科学者たちが語る食欲

  • これらのシンプルな概念を理解すれば、実験結果の重要な点が見えてくる。まず、炭水化物を過剰摂取したすべてのバッタが、タンパク質ターゲットに近い線に沿ってほぼ垂直に並んでいる。つまりこれらのすべての点のバッタが、ほぼ同量のタンパク質(ターゲットの210㎜に近い、約150mg)を摂取していたことがわかる。だがこれだけのタンパク質を摂取するために、バッタは炭水化物を過剰に、それもかなり過剰に摂取する必要があった。

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  • この余分な炭水化物の摂取は、2つの代償を伴った。
  • 高炭水化物食のバッタ は「成虫」まで時間がかかった
  • 第一が、「時間」である。
  • 低タンパク質/高炭水化物食で飼育されたバッタは、羽の生えた成虫に脱皮するまでの期間が長かった。成虫になるまでの期間が長くなればなるほど、繁殖のチャンスを得る前に鳥やトカゲ、クモに―あるいは別のバッタに――食べられる可能性が高くなる。
  • 第二の代償は、ふつう昆虫とは関係がないと思われていることだ。高炭水化物食で飼育されたバッタは、肥満になったのだ。バッタは体が外骨格に覆われているから、見ただけで太っているかどうかを判断するのは難しい。だが内側の体は豊満で、まるで太りすぎた騎士が数サイズ小さな甲冑に押し込められているようだった。
  • 高炭水化物食のバッタは、タンパク質ターゲットを達成するために、炭水化物を過剰摂取した。だが低炭水化物食のバッタはどうだったのか?そこでグラフ上のターゲットより下に位置するバッタを見てみよう。
  • ここではグラフの形状が右のほうに少々張り出しているのがわかるだろう。つまり、バッタのタンパク質摂取量はターゲットより少々多く、炭水化物摂取量はターゲットよりかなり少なかった。その結果、これらの点のバッタは、摂取ターゲットの餌で飼育されたバッタに比べ、やせすぎていて、成虫になるまで生き延びられる可能性が低かった。貯蔵脂肪が少ないため、長距離を飛行したり、野生で長く生き延びることはできなかっただろう。
  • まとめると、高炭水化物食を与えられたバッタは、(体が要求する量のタンパク質を摂取するために)延々食べ続け、その結果として太り、発達が遅れた。
  • 他方、低炭水化物食では、(タンパク質への欲求がすぐに満たされたため)炭水化物の摂取量は少なかったが、エネルギー不足の代償を支払った。

 

バッタ は「十分」なら タンパク質を無視した

  • そこでオックスフォードの私たちの研究室の博士課程学生、ポール・チェンバーズに頼んで、バックに解かせる栄養のパズルを作成してもらった。
  • チェンバーズはタンパク質と炭水化物の比率の異なる2種類の餌を、それぞれのバッタに与えた。
  • すべてのケースで、バッタはまったく同じ行動を取った。どんな組み合わせの食物を与えられようと、バッタはまったく同じ比率でタンパク質と炭水化物を摂取したのだ。
  • これを行うために、バッタは与えられた餌の組み合わせに応じて、2種類の食物の摂取量を大きく変える必要があった。人間にたとえれば、肉とパスタ、卵とパン、豆と米、魚とジャガイモのどの組み合わせを与えられても、まったく同じ比率でタンパク質と炭水化物を摂取したことになる。人間にとって、こんな芸当は到底不可能に思える。だがバッタは何らかの方法で、このパズルをやすやすと解いたのだ。
  • さらに驚いたことに、バッタの摂取したタンパク質と炭水化物の量は、バッタ大実験のグラフ上の摂取ターゲットにぴったり一致した。バッタはタンパク質と炭水化物の最も健康的な配合、つまり生存と成長を最も促進する配合を選択したのだ。
  • さらにこの実験は、不足している栄養素が食物に含まれているかどうかを、バッタがどうやって知るかまで明らかにした。
  • バッタはほかの昆虫と同様、口部や足、そのほかのいろいろな部分に味毛が生えている。味毛が食べられるものに触れると、バッタはその化学成分を分析したうえで、食べるかどうかを判断するのだ。たとえばバッタが最近十分なタンパク質を摂取していたなら、センサーはタンパク質を無視し、タンパク質がそこにあることすら認識しない。

