」される小児期において、メタボ症候群の一因になっていると推定されている。
  • ストレスはさまざまなやり方で食物摂取に影響を与える。ストレスが原因で起こる睡眠不足は、肥満の要因になる一方で、肥満の結果でもある。私たちは皆以前より睡眠時間が短くなっている。とりわけ子どもはそうだ(ジェイニーもそのひとり)。睡眠時間が短い人では、やがてBMIが増えはじめる。それに、睡眠時間が短いと言っても、起きている時間を運動に費やしているわけではない。
  • 生化学的レベルで言うと、急性の睡眠不足は、全身性の炎症を示すマーカーの上昇とメタボ症候群の兆候に関連付けられている。睡眠不足はコルチゾールを増やし、レプチンを減らすことが判明しており、その過程で、飢えと空腹感に似た症状が出る。
  • 脳のレベルでは、睡眠不足は空腹ホルモンであるグレリンを増加させる。グレリンは、食べる人が食品から手にする「価値」を増大させるとともに、報酬系を活性化する。つまり、あなたに、より多くのチョコレートケーキを食べさせるわけだ。一方、不眠症は肥満の人にはよく見られる。高いBMIは閉塞性睡眠時無呼吸症候群を強くうかがわせる因子で、この症状は二酸化炭素を保持させるため、肥満をさらに悪化させると考えられている。

 

減量の努力を台なしにする3つの「悪」

  • 空腹、報酬、ストレス。これら3つの脳の経路が、高インスリン血症(過剰なレベルのインスリン分泌)をもたらすと、肥満とメタボ症候群が引き起こされる(第9章参照)。私たちは、この3つの経路のことを「辺縁系トライアングル」と呼んでいる。いったん入り込んだら、二度と出られないという点で、バミューダトライアングルによく似ているからだ。
  • 視床下部腹内側核で慢性的にインスリンが作用していると、レプチンはシグナルが出せなくなる。すると、脳はこれを飢えと判断し、交感神経系活動を低下させ(怠惰になる)、迷走神経の活動を増大させる(空腹になる)。腹側被蓋野では、慢性的なインスリンが、レプチンシグナルを抑制することによって快楽報酬経路を解除する(報酬をもたらす)。
  • あなたは食べ物、とりわけ高脂肪で糖分のつまった料理を食べたくてたまらなくなり、過剰なエネルギー摂取という結果に陥る。扁桃体の慢性的な活性化はコルチゾールのレベルを押し上げる(ストレスを抱く)。そのこと自体が、大量にエネルギーを摂取させるとともにインスリン抵抗性をもたらし、インスリンのレベルを徐々に押し上げて体重増加が加速する。
  • これこそ、実質的にすべての肥満の人に起きていることなのだ。空腹、報酬、そしてストレスは、共謀して体重減量の努力を無効にしようとする。「暴食」と「怠惰」な行動は実際に起きているものではあるが、それらは脳の生化学構造に起きた変化の結果として起きたものだ。そしてこれから第Ⅲ部で見ていくように、これらの行動は、脂肪細胞の成長を促す生化学反応の結果でもあるのだ。

 

要因1・遺伝子原因の9%しか説明できない

  • 遺伝について語るとき、普通私たちは、DNA配列に起きた変化のことを指す。科学者たちは、しょっちゅうこんなことを言っている。肥満原因の30%は遺伝子(生まれ)にあり、30%は環境(育ち)にあると。実際、エネルギーのバランス経路にあるいくつかの遺伝子の突然変異が、将来のリスクをもたらすことはわかっている(病的肥満のうちの約2%のケース)。
  • とはいえ、徹底的な調査が行われたにもかかわらず、肥満の原因が遺伝子にあると突き止められた人は、そう多くはない。世界中の研究者がヒトゲノムをスキャンした結果、一般集団で肥満に関連している遺伝子が8個見つかったのだが、これらの遺伝子は、合計しても、肥満の原因の9%を説明するにすぎない。
  • そして、たとえあらゆる悪い遺伝子変異を持っている人がいたとしても、それらによる体重増加はたったの10キログラムだ。 これでは現在起きている肥満の世界的流行は説明できない。
  • 最後に、遺伝子プール[集団が持つ遺伝子の総体]は、そんなに早く変化するものではないので、遺伝子原因説では、過去30年に起きたことが説明できない。これらの調査結果は、肥満原因の探究は、遺伝子以外のものに目を向けるべきであることを示している。

要因3・発達プログラミングー子宮で栄養が足りないと肥満になりやすい

  • 比較的新しい医学分野に「健康と疾患の発生学的起源 (DOHaD)」を研究するものがある(将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や出生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるという考えに基づいた研究分野)。いまや私たち研究者は、苛酷な子宮内環境(栄養不足、栄養過多、母体のストレスなど)が、何らかのシグナルを胎児に送り、それが将来の脅威に関する情報を伝えるのではないかと考えるに至った。つまり「外の世界は厳しいよ。準備しておいたほうが身のためだよ」と赤ちゃんに伝えるわけである。
  • これにより赤ちゃんは、産まれたあと、もう必要がなくなったのにもかかわらず、余分なエネルギーを貯め込み続けて脂肪を増やし、究極的に健康障害を引き起こすことになる。赤ちゃんの子宮内環境と出生後環境のミスマッチだ。言いかえれば、赤ちゃんは、長生きすることを犠牲にして生き延びるようにあらかじめ「プログラムされている」わけである。
  • 出生前の生物学的影響が出生後の肥満という結果をもたらしているのではないかという仮説を最初に提唱したのは、イギリスの疫学者デイビッド・バーカーだった。彼は、母体の栄養状態が胎児に影響を与える様子を調べた。その結果、妊娠週数に比べて小さい赤ちゃん (SGA) としてとても小さく生まれた乳児は、将来、肥満、糖尿病、および心臓病にかかるリスクが高かったのである。
  • この所見は「オランダ飢餓研究」によっても裏付けられた。第二次世界大戦末期の4カ月ほどにわたってオランダが国民に配給していた食料は、1人あたり1日400~800キロカロリー分しかなく、当時母親の胎内にいて栄養不足を経験した人は、中年になって、肥満とメタボ症候群をこうむったのだった(第9章参照)。
  • SGA新生児に関して行われた複数の研究は、こうした子どもが出生早々急激な発育を遂げ、肥満と持続性のインスリン抵抗性を発症させて、小児メタボ症候群に陥ることを示している。ある分析研究では、インドのマハーラーシュトラ州プネー県で産まれた新生児をロンドンで産まれた新生児と比較したところ、インドの新生児の出生体重はロンドンの新生児よりも平均して700グラム少なかったにもかかわらず、そのインスリンレベルは顕著に高かったことがわかった。
  • 出生時体重を調整したのちの比較では、インドの新生児には、ロンドンの新生児に比べて、より多くの脂肪症、4倍高いインスリン、そして2倍高いレプチンのレベルが見られた。これらの赤ちゃんは、生まれたときからすでにインスリン抵抗性とレプチン抵抗性がそなわっていたため、肥満とメタボ症候群にかかる運命を背負っていたのである。
  • さらに悪いことに、未熟児もインスリン抵抗性を示す。その理由は、早産にまつわる何かが発達プログラミングを変えてしまうからだと考えられている。この状況は、赤ちゃんの体重増加を急速に押し上げようとして高カロリーの粉ミルクを処方する小児科医の善意によって、かえって悪化させられてしまうことがよくある。そんな粉ミルクを飲まされる赤ちゃんは、小児期や大人になってメタボ症候群になる非常に高いリスクを背負わされる。

 

  • だが、これは予防可能だ。最初の子を産んだあとに肥満症治療手術を受けて、2人めの子を出産した肥満女性たちのケースでは、2人目の子がLGAで産まれてくる確率と、その子が将来肥満になるリスクの両方が低下したことが判明している。母親を治せば、子どもも治すことができるわけだ。
  • なぜ、そんなことが起きるのだろう?その答えはこうだ。通常の場合、胎児の脳が発達するにつれて、ホルモンであるレプチン(胎児の脂肪細胞から来る)が視床下部に対し、肥満にならないように、正常に発達するように、とシグナルを送る。ところが、レプチン不足(栄養不足のSGAの赤ちゃんと同じ)またはインスリンのレプチン拮抗作用 (SGA、GDM、LGAと未熟児に見られる)のいずれかにより、正常な視床下部の発達が損なわれて、正しいシグナルを受け取ることのできない脳を持つ赤ちゃんが産まれてくる可能性がある。
  • こうした赤ちゃんの脳は、体が常に飢えていると判断してしまうのだ!そして産まれ落ちた瞬間から、食べ物をより多くとり、人より運動しなくなる。こうして、のちの人生で肥満になるように運命づけられる。食べ物が供給過剰に陥っている現代社会では特に。

 

「貯蔵ホルモン」の出すぎを止めるには

  • 脂肪細胞の数があらかじめ決まっていることは、これでご理解いただけたと思う。では、その中身を埋めることについてはどうだろう? 実は、それこそ本書の核心部であり、あなたの長期的健康が左右される点なのだ。
  • 事実を見ようとしないで、「脂肪細胞は、私たちがものを食べ過ぎて、あまりにも運動しないから肥大してしまう」という古臭い説明を口にするのは簡単だし、世間では実際、そう言われ続けている。ある最近の報告など、アメリカの肥満の流行のすべては、カロリー摂取の増加で説明がつくとまで言っている。その一方で、「スクリーンタイム」の増加と学校で体育の授業が減少したことによるエネルギー消費の低下も、思春期の子どもたちの肥満とメタボ症候群に直接の関係がある。
  • 私たちが暮らす世の中における、カロリー増加と運動不足という明らかな変化のほかにも、睡眠負債[毎日の睡眠時間が十分に確保できず、睡眠不足が溜まること、気温の変化、肥満誘発ウイルスにさらされる、といった環境変化が原因例として挙げられている。ソーシャルネットワークでさえ、肥満の原因として示唆されているほどだ。
  • もし原因がそれほど簡単なことだったら、どんなにいいだろう。しかし、これらすべての原因例は肥満との相関関係でしかなく、因果関係ではない。肥満と慢性代謝性疾患の旅路は、エネルギー貯蔵ホルモンのインスリンで始まりインスリンで終わる(第4章参照)。
  • インスリンがなければ脂肪蓄積は起きない。インスリンは糖分を脂肪分に取り込ませる。インスリンは脂肪細胞を成長させる。インスリンが多ければ多いほど、脂肪も増える。肥満の原因は数多くあるとはいえ、何らかの形のインスリン過剰(高インスリン血症)こそ、肥満の人の圧倒的大多数がたどる「最終的な共通経路」だ。この経路をブロックすれば、脂肪細胞は空のままになる。

「貯蔵ホルモン」が増える3つの原因

  • さらに私たちの体は以前よりずっと多くのインスリンを作りだしている。今日の思春期の子どもたちが分泌しているインスリンの量は、1975年当時の同年齢の子どもたちに比べると、なんと2倍だ。おそらく、高いインスリンのレベルは全肥満の75~80%の原因になっていると思われる。
  • あなたがインスリンを増やす方法は、次の3つだ。

原因1●白い炭水化物を食べる

  • 食事、とりわけ精製炭水化物が豊富な食事を食べたために(第10章参照)、あなたの膵臓が余分なインスリンを作りはじめると(インスリン分泌過多)、この余剰インスリンが脂肪細胞にエネルギーを貯蔵させる。これが起きるのは、あなたの脳が迷走神経、つまり「エネルギー貯蔵」神経を通して膵臓にシグナルを送ったときだ。

原因2●肝臓が不調になる

  • 特定の食べ物を食べたために(第9章と第1章参照) 肝臓に脂肪が蓄積されると、肝臓が不調になる(インスリン抵抗性)。すると膵臓は、肝臓に仕事をさせるために、さらに多くのインスリンを作らざるをえなくなる。こうして体中でインスリンのレベルが高くなるとともに、体中の部位で脂肪細胞の中身が埋まるようになり、ほかの臓器も不調になる。

原因3・「ストレスホルモン」が上昇する

  • ストレスホルモンであるコルチゾール(副腎が分泌する)が上昇すると、2つのことが起こる。肝臓と筋肉に働きかけてインスリン抵抗性にし、インスリンのレベルを上げて、エネルギーを脂肪として貯蔵する。さらに、脳にも働きかけて、より多くの食べ物をとらせる可能性がある(第6章参照)。
  • もちろん、これら3つのインスリン問題は相互排他的ではなく、2つ以上の問題を同時に抱えることもある。そうした場合は、診断と治療がさらにむずかしくなる。
  • さらには、現代社会においてインスリンと体重が増加する方法が、もう1つある。3っのクラスの医薬品(炎症をコントロールするステロイド剤、気分を安定させる抗精神病薬、そして糖尿病の治療に使われる血糖降下薬)は、インスリンのレベルを押し上げて、多大な体重増加を引き起こすことで悪名高い。
  • 結論から言うと、ブドウ糖分子が血中にあると、それは次の3つの運命のいずれかをたどる。つまり、燃やされるか(運動による)、脂肪に貯蔵されるか(インスリンによる)、または尿に排泄されるか(これは最終的に腎臓を殺してしまう)だ。最初から、このような薬を使わないほうがずっといいのだが、通常の場合、薬は2匹の悪魔のましな方であることが多い。

 

体重の構成要素は4つ、害があるのは1つだけ

  • 私の患者の多くは「体調が悪くならないかぎり、体重が重くても問題なんてありません」と言う。それは正しい場合もあるだろう。だが、正しいと言っていられるのも時間の問題だ。ということで、体重に関する重要な教訓についておさらいしておこう。体重計に乗るとき、私たちは自分の体を構成している4つの要素の合計重量を測っている。問題になるのは、それらの要素の1つだけだ。

構成要素1・骨 多ければ多いほど長生きできる

  • 人は、骨が多ければ多いほど長生きできる。小柄な年配の女性が股関節を骨折すると、最後の一撃になってしまう。アフリカ系アメリカ人はラッキーなことに、ほかの人種より骨密度が高い。

構成要素2●筋肉――あればあるだけ健康になれる

  • 筋肉も多いほうが健康にいい。筋肉はブドウ糖を取り込む。運動をすればするほど筋肉も増え、筋肉が増えれば増えるほどインスリン感受性も高まる。アーノルド・シュワルツェネッガーがボディービルダーだった時代、(筋肉増強剤を使っていたかどうかにかかわらず)BMIは8だった。肥満だったからではなく、体中が筋肉だらけで脂肪が極端に少なかったからだ。骨と筋肉を築き上げることは、エネルギーを貯めないで燃やす方法を手に入れることになる。その結果、体重にかかわらず、健康状態が向上するのだ。

構成要素3・皮下脂肪――量と寿命が比例する

  • 皮下脂肪は体中の脂肪の約3%を占め、マリリン・モンローに、あの砂時計のようなメリハリを与えていたものだ。信じられないかもしれないが、皮下脂肪は多ければ多いほど健康にいい。貯蔵皮下脂肪の量が長寿に比例することを示す研究はいくつもある。皮下脂肪がほとんどない小柄な高齢の女性は、股関節の骨折からだけでなく、病気にかかりやすいので早死しやすい。

構成要素4● 内臓脂肪―死の脂肪

  • 私たちに常に害をもたらす唯一の要素が、この内臓脂肪だ(別名、腹部脂肪、異所性脂肪、または「太鼓腹」)。これは、腹部内部や臓器 (肝臓や筋肉など)といった、つくべきではないところについた脂肪だ。内臓脂肪は体全体の体脂肪の約20%、または総体重の約4~6%を占める。内臓脂肪は、あなたの健康がよくも悪くもなるテコの支点だ。

脂肪が少なすぎる人は寿命が短い

  • 体重を構成するあらゆる要素の重さが、すべて平等に作られているわけではない。体重計はウソをつく。そう思っているあなたは、少なくとも健康と寿命の点から言えば、結局正しい。実のところ、いまやアメリカ人の大多数のBMI値は5以上だから、体重過多のカテゴリーに分類されて当然だ。
  • だが研究によると、平均的に言って最も長い寿命をまっとうするのは、BMIが25から30の人なのである。だとすれば、体重過多はよいことなのだろうか? 答えはイエスだ。ケイト・モスに憧れている人はよく聞いてほしい。とはいえ、その余分な体重が正しいところについていれば、という条件付きである。
  • あなたは、体についたすべての脂肪が魔法のように消えたらどんなにいいだろう、と思ったことはないだろうか? 才能豊かな美容整形外科医が、痛みを与えずに望ましくない脂肪をすべて取り去ってくれたらどんなにいいかと。正直に認めよう。これは、地上に暮らすすべての人が常に抱いている夢だ。男性も含めて。
  • もう一度考えてみよう。脂肪がまったくない人生とはどんなものかと。それはとてもみじめなだけでなく、短命だ。実際、この状況を直に経験している気の毒な人たちがいる。脂肪異栄養症というのがその病名で、人類最悪の病気の1つとみなされているものだ。遺伝的に抱える人もいるが、エイズ治療の合併症として起こることもある。
  • この病気を抱えた人は異様な外見になり、やせ衰えて、墓場をさまようような姿になる。それはたとえどころではなく、遅かれ早かれそこに向かうことになるのだ。体がエネルギーを蓄えたいと思っても、エネルギーには行き場がない。そこで、唯一行けるところ、つまり肝臓、筋肉、血管に行くことになる。脂肪異栄養症の人の臓器は脂肪にまみれ、糖尿病、高血圧、心臓病を引き起こすのだ。
  • 要するに、脂肪は必要なのである。少なくとも、あなたを生かして健康にしてくれる追加のエネルギーを収める皮下脂肪、つまり「でっちり」は欠かせない。ごくまれな例外を除けば、あなたの皮下脂肪が慢性病の要因になることはまずない。病的肥満の成人でも、その20%にあたる人たちの代謝状態は完全に正常で、病気の兆候はまったくなく、寿命も普通の人と変わらない。実のところ、皮下脂肪が少ないほど、早い死を迎える傾向が強い。

体重の6%しかない内臓脂肪があなたを殺す

  • 肝心なのは、腹部だ。肥満・健康・長寿にまつわる問題はすべて、あなたの腹部の内臓脂肪、つまり「太鼓腹」の脂肪なのである。少なくとも統計上は。体の構成要素の1つで、全体重のたった4~6%を占めるだけの内臓脂肪が問題なのだ。ただし、この内臓脂肪の多寡は、約5年分の人生を左右する。
  • 内臓脂肪では、サイズが本当に問題になる。腹が出ているかいないかは、30代で心臓発作かがんによって命を落とすか、80歳を超えて生き続けられるかどうかの違いを生む。貯蔵内臓脂肪は貯蔵皮下脂肪より代謝的にアクティブで、炎症を引き起こす。つまり、インスリン抵抗性を引き起こし、それが、糖尿病、がん、心血管疾患、認知症、老化をもたらすのだ。
  • 一般の人たちは皮下脂肪をもっと気にするが(見た目が悪いため)、皮下脂肪はなくしにくい。実際、カロリー制限をするか、絶食療養をしなければ、ほとんど落とすことはできないが、それを続けるのはほぼ不可能だ。
  • 医師が気にかけるのは、内臓脂肪のほうだ。なぜかというと、内臓脂肪は人を殺すからである。ダイエットをして体重を減らすとき、最初に減るのは内臓脂肪だ。内臓に脂肪がつくのは、エネルギーがすぐ手に入るようにするためで(第6章参照)、最初になくなるのも内臓脂肪なのだ。これはよいことだ。
  • だが、あなたの体は皮下脂肪をなくすことには抵抗する。その理由は、レプチンを作るのは皮下脂肪であり、あなたの体(脳)は、レプチンがあなたにとってよいことだと知っているからだ。
  • もっと具体的に言うと、内臓脂肪とは、「異所性」の脂肪、つまり肝臓と筋肉といった臓器内の脂肪のことで、これが本当のキラーなのである。だが、MRIや肝臓の超音波検査などの特殊な画像診断技術を使わなければ、内臓脂肪の量を測定するのはむずかしい。慢性代謝性疾患は、脂肪が筋肉、そしてとりわけ肝臓につき始めたときに起こる
  • この事実は、BMIをレントゲンによる体脂肪の比率に比較した最近の研究によって裏付けられている。BMI測定によって正常とみなされた女性の最大50%と男性の20%は、内臓脂肪量(悪い脂肪の量)から見ると、実際には肥満に分類される。
  • この論文の著者、エリック・ブレーバーマンは、BMI(ボディー・マス・インデックス)のことを「パロニー(でたらめ)・マス・インデックス」と呼んでいる。なぜなら、BMIは、それを信じている人に誤った安心感を抱かせてしまうからだ。
  • 実のところ、ロンドン、ウェストミンスター大学のジミー・ベルは、腹部のMRI
    キャン画像を調べて、体が太っているかどうかは意味がないことを発見した。病気を引き起こすのは、内臓脂肪なのである。彼は「外見やせ、内側太り」(TOFI)という言葉を編み出した。要するに、問題になるのはあなたの内臓脂肪、とりわけ脂肪肝なのだ。

「皮膚の黒ずみ」は「貯蔵ホルモン」が出すぎているサイン

  • 胴回りを測ることに代わる、まあまあの手段はベルトのサイズを測ることだ。男性では約102センチ、女性では約89センチを超えると、内臓に脂肪がついている可能性が高い。内臓脂肪は、大人でも子どもでもインスリン抵抗性と代謝性疾患のリスクと密接に結びついている。しかし、突き出したビール腹の下側にあわせてズボンをはく人が、胴回りを誤って測ってしまうことは容易に想像がつくだろう。
  • そこで、もし誰か手伝ってくれる人がいるときには、お尻回りを測ってみるといい。ウエストをお尻回りで割った比率が女性で0.85、男性で1.0を超える場合は、インスリン抵抗性があることを示す警告になる。この比率が0・8以下であれば、代謝的に正常だ。
  • 自分の代謝状態を見極めるもう1つの簡単な方法は、首のうしろ、脇の下、指関節を見ることである。探すのは黒色表皮腫、つまり、皮膚が黒ずんで厚くなり、周囲の皮膚との境目が浮き上がる症状だ。これをただの汚れだと思ったり、首回りの場合は、シャツに付く「襟の汚れ」と同じものだと思い込んだりする人は多い。
  • けれども、実際には、これは過剰なインスリンが皮膚を(正確に言うと、上皮細胞増殖因子受容体を)活性化させたものなのだ。首や脇などの摩擦が起こるところにはまた、軟性線維腫〔イボのような突起〕ができる場合もある。黒色表皮腫も軟性線維腫も、インスリン抵抗性があることを視覚的に知らせてくれる印で、将来慢性代謝性疾患を抱えるリスクを負っていることを教えてくれる。これら以外の代謝性リスクを知る手段は高額で、採血や特殊な装置、そして専門的なデータ分析が必要になる。

 

  • 低炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットは両方とも正しいのだろうか? それとも両方とも間違っているのだろうか? アトキンス・ダイエット(タンパク質と脂肪)、オーニッシュ・ダイエット(野菜と未精白穀類)、そして伝統的な和食(炭水化物とタンパク質)には共通項があるだろうか? 一見すると、それらはまったく正反対の食事法に見える。だが1つ共通項がある。すべて糖分を制限しているのだ。
  • 歴史上成功したダイエット法は、すべて糖分を制限している。砂糖はあらゆるもののなかで、人類の知る限り最も成功した食品添加物だ。食品業界が「味をよくするために」砂糖を添加すると、私たちはそうした食品をもっと買うようになる。そして砂糖は安いため、世界中で製造される加工食品に何らかの形でたいてい入り込んでいる。砂糖(厳密に言うと果糖)は、本書のレックス・ルーサー[スーパーマンのかたき役」だ。
  • 栄養学者はいつも砂糖を「エンプティ・カロリー」〔栄養素をほとんど含まないカロリー】に分類する。デンプンと置き換え可能なものという認識だ。しかし、砂糖は特別の「積み荷」を抱えている。砂糖の成分は、半分ブドウ糖、半分果糖だ。甘さを与えているのは果糖で、これこそ、究極的に私たちが追求している分子である。慢性代謝性疾患を引き起こすのは果糖なのだ。
  • そのため砂糖は表向き炭水化物だが、本当は脂肪(果糖が肝臓で代謝される方法から)と炭水化物 (ブドウ糖代謝される方法から)が1つに合わさったものなのだ。両方の代謝経路は超過勤務をしなければならない。だからこそ、砂糖は雑食動物の真のジレンマなのである。

 

  • 私たちはただ単に食べ過ぎているだけではないのだ。私たちが口にする砂糖の量が増えているだけでなく、日々割り当てられた総カロリー量に占める砂糖の量も
    増えている。私たちが消費している総カロリーの20%から25%が、ティースプーン22杯分にあたる砂糖からきていることは、もはや避けられない事実なのだ。思春期の子どもの一部は、総カロリーの40%までを糖分の形でとっている。そんなことがいいはずはない。
  • わかったよ。アメリカが砂糖漬けになり、チョコレートでコーティングされてしまっているってことは。でも、世界のほかの国はそうじゃないんだろう? それとも..…?世界の人口は2倍しか増えていないのに、砂糖の消費量は過去50年間で3倍になった。これは砂糖が世の中にはびこるにつれて、世界の1人当たりの砂糖摂取量が50%増えたことを意味する。心臓血管の健康状態を最適に保つために米国心臓協会が科学的声明のなかで提唱した1日の糖分最大摂取量200キロカロリーという値は、実質的に地球上のすべての国で破られている。これは大部分の国で砂糖が足りていなかった3年前に比べると、すさまじい激増だ。

「天然由来だからヘルシー」は真っ赤なウソ

  • この章の題を見たとき、あなたの最初のリアクションは「ああ、やっぱり!異性化糖が悪者なんだ!」というものだったかもしれない。だとしたら、あなたは半分正しい。マスコミや消費者運動グループは、合成食品であることと肥満流行の悪影響を与えていると考えられることにより、異性化糖を批判しはじめた。その結果、2007年以来、異性化糖の消費量は減り続けている。にもかかわらず、私たちの肥満率は変わっていない。
  • 異性化糖アメリカとカナダでは広く使われているが、EU諸国と日本では、それほど多用されてはいない。それ以外の国ではショ糖〔砂糖の主成分」を使っている。たとえば、オーストラリアと環太平洋地域 [日本は除く」では完全にショ糖しか使っていないが、それでも肥満とメタボ症候群の発生率については、アメリカのすぐうしろを追いかけている。
  • 急速に満腹になる効果とエネルギー摂取量の増減およびその代謝の変調を調べた研究では、異性化糖は厳密に言ってショ糖と何ら変わるところはなかった。

 

  • 健康を気づかう読者の方は、清涼飲料水よりジュースを飲んでいるかもしれない。お金に余裕のある人は、「サニーデライト」〔果汁5%のジュース]ではなくオドワラやほかのオーガニック飲料メーカーの「100%天然果汁」のジュースを飲むだろう。そうしたジュースの製造企業は、健康増進効果をいくつも売り込み、添加甘味料は使っていないから体にいいと主張する。それは真っ赤な嘘だ。
  • フルーツが体にいい理由は、食物繊維が含まれているからだ(第2章参照)。実のところ、カロリー面から言うと、100%天然果汁のオレンジジュースは、清涼飲料水より、むしろカロリーが高い。清涼飲料水の果糖含有量は1オンス[約&グラム」につき1・7グラムだが、オレンジジュースでは1オンスにつき1・8グラムなのだ。
  • ノンカロリー甘味料以外の甘味料は、すべて果糖を含んでいる。白砂糖、甘ショ糖〔サトウキビから作られる砂糖]、甜菜糖〔根菜のビートから作られる砂糖]、フルーツから作る砂糖、黒精、そしてそれらの安価ないとこである異性化糖はみなそうだ。これに、メープルシロップ、蜂蜜、アガベシロップ(メキシコのリュウゼツランの樹液を煮詰めて作るシロップ」が加わる。それらもすべて同じだ。運び屋は関係ない。荷物が問題なのだ。結論を言おう。糖分摂取は問題だ。3%の糖分摂取は飲料からきている。そして、甘い飲料を最も多く飲んでいるのは、行政や医療のサービスを十分に受けられない貧しい人々なのだ。

 

ブドウ糖が体に入ったときの5つのプロセス

  • 生命にはなくてはならないものであるにもかかわらず (第10章参照)、食物性ブドウ糖は完璧ではない。果糖抜きで自然界に存在しているときは「デンプン」と呼ばれ、本当の「エンプティ・カロリー」として、貯蔵または燃やされるエネルギーになる。しかし、アトキンス・ダイエット、パレオ・ダイエット(旧石器時代食)、そしてカロリー制限を行っている人たちが皆口をそろえて言うように、ブドウ糖分子には3つの代謝的欠点があり、時を経るうちに組織を損ない始めるため、摂取制限を行う必要が出てくる。
  • これを理解するために、120キロカロリー分のブドウ糖(お茶碗半分の白米など)を食べたことにしよう。そのうち20%、すなわち24キロカロリーは肝臓に行き、残りは体内のほかの臓器によって代謝される。次に示すのは、そのあとどうなるかだ。

プロセス1●血糖値が上がって体重が増える

プロセス2・グリコーゲンになる

  • 肝臓に行ったブドウ糖の圧倒的大部分はグリコーゲン(動物デンプン)の生成にあてられる。グリコーゲンは肝臓細胞には害を与えない。これはまた、肝臓がブドウ糖を血中に放出するのを妨げるため、糖尿病の予防になる。

プロセス3・ミトコンドリアに消費される

プロセス4●中性脂肪に変換され、心臓と血管の疾患リスクが上がる

プロセス5・タンパク質と結びつき、老化の原因になる

  • ブドウ糖は細胞内のタンパク質と結びつくことがあり、それが起きると、次の2つの問題が起きる。
  • 体中でブドウ糖がタンパク質と結びつくと、タンパク質は柔軟性を欠くようになり、老化プロセスの一因となって、臓器機能不全を引き起こす。
  • ブドウ糖分子がタンパク質に結びつくたびに、活性酸素(第9章参照)が放出され、ペルオキシソーム内の抗酸化物質がただちにそれを吸い取らないと、組織に損傷がおよぶ(第1章参照)。

 

  • あらゆることがそうであるように、ブドウ糖も多過ぎると体に悪影響をおよぼしかねない。とりわけ、食物繊維が欠けているときにはそうなる。なぜかというと、インスリン反応を抑制してしまうからだ(第2章参照)。とはいえ、そのような悪影響が現れるようになるのは、ブドウ糖を大量に、しかも長期間にわたって食べ続けたときだけだ。
  • 一般的に、大量のブドウ糖(パスタ、白パン、米などのデンプン)を食べると体重が増えるが、病気になることはない。しかし、長い年月にわたってブドウ糖をとり続けて体重が増えた場合には、その結果内臓に付いた脂肪が最終的に病気をもたらすことになる(第8章参照)。
  • しかし、同じ量のカロリーをエタノール(酒の主成分)または果糖の形でとった場合には、肝臓にとってもっと強烈なパンチ(というより手榴弾のようなもの)になり、ブドウ糖の場合より、もっとずっと早く体を壊してしまう。

エタノールが体に入ったときの6つのプロセス

  • エタノールは、「発酵」という炭水化物代謝の副産物として自然に生じる物質だ。120キロカロリーエタノールを飲む(たとえば、アルコール度数が3度ぐらいの蒸留酒を40cc飲む)と、その10%(12キロカロリー)は胃と腸のなかで代謝され(初回通過効果)、10%は脳とほかの臓器で代謝される。この脳内での代謝が、酔いという作用をもたらすのだ。肝臓に届くのは約96キロカロリーだ。これはブドウ糖の約4倍である。この点は重要だ。というのは、悪影響は用量に比例して生じるからだ。