 

  • バッタの食物の選択肢が豊富な場合には、食欲システム同士が協力し合い、バッタは食物を組み合わせて正確に適切なバランスの食餌を摂取できる。
  • だがバッタ大実験でのように、バランスの悪い食餌しか得られない場合には、タンパク質欲と炭水化物欲が競争する。そしてバッタの場合、どんなときも最終的に競争に勝つのはタンパク質だった。
  • バッタの摂食に関するこうした一つひとつの発見は、少なくとも私たちにとっては、それだけでも十分魅惑的だった。だがこれらの発見は、すべての人に関係する、それよりはるかに大きな問題を投げかけてきた。すなわち、バッタに見られることが、ヒトを含むすへての動物の食欲にも見られるのではないかという可能性である。

 

脳に満腹信号が届くまで「時間」が かかる

  • しかし食欲は、ただ食べ始めるよう体に指示するためだけに存在するのではない。同じくらい重要な働きが、「いつ食べるのをやめるべきか」を知らせることである。
  • 食物が消化されて栄養素が取り出され、血流に吸収されると、脳に満腹信号が送られる。だがこのプロセスの欠点は、信号が発動するまでに時間がかかることだ(実際、食事が終わるまで発動しないこともある)。脳が「ストップ」のメッセージを受け取るまでに、食ベすぎてしまうおそれがある。ドカ食いをして、10分前に満腹になっていたことに気づかず食べ続けた経験は誰にでもあるだろう。気づいたときにはあとの祭りで、すでに体内にカロリー爆弾を送り込んでしまっている。
  • これを避けるにはどうしたらよいのだろう?
  • 食べるペースを遅らせ、早く胃にたまり、栄養素が血流に吸収され脳にその存在を知らせるまで、時間を稼いでくれる何かが必要だ。さいわい、自然はその「何か」も用意してくれた。満腹感を高め、胃排出の速度を遅くし、胃腸を広げるものを。「食物繊維」だ。
  • バッタなどの草食動物やヒトなどの雑食動物にとって、食物繊維は植物性食物の嵩を増す主な成分である。
  • 食物繊維は植物の細胞や組織の構造を支え、主にヒトの消化酵素では分解できない複雑な構造の炭水化物でできている。だが一部の食物繊維は、腸内に棲む微生物によって分解される――これら数兆の微生物を総称して、「微生物叢」(マイクロバイオーム)という。
  • 腸内微生物は食物繊維の餌を得る見返りに、体が必要とする重要な栄養素(短鎖脂肪酸、ビタミン、アミノ酸など)を産生する。また免疫系を支え、腸を健康に保ち、心の健康にもよい影響をおよぼす。そして、こうしたすべての働きに加えて、満腹感を生み出す信号を発する。
  • 微生物叢は食欲制御システムの重要な部分を占めているのだ。

 

  • 第1のステップとして、ゴキブリを3つの群に分け、2日にわたって3種類の餌のうちの1種類だけを摂取させた。「高タンパク質/低炭水化物食」の群、「低タンパク質/高炭水化物食」の群、「中タンパク質・中炭水化物食」の群。人間でいえば、魚だけ、米だけ、魚と米の混合――つまり寿司の食事にほぼ相当する。
  • この期間が終了すると、第2ステップとして、すべてのゴキブリにこれら3種類の餌のビュッフェを提供し、好きなものを自由に食べさせた 。
  • 結果は驚くべきものだった。スティーヴンが例のタンパク質—炭水化物の摂取量グラフに結果をプロットしたとたん、すべてが明らかになった。
  • ゴキブリはただ栄養摂取のバランスを図っていただけでなく、私たちがその時点まで、いや今に至るまで観察した、どんな動物にも劣らないほどの正確さをもって栄養バランシングを行っていたのだ。