プロセス1●活性酸素がつくられる

プロセス2 ● ミトコンドリアのところに行く

プロセス3・脂肪に変えられ、インスリン抵抗性が起こる

  • 残りはすべて「新生脂質合成」と呼ばれるプロセスによって脂肪に変えられる。脂質が蓄積すると、肝臓のインスリン抵抗性と炎症が引き起こされる。

プロセス4・ アルコール性肝疾患が起こる

  • このプロセスが繰り返されると、最終的には、アルコール性肝疾患が引き起こされる。その結果、ジワジワ苦しみながら死ぬか、よくても肝臓移植が確実に必要になる。

プロセス5・心臓病になる

  • もう1つの可能性として、脂質が肝臓を出て骨格筋に蓄積するケースがあるが、そこでもインスリン抵抗性により、心臓病が引き起こされる

プロセス6 ・ アルコール依存症になる

最後に、エタノールは脳の報酬経路に作用するため、酒を飲む人は、さらに飲みたくな
る。これが制御不能になると(第5章参照)、依存症が引き起こされる。

このように、同じ量のカロリーでも、エタノールブドウ糖より慢性病を引き起こす可
能性が高くなるのだ。

 

果糖が体に入ったときの1のプロセス

  • 自然界では、果糖は決して単体では存在しない。無害な姉妹分子であるブドウ糖とつねに一緒だ。この2つの分子の化学組成は同じだが (C6H12O6)、同じものとはとても言えない。果糖はブドウ糖よりずっと多くの悪さをする。
  • まず、メイラード(褐色) 反応について考えてみよう。これは赤血球のヘモグロビンをヘモグロビンA1cに変えるのと同じ反応だ。医師たちはこの反応を利用した検査によって、特定の時間内に糖尿病患者の血糖値がどこまで上がるかを知る。
  • 反応生成物の色は褐色だ。だから、時間が経つとバナナは茶色くなり、熱を加えるとバーベキューソースにおおわれた肉がカラメル化される。あなたは自分の体の肉を摂氏190度で1時間焼くことによってメイラード反応を起こすこともできるし、摂氏37度で75年間焼くことによってメイラード反応を起こすこともできる。結果は同じだ。
  • そして果糖はメイラード反応をブドウ糖より7倍速く発生させることがわかっている。この差異は一見すると微々たるものだが、体中の細胞をより速く老いらせ、老化現象、がん、認知機能の低下など、さまざまな退行変性プロセスを引き起こしかねない。今では、果糖がメタボ症候群の主要原因になっていることを示唆する研究がたくさんある。
  • 実のところ、果糖の代謝エタノール代謝によく似ている。それを見ていくために、ここで120キロカロリー分のショ糖(ブドウ糖60キロカロリーと果糖60キロカロリー)を摂取した場合について考えてみよう。たとえば、237ccのグラス1杯分のオレンジジュースがそれにあたる(前に説明したように、ジュースは清涼飲料水より悪いとは言わないまでも、それが与えるダメージは同じぐらい悪い)。
  • 60キロカロリー分のブドウ糖は、前に述べたように20%対80%に分かれ、12キロカロリー分のブドウ糖が肝臓に行く。しかし、あらゆる臓器で代謝されるブドウ糖とは違い、果糖はほぼ肝臓でしか代謝されない(ごく稀なケースでは腎臓も少量の果糖を代謝する能力を持つことがある)。
  • こうして、そのほとんどすべてが肝臓に行きつく60キロカロリーの果糖に、この12キロカロリー分のブドウ糖が加わり、肝臓には合計72キロカロリーが押し寄せることになる。これは、ブドウ糖だけの場合に比べると3倍の量だ。この果糖独特の代謝方法は、メタボ症候群に関連付けられている現象を引き起こす可能性がある。

プロセス1 ● 尿酸が生まれ、痛風をもたらし、血圧が上がる

  • 処理量が3倍になるということは、ブドウ糖だけだったときに比べて、肝臓が代謝のために必要とするエネルギーも3倍になるということだ。こうして、肝臓細胞からアデノシン3リン酸(ATP、細胞内でエネルギーを運ぶ重要な化学物質)が奪われる。ATPが欠乏すると、老廃物である尿酸が生成され、痛風をもたらすとともに、血圧を上昇させる。

プロセス2●直接ミトコンドリアに入り、パンクさせる

プロセス3・脂肪になり、心臓病を押し進める

  • 余ったアセチルCoAはミトコンドリアを離れ、代謝されて脂肪になり、心臓病を押し進める原因になる(第9章参照)。

プロセス4・肝臓がインスリン抵抗性になる

プロセス5・血糖値が上がり、糖尿病につながる

  • 肝臓でインスリンの作用が欠乏するということは、ブドウ糖を低く抑える手段がまったくなくなるということだ。そのため、血糖値が上がり、究極的に糖尿病が引き起こされる。

プロセス6・内臓脂肪が増える

  • 肝臓にインスリン抵抗性があると、膵臓が余分なインスリンを分泌しなければならなくなり、余分なエネルギーを脂肪細胞に送ることになって、最終的に肥満になる(第4章参照)。エネルギーが最も多く詰めこまれる先は、代謝性疾患に関連付けられている内臓脂肪細胞だ。

プロセス7・がん発症の可能性が高まる

プロセス8・空腹感が高まる

  • インスリン血中濃度が高いと、レプチンシグナルがブロックされて(第4章と第5章参照)、脳の視床下部に「飢えている」という誤った考えを抱かせ、空腹感が高まる

プロセス9・腸壁のバリア機能を奪い、インスリンレベルを上げる

  • 果糖はまた、腸壁のバリア機能を損なっている可能性がある。正常な場合、腸は血流にバクテリアが侵入するのを防いでいる。だがこのバリア機能が損なわれると、腸壁に穴があく。その結果は「リーキーガット」〔腸管壁浸漏症候群」で、体は炎症や、より多くの活性酸素にさらされるようになる。この状況はインスリン抵抗性を悪化させて、インスリンレベルをさらに押し上げることになる。

プロセス 10 ・メイラード反応が生じ、がんの発症を加速させる

  • 果糖は、細胞に直接ダメージを与えかねないメイラード反応をブドウ糖より7倍速く引き起こす。研究はまだ初期の段階にあるものの、予備実験の結果、影響を受けやすい環境下では、果糖は老化とがんの発症を加速させると示唆されている。

プロセス11・認知症が起こる

  • ヒトにおける果糖と認知症の結びつきに関するデータは現在のところ相関してはいるが、直接的なものではない。とはいえ、インスリン抵抗性と認知症に関するデータには、はっきりした因果関係がある。アフリカ系とラテン系のアメリカ人は、アメリカ最大の果糖消費グループで、胴回りも最大だ(インスリン抵抗性を示す)。それと同時に、この2つのグループは、認知症のリスクも最も高いグループになっている。

 

アルコールも果糖も「同罪」

  • 少量のアルコール摂取は体にいいことが、アルコールを調べた研究でわかっている。アルコールはHDL(善玉コレステロール)を増やすだけでなく、赤ワインには、インスリン反応性を向上させて、長寿をもたらすと考えられているレスベラトロールというおまけもついてくる(第1章参照)。アルコールと同様に、少量の果糖もインスリンの分泌によい影響を与えるとする研究がある。つまり、アルコールと同じように、果糖の有毒性は摂取量によるのだ。
  • アルコールについては、大部分の人で、1日最大23グラムという摂取量(ワイングラス約3杯分)を超えると毒になることが経験的証拠として判明している。果糖についてもおそらく同じくらいの量であると考えられる(オレンジジュースで言うと約237cc)。問題は、現在の成人の平均果糖摂取量が1日51グラムであることだ。つまり、人口の半分以上が制限値を超えているわけである。
  • 慢性的なアルコール依存症者と大量の糖分を摂取している人を比べたとき、彼らはとても違って見えることが多い。とりわけ外見はまったく違う。アルコール依存症者は、たとえむくんでいても、大量の糖分をとっている人たちよりやせて見えることがほとんどだ。
  • しかし、皮下脂肪は問題ではないことを思い出してほしい。あなたを殺すことになるのは内臓脂肪、つまり臓器の周囲につく脂肪で、肉眼で見ただけではほとんどわからない脂肪だ。アルコールも糖分も、内臓脂肪とそれにまつわる病気にかかるリスクを大幅に押し上げる。アルコール性脂肪性肝疾患と非アルコール性脂肪性肝疾患の違いは、名前だけなのだ。体への影響は同じなのである。
  • もちろん、アルコールと糖分の主な違いは、アルコールを飲むと酔うことにある。脳は果糖を代謝しない。糖分の影響下で車を運転しても、逮捕されることはない。しかし肝臓が果糖を代謝する方法は、エタノール代謝する方法に酷似している。果糖は肥満の唯一の原因ではないが、慢性代謝性疾患においては主要原因だ。慢性代謝疾患は、あなたをゆっくりと殺す。果糖はあなたの肝臓をフライにして、アルコールがもたらすすべての病気をもたらすのだ。
  • 酒類の消費量を減らさなければ墓穴を掘ってしまうことは、どんな人でも知っている。だが糖分はレーダーにひっかからない。地球上最大の2型糖尿病発生率にみまわれているのがサウジアラビアとマレーシアであるのもうなずける。イスラム圏の国だから酒は飲まないのだが、その代わりに、清涼飲料水を浴びるように飲んでいるのだ。

 

カニズム1 ・ 空腹シグナルが変わらず、そのまま食べ続ける

  • 果糖の摂取はインスリン反応を刺激しないので、レプチンレベルは上昇せず、動物は食べ続ける(ヒトの場合は、清涼飲料水を飲み続けることもその一例)。

カニズム2・インスリンが効きにくくなり、さらに食べ続ける

  • 長期にわたる果糖の摂取は肝臓のインスリン抵抗性を生み出して、慢性的な高インスリン血症(血中インスリン濃度が非常に高くなる)を引き起こす。これはレプチン伝達を妨げ、側坐核からのドーパミンの除去を防ぐことにより、さらなる食物摂取を促す。

カニズム3 ・ 胃のシグナルも変わらず、延々と食べ続ける

  • 胃の細胞が生成するペプチドであるグレリンは「空腹」シグナルだ。ヒトにおいては、グレリンのレベルは主観的空腹感の増加とともに上昇して、任意の食物摂取時にピークに達し(だから、あなたの胃は正午にゴロゴロ鳴る)、食事のあとに低下する。しかし、果糖の摂取はグレリンを低下させない。したがって、カロリーの摂取は抑制されない。実のところ、飲料として摂取される果糖は、満腹感を得るために必要な固形食品の量を減らすことはないので、食事でとる総カロリーの量を何倍にも押し上げてしまう。

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  • 一見すると、シュースは ヘルシーな飲み物に見える。しかし問題がある。ミキサーの刃による剪断作用が、フルーツの不溶性食物繊維を完全に破壊してしまうのだ。
  • セルロースは木っ端みじんに切り刻まれてしまう。水溶性食物繊維はまだ残っていて、食べ物を腸内により速く押し進めることはするものの、腸にバリアを築くのを助ける、あの不溶性の「格子」はなくなってしまう。そのため、フルーツの糖分は、ジュースが濾されて食物繊維がまったくなくなった状態と同じように、急速に体に吸収されることになる。食物繊維の恩恵を得るには、両方のタイプの繊維が必要なのだ。
  • 第4章で、インスリンは体重を増やす面では悪者であり、インスリンのレベルを低く抑えることが肥満を克服するための最優先事項であることについて見てきた。どれだけの量のエネルギーが、どれだけの速さでミトコンドリアのところに届くかは、メタボ症候群に関連する病気が引き起こされるリスクを左右する(第9章参照)。言いかえれば、考慮すべき2つの点は、炭水化物の量(インスリンを低く抑えるため)と炭水化物の流れの速さ(肝臓をハッピーに保ち、正常に機能させるため)だ。そして食物繊維は、その両方に役立つのである。

食物繊維が肥満をおさえる5つの特性

  • 第11章で見てきたように、砂糖に含まれるブドウ糖インスリンの量を上昇させ、果糖はおびただしい量のエネルギーを肝臓に直接送って、ただちに処理させようとする。そして両方とも、肥満とメタボ症候群を押し進める。食物繊維は、インスリン レベルを低く保ち、エネルギーが肝臓に押し寄せるのを抑えることによって、肥満とメタボ症候群との闘いを助ける。その特性は次の5つだ。

特性1血糖値を下げ、脂肪を作らない

  • 食物繊維(水溶性と不溶性)を食事でとると、食物と腸壁のあいだにゼラチン質のバリアができ、腸がブドウ糖、果糖、脂肪を吸収する速さが緩やかになる。ブドウ糖の吸収が緩やかになると、血糖値の上昇も緩やかになり、ピークの値も下がる。これを受けて、血糖値の上昇が緩やかで、かつ低くなったことを察知した膵臓は反応を弱め、放出するインスリンの量を減らす。インスリンの量が減ると、脂肪に変わるエネルギーの量も減る。2型糖尿病の患者が高食物繊維食をとると、血糖値が3分の1低くなるため、体内の総インスリン負荷も下がる。
  • 果糖の吸収についても同じことが起きる。食物繊維は果糖の吸収量を下げるだけでなく、「流速」、つまり吸収された果糖が肝臓細胞に押し寄せるスピードも下げる。こうして肝臓は処理に「追いつく」ことができるようになり、新たな果糖がやってくるペースに合わせて、果糖分子をアセチルCoAに変換できるようになる。これにより、アセチルCoAは、 ミトコンドリアクエン酸回路で燃やされるようになる(第1章参照)。
  • もはや、果糖がミトコンドリアに押し寄せたあと、それを処理しきれなくなったミトコンドリアに追い出されて脂肪に変えられ、インスリン抵抗性を引き起こす、という状況はなくなる。そのため、果糖を含んでいるフルーツを食べても、果糖の影響の大部分が食物繊維の存在によって緩和されるため、さほどたいした問題にはならないのだ。

特性2●悪玉コレステロールのレベルを下げる

  • 大きな母数集団では、血中コレステロール濃度が低いと、心臓病の発生率も低いという関連性が見出されている。コレステロールの目的の1つは、胆汁酸(腸にある脂肪の吸収を助ける)の生成を促すことで、胆汁酸の一部は大便に排出される。
  • そのため、胆汁酸をなくすことができれば、コレステロールのレベルも下げられる。水溶性食物繊維は胆汁酸に結び付くので、LDL(「悪玉コレステロール」)を下げることができる。不溶性食物繊維もまた、コレステロールのレベルを下げ、血糖値を低く抑えるのに役立つ。

特性3・早く満腹感を感じさせる

  • あなたはマカロニ・アンド・チーズ〔チーズソースがかかったマカロニ料理〕を一皿食べたのに、まだ空腹だ。なぜだろう? 胃のなかに食べ物があると「グレリン」のレベルが低下するので、視床下部に、もう空腹ではないと知らせるはずなのに、あなたはまだ食べ足りない。
  • その理由はこうだ。「空腹感がない」という現象は「満腹感を抱く」という現象とは違うのである。食べ物が小腸を通り抜けるときには、ペプチドYY (PYYとも表記される)と呼ばれるホルモンが血中に放出され、視床下部にある受容体に結合して満腹であることを知らせる。PYYは満腹シグナルだ。問題は、PYYシグナルを生成するには、食べ物が腸のなかを7メートル近く進んでいなければならないことである。それには時間がかかる。そのため、腸のなかで食べ物を速く動かせるものならなんでも満腹シグナルを早く生成させることになる。
  • 不溶性食物繊維は、まさにこの役目にぴったりだ。食べ物が腸内を移動するスピードを加速して、PYYシグナルを早く生成させる。水溶性食物繊維は粘性のゲル状物質になって、胃から食物が出るのを遅らせることにより、早く満腹感を感じさせる。どちらのタイプの食物繊維も、おかわりの必要性を減らし、さらなる体重増加を防いでくれる。

特性4●食事性脂肪の吸収を遅くする

  • 食物繊維があると、一部の食事性脂肪は小腸で吸収される速度が遅くなる。食物繊維のおかげで速度が遅くなった食事性脂肪は結腸まで進む。そこでは吸収は起きないので、インスリンのレベルを低く抑えることができる。いまだに議論の余地はあるものの、肥満とインスリン抵抗性に対する効果は、水溶性食物繊維より不溶性食物繊維のほうが大きいと考えられている。
  • このプロセスの欠点は、この過程で食物繊維は、大量の窒素、二酸化炭素、メタン、そして少量の硫化水素を生成することだ。言わば、脂肪をとるか、それともおならをとるか、なのである。

特性5・腸の善玉細菌を増やし、「太らせ因子」を食い止める

  • 人間の体には、約10兆個の細胞がある〔60兆個あるいは37兆個とする説もある]。だがあなたの腸に住んでいる細菌は、なんと約100兆個だ。彼らはヒトを10倍も数で圧倒しているのだ!長年にわたり腸内細菌は、無賃乗車して不適切なときにガスを放ち、ときどき「旅行者下痢」に乗っかって出ていくだけのものと考えられていた。だが実のところ腸内細菌は、私たちのエネルギー代謝の大きな部分を担っている。腸内細菌の大部分は大腸に住み、嫌気性だ。つまり、酸素抜きに代謝を行うので、酸素を使って燃焼を行うものより、多くのエネルギーをムダにする。
  • でも、もしすべての栄養素(脂肪、ブドウ糖、果糖を含む)が小腸で吸収されるのなら、大腸に住む細菌が食べるものなど残っているのか、と思われるだろう。実は、彼らが食べるのは、体が吸収できないもの、すなわち食物繊維、それも特に水溶性食物繊維なのだ。これこそ、オオバコなどに由来する食物繊維のサプリメントが、あれほどのガスを発生させる理由である。
  • 腸内細菌は数千種類もあるが、科学界では、これまで3種類に的を絞って研究してきた。つまり、バクテロイデス門、フィルミクテス門、古細菌だ。腸内の細菌構成が、ある種の人々の体重増加を促す一因になっていることは、ほぼ確実である。そして食生活の食物繊維構成は、腸内細菌のプロファイルを決定する一因になっている。
  • というのも、食物繊維はより多くの栄養素を腸の奥深くにもたらし、そこにいる腸内細菌が、それらをエネルギーに利用するからだ。すべてを総合すると、食生活の食物繊維内容を変えることは、腸内細菌の内容を変えることになり、「善玉」細菌を増やして、「太らせ因子」となる細菌を食い止めることができる。

 

サプリメントでとっても意味がない

  • では、食物繊維を摂取すれば、体重を減らすことができるのだろうか?ここで、研究デザインが大きな違いを生み出すところを見てみよう。カロリー摂取を一定にした場合には、食物繊維を加えても、体重に有意な変化は起きない。ところが、「放し飼い」的な状況、すなわち、食べる分量が自由に選べる状況では、食物繊維を食べれば食べるほど、食物摂取量は減り、それが体重減少に結びつくようなのだ。
  • 食物繊維が豊かな食べ物は「エネルギー密度」が低い傾向にあるため、同じ量を食べても、摂取カロリーは低くなる。さらに、そうした食べ物は噛むのに時間がかかることが多いため、満腹シグナルを体が受け取る時間が長くなる。さらに、食物繊維は腸内で食物をより速く移動させるため、満腹シグナルをより迅速に生み出すことができる。
  • メタボ症候群の予防における食物繊維の役割は、どちらの食物繊維なのか、どのような研究なのかによって異なるため、簡単にはわからない。インスリン抵抗性とアテローム動脈硬化の研究(IRAS)」と題された論文では、食事に関する分析で、インスリン感度と相関関係にあったのは、たった1つ、食物繊維だけだった。にもかかわらず、水溶性食物繊維の含有量は、糖尿病リスクの改善率とは相関しなかった。このインスリン感受性の向上は大部分において、不溶性食物繊維(筋の多い食べ物)がもたらしたものだったのだ。そのため、オオバコのような水溶性の食物繊維サプリメントは消える運命にある。食物繊継は、錠剤ではなく、食べ物でとらなければならないようだ。

 

代謝によし、糖尿病予防によし、腸によしの食物繊維

  • 食物繊維が重要であることは、間違いない。それは排便のためだけでなく、代謝のためでもある。食物繊維は吸収されない。代謝機構を向上させる微量栄養素とはちがって、食物繊維の血中値というものもない。
  • だが、食物繊維は、ブドウ糖、果糖、脂肪酸が血中に入る量と流れの速さの両方を低下させることにより、インスリンの量を抑制する。また、栄養素を大腸に届けて発酵を可能にすることにより、代謝機構を向上させ、「よい」細菌を選び出す。そしてこのよい細菌が、結腸から失われるエネルギーを救ってくれる。最後に、食物繊維は総合的な食物摂取量を抑える。
  • だが、その恩恵を最大にするには、水溶性と不溶性両方の食物繊維を得るために、元の形の食べ物を丸のままとることが必要だ。食物繊維は単独では糖分のあらゆる負の作用を減らすことはできないが、それでも素晴らしいきっかけにはなる。糖尿病を元に戻したい? 代謝面の健康を向上させたい? では、食物繊維をメニューに戻そう。

 

  • 身体活動は、エネルギー消費要因のなかでは少数派に属し、活動の内容や強さによって異なるものの、総エネルギー消費量のうちのたった5%(究極的なカウチポテトの場合で、約100キロカロリー)から35%(ジムマニアの場合で、約700キロカロリー)にしかすぎない。とはいえ、身体活動は、エネルギー消費の最大要因でないとはいっても、あなたの健康を向上させることができる唯一のエネルギー消費要因であり、運動すればするほど、体にはよい影響が出る。
  • そのほかにも、エネルギー消費要因は2つある。信じがたいかもしれないが、あなたの摂取カロリーが最も大量に燃えるのは、寝ているときとテレビを観ているときだ(とはいえ、フェイスブックやオンラインゲームの「ワールド・オブ・ウォークラフト」をする時間を増やせといっているわけではない)。「安静時エネルギー消費量」(REE、ソファーに寝転がっているときに燃やすエネルギー量のこと)は、あなたの体の大きさにもよるが、1日の総エネルギー消費量の約60%(つまり1日約1200キロカロリー)を占め、通常、気を回す必要はない。もう1つの要因である「食品の産生熱量」(TEF、食べ物を吸収、消化、代謝するために燃やすエネルギーの量)が占める割合は約10%(約200キロカロリー)だ。
  • 一般的に言って、ほとんどの人ではREEとTEFを変えるのは容易ではないが、一部
    の肥満患者は両方に問題を抱えていることがあり、そうした患者のREEを上げるトリックはいくつかある。また、それよりは少ないものの、TEFを上げる方法も存在する(第8章参照)。

 

1日たった15分の運動が寿命を3年延ばす

  • じゃあ、体重が落ちないとすれば、なぜ人々は「スピン・クラス」「集団でサイクリングマシンに発って減量に励むプログラム」に出かけるのだろう? なぜ運動は体にいいのだろう?ダイエットは体重、運動は健康に関わることだ。
  • 運動にはダイエットにできないことが1つある。それは筋肉を築くことだ。このコンセプトは、ほとんど理解されていない。なぜなら、臨床医も含めて、ほとんどの人は、BMIすなわち体脂肪だと思っているからだ。だが、BMIは筋肉と脂肪の違いも、皮下脂肪と内臓脂肪の違いも考慮しない。
  • 長期間にわたる運動をする前としたあとの身体組成を調べた研究はいくつもあるが、その結果明らかになったのは、体脂肪の割合が低下することだ。これは、完全に正しい。だが、そうなった理由は筋肉が増えたからだ。そしてその過程で、代謝状態が向上したからである。内臓脂肪が(少し) 減り、筋肉量が(たくさん) 増えた、というわけだ(第8章参照)。
  • あなたがすべきなのは、インスリンの感度を上げることだ。そして、運動はまさにそれを可能にしてくれるものにほかならない。運動すると、内臓脂肪、特に肝臓脂肪を犠牲にして筋肉がつくられる。けれどもこれは、体重計に乗っただけではわからない。運動はインスリンの感度を上げ、インスリン血中濃度を下げることにより、レプチンシグナルがよりよく伝わるようにし、それによって、交感神経系の緊張(第4章参照)、エネルギー消費量、そして人生の質を高めてくれる。
  • そして、こうした代謝作用の改善は、病気の予防に結びつく。3万8000人のアメリ
    カ人男性を調べた研究では、運動することは、体重を正常に保つよりも心臓病の予防効果が高いことが示された。しかし、究極的な結果はどうだろう。運動は長生きに貢献するのだろうか? 最近台湾で40万人以上の研究対象者について死亡率を調査した研究によると、中強度の運動を1日15分行うと、心臓の既往症がある人でも、3年間も寿命が延びることが示唆された。
  • しかも、研究対象者は食生活の規制を何も受けていなかった。もし規制されていたら、長寿における運動の恩恵は、もっと大きかったことだろう。1日5分の運動は、1年間にするとたった91時間の覚醒時間、3年間では273時間の覚醒時間にすぎないことを考えると、273時間運動するだけで3年間余分に生きられるというのは、ものすごくお得な取引だ!

 

運動をすると健康にいい3つの理由

  • 運動はまさしく、もう1つの解毒剤だ。肥満を治しはしなくても、それにまつわるネガティブな影響をすべて緩和してくれる。とりわけ、メタボ症候群の改善には非常に効果的だ(第9章参照)。運動がもたらす生化学的反応は次の3つである。

理由1●多くのエネルギーを燃やす

  • 運動は交感神経系を直接活性化する(第4章参照)。交感神経系は筋肉にシグナルを送って新しいミトコンドリアを作るように促す。それにより、より多くのエネルギー (ブドウ糖または脂肪酸)が燃やせるようになる。
  • ミトコンドリアが新しいか古いかは、大きな違いを生む。というのも、古いミトコンドリアは効率が悪くて「漏れやすく」、インスリン抵抗性の一因になる活性酸素をより多く生成するからだ(第9章参照)。運動はこうした古いミトコンドリアを一掃するため、筋肉はクリーンで効率のよいエネルギーが使えるようになる。その結果、総合的な代謝状態を向上させる建となる筋肉のインスリン感受性が高まる。

理由2●ストレスを減らし、血圧を下げる

  • 運動は体内のストレス掃除屋だ。ブリットは「精神的に安定した」ティーンエージャーに成長した(この2つは常に矛盾するとは限らない!)。その理由の1つは、運動したからだ。
  • 運動すると、血中コルチゾール濃度(第6章参照)がただちに上昇するが(血糖値と血圧を高いままにしておくプロセスの一部であるため)、すぐに下降して、その日1日低いままにとどまる。血圧を下げるには、運動をするといい。体重を減らすためではなく、運動はストレスを緩和して、エンドルフィン(気分をよくする脳内化学物質)を分泌させ、1日中気分よく過ごせるようにしてくれるからだ。
  • ランナーが「ランナーズ・ハイ」を経験するのも、そのためだ。代謝状態を長期的に向上させるためには、コルチゾールのレベルを低く抑えたい。運動は少しの痛みで、大きな利益を授けてくれる。

理由3・肝臓脂肪に回されるエネルギー量が減る

  • おそらくこれが最も重要なことだが、運動は肝臓のクエン酸回路のスピードを上げて(第9、12章参照)、エネルギーがよりクリーンに燃やせるようにしてくれる。これは、ミトコンドリアから送り出されて肝臓脂肪に変換されるエネルギーの量を左右する。

 

  • 肝臓のクエン酸回路の速度を上げる要因は4つ判明している。すなわち、寒さ、標高、甲状腺ホルモン(1960年代に肥満女性に追加の甲状腺ホルモンを補充したところ、患者は正気を失ってしまった)、それと運動だ。
  • 寒さと標高は、強力な抗肥満コンビネーションである。スイスとドイツの差を考えてみよう。スイス国民の食生活は、実質的にドイツ国民のものとまったく変わらない。脂肪と炭水化物をいっしょにとるこの食事は、私が今まで見てきたなかでも、最も肥満に直結するものだ。大量のジャガイモ、大量のパン、大量のチーズ、大量のクリームソース、大量のビール……ああ、おいしそう! 身体活動率も、実質的に同じだ。
  • けれども、スイスは標高が高く、寒くて、人々はやせている(肥満率はたったの8%だ)。それにひきかえ、ドイツは標高が低く、それほど寒くなく、人々は太っている(肥満率は16%)。同じことは、アメリカのコロラド州についても言える。コロラド州の住民は、疾病対策センターの肥満マップで、全米で最も肥満度の低い州にあげられたことを誇らしく思っているかもしれない。でも、私は、コロラド州アメリカのほかの州に遅れをとった本当の理由を知っている。それは、食事でも、アクティブなライフスタイルでもなく、単に地理的な問題なのだ。だから読者諸君、もし運動がしたくなければ、スイスかコロラドに移住したまえ!

 

鉄分など一部のサプリメントをとると寿命が縮む

  • ピクミンCやペータカロチンといった抗酸化物質の血中濃度の低さと、メタボ症候群有病率の相関関係を示す疫学研究はたくさんある。だが、微量栄養素の不足は、メタボ症候群の真の原因なのだろうか、それとも単に、非常に質の悪い食生活を表すマーカーなのだろうか? 現時点では、それはわからない。わかっているのは、そうした栄養素をもっととり込めるように食生活を変えると(より多くフルーツと野菜を食べ、加工食品と糖分を抑えるようにすると)、ほぼどのケースでも、メタボ症候群の兆候と症状が改善することだ。
  • しかし、これらの抗酸化物質をサプリメントの形でとると、通常、効果はまったく現れない。もしかしたらこれは、加工されていない食べ物をとることのメリットを示しているのかもしれない。繊維と抗酸化物質が両方とれるからだ。
  • 実際、ビタミンEサプリメントは、臨床研究で1度ならず5度も大敗を喫してしまった。その内容は、次のとおりだ。(1)ベータカロチン(ニンジンのオレンジ色の成分で、ビタミンAの前駆体)とビタミンEをヘビースモーカーに与える「α-トコフェロール、β-カロチンのがん予防効果試験」(ATBC試験)を行ったところ、研究参加者のがんと虚血性心疾患のリスクが高まった。(2) 2005年に行われた「心疾患転帰予防評価試験」(HOPE試験)で、ビタミンEは心不全の一因となることが示された。(3) 2005年の「女性の健康イニシアチブ」で、ビタミンE摂取を1年間追跡した結果、心臓病およびがん抑制における効果がまったくなかったことが示された。(4) 2009年の「セレニウムとビタミンEのがん予防効果試験」(SELECT試験)では、ビタミンE摂取グループが、前立腺がんのリスクを増加させていた。(5) 2008年に行われたコクラン・メタアナリシスで、ビタミンEは認知機能の低下率を改善していなかったことがわかった。
  • アイオワ女性健康調査」は、サプリメント流行のど真ん中に最も鋭い杭を打ち込むことになった。この長期的かつ適切に行われた対照研究では、複数の栄養サプリメント(特に鉄分)の摂取が、死亡リスクをやや増加させるという結果が出たのである。研究対象のすべてのサプリメントのなかで、長期的なメリットがあると示された唯一の物質はカルシウムだったが、それは折れる骨の数を減らすという形で、延命に寄与していただけだった。
  • しかし、こうした負の結果はほとんど耳にすることがない。なぜなら、政府機関はこうした結果を公表しないし、サプリメントを市場から取り除く圧力もかからないからだ。これは本当のジレンマである。微量栄養素は重要だ。体の生化学反応はそう言っている。しかし、臨床研究でサプリメントとして投与されたときには効果が出ないのだ。これ以上の研究がまだ必要だろうか?もう結末を知る心の準備は整ったことと思う。それはこうだ。天然の微量栄養素を含んでいる本物の食べ物はメタボ症候群を予防するが、加工食品はメタボ症候群を引き起こす。そして栄養サプリメントは、破壊されてしまったものを元に戻すことはできない。では、なぜ本物の食べ物には効果があるのに、サプリメントにはないのだろうか?

サプリメントがメタボ症候群に効かない5つの仮説

  • 現実を直視しよう。私たちはかつての成功に甘やかされてしまったのだ。古典的なビタミンはすべて、それぞれの欠乏症がもたらす病気を治してきた。たとえ錠剤の形で与えられたときでもそうだった。おそらくは、問題が栄養不足、つまりビタミンの欠乏自体にあったからだろう。
  • しかしメタボ症候群は、もっと複雑な問題だ。栄養過多を治療するのは、もっとむずかしい。足りないものを足すのは、余っているものを引くよりずっと簡単なのだ。いわばデザートのプディングのようなものかもしれない。コンロに戻して温めることはできるが、調理し過ぎたら、捨てるしかなくなる。その理由については、次の5つの仮説がある。

仮説1・添加物の毒性が強すぎる

  • 食品を加工する際に添加される糖分や保存料などの物質は、私たちが考えている以上に毒性が強い(第1章参照)。どこにでもあって強力な何かが、栄養サプリメントのすべての有益な効果を減らしてしまう。

仮説2●もっと大事なものを取り除いている

  • 食品の加工は、微量栄養素よりもっと重要なものを取り除いてしまい、それは補充されないままになる。加工食品には欠けているがリアル食品にはあるものは何だろうか? それは食物繊維だろうか? 食物繊維は、ほかの物質が見せかけであるなか、メタボ症候群の本物の解毒剤になりうるのだろうか?