 

  • 第1ステップで低脂肪の餌生物を与えられていたゴミムシは、高脂肪食を明らかに選択し、また低タンパク質の餌生物を与えられていたゴミムシは、高タンパク質食を選択した。
  • 他方、座って待つ捕食者のコモリグモは、提供された餌生物を食べる量を変えることによって、摂取する栄養素を選んだ。つまり、脂肪が必要な場合には太った餌生物をより多く摂取し、タンパク質が必要な場合には細身の餌生物をより多く摂取した。
  • 最もめざましい行動を取ったのは、造網性のクモだ。クモの摂食方法は、獲物に消化酵素のカクテルを注入し、そうやって前消化しておいた栄養素のスープを呑み込んで、残った固形分を捨てる、というものだ。獲物の体の捨てられた部分を調べてみると、捕食者が必要としていた栄養素がとくに枯渇していることが判明したのである。
  • このことから、クモが獲物に注入する消化酵素のカクテルを調整することによって、特定の栄養素の必要を満たす能力をもっていることが推測される。

 

  • すべてのケースで、家庭のペットの餌の選択と摂食行動を駆り立てていた最も強力な要因は、栄養バランスだった。そのうえペット動物の進化の歴史に興味深い違いがあることも明らかになった。
  • ネコは、タンパク質の総エネルギー比率が52%の食餌を選んだ。これはイエネコやオオカミの祖先を含む、野生の捕食動物に典型的な比率である。
  • 他方イヌは、実験対象の5犬種すべてで、タンパク質エネルギー比率がわずか25-35%の食餌を選択した。この比率はイヌの祖先種であるオオカミの比率よりはるかに低く、雑食性動物にずっと近かった。このことから、イヌは家畜化の過程で人間の手によってネコよりも大きく変えられたと推測される。
  • 魅力的なドッグフードの缶詰や袋は、船に積まれることも、ステーション
    に届けられることもなかった。イヌたちは「ドッグフード」の発明前に、いや農業さえ発明されていない時代に、家畜化された祖先が食べていたような餌を食べるしかなかった。「人間の残飯」である。
  • おそらく、飼育されたネコとイヌが異なる主要栄養素の比率を好むのは、このためだろう。ネコは体が小さく、またネズミを減らす能力を買われることが多かったため、進化と家畜化の過程を通じて獲物を狩り続けた。
  • 体がより大きなイヌについては、人間と家畜の安全のために、家畜化の過程でオオカミに備わった狩猟本能を交配によって取り除くことに重点が置かれた。そうしてイヌは狩りではなく、人間の残飯に頼らざるを得なくなった。残飯は一般に肉食動物の獲物に比べ、炭水化物と脂肪の比率がずっと高いため、イヌはやがて飼い主である私たち雑食性動物に似た栄養を選択するようになったのだ。

 

「草食動物」と大差ない捕食動物の摂食行動

  • イヌの食餌の変化がもたらしたもう1つの帰結は、イヌがアミラーゼ(デンプン消化酵名) を生み出す遺伝子を増やすよう進化することによって、ほかの肉食動物に比べデンプンをより効率的に消化する能力を発達させたことだ。10章で見るように、ヒトも穀物などのデンプン作物の農業生産を行うようになると、同じような進化上の変化をたどった。
  • このことは、同じ環境条件――この場合でいえば農業がもたらした炭水化物の豊富な世界――が、異なる種の生物に同じような変化をもたらす、いわゆる収斂進化のプロセスを示している。イヌはヒト化してきたのだ。

 