仮説3・加工のプロセスで微量栄養素が取り除かれる

  • 食品加工という単純な行為は、ちょうど食物繊維をはぎ取るように、食品に備わっている微量栄養素も取り除いてしまう。何といっても、多くの種類の微量栄養素は、繊維とともに旅するのだ。
  • 脚気の話を覚えているだろうか。もともとあったビタミンB1が失われたのは、精米によって食物繊維をはぎ取ったせいだった。フラボノイド、葉酸をはじめ、多くの微量栄養素が食品加工で台無しにされている。錠剤を飲めば元に戻せるという考えは魅力的だが、データが裏付けているのは、いったん食べ物が「生物学的に」死んでしまったら、栄養補助食品を振りかけたところで、生き返らせることはできない、という事実だ。

仮説4●とりすぎると酸化物質に変わるものがある

  • ある種の抗酸化物質は、大量に供給されると酸化物質に変わるため、逆効果になる。その完璧な例が鉄分だ。鉄分は補足酵素を働かせるために必要だが、あり過ぎると、みずからの酸化が始まってしまう。それはサビだ。「褐色反応」と同じことが、体内でも起こる。

仮説5・品質管理基準が緩い

  • 栄養補助食品であるサプリメントは、医薬品と同じレベルの厳しい品質管理基準をくぐり抜けてきているわけではない。1994年にアメリカ政府が可決した「栄養補助食品健康教育法」は栄養補助食品業界に対して、彼らの製品の安全性と効き目における通行手形を実質的に渡すことになってしまった。米国医学研究所は2008年に含有物質の下限値を定めたが、上限耐容摂取量は定めなかった。
  • これにより、企業は有効性を示さなくてよくなった。しかし、サプリメント製品の品質がバッチごとに変わらないことは保証できるのだろうか? 天然の植物が正確に識別されて正しいサプリメントの材料になっていることが保証できるのだろうか? そして、米国農務省が通達している1日あたりの推奨許容量の1000倍のビタミンCをとることは、風邪の治療において、何らかの目に見える効果をもたらしているのだろうか? 栄養補助食品業界がこうした疑問から逃げおおせている唯一の理由は、米国食品医薬品局が業界を監督していないからだ。
  • 1つ確かなことがある。全食品関係の売上の6%に当たる1239億ドルの売上(2008年)を誇る栄養補助食品業界は、砂上の楼閣だということだ。メタボ症候群を克服するには、有効性が実証された手段に頼ったほうがいい。それは、効き目があることがわかっているし、私たちの身体によりポジティブな影響をもたらすこともわかっている。おまけにずっと安価で、味もずっといい。この特効薬は何だろう? フリオには気の毒だが、それは新しい肝臓ではない。その名は、「本物の食べ物」だ。

 

食品業界が糖分を使いたがる4つの理由

  • 食品業界は、食品にショ糖や異性化糖を加えたり、食品から食物繊維を取り除いたりしていることについて、さまざまな理由をあげるだろう。もちろん、そのうちのいくらかは、工業的な面と経済的な面から見れば、納得できるものだ。だが、生物学的な面ではどうか? 私たちの健康面ではどうなのか?

理由1・おいしくない食品がおいしくなる

  • 人間の舌は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味という5つの味覚を感知することができる。しかし糖分は、残り4つの味覚の欠点を補うことができるのだ。たとえば、塩味(ナッツ&フルーツ、トレイル・ミックス」やハニーローストピーナッツなどの塩味を薄める)、酸味(熟していないトマトで作られたトマトソースの酸っぱさやレモネードの酸味をカバーする)、苦味(ミルクチョコレートの苦味を隠す)、そしてうま味(酢豚をもっとおいしくする)、といった具合だ。
  • 糖分はアンバランスな味を隠して、あまりおいしくない食品でも、食べたくさせてしまう。端的に言うと、糖分をふんだんに使えば、たいていのものは美味しくなる。そして食品業界は、まさにそれを実践しているのだ。

理由2●そそられる焼き色がつく

  • 食べ物の焼き色は、目も、味を感知する舌の味蕾もそそる。バーベキューでリブを焼くときには、ソースをふんだんに塗る。そうすると、ちょうどよい焼き色になるからだ。どんな食べ物も糖分を加えればよく褐色化する。そして、褐色化は肉に、スモーキーで舌にピリッとくる風味を与える。第1章で見てきたように、食べ物の褐色化はメイラード反応だ。料理と味には好都合だが、あなたの動脈にとっては、そそられる反応ではない。

理由3・ケーキが膨らみ、アイスがなめらかになる

  • もし砂糖を使わなかったら、焼き菓子はつまらないものになってしまう。「カロリー無し甘味料」の「スプレンダ』でケーキを作ってみたらいい。甘さは変わらないが、生地が膨らまないので、ペチャンコになる。パンも、ふっくら膨らませるには、エサになる砂糖をイーストに与えることが必要だ。また、砂糖がなかったら、ごく薄いウェイファー・クラッカーもパリパリにはならない。
  • 砂糖は、グミの「ガミーベア」の例のように、食品に粘性(高密度)を与えるし、のように「ガラス」みたいな見かけと、バリバリ噛める触感も生み出す。さらには、食品が凍結する凝固点を下げ(これは、アイスクリームになめらかな均一性をもたせるのに必要)、沸点を上げる(キャラメルの粘り気を出すのに必要)。

理由4●保存料として使える

  • 糖分は水分活性つまり微生物が利用できる自由水の割合を減らす。水分活性が高ければ高いほど、微生物が増えやすくなり、カビが生えやすくなる。カビが生えやすいということは、食品が腐りやすくなるということだ。
  • しかし、糖分(と塩分)は水分活性を減らすので、糖分が含まれた食品は腐りにくくなる。だから食品業界は糖分を保存料として使う。腐った臭いの清涼飲料水を飲んだことがあるだろうか? 気が抜けた炭酸飲料は飲んだことがあっても、腐った臭いがするものを飲んだことはないだろう。炭酸飲料水のビンのなかでは、何も育たないからだ。
  • 食品に糖分を添加すると、保湿性、つまり水分を保持する能力も向上する。この特性は、とりわけ焼き菓子のようなご馳走が固くなってしまうのを防ぐのにとても重要だ。保湿性における糖分の効果を測る1つの方法は、パンが固くなるのを調べることだ。地元のパン屋さんで買う食パンが固くなるのに、どれだけかかるだろうか?2日ぐらいだろう。スーパーで買った食パンが固くなるのは?2~3週間後だ。
  • これは消費者にとってもプラスだ。長持ちするから捨てる量も減る。食品業界もスーパー業界もハッピーだ。減価償却率が抑えられるので収益が上がる。私は地元のスーパーで食パンを調べてみた。そこで売られていた8種類の食パンのうち、3種類に異性化糖が使われていた。添加の理由は、褐色化させるためと保湿性である。それらに欠けていたのは? 食物繊維だ。
  • 現在のところ、アメリカ人の食物繊維消費量の中間値は、1日あたり2グラムだ。これは意図的な数値である。食品業界が食べ物から繊維を取り除くのは、繊維があると保存期間が短くなるからだ。食物繊維が取り除かれたパンは、ファーマーズマーケットで買った焼きたてのパンよりずっと長持ちする。そして食品業界はこれを存分に利用する。減価償却率が低下するということは、コストが抑えられるということで、それは売上の増加を意味するからだ。
  • ファストフードの定義は何かご存じだろうか。それは、「食物繊維抜きの食品」である。なぜなら、食物繊維が含まれた食品を冷凍すると質感が変化してしまうからだ。繊維のない食品なら、冷凍してから世界中に輸送して、すぐに調理することができる。だが、食物感性を取り除くことは満腹感を取り除くことになり、炭水化物の負のインパクトを悪化させて、高インスリン血症、肥満、そしてメタボ症候群を引き起こすことになる。

 

ダイエット検証1●低脂肪ダイエットー糖質に満ちている

  • 第10章で見てきたように、低脂肪ダイエットは、そもそも私たちをこの窮地に追い込んだ原因だ。このダイエット法は元来、心臓病を予防するための食事法として考えられたもので、肥満解決のための食事法ではなかった。食事性脂肪と心臓病の結びつきは、家族性高コレステロール血症(FH)という遺伝疾患に関する発見に基づくもので、この病気を抱える人は全人口の1%に満たない。
  • 1980年代に低脂肪ダイエットは、心臓病の予防に加えて肥満もコントロールできる食事法として、アメリカの健康に関するあらゆる学会のお墨付きを得ることになった(米国心臓協会〔AHA]、米国糖尿病協会と米国栄養士会〔両方とも略称はADA]、国立心臓・肺・血液研究所、などなど)。彼らが一様に唱えたのは、脂肪の摂取量を減らせば総摂取カロリー量が減るから減量できる、というものだった。なぜなら「どの食べ物でとろうがカロリーは同じ働きをする」から。もちろん、そんなことがあるはずはないのだが。
  • では、残りの人々、つまり人口の8%はどうなったのだろう? 低脂肪ダイエットは、そうした人にも効き目があったのだろうか? 結論から言えば、「ウォール街を占拠せよ」運動と同じように、残りの9%の人々は一杯食わされてしまったのだった。
  • 通常の実施方法では効果がなかっただけでなく、次の3つの理由により、かえって悪影響をこうむった可能性が高い。まず、低脂肪ダイエット食品の味は、まるで段ボールを食べているようにまずい。なぜなら、風味は脂肪にあるからだ。その埋め合わせをするために炭水化物の量を増やす。するとインスリンが増え、体重も増える(第4章参照)。
  • 第2に、第10章で見てきたように、LDL(低比重リポタンパク)〔いわゆる悪玉コレステロール]には、2つの種類がある。血中を巡っているLDLの約3%を占める大型低密度(タイプA) LDLは、飽和脂肪酸により増大する。けれども、大型低密度LDLの影響は中立的で、それ自身に心臓病を引き起こすリスクはほとんどない。反対に、残りの8%を占める小型高密度 (タイプB)LDLは、食事性炭水化物によって増える。心臓病の原因となるのは、タイプBのLDLだ。
  • 第3に、もし食事性脂肪が単なるエネルギー源でしかないとしたら、それなくしては生きられない必須脂肪酸というカテゴリーは存在しなくなる。私たちは、神経系、免疫系、細胞膜を維持するため、そしてある種のホルモンを作り出すために、特定の食事性脂肪をとることが必要なのだ。だからあなたには、食事を通してよい脂肪を食べるか、または肝臓で悪い脂肪を作るか、という選択肢がある。それなら、よい脂肪を食べるほうがよくないだろうか?
  • 低脂肪ダイエットがみじめな失敗を喫した理由は、第10章から第2章にわたって科学的に説明した。悪いのは脂肪ではないし、炭水化物でもない。代謝の問題を引き起こすのは、脂肪と炭水化物の組み合わせなのだ。糖分は、まさにこの組み合わせを提供する。そして低脂肪ダイエットは糖分に満ちている。
  • 加工された低脂肪ダイエット食品に食物繊維が欠けていると、脂肪と炭水化物の両方が肝臓に急速に押し寄せるため、あなたの気の毒な肝臓はさらなるストレスにさらされてしまう。まさに失敗の見本のようなものだ。
  • これから見ていくように、あらゆる成功しているダイエット法には3つの共通項がある。低糖、高食物繊維(すなわち高微量栄養素)、そして脂肪と炭水化物を、それらを相殺できる量の食物繊維といっしょに食べることだ。それ以外はすべて、単なる見かけの違いにすぎない。

ダイエット検証2●アトキンス・ダイエット――続けるのは至難のわざ

  • 低炭水化物ダイエットを支持する人は非常に多い。その大きな理由は、実際に減量効果があり、代謝状態も改善するからだ。低炭水化物ダイエットのなかでも最も有名なのは、「ブラートヴルスト・ソーセージを食べて、パンを手放そう」というアトキンス・ダイエットだろう。事実、やや過激なところがあるとはいえ、アトキンス・ダイエットはメタポ症候群の併存症の治療手段になっている。
  • 問題は、アトキンス・ダイエットの効果は、低炭水化物からきているのか、それとも低糖からきているのかわからないことだ。まだこの疑問には答えが出ていない。
  • アトキンス・ダイエットをフルタイムの養生法として使うには、4つの問題がある。まず、脂肪はすべて同じ働きをするとは限らない(第1章参照)。脂肪の質は重要で、悪い脂肪をがつがつ食べたりしたら、悪影響が出かねない。第2に、アトキンス・ダイエットは、野菜を食べなさい、とりわけ緑黄色野菜をとりなさい、と指示するが、何の気なしにアトキンス・ダイエットを取り入れようとする人は、
    その点に注意を払わず野菜を食べない。実は野菜を抜くことこそ、このダイエットをする人のお気に入りの点なのだ。だが野菜には、食物繊維と微量栄養素の両方が含まれている(第12章参照)。
  • ある動物実験では、減量効果にもかかわらず、アトキンス・ダイエットは、アテローム動脈硬化症のほかのリスク要因を増加させる可能性があることが示された。さらに、このダイエットはチアミン葉酸、ビタミンC、鉄、マグネシウムといった微量栄養素の不足を招きかねない。これらはすべて食物繊維とともに摂取できたはずのものだ。
  • アトキンス・ダイエットでは牛乳も飲まない。なぜなら、乳糖は炭水化物だからだ。こうして、骨の健康に必要なビタミンDが失われる。さらに、高タンパク質は、尿中へのカルシウム排泄量を増加させるため、骨のリスクがさらに高まる。
  • 第3に、多くの人は体重の減少幅が大きいことにより、アトキンス・ダイエットには効果があるとみなしている。しかしながら、初期の体重減少の大部分は、水分子に囲まれている肝臓と筋肉のグリコーゲンが減ることからきている。だが、これは諸刃の剣だ。というのも、新たなグリコーゲンは、アトキンス・ダイエットをほんの少し守らなかっただけでも形成され、それに水分子がくっつくからだ。
  • 第4に、アトキンス・ダイエットの指示を守るのは、簡単ではない。学校に通っている子どもたちにこのダイエットを守らせるのは至難のわざだ。自分に問うべき質問は、本当にここまで極端にやりたいのか、ということだ。もっといい方法があるのでは?

ダイエット検証3・ベジタリアン・ダイエット―加工食品だと意味がない

  • その反対のダイエット法はどうだろう? 第2章冒頭のスジャータの例で見てきたように、ヴィーガンベジタリアン食を実践しても、肥満やメタボ症候群の予防策にはならない。動物性食品を抜いた加工食品は、それを含んでいるものと同じぐらいの悪影響をもたらす可能性がある。どんな食品でも、食物繊維を抜いて、脂肪、炭水化物、糖分を加えれば、西洋風の食品と同じぐらい簡単に加工食品にすることができる。
  • というわけで、このダイエットの恩恵が得られるかどうかは、やり方次第だ。ベジタリアンまたはヴィーガン・ダイエットを、大昔の採集民がやっていたように実践すれば(つまり、地面から生えてきた状態のものを食べれば)、うまくやることができるだろう。とはいえ、カルシウムとビタミンDを補うことは必要になるかもしれない。
  • その一方で、もしスーパーの棚に置かれた「加工」ベジタリアン食品(味をよくするために脂肪と糖分が添加され、保存期間を延ばすために食物繊維が除かれているもの)によって、このダイエットをしようと思っているなら、あなたもスジャータの母親と同じように、不信感にさいなまれるグループの一員になることだろう。

ダイエット検証4●伝統的な和食――少量の魚、大量の野菜が鍵

  • 伝統的な和食は、精製された白米(炭水化物豊富)、少量の魚、いくらかの発酵した大豆、大量の野菜からなる。この食事は、肥満と慢性メタボ症候群の予防に効果がある(ただし、異性化糖に満ちた現代の日本の食事は、アメリカの食事と同じぐらい悪いと言わねばならない。メタボ症候群を抱える日本人の数は記録的なものになり、国立成育医療研究センターでは子どもの肥満治療手術を行っている)。
  • 炭水化物が多いにもかかわらず伝統的な和食が効果的な理由は、次の4つだ。まず、インスリン抵抗性を増大させる糖分がほとんど含まれていないこと。第2に、白米に含まれるブドウ糖によるインスリンの増加が、野菜に含まれる食物繊維によって部分的に抑えられていること。第3に、魚はオメガ3脂肪酸を豊富に含んでいること。第4に、微量栄養素と抗酸化物質が豊富に含まれていること。これは素晴らしい組み合わせだ。
  • 食物繊維を炭水化物の解毒剤として使うことは(第2章参照)、成功しているダイエット法の多くの秘訣である。

ダイエット検証5●地中海ダイエット――ピザもパスタも含まれない!

  • イタリアの小さな町ピオッピは、地中海ダイエットのふるさとだ。アンセル・キーズの「7カ国研究」(イタリアは7カ国の1つだった)により、この町の食事法は心臓病による死亡率の低さと関連付けられた。地中海ダイエットがアメリカで流行った理由は、この町に住む人々は、病気になる率が低いだけでなく、長寿も満喫していたからだった。
  • 残念なことに、かつて農民の食事をとっていたピオッピの人々も、またその周囲の地域の住民も、もはやそうした食事をとる余裕がなくなってしまった。加工食品が簡単に手に入るようになり、そのほうが安くすむようになってしまったからである。
  • 健康的なことで有名だったこれらの地域では、今、肥満率が急上昇している。その理由の1つは、全粒食品と新鮮なフルーツや野菜をとらなくなったことにある。そういった食品は値段が高過ぎ、加工食品より味も悪いと感じられるようになったからだ。
  • 本物の地中海ダイエットに含まれていたのは、次の素材だ。豊富なオリーブオイル(一価不飽和脂肪酸)、豆類(ソラマメ、レンズマメ、エンドウマメなど)、フルーツ、野菜、未精製の穀類(食物繊維)、乳製品(飽和脂肪酸)、卵(高品質のタンパク質)、魚 (オメガ3脂肪酸)、そして適度な量のワイン(レスベラトロール、フラボノイド、それにおそらくほかの恩恵も)である。
  • アメリカ人は地中海ダイエットのことを、パスタを食べることだと勘違いした。パスタはイタリアの食事だが、地中海の食事ではない。イタリア人がアメリカで食べていたものは、祖国で食べていたものとは違うのだ。パスタとピザの流行は、実はアメリカにいた貧しいイタリア移民のあいだで始まったものだった。炭水化物は肉類より安かったからだ。これらの食べ物はその後、イタリアに逆輸入された。そして今、イタリア人はアメリカの問題を抱えてしまったのである。

ダイエット検証6・オーニッシュ・ダイエット――まったく楽しくない食事

  • これは、UCSFのディーン・オーニッシュが考案したダイエット法で、1993年に上梓した「もっと食べて、もっと減量しよう (Eat More, Weigh Less)』[未訳]によって広まったものだ。減量の効果があるだけでなく、心臓病を治し、細胞の状態を改善することが科学的に証明され、理論的には寿命まで延ばすとまで考えられているダイエット法である。
  • オーニッシュ・ダイエットでは、脂肪から摂取したカロリーが総カロリー摂取量の10%を超えてはならないとしている(低脂肪ダイエットでも脂肪摂取許容量は総カロリー摂取量の約30%までなので、これはかなり厳しい)。
  • オーニッシュ・ダイエットで許されている食べ物は、豆類、フルーツ、全粒穀類、野菜(つまり食物繊維が豊かなもの)だ。オーニッシュ・ダイエットでは、ノンファット乳製品を適量とることを許している。そして食べてはいけないものは、あらゆる肉類、油脂類と油脂を含む製品(サラダドレッシングなど)、ナッツ、糖分とアルコールだ。言い換えれば、まったく楽しくない食事である。
  • オーニッシュは、飽和脂肪酸またはオメガ6脂肪酸を含む食べ物を公然と非難していて、その点は大いに正当化できる。しかし、魚の摂取についてはジレンマがある。魚がオメガ3脂肪酸を豊富に含んでいることは認めており、オメガ3脂肪酸は、突然心臓死を50~80%減らすことがわかっているからだ。
  • そこでオーニッシュは、オメガ3脂肪酸を、魚そのものよりも魚油カプセルでとるように指示している。その理由は、サケ、サバ、オヒョウやほかの深海魚を食べると、余分な脂肪とコレステロールをとることになるだけでなく、海に流れ出した水銀などの毒性廃棄物も食べることになってしまうからだという。
  • オーニッシュはまた、オリーブオイルについても愛憎相半ばする思いを抱いている。オリーブオイルは、肝臓を正常に保つうえで重要な経路を刺激するオレイン酸が豊富だ。だが彼は、オリーブオイルは飽和脂肪酸を14%含み、依然として100%脂質であるという事実は変わらない、と批判する。そのため、オリーブオイルをとればとるほど、コレステロールのレベルも上がるわけだ。
  • だが私には、そうした考えは、大事なものまでいっしょくたに捨ててしまうもののように思える。1980年代と1990年代に政府と医師たちによって奨励された低脂肪ダイエットが失敗した理由は、何を食べて、何を避けるべきかをちゃんと伝えなかったからだ。オーニッシュが明確に示しているように、脂肪自体は悪者ではない。脂肪の代わりにとるものが問題をもたらすのだ。
  • 最大の問題は、この食事法を守れるかどうかの鍵が食料品店のきまぐれに左右されるようになると、徐々にオーニッシュ・ダイエットが、問題のある普通の低脂肪ダイエットに変質してしまうことにある。

ダイエット検証7・ 原始人食ダイエット――貧乏人には実践困難

  • パレオ・ダイエット【「旧石器時代食」や「原始人食」と呼ばれることもある」は、私たちの祖先が農耕を始める前に食べていた肉、魚、ナッツ、天然のフルーツ、野菜などをとる、低炭水化物・高脂肪の食事法だ。当時存在していなかった牛乳や穀物は食べないし、加工食品もいっさい食べない。
  • この食事法は、ローレン・コーデインやS・ボイド・イートンなどの科学者によって広められた。パプアニューギニア沖のキタバ島に出かけて、今でもこの食事法によって自然のまま暮らしている住民を調べたスタファン・リンドバーグは、心臓病、糖尿病、肥満、高血圧、脳卒中にかかる者がいないことを見出している。
  • UCSFの私の同僚であるリンダ・フラセットも、パレオ・ダイエットは、たった10日間実践しただけで、体重が減ったかどうかにかかわらず、血圧、インスリン感受性、耐糖能、脂質プロファイルを改善させたことを示している。
  • パレオ・ダイエットの問題の1つは、ビタミンDとカルシウムの不足だ(これは、いつも戸外で暮らしていた本物の石器時代人には問題ではなかった)が、それらをサプリメントの形でとることは可能だ。動物の肉に依存することを非難する者もいるが、それでもその脂肪の質は、現在の欧米流の食事よりずっとましだ。この食事法はまた、あらゆる穀類(食物繊維のあるものも含めて)を排除しているが、これは必ずしも制限する必要はないかもしれない。
  • おそらく最大の難点は費用だろう。この食事法を厳密に行えば、高級グルメスーパーの「ホール・フーズ」で買い物をするより高くつく。貧しい人は、原始人パーティーには参加できないのだ。

ダイエット検証8●低GIダイエット――果糖をとりすぎる!

  • インスリンを低下させるもう1つの食事法としてマスコミの注目と信奉者を集めたのが、この低GI(グリセミック指数) ダイエットだ。すなわち、血糖値(ひいてはインスリン値)を低く抑える食べ物をとる食事法を指すのだが、実際には、このダイエット法の熱烈な信者が誇大広告しているような万能薬ではない。
  • GIのコンセプトはシンプルなもので、食事に含まれる50グラムの炭水化物を摂取したときにどれだけ血糖値が上がるかを、50グラムのデンプン(白パン)をとった場合のグルコース反応の値を100として相対的に表したものだ。とはいえ、第8章で見てきたように、問題になるのはグルコース反応ではない。問題は、その後に生じるインスリン反応のほうだ。高GI食が引き起こすヨーヨーのように変動するグルコースインスリン作用は、過剰なエネルギー摂取を招いて、肥満を導くと考えられている。
  • GIも役に立つコンセプトだが、この場合もっと適切なのは、グリセミック負荷 (GL)のほうだ。というのも、GLのほうは、食物繊維がもたらすよい効果も考慮に入れているからである。グリセミック負荷の値は、グリセミック指数に、50グラムの炭水化物を含む食品の重量を掛けることによって算出する。より多くの食物繊維が含まれている食品は、それだけ重量も多くなる。というのは、消化可能な炭水化物の含有量が少なくなるからだ。高GI食品は、食物繊維といっしょに食べることによって低GL食品に変えることができる。そのよい例がニンジンだ。ニンジンは高GI(炭水化物が豊富)だが、低GL(食物繊維が多い)食品なのだ。
  • GIとGLには問題が2つある。低GIダイエットは万人向けではなく、最も効果が出
    るのは、膵臓から過剰なインスリンが分泌されることによって肥満した患者だ。これは、低GIダイエットが、食事に反応して上がる血糖値を抑制することを考えれば合点がいく。
  • GIとGLに関するコンセプトの2つめの問題は、果糖自体にある。果糖はブドウ糖
    (グルコース)ではない。果糖を食べても、グルコースのレベルを上げることはないし、インスリンのレベルを直接上げることもない。実のところ、そもそも果糖は、20という低いGI値のために、糖尿病患者にとっての素晴らしい代替甘味料として押し売りされた経緯がある。
  • しかし、果糖は、そのユニークな肝臓代謝のために(第1章参照) 肝臓のインスリン抵抗性とメタボ症候群をもたらす最悪の原因だ。にもかかわらず食品業界は、低GIダイエットへの熱狂ぶりを利用し、果糖を食品に添加している。
  • 低GLダイエットはインスリン抑制と食物繊維を考慮に入れている。これに低果糖ダイエットを組み合わせれば、「サウスビーチ・ダイエット」の基本原則と同じものになる。つまり、インスリンを抑え、食物繊維をたくさんとり、添加糖分を避ける、というものだ。さあ、いよいよ核心に近づいてきた。

 

成功するダイエットの共通点は「低糖分」「高食物繊維」

  • では、ここで、これらのダイエット法をまとめよう。脂肪をエネルギー源としているものもあれば、炭水化物をエネルギー源にしているものもあり、両方の場合もある。にもかかわらず、すべて体重をコントロールして、代謝状態を改善することができるうえ、心臓病のリスクも減らせることが証明されている。
  • では、共通項は何だろう?それは2つある。すべて低糖であること、そして高食物繊維(ゆえに高微量栄養素)であることだ。私たちは、ついに結論に達した。これこそ知りたかったことであり、これこそが重要な点だ。今やあなたは王国に入る鍵を手にしたのだ。
  • 自然界に存在する果糖は、サトウキビ、フルーツ、ある種の野菜、蜂蜜からもたらされる。最初の3つは果糖よりも食物繊維のほうが多く含まれ、最後の蜂蜜はミッバチにがっちりガードされている。自然界で糖分を手に入れるのは簡単なことではないのだ。
  • しかし人間はそれを簡単にしてしまった。そして、これこそ食品業界もアメリカ政府も認めたがらない真実なのである。なぜなら、一度認めてしまったら、糖分の量を減らさなければならなくなるが、彼らはそうすることができないし、そんなことをしたいとも思わないからだ。そしてこれこそ、「工業化しグローバル化した食習慣」が導入された国々すべてで、肥満率と慢性メタボ症候群の有病率がうなぎ登りに上がっている理由なのである。
  • どんなダイエット法でも、それを忠実にずっと続ける人は多くない。「常習犯」は、ダイエットの合言葉だ。まず、誘惑にさらされる。ダイエットは不便なことがある。手に入りにくいこともある。さらには飽きてしまう。そして究極のダメージは、多くの人に訪れる減量の停滞期だ。これにより、意志力がさらにそがれてしまう。

人工甘味料のおかげで体重が減った研究は1つもない

  • ダイエット甘味料は万能薬か? それともただの誇張広告か? これは今日の栄養学に
    おける、最も悩ましい疑問だ。この点については、私は不可知論者〔証明することも反論することもできない者」である。なぜかというと、どのダイエット甘味料が最もすぐれているかを推薦するためのデータについても、ダイエット甘味料ははたして賢い代替手段なのかどうかを知るためのデータについても、現在のところ確実なものがないからだ。
  • 一見すると、ダイエット甘味料は、ショ糖(砂糖)または異性化糖に代わる素晴らしい代替物のように見える。カロリーを増やさずに甘味を加え、問題の果糖を除くことができるからだ。アメリカは、肥満大流行のせいで、ゆっくりと、だが確実に、ダイエット飲料への依存を強めている。2010年の時点で、アメリカにおけるコカ・コーラの売上の42%はダイエット製品だった。
  • だが、ちょっと待ってくれ。もし糖分摂取の33%が飲料に占められていて、42%の飲料が今ではダイエット製品だとすれば、体重を落とした人がいて当然だろう。にもかかわらず、砂糖をダイエット甘味料で置き換えた飲料が、肥満した被験者の体重減少に貢献したことを示す研究は、ただの1つもないのである。
  • 砂糖業界が率先して行った複数の研究では、ダイエット飲料の摂取は、メタボ症候群の広がりと相関していることが示された。ただし、ここでも思い出してほしいのは、相関関係は因果関係ではない、ということだ。ダイエット甘味料がメタボ症候群を引き起こしたのか、メタボ症候群を抱える人たちが、「トゥインキー」を食べていることへの罪悪感を減らすために、ダイエット飲料のほうをより多く飲んでいるのかどうかはわからない。

 