「母乳」は赤ちゃんに合わせて成分が変わる

  • そう考えると、捕食動物を含むほぼすべての動物にとって、摂食とはぐらつく銃身で動く標的を狙うような、一か八かのプロセスだといえる。最適な栄養バランスを達成する見込みを少しでも得るためには、銃身を安定させることに特化した、相互作用する複数の食欲というかたちのメカニズムが欠かせない。
  • このメカニズムを必要としない例外はおそらくごくわずかで、非常に特殊な例に限定されるはずだ。
  • 例外の1つが、動物のすべての栄養ニーズを満たすために特別に設計された食べ物、母乳である。とくに魅惑的なのが、オーストラリアのダマヤブワラビーの例だ。
  • 赤ちゃんは母親のお腹の袋の中で生活するため、母乳以外のものを口にする機会がない。だが母乳は単一の食物とは名ばかりで、時間とともに複雑に変化し、赤ちゃんのその時々の発達段階に応じて栄養組成を変えていく。たとえば脳、肺、爪、毛の発達期には、それぞれに適した多様な配合のアミノ酸が生成される。
  • おまけにメスは年齢の異なる2匹の子を同時に袋に抱えることもある。その場合には、特定の年齢に必要な栄養のカクテルを生成する専用の乳首が、それぞれの子に与えられる。
  • それでも、袋の中の恵まれた環境を出て自立すれば、こうした種もほかの種と変わらない摂餌メカニズムをもつようになると予想される。栄養ごとに特化した食欲メカニズムを発達させる必要が生じるのだ。

 

生物は「プランB」を持っている

  • こうして私たちは、最初の問いに答えることができた。栄養バランシングは実際に種を超えて広く見られ、例外は1つとしてなかった。
  • この行動が、草食動物、雑食動物、肉食動物の家畜種・非家畜種に見られることを実験で示した。そしてその理由を説明するために、採餌理論を再考した。
  • だが私たちは、野生での動物観察をつねとする生物学者として、自然が親切にも栄養バランスの取れた食餌を確実に得られるほど豊富で多様な食物を提供してくれるのは、ごく限られた状況だけだと知っていた。
  • 現実世界には、動物がすべての栄養素を適量摂ることができない状況はままある。
  • そうしたアンバランスはごく頻繁に生じるため、動物はいわゆる「プランB」をもっているにちがいない、つまり食欲システムには、必要な栄養素が得られない状況に対処するための方法があるはずだと、私たちは推測した。あるものの過剰摂取と別のものの過少摂取の折り合いをつけ、バランスさせるための対処法が必要になるはずだ。
  • まさにこれが、バッタ実験が答えようとしていた問いである――バッタにとってのプランBとは何だろう?
  • その答えは、「バッタは最終的に、ほかの栄養素よりタンパク質を優先させ、タンパク質の摂取ターゲットを達成するために必要とあれば、発達を遅らせ、肥満になることも厭わない」だった。
  • では人間にとってのプランBとは何だろう? 私たちの知る限り、この質問は提起されたことも、ましてや答えられたこともなかった。
  • 私たちはこれを調べることにした。そして次に起こったことが、私たちのその後のキャリアの方向性を決定することになったのである。

 

  • だがヒトを対象とする研究は、食事内容の正確な記録が得られないことがネックだ。ほとんどの研究は、被験者の過去数日間の食事内容を自己報告に頼っている。問題は、人間が忘れっぽいことだ。そのうえ他人だけでなく自分にもズルをしたりウソをついたりする。
  • 栄養学者のジョン・デ・カストロの話が参考になる。
  • 彼は被験者に食事の写真を撮ってもらうことで、この問題を解決できたと思っていた。画像を見て思い出しながら質問票に記入してもらえば、まちがいは起こらないはずだと。
  • ところがそうはいかなかった。彼はこの現象を「ブラウニーの謎」効果と名づけている。カロリーたっぷりの濃厚なブラウニーはしっかり写真に収められていたのに、被験者は食事日記のスプレッドシートに果物や野菜、鶏ムネ肉を忠実に記録しながら、なぜかブラウニーだけは記入しなかったのだ。
  • 思い出し法に頼るより、ヒトの被験者をバッタと同じように扱ったほうが、より正確なデータが得られる――つまり人間を一定期間隔離・監禁し、たった1種類の乾燥した実験餌だけを与えるということだ。そうすれば摂食を信頼できる方法で確実に測定できるが.……その一方で志願者が殺到することもなくなってしまう。