人工甘味料が危険な5つの理由

  • だとすれば、なぜ砂糖をダイエット甘味料に変えることによってカロリー摂取量、体脂肪、メタボ症候群が減るのかどうかわからないのだろう? 実は、私たちの無知の根底には、5つの問題が潜んでいるのだ。
  • 理由1・体に与える影響がまったくわからない
  • まず、薬物動態学と薬力学は同じではない、ということがある。簡単に言うと、薬物動態学とは、あなたの体が薬物にすることを調べる学問で、薬力学は、薬物があなたの体にすることを調べる学問だ。この2つは同じものではないどころか、はなはだしく異なる。
  • すべてのダイエット甘味料の薬物動態学データは、安全性を確かめるために入手可能だ。というのも、そうした商品をアメリカの市場で売るには、米国食品医薬品局にデータを提出して、認可をとりつけなければならないからだ。
  • しかし、薬力学データはない。こうしたダイエット甘味料が、長期的な食物摂取、体重、体脂肪、代謝状態にどんな影響を与えるかについては、まったくわからないのだ。その理由は、米国食品医薬品局が薬力学的研究を要求しないからである。
  • 米国食品医薬品局が薬品 (甘味料を含む)の認可を下すときには、2つのことしか調べない。安全性と効果だ。そのため、食品業界は薬力学研究を行わない。高くつくし、場合によっては、その結果が販売に悪影響をおよぼすことさえ考えられるからだ。さらには、米国国立衛生研究所(NIH)も、それをやるべきなのは食品業界だと言って、みずからやろうとはしない。
  • こうして薬力学研究はまったく行われないままになる。体に吸収されなかった甘味料はどうなるのだろう? キシリトールソルビトールといった糖アルコールは腸で吸収されない。だから、安全だろう?ああ、そうだ。ただし、大量に摂取すると、それらはひどい胃腸障害、腹部膨満感、そして下痢を引き起こす。
  • 理由2●脳に与える影響がまったくわからない
  • ここに潜在的な懸念がある。あなたは炭酸飲料を飲んだとしよう。舌は糖分またはダイエット甘味料の甘さを感じる(舌は、甘さが何からきているのかを判断することはできない)。そして、こんなふうに言いながら、「甘味」シグナルを視床下部に送る。「ほら、糖負荷がやってくるよ、代謝の用意をして」。すると視床下部はこんなふうに言いながら迷走神経を通じて膵臓にシグナルを送る。「糖負荷がやってくるよ、余分なインスリンを分泌する用意をして」。
  • だが、もし「甘味」シグナルがダイエット甘味料から来ていたのだとしたら、いくら待っても糖分はやってこないことになる。するとどうなるだろうか? 視床下部は、こんなふうに言うだろうか?「まあ仕方ないな。次の食事がやってくるまで、ぶらぶらしてるよ」。それとも、「なんてこった、余分な糖がやって来る用意をしてたのに。そんなら、探してくるよ」。脳が糖分の欠乏を埋め合わせるかどうかはわからない。
  • 理由3・腸内細菌の構成を変えてしまう可能性がある
  • ダイエット甘味料が腸内細菌の構成を変えてしまう懸念がある。そうなると、炎症が起き(第5章参照)、内臓脂肪の貯蔵が進む。
  • 理由4・糖分への依存を強める可能性がある
  • ダイエット甘味料が糖分依存症(第5章)において、どんな役割を果たすかはわかっていない。ショ糖(砂糖)の場合、ドーパミン受容体のダウンレギュレーションが生じると、次に同じ効果を得るためにより多くの砂糖をとらなければならなくなり、ポジティブ・フィードバック・システムが築かれて摂取を増進させてしまう。同じことは、ダイエット甘味料についても見られる。
  • そのため、もしかしたら、ダイエット甘味料も生化学的に同じ依存性を助長し、それがさらに糖分を求める行動に駆り立てる可能性がある。そうなると、たとえ今食べているものに糖分が含まれていなかったとしても、次は必ず糖分をとるようになってしまうだろう。
  • 理由5●一度認可されると検証されない
  • ダイエット甘味料の安全性の問題は非常に複雑だ。米国食品医薬品局の公式見解は、「認可されたなら安全だ」というもの。だが、本当にそうだろうか? アスパルテームに関する懸念はいまだに消えていない。市販されてからもう30年以上も経つというのに。
  • そして、もう1つの側面がある。砂糖業界には、状況をあいまいにしたい理由が山のようにあるのだ。甘味料市場の支配権をおびやかすダイエット甘味料に対し、砂糖業界はたとえ相手がどんなものであっても、禁じ手なしのタックルをかます。彼らは、サッカリンが市場に登場して以来、あらゆる甘味料を攻撃してきた。

 

果糖から身を守る!スーパーに行くときの5つのルール

  • 自分自身の食物環境をコントロールする鍵は、購入の決断を下す瞬間にかかっている。だとしたら、スーパーへ行くときには、何に気を付けたらよいだろう? そこは地雷原だ。
  • スーパーのルール1空腹で買い物をしない
  • 空腹でスーパーに行かないこと。すべてが台無しになる。
  • スーパーのルール2 生鮮食品売り場に直行する
  • スーパーの端にある生鮮食品売り場で買い物をすること。真ん中の陳列棚に行ってしまったら、もとのもくあみ。
  • スーパーのルール3 ラベルがついていないものを買う
  • 「本物の食べ物」には、栄養成分表示ラベルはついていないし、そんなものも必要ない。ラベルを目にする回数が多ければ多いほど、ゴミばかり買っていることになる。
  • スーパーのルール4腐らない食べ物は買わない
  • 本物の食べ物は腐る。これはいいことだ。バクテリアがそれを消化できるなら、あなたもそれを消化できるということだから(そもそもミトコンドリアは再利用されたバクテリアだ)。
  • 本物の食べ物を食べることには、マイナス面が3つある。まず、調理に時間がかかる。しかし、本物の食べ物をとれば、自動的に食物繊維と微量栄養素の量が増え、果糖とトランス脂肪酸の量を減らすことができる。第2に、本物の食べ物は悪くなるので、台所に永久に保存しておくことはできない。第3の欠点は、本物の食べ物は加工食品より高い。これが最大の問題である。
  • スーパーのルール5 「隠された糖分」に用心する
  • 糖分はうまく隠されている。栄養成分表示ラベルでは、食品の原材料名を含有量が多い順に記載するように定められている。しかし、異なる形態の糖を使えば、多量の糖分を食品にしのばせることが可能だ。こうすれば、糖分の総量は変わらなくても、ラベルに記載される順序をうしろのほうにずらせるのだ。食品業界はラベルに記載しなければならない糖分を隠すために、少なくとも10種類の呼称を使いわけている。
  • だが、ていねいに調べれば、そうしたものは必ず見極めることができる(図表17-1)。買い物をする者は用心せよ!〔日本でも、「原材料名」の記載欄に、使用量が多い順に材料名を記載することは同じだが、糖質については「栄養成分1人前」の欄に「炭水化物」という項目があるだけで、総量はわからない」
  • それに加えて食品業界は、乳児を糖分にさらす時期をますます早めている。アボット・ラブズ社は「アイソミル」という商品を製造しているが、これは乳糖を含まない粉ミルクで、乳糖の代わりに、10・3%のショ糖を使っている(コーラのショ糖含有量は0.5%だ)。
  • ミード・ジョンソン社は、チョコレート風味の乳幼児向け粉ミルクである「エンファグロウ」の製造を2010年に停止した。チョコレート(苦み成分が含まれている)とのバランスをとるために添加された糖分の多さに、消費者が反発したためだ。しかし、バニラ風味のものは、いまだに市場に出回っている。
  • 公益科学センターによると、ガーバー・アンド・ハインツ社は、第2期(生後6カ月以降)と第3期(生後8カ月以降)のバナナ離乳食と第2期の野菜離乳食の半分以上に、糖分またはデンプン質の増量剤あるいはその両方を添加しているという。アメリカで生後6カ月児の肥満が流行しているのも当然と言えば当然だ。

 

糖分を減らすならまず「甘い飲み物」をなくせ

  • では、どうやったら糖分の摂取は抑制できるだろう? まずは、糖分が添加された飲み物を日々の生活からすべて取り除くことだ。私たち人間は、カロリーを「食べる」ことによってとるようにできている。「飲む」ことによってとるわけではないのだ。タバコがニコチンの運び屋であるように、炭酸飲料は「果糖の運び屋」だと思えばいい。
  • そしてジュースは炭酸飲料よりもっと悪い。炭酸飲料1杯に含まれる糖分はティースプーン5・4杯であるのに比べ、ジュースは5・8杯分だ。フルーツは「飲む」のではなく「食べる」ことにしよう。
  • 次に、レシピをすべて見直して、砂糖が必要な場合は、3分の1減らして、3分の2にしよう。そうすれば、ホームベーキングで作ったお菓子は、ずっとおいしくなり、体にもいいものになると約束する。チョコレートやオートミール、ナッツの味が引き立って感じられるようになるだろう。
  • 最後に、デザートは特別な機会にだけ食べることにしよう。私が子どもだった頃、デザートは1週間に1回食べるものだった。今では、毎食デザートが出るだけでなく、おやつの時間にさえ食べるものになってしまった。私の子どもたちは、平日のデザートはフルーツ一切れだと理解している。だが週末には、もっと手の込んだデザートが食べられるのだ。そうしたとしても、子どもたちは楽しみを奪われたとは思わないことは保証する。
  • 食品に栄養成分表示ラベルが付いているということは、それが加工食品であるということだ。誰でも真っ先に、総カロリー量と飽和脂肪酸のグラム数を見るに違いない。だが、それらはどんな食品についても、最も重要度の低い要素だ。栄養成分表示ラベルで本当に見るべきなのは、次のことだ。
  • もし食品が液体だったら、糖分は5キロカロリー未満でなければならない(ただし、風味付けされていない牛乳だけは、唯一の例外だ。ミルクの糖は乳糖で、肝臓でブドウ糖に変えられることを覚えているだろうか。果糖はいっさいかかわらない)。食品が固形だったら、食物繊維を3グラム以上含んでいなければならない(第2章参照)。
  • もし「部分水素添加」(トランス脂肪酸の別名)という文字が現れたら、その食品は、腐らないように加工されているということだ。だから、それはあなたより長生きするかもしれない。もし何らかの形の糖分が最初から3番目までの素材にあがっていたら、その食べ物はデザートであってしかるべきだ。

 

これなら食べてもいい! 医学的に正しい食べ物リスト

肥満管理のゴールはインスリンを低く抑えることだ。これは、その目標を達成するためのショッピングリストで、次の4つの原則に基づいている。
1.低糖分
2、高食物繊維
3、低オメガ6脂肪酸
4、低トランス脂肪酸

このリストは「トラフィック・ライト・ダイエット」【食べていい物、悪い物を信号の3色で分類するダイエット)に似ている。「青」は好きなだけ食べていい食品、「黄」はやや注意しながら食べるべき食品(週に3~5回まで)、そして「赤」は特別の機会のときにだけ食べるべき食品(週に1~2回だけ)だ。

青:非加工のもの。好きなだけ食べてOKのリスト

  • 全粒粉丸ごと
    • 全粒粉のパン(繊維3g以上)
    • ドイツの全粒粉のパン(German fitness bread)
    • 粗びき小麦穀粒パン(Coarse wheat kernel bread)
    • 粗びき小麦パン、トルコのブルグアなど(Cracked wheat [Bulgur])
    • 粗びき大麦穀粒パン(Coarse barley kernel)
    • 粗びきライ麦穀粒パン、ドイツのブンパーニッケルなど(Coarse rye kernal pumpernickell)
    • 全粒粉のプンパーニッケル(Whole-grain pumpernickel)
    • 全粒穀類
    • 野生米または玄米
    • 全粒アマランス
    • 全粒大麦
    • 全粒そば粉
    • 全粒トウモロコシ、電子レンジに入れて
    • 作ったポップコーン(甘くないもの)を含む
    • 全粒雑穀(キビ、アワ)
    • 全粒オート麦
    • 全粒キヌア
    • 全粒ライ麦
    • 全粒ソルガム
    • 全粒テフ
    • 全粒ライ小麦
    • 全粒小麦――あらゆる種類
  • 肉類(オメガ6脂肪酸含有量の低いもの、加工されていないもの)
    • グラスフェッド牛肉(牧草で育てられた牛の肉)
    • 天然魚
    • ラム
    • ターキー
    • 放し飼いのチキン
  • ナッツ・種子
    • アーモンド
    • 亜麻仁
    • マカデミア
    • ピーナッツ
    • ピーカン
    • かぼちゃの種
    • ひまわりの種
    • くるみ
    • ナッツや種子が原料のスプレッド
    • アーモンド
    • カシューナッツ
    • マカデミアナッツ
    • ピーナッツ
    • ヘーゼルナッツ
    • 100%天然で、ナッツまたは種子と塩だけでできているバター
  • ベジタリアン用代替肉類
    • ヴェジーバーガー(Veggie burger。肉を使わないハンバーガー)
    • ガーデンバーガー(Garden Burger)
    • ボカバーガー(Boca Burger)
    • 豆腐(カルシウムを含むもの)
    • テンペ
  • 乳製品
  • 豆類
    • アズキ
    • アナサジ豆
    • 黒豆
    • ササゲ
    • 枝豆
    • 空豆
    • ヒヨコ豆
    • インゲン豆
    • レンズ豆
    • リマ豆
  • フルーツ
    • リンゴ
    • あんず
    • バナナ
    • ブルーベリー
    • カンタロープ(メロンの一種)
    • サクランボ
    • ブドウ
    • グリーンベルペッパー(ピーマンの仲間)
    • グアバ
    • ハネデューメロン(メロンの一種)
    • キウイ
    • みかん
    • マンゴー
    • パパイヤ
    • パイナップル
    • プラム
    • ラズベリー
    • スターフルーツ
    • イチゴ
    • イカ
    • その他あらゆるフルーツ丸ごと(加工されていないもの)
  • 野菜
    • アスパラガス
    • もやし
    • パプリカ(すべての色)
    • チンゲン菜
    • ブロッコリー
    • にんじん
    • カリフラワー
    • きゅうり
    • ナス
    • サヤマメ
    • グリーンピース
    • レタス
    • マッシュルーム
    • タマネギ
    • エンドウ豆
    • ピーマン(すべての種類)
    • 大根
    • キンシリ
    • ほうれん草
    • カボチャ
    • サツマイモ
    • トマト
    •  ヤムイモ
    • その他丸ごとの野菜すべて(加工されていないもの)
  • 調味料
    • すべてのハーブ
    • すべてのスパイス
    • アースバランス社のバタースプレッド(Earth Balance buttery spread)
    • ホームメイドのサラダドレッシング
    • ホームメイドのバーベキューソース
    • フムス(主にひよこ豆でできたペースト状のスプレッド)
    • ラード
    • マスタード
    • サルサ
    • ヨーグルトソース
    • タバスコおよび他のホットソース(糖分を含まないもの)
    • 植物油
    • オリーブオイル
    • キャノーラオイル
    • エッグ・ビーターズ(Egg Beaters。卵白で作った全卵の代替品)
  • 飲み物
    • 水、ミネラルウォーター、クラブソーダ、ミネラル炭酸水
    • プレーンミルク(味のついていないもの)
    • ハーブティーおよび他のお茶(紅茶、緑茶、黒茶。砂糖が加えられていないもの)
    • プレーン豆乳(栄養強化されたもの)
    • プレーンライスミルク(栄養強化されたもの)
    • コーヒー(ブラック、砂糖抜き)
  • 食物繊維の多いシリアル(繊維5g以上、糖分3g以下)
    • ティールカット(アイリッシュ)オートミール
    • ボブズレッドミル(Bob's Red Mill。繊維5g、糖分0g)
    • シュレッディドウィート(砂糖無添加)(Shredded Wheat。繊維7g、糖分1g)
    • ファイバーワンブランシリアル(Fiber One bran cereal。繊維14g、糖分0g)

黄:加工が最小限のもの。週3~5回までにすべきリスト

  • 全粒粉製品(全粒を粉にひいたもの)
    • 全粒粉のパスタ
    • タンパク質添加パスタ
    • 全粒コーンのトルティー
    • 全粒粉のトルティー
    • パン(全粒を粉にひいたもの。繊維3g以上)
    • ピタパ
    • 100%ホールグレインナチュラルオヴンズ(100 percent Whole Grain Natural Ovens)
    • オートブランブレッド(Oat Bran Bread)
    • ヘルシーチョイス ヘルシーフグレイン(Healthy Choice Hearty 7 Grain)
    • バックウィートブレッド(Buckwheat Bread)
  • 肉類(オメガ6脂肪酸がより多く、加工されていて、
    塩分含有量がより多いもの)
    • ふつうの市販牛肉

    • 牛ひき肉

    •  ハンバーガ

    • ベイクトビーン

    • チョリソー

    • ソーセージ

    • ホットドッグ

    • ターキーベーコン

    • ターキードッグ

    • ベーコン

    • サラミ、成型肉

    • 乳製品

    • 糖分不使用のフルーツ風味のヨーグルト(ぎりぎりセーフ)

  • フルーツ

    • 干しイチジク

    • デーツ

    • バナナチップ

    • レーズン
    • 甘味を加えていないアップルソース
    • 乾燥グリーンピース
    • クレーズンズ(Craisins干しクランベリー)
    • その他のドライフルーツトウモロコシ
  • 野菜
    • トウモロコシ
    • 赤ポテト
  • 飲み物
  • 調味料
    • しょうゆ
    •  マヨネーズ
    • カクテルソース
    •  ステーキソース
    • ウースターソース
    • 市販のサラダドレッシング(キャノーラオイルまたはオリーブオイルで作ったもの)
    • 植物油と植物油脂
    • ひまわり油、コーン油、大豆油
    • 低脂肪クリームチーズ
    • 低脂肪マヨネーズ
  • 食物繊維と糖分含有量が中程度のシリアル(3g以上、糖分3g以上)
    • ボブズレッドミルロールドオーツ(Bob's Red Mill Rolled Oats。繊維4g、糖分1g)
    • チェリオス(Cheerios。繊維3g、糖分1g)
    • ネイチュアズパスオーガニックオプティマムスリム(Nature's Path Organic Optimum Slim.繊維11g、糖分10g)
    • オールブラン(繊維10g、糖分6g)
    • カシ ゴーリーン(Kashi GOLEAN。維10g、糖分6g)
    • クウォーカーハイファイバーインスタントオートミール
    •  カシ ゴーリーン クリスプレーステッドベリークランプル(Kashn GOREA Cinsp Toasted Berry Crumble, 9,10g)
    • カンゴーリーシクランチ(Kashi GOLEAN Crunchi sy. 129)
    • レーズンプラン(繊維8g、糖分19g糖分の一部はレーガン曲集)
    • グレープナッツ(Grape Nuts,維、糖分5g)
    • ゴーロウ シンプルグラノーラ(Go Raw Simple Granola。繊維6g、糖分134)
    • フロステッドミニウィーツ(Frosted Mini Wheats。繊維5g、糖分11g)
    • アンブロージァルグラノーラ(Ambrosial Granola。繊維5g、糖分1490
      糖分の一部はドライフルーツ由来)
    • キックス(Kix。繊維3g、糖分3g)
    • トータルホールグレイン(Total Whole Grain。繊維3g、糖分5g)
    • ラーフィングジラフチェリージンジャーグラノーラ(Laughing Giraffe Cherry Ginger Granola。繊維3g、糖分8g)