 

  • 被験者は自由に食事を選択できた第1段階では、予想摂取量に近いカロリーを摂り、タンパク質のカロリー比率は約18%だった――この比率も予想どおりである。これまでの研究で、世界中の人々の標準値として5%から20%という比率が示されている。
  • ちなみに、これはケリーが30日の観察期間にわたってヒヒのステラで確認した主要栄養素の比率――タンパク質比率17%―にも非常に近い値だった。
  • 驚いたことに、被験者が高タンパク質食のグループと、高炭水化物・高脂肪食のグループに分けられた第2段階では、被験者全員が自由選択段階と同じタンパク質の摂取比率を維持した。つまりタンパク質の摂取ターゲットを達成するために、高炭水化物・高脂肪食だけを与えられたグループは、自由選択段階に比べて総摂取カロリーを35%増やさなくてはならず、他方高タンパク質食だけを与えられた被験者は、摂取カロリーを38%減らしたのだ。
  • 被験者の大学生の反応は、明らかにバッタと同じだった。タンパク質に対する食欲が、食品の総摂取量を決定していたように思われた。

 

  • プラスチックの箱に1匹ずつ入れられたバッタとは違って、学生はきわめて社
    会的な環境で食事をしており、仲間の選択の影響を受けやすかった。また、動物は好きなときに食べるのを止められるのに対し、人間は残すのは悪いから、もったいないからといった理由で、皿にあるものをすべて食べようとする。これを表す、「強迫性完食」という科学用語まであるほどだ。
  • こうした潜在的欠陥があるとはいえ、レイチェルの実験は非常に興味深い結果を示していた。バッタとヒトの行動の類似性を確認したことで、自信をもって次の仮説を立てることができた。
  • 「タンパク質が不足しているがエネルギーが豊富な食環境では、ヒトはタンパク質の摂取ターゲットを達成しようとして、炭水化物と脂肪を過剰摂取する。だが高タンパク質食しか得られない場合は、炭水化物と脂肪を過少摂取する」
  • このことがもつ意味は、計り知れないほど大きい。
  • 身体活動で消費されるカロリーが不変と仮定すれば、高炭水化物・高脂肪食はやがて体重増加を招き、高タンパク質食は体重減少につながる。いずれにせよ、どんな場合にも最優先されたのは、一定量の――多すぎず、少なすぎない量のータンパク質の摂取であるように思われた。
  • これが、私たちが食べるほかのすべてのものに影響をおよぼすタンパク質の力、すなわち「タンパク質レバレッジ」である。

 

  • 国連食糧農業機関(FAO)の栄養素利用可能性(栄養摂取と同義ではないが、十分近い)に関するデータベースによれば、1961年から2000年にかけて、アメリカの平均的な食事組成は重要な変化を遂げ、タンパク質比率は14%から12.5%に低下した。
  • その分上昇したのはもちろん、脂肪と炭水化物だ。
  • アメリカ人は、このタンパク質比率の低下した食事でタンパク質の摂取ターゲットを達成するには、総摂取カロリーを13%増やすしかなかった。そしてその結果が、エネルギー(カロリー)余剰と、ひいては体重増加である。
  • 誰も注意を払っていなかったが、ここ数十年間の動きをひとことでいえばそうなる。

 

人は「スイーツ」より「しょっぱいスナック」が食べたい

  • 興味深いことに、余剰カロリーのほとんどは、食事量の増加ではなく、間食から来ていた。
  • 実験では甘い系としょっぱい系の両方のスナックを提供した。たぶんあなたは、余剰カロリーはすべてスイーツのせいだと思うだろう。ところがそうではなかった。増加したカロリーのほぼすべてが、しょっぱい系の、旨みの感じられるスナックから摂取されていた。
  • 旨みは食品がタンパク質を含んでいることを知らせるシグナルだ。低タンパク質/高炭水化物・高脂肪食の被験者は、味だけタンパク質に似せて高度に加工された食品を食べていたため、体がタンパク質を欲し続けていたのだ。

 

6章のまとめ

  1. ヒトはバッタと同様、ターゲット量のタンパク質を摂取することを優先させる。
  2. ヒトはタンパク質が欠乏し炭水化物が豊富なこの世界で、タンパク質のターゲットを達成するために、炭水化物と脂肪を過剰に摂取し、肥満のリスクを負っている。
  3. 食事のタンパク質比率が高い場合、ヒトはタンパク質の過剰摂取を避けるために、炭水化物と脂肪の摂取を減らす。
  4. 高タンパク質食が減量を促すのは、このためである。だがなぜカロリー不足のリスクを負ってまで、タンパク質の過剰摂取を避けようとするのだろう?

 

  • 自然環境では、ハエは寿命を延ばすか、産卵を増やすかのどちらかの目的のために食べることはほぼまちがいない。いいとこ取りはできないのだ。
  • しかし、ハエは食べるものを自由に組み合わせることができる場合、どちらの選択肢を選ぶだろう?
  • この疑問に答えるために、別の実験でハエに赤ちゃんか長寿かを選ばせた。つまり、高炭水化物食(長寿)か、高タンパク質食(多くの卵)かのどちらかを選択できるようにした。
  • 「ハエが取った行動のヒントを教えよう。あなたがこの状況でたぶん選ぶだろう選択肢の反対を選んだのだ。そう、ハエは最長寿命ではなく、最多産卵数を支えるタンパク質と炭水化物の組み合わせを選んだのである。
  • 人間でいえば、これは15人の子を産んで40歳で死ぬことに相当する。200年ほど前の人の一生は、まさにそんな感じだった。当時生まれた子どものほとんどが、5歳になる前に亡くなっていたことを考えるとうなずける。
  • だが少なくとも現代に暮らす私たちにとっては、そんなによい話には思えない。しかしショウジョウバエ(とおそらくヒト以外のほとんどの種)は、長生きすることより、できるだけ多くの遺伝子を残すことを重視する。

 

7章のまとめ

  1. タンパク質の過剰摂取に何らかの代償が伴うかどうかを明らかにするために、ショウジョウバエを使った実験で、主要栄養素の摂取比率の違いがハエの生涯におよぼす影響を調べた。
  2. 最長寿命と最多産卵数には、それぞれ別の食餌が必要だった。「低タンパク質/高炭水化物食」で飼育されたハエが最も長生きした。「高タンパク質/低炭水化物食」は早死を招いた。タンパク質比率が高めで炭水化物比率が低めの―だがタンパク質比率が高すぎない――餌で飼育されたハエが、最も多くの卵を産んだ。
  3. より複雑な動物、たとえば哺乳類についてはどうなのだろう?

 

  • このように、肥満は予想以上に複雑だということをマウスは教えてくれた。
  • 単にやせているからといって、健康で長生きできるわけではない。それどころか、高タンパク質/低炭水化物食のセクシーなやせたマウスは、すべてのマウスの中で最も寿命が短く、見栄えのいい中年の死体になった。なぜなら、高いタンパク質対炭水化物比は、急速な老化に関連する経路を激しく活性化させ、細胞とDNAの修復・維持メカニズムを弱め、老化やがん、そのほか慢性病を促進する比率でもあるからだ。
  • これは望ましい状態とはいえない。そしてこれはおそらく、マウスに限った話ではない。なにしろ老化と代謝に関する限り、人間はマウスと生物学的に同じなのだ――今説明した長寿システムと成長・繁殖システムは、すべての生化学的詳細に至るまで人間とマウスでほぼ同一である。