赤:高度に加工してあるもの。週1回しか食べてはいけないリスト

  • 精白した穀類(繊維2g以下、または糖分10g以上)
    • セモリナ
    • 白米
    • 長粒米
    • アルボリオ(リゾットに適した米)
    • ジャスミンライス
    • ベーグル
    • 白パン
    • コーンプレッド
    • ポテトブレッド
    • ライスブレッド
    • クロワッサン
    • シナモンロール
    • ドーナッツ
    • ワッフル
    • パンケーキ
    • クスクス
    • バスマティ米
    • ケーキ、ブラウニー
    • ハンバーガー用のパン
    • ホットドッグ用のパン
    • ポテトチップス
    • クラッカー
    • ピザクラスト
    • パゲット
    • ライスクリスピー(Rice Krispy)
    • グラノーラ
    • フルーティペブルズ(Fruity Pebbles)
  • タンパク質
    • ピーナッツバターやほかの市販のナッツスプレッドで2つ以上の原材料を含むもの
      (ジフ[Jif、スキッピー[Skippy」など)
  • 野菜
  • フルーツ
    • ジャム類
    • 缶入りのシロップ漬けフルーツ
  • 飲み物

    • 炭酸飲料

    • フレーバーミルク

    • フルーツジュース(オーガニックジュース、生ジュース、市販のジュースを含む、すべてのジュース)

    • チョコレートライスミルク

    • チョコレート豆乳

    • ココア

       

    • ゲータレードなどのスポーツドリンク

    • アグアフレスカ(中南米のフルーツジュース)

       

    • レモネード

    • フルーツスムージー

    • 甘さを加えたアイスティー

    • 甘さを加えたコーヒー飲料

       

    • スラーピー

    • 栄養ドリンク

    • ビタミンウォーター

    • トマトジュース

    • 野菜ジュース

  • 調味料

まだ良し悪しがわからない食べ物リスト

  • 「ダイエット」という名前のついている食品すべて
  • 砂糖抜きのココア
  • クリスタルライト(Crystal Light。ダイエット飲料)
  • ダイエット炭酸飲料
  • プロペル(Propel。スポーツドリンク)
  • ダイエットスナップル(Diet Snapple。炭酸飲料)
  • 砂糖不使用のフレーバーウォーター

ホルモンの機能不全を治す4つの行動

  • 体重増加と代謝機能不全に関わる特定のホルモンの働きについては、第4~9章で詳しく説明してきた。肥満管理のゴールは、次の各点を確実にして、ホルモンの機能不全を修復することにある。
  • 行動1 インスリンを減らす―体脂肪を減らし、レプチン抵抗性を改善する
  • 行動2 グレリンを減らすー空腹感を減らす
  • 行動3 ペプチドYYを増やす――満腹感が早く抱けるようにする
  • 行動4 コルチゾールを減らす――ストレスと空腹感を減らし、エネルギーが内臓脂肪として貯蔵されるのを防ぐ
  • 行動1・インスリンを減らす 食物繊維を取り、糖分を減らし、運動する
  • ほぼどんな人にとっても、インスリンを減らすことは、成功するための要だ。インスリンのレベルが低くなれば低くなるほど、脂肪細胞に取り込まれるエネルギーの量が減り、レプチン感受性が向上し、食欲が減る。さらに、筋肉がより多くのエネルギーを利用できるようになり、それによって代謝面での健康と生活の質が向上する。では、インスリンはどうやれば減らせるのだろう?その答えは、インスリンの分泌を減らすか、インスリン感受性を向上させるか、その両方をやればいい。
  • インスリンの分泌を減らす最良の方法は、インスリンの分泌を高める物質、つまりブドウ糖(グルコース)を膵臓になるべく触れさせないようにすることだ。そのためには、精白した炭水化物の量を減らせばいい。
  • インスリン感受性を高めるには、肝臓あるいは筋肉、またはその双方のインスリン感受性を高めることが必要になる。これは、それぞれ別の方法で行わなければならない。肝臓のインスリン感受性を高めるには、肝臓脂肪の生成を抑制することが必要で、それには脂肪と炭水化物が一緒に肝臓に触れる機会を減らさなければならない(これこそ、効果のある人気ダイエット法の秘訣だ。第7章参照)。
  • そうするための最良の方法は、糖分の摂取量を減らすことだ。なぜなら、糖分はつねに脂肪と炭水化物と一緒に存在するからである。最も簡単な方法は、糖分が含まれる飲料を家から追い出してしまうことだ。炭酸飲料も、ジュースも、ビタミンウォーターもすべて。飲むのは水と牛乳だけにしよう。
  • 糖分依存症に陥っている親は(第5章参照)、薬物依存症に陥っている親と同じように、子どもに対して「イネーブラー」〔悪癖に染まっていくのを黙認する」、「共依存者」〔愛情という名で子どもを支配する」、「擁護者」「子どもをかばう」になる。本来の親の役目とは、家のなかを子どものために、地雷原ではなく安全な場所にすることだ。
  • インスリンを下げるもう1つの方法は、より多くの食物繊維を食べることである。食物繊維は肝臓にエネルギーが押し寄せるのを緩和することにより、インスリン反応を抑える(第2章参照)。
  • そして、茶色の食べ物 (精白されていない食べ物)を食べよう。ソラマメ、インゲンマメ、レンズ豆などの豆類、全粒穀物、ナッツなどがそうした食べ物だ。そして、本物の食べ物をとろう。加工したりジュースにしたりしたものではなく、フルーツを丸ごと、野菜を丸ごと食べよう。白い食品、たとえばパン、米、パスタ、ジャガイモは、繊維が取り除かれていることを意味する(ジャガイモの場合は、もともと食物繊維が含まれていない)。
  • 最後に、筋肉のインスリン感受性を高める方法は、とてもシンプルだ。それができるは運動だけである。なぜなら、筋肉に脂肪が蓄えられてしまったら、それを除くのは、焼き尽くすしかないからだ。そのうえ、運動すれば肝臓脂肪も燃やせる。
  • 行動2・グレリンを減らす――朝食にタンパク質をとり、寝る4時間前から食べない
  • 空腹ホルモンのグレリン(第6章と第1章)を減らせば、毎回の食事の合計摂取カロリーが減らせる。これを実践する最良の方法は朝食をとることだ。朝食をとらないと、食べ物の産生熱量を徐々に上げることができず(第13章参照)、昼に近づくにつれてグレリン レベルが上がり続け、ランチと夕食を食べ過ぎてしまうだけでなく、夕方にかけて間食をしてしまいがちだ。
  • このように、朝食をとることは欠かせないが、そのときに何を食べるかも、また大きな違いを生み出す。タンパク質に富む食事は、脂肪または炭水化物に富む食事より、グレリンを多く下げられることが研究で示されている。 つまり、座っているだけで、より多くのエネルギーが燃やせるようになるわけだ。また、タンパク質の産生熱量はほかの栄養素より多い。つまり、タンパク質の代謝に使われるエネルギーは、炭水化物代謝の倍なのだ。さらに、タンパク質が引き起こすインスリン反応は炭水化物の場合より低いため、炭水化物のように血糖値を急激に引き下げて、早く空腹感を抱かせるようなことがない。
  • 糖分の過剰摂取により非常に深刻なインスリン抵抗性に陥っている人は、ものすごい空腹感にさいなまれる。その空腹感はあまりにも強いので、標準的な食事を変更しただけでは、まぎらわせることができない。このパターンの典型的な特徴は、夜間のドカ食いだ。こうした患者が朝目を覚ましたときには、普通空腹感を抱かないため、朝食を抜くことが多い(これは、昼食以降に大量に食べることを示す気がかりな兆候だ)。
  • 実際、そうした人々は例外なく寝る前に物を食べる。何か食べたくて、夜中に目を覚ましてしまう人もいるほどだ。夕食後に物を食べることは、誰にとっても害がある。というのは、それほど遅い時間にとられたカロリーは、燃やされるチャンスがなくなるからだ。そのため脂肪組織か肝臓に回され、患者のインスリン抵抗性はさらに悪化する。こうした患者のなかには、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を抱えている人もあり、ほぼ全員がメタボ症候群を抱えている。彼らは、過剰なインスリンと睡眠不足のために、ひどく疲れ切っていて、運動する気力もない。
  • こうした人のレプチン抵抗性を改善するには(つまり、インスリン抵抗性を改善するには)、 この夜間のドカ食いとエネルギー蓄積の悪循環を断ち切らなければならない。このような患者の唯一の希望は食事時間の再調整だ。つまり、良識ある朝食とランチを食べて、おやつはやめ、ク食は必ず、取りにつく4時間以上前に食べるようにすること。夜遅く食事をとることに、いいことは1つもない。
  • こうした患者は、ぐっすり朝まで寝ることが必要なのだが、それはむずかしいかもしれない。就寝時の気道の状態に問題が起きていることがあるからだ(閉塞性睡眠時無呼吸症候群と呼ばれる)。いびきをかく患者(閉塞性睡眠時無呼吸症候群にかかっている人は必ずかく)は医師の診察を受けて、二相性陽圧呼吸マスク(BiPAP) と呼ばれる器械を使って、就寝時に気道を開いておく必要があるかもしれない。患者によっては、気道を広げて熟睡できるようにするため、扁桃腺摘出術とアデノイド切除術が必要になる場合もある。
  • 行動3・ペプチドYYを増やす
  • 「おかわりは20分間待ち、食物繊維をとるある子がお皿の上の料理をペロリと平らげて言う。「おかあさん、まだお腹が空いてるよ」。子どもにひもじい思いをさせたくないし、むずかられるのも嫌な母親は、おかわりをよそう。本書を読んでいる親御さんたち、こうしたことがどれほど頻繁に起きているだろうか?毎日?毎食?
  • 今度は、本書を読んでいる大人の方に聞こう。ハンバーガーにむしゃぶりついたばかりなのに、なぜすぐに2個目を食べようとする? 「満腹感」という現象と「空腹感がない」という現象には、大きな違いがある(第12章参照)。胃袋に食べ物を入れるとグレリンのレベルは下がる。だが、だからといって、それ以上食べないということにはならない。
  • 満足感のシグナル(食事をやめさせるスイッチ)はペプチドYYだ〔PYY]。胃とPYY細
    胞のあいだには6.7メートルほどの腸があり、食べ物がPYY細胞に達するまでには時間がかかる。だから、待ってあげよう。日本には「腹八分目」という格言がある。だが、これをアメリカでやるのは、とてもむずかしい。
  • うまくやる鍵は、おかわりや2個目を食べる前に20分間置くことだ。それから、最初に食べる1人前が適切な量であることにも注意を払おう。たとえ、おかわりや2個目を食べなくても、食事の量を「スーパーサイズ化」してしまったら、同じように自分の体にダメージを与えてしまう。PPYを増やす最良の方法は、食べた物を腸内で素早く移動させること。それは食物繊維の役目だ(第12章)。そして食物繊維を手に入れる最良の方法は、本物の食べ物を食べることである
  • 行動4 ● コルチゾールを減らす――運動する!
  • さて、これは簡単ではない。コルチゾールは、あなたの短期的な友人で、長期的な敵だ。コルチゾールを低く抑えること、つまりストレスを低く抑えることは、実質的に不可能だ。現代は、かつてないほどストレス因子にあふれ、それに対処する自然な方法というものもない。私たちの祖先は襲ってくるライオンから走って逃げただろう。でも、激怒する上司から全速力で逃げるようなことは、情けない行動だとみなされる。
  • ストレスが拍車をかける食べ方への対処は、最も克服がむずかしい問題と言っていいかもしれない。なぜなら、まず、本当の原因は「ストレス」にではなく「ストレスへの反応」にあるからだ(第6章参照)。これは遺伝的なものかもしれないし、生まれる前に運命づけられたものかもしれない(第7章参照)。そして、単なる意志の力では解決できない可能性が高い。次に、過剰なコルチゾールは内臓脂肪とインスリン抵抗性とさらなる食物摂取を促すため、メタボ症候群にとっては三重苦になる。最後に、コルチゾール扁桃体のアウトプットをポジティブ・フィードバック、つまり悪循環に変えてしまう。
  • こうして、より多くのコルチゾール扁桃体をより多く活性化するようになり、その後、さらにコルチゾールが増えるようになってしまうのだ。ストレスが人生からなくなることはないため、過食がなくなることもない。ストレスに対する対処メカニズムが不十分で、人生のあらゆることがうまくいっていないような場合には、自分のトラブルを無視するのはとてもむずかしく、問題はさらに膨れ上がってしまう。
  • 実は、コルチゾールを減らす簡単で安くて効果的な方法がある。それは運動だ。運動中はコルチゾールのレベルが上がるものの(ブドウ糖をかき集め、脂肪酸を解放してエネルギーに変えるため)、その日1日コルチゾールのレベルを低く抑えてくれる。運動は、筋肉内で脂肪を燃やして筋肉のインスリン感度を上げ、肝臓内で脂肪を燃やして肝臓のインスリン感度を向上させる。
  • 私たちのクリニックのルールは、運動した時間だけ、「スクリーンタイム」に使っていいというものだ。つまり、1時間テレビを見たり、コンピューターゲームをしたりしたかったら、1時間スポーツをするのである。これは、家庭では特にむずかしい。なぜかというと、親はテレビをベビーシッターの代わりに使う傾向があるし、現代の子どもたちはコントローラーを使ってするスポーツのほうを好むからだ。
  • 多くの親は、赤ちゃんが子宮から出てくる前から、どこの大学に通うことになるかなどと夢想し始める。そんな親の期待のプレッシャーを感じとった子どもたちは、気分、活動、勉強に悪影響が出る。現代の子どもたちが抱えているプレッシャーはとてつもなく大きい。期待されていることすべてをやる時間など、どこにあるというのだろう?
  • ここに、本書のなかで最も重要な子育てのアイデアがある。もしお子さんが ソフトドリンクを飲むのをやめて運動をするようになったら「時間が作れるようになる」のだ。もしお子さんが1時間活発に運動したら、5時間かかる宿題は4時間で終わるだろう。集中力が高まり、効率が上がるからだ。お子さんはこうやって時間を作り出せる。
  • アメリカのあらゆるところで行われた多くの研究が、運動を増やすと、子どもたちの学業成績と行動が向上することを示している。この本を読んでいる親御さんたち、時間を作り出すことこそ、21世紀の生き方だ。1日の時間を増やすことはできなくても、お子さんの生産性を高めることはできる。
  • 残念なことに、お子さんの通っている学校は、きっとこのことを理解していないだろう。彼らは言う。「子どもたちが標準テストに受かるような教育をしなければならないんです。でなければ、『落ちこぼれ防止法』(ブッシュ政権の教育政策の柱で、その後法制化されたに)よって、教育資金を取り上げられてしまいますから」と。
  • 教師たちよ、ここにあなたたちが知るべき情報がある。「落ちこぼれ防止法」は、実際には「子どもの前進を阻む法」かつ「反対する教師をゼロにする法」でしかないのだ。
  • 教師たちよ、学校で子どもたちを運動させなさい。毎日の時間割から5分間を割いて、汗をかくほど全力で動き回る運動に費やさせなさい。そうすれば、子どもたちの学業成績も上がるし、行動も改善されるはずだ。