 

  • それでも興味深いことに、私たちの実験結果だけをもとに、彼らの食事の主要栄養素のバランスが健康寿命を延ばすことを予測できるのだ。
  • ブルーゾーンの住民の中でおそらく最も有名なのは、日本の沖縄島の人々だろう。沖縄は100歳以上の人口割合がほかの先進国平均の5倍である。サツマイモと葉物野菜を主体とし、少量の魚と赤身肉を組み合わせた伝統的な沖縄食は、タンパク質比率がわずか9%(食糧難の地域を除けば世界最低水準)、炭水化物が的%、そして脂肪がわずか6%だ。これは実験の最長寿命のマウスが摂取していた比率にほぼ相当する。
  • 伝統的な沖縄の食事を摂っている人は、肥満とほぼ無縁だった。その理由の1つは、食事の食物繊維含有率が高いからである。
  • これは重要なことだ。食事に十分な食物繊維が含まれると、カロリーの過剰摂取を駆り立てるタンパク質レバレッジの効果が弱められる。食物繊維は胃で膨潤し、消化速度を遅らせ、腸内微生物の餌になる――これらすべてが組み合わさって、空腹感を抑える効果がある。
  • この食物繊維の多くが、沖縄の人の主な炭水化物源であるサツマイモや、そのほかの野菜や果物に含まれているのだ。

 

8章のまとめ

  1. 私たちはマウスの大規模研究に着手し、タンパク質、炭水化物、脂肪、食物繊維の比率の異なる餌で、生涯にわたってマウスを飼育した。
  2. マウスもハエと同様、低タンパク質/高炭水化物食が最も寿命が長く、最も中高年期の健康状態がよかったが、最も繁殖能力が高かったのは高タンパク質/低炭水化物食だった
  3. 低タンパク質食は、成長と繁殖につきものの損傷からDNAと細胞、組織を守る、長寿経路を作動させることによって寿命を延ばした。長寿経路は、イースト細胞から人間までのあらゆる生物に普遍的な仕組みである。
  4. タンパク質、脂肪、炭水化物、そして食物繊維のダイヤルをひねることで、インスリン抵抗性を伴う/伴わない肥満を予防することも起こすことも、寿命を延ばすことも縮めることも、繁殖を促進することも阻害することも、筋肉量を増やすことも減らすことも、腸内微生物叢や免疫系を変化させることも、それ以外の多くのこともできる。私たちは多くの目的を実現するために食事を調整する新しい方法を発見した。

 

  • 1つの可能性として、食品メーカーは意識的にだろうとなかろうと低タンパク質食に向かって舵を切りつつあり、私たちはそれに反応して食べる量を増やしているとも考えられる。まさに、実験で私たちが餌のタンパク質比率を減らしたときに、バッタが行ったのと同じ行動だ。これは不健康な食品をたくさん売るのに都合のよい作戦だが、カルロスの分析によってすでに示されているように、肥満や病気、早死を防ぎたい人にとっては、都合がよいとはいえない。
  • 何年も前に行ったバッタの実験をきっかけに始まり、野生の霊長類にまで対象を拡大した私たちの分析は、肥満の蔓延についての画期的な新しい手がかりをもたらした。超加工食品を食べると太るのは、一般に考えられているように、そうした食品に含まれる脂肪と炭水化物に対する強い食欲が原因なのではない。
  • そうではなく、私たちのタンパク質欲が、脂肪と炭水化物の摂取を制御する能力よりも強いから、太りすぎてしまうのだ。そのため、超加工食品に見られるように、タンパク質が脂肪と炭水化物によって希釈されると、タンパク質欲が、本来脂肪と炭水化物の摂取を制御するはずのメカニズムを圧倒してしまう。
  • その結果、必要以上に、つまり健康によい摂取量以上に食べすぎてしまうのだ。

 

  • 人間がオランウータンと違って、果物の食べすぎで太らない理由は、食物繊維にある。人間は類人猿ほど多くの果物を食べられないのだ。
  • それに、人間がなぜ超加工食品を食べて太るのかも、繊維によって説明できる。
  • 工業的に生産された大量の作物が、食品加工機械によってデンプンと糖に変換される際、取り除かれる主なものの1つが食物繊維だ。いったん除去された繊維はけっして――少なくともその多くは――食品には戻らない。バッタやマウス、オランウータン、そしてリンゴジュースの例から学んだように、食物から繊維を取り除くのは、食欲のブレーキを切ってしまうようなものだ
  • そう考えると、近年肥満と超加工食品が切っても切れない関係にある理由が理解しやすくなる。

 

  • どちらの国でも、結果は同じだった。脂肪含有量は食品価格にほとんど影響をおよぼさなかった。つまり脂肪から得られるカロリーは、価格押し上げ効果が非常に小さかった。
  • 他方、タンパク質は強力な影響をおよぼし、タンパク質が多いほど、商品の価格は高かった。驚いたことに、炭水化物はかえって価格を下げた。炭水化物が多く含まれる食品ほど、価格は安かったのだ!
  • 加工食品のメーカーがなぜタンパク質をケチり、炭水化物と脂肪を大盤振る舞いしようとするのかは明らかだ。それによって、製造原価を抑えられるからだ。そのうえ今見たように、消費者の食欲を操作して過食させることまでできるという、おまけまでついてくる。

 

  • 栄養素は 脂肪、炭水化物、タンパク質、そして塩も食物に風味を与える重要な
    要素である。つまり繊維の比率が低いと、食べ物はおいしくなるのだ。私たちの初期のバッタ研究がこれを裏づけている。味蕾を刺激する栄養素の濃度を高めると、電気信号がバッタの脳により速く到達し、食べるようバッタを促したのである。
  • したがって、超加工食品の繊維含有量を減らすことが、なぜメーカーの利益になるのかはすぐわかる。味がよくなるからだ。
  • バッタで見られたこの影響は、史上最大の健康危機の1つである、超加工食品の蔓延の理由を説明する。食事を決定する2つの要因―――どの食品を選ぶか、それをどれだけ食べるか――が両輪となって、この危機を助長したのだ。
  • 繊維が少なく脂肪と炭水化物が多い食品はおいしいから、選びがちになる。おまけにタンパク質をあまり含まないから、製造原価が低い。そして、低タンパク質・低繊維・低価格の三拍子揃った食品は、ついつい食べすぎてしまう。
  • かくして超加工食品が全面的勝利を収めるというわけだ。

 

「高血圧」の子どもになる

  • 赤ちゃんのぽっちゃりした皮下脂肪、とくに腕と脚の脂肪は、健康的な人間の乳児の特徴である。だが内臓脂肪の多さは警鐘を鳴らした。子どもたちの4歳時の追跡調査で、警鐘はさらに大きくなった。
  • 妊娠中に低タンパク質食を摂っていた女性の子どもに、血圧上昇の徴候が見られたのだ。
  • ミシェルとクレアのデータが発していたメッセージは明らかだった。
  • 妊娠中の女性は、自分自身と赤ちゃんの健康のために、タンパク質比率が18%から20%で、健康的な脂肪と炭水化物を組み合わせた食事を摂ることが望ましい。
  • 重要なことに、タンパク質比率が18%から20%で、低脂肪(30%)・高炭水化物(50%)の食事を摂っていた女性が、微量栄養素の摂取が最も多かった。おそらく、主要栄養素がこの比率で含まれる食事を摂るためには、植物性と動物性の多様な食品を食べる必要があり、そのような食事にはビタミンとミネラルが健康的な比率で含まれるからだろう。

 

乳児は「最もタンパク質比率が低い食事」がベスト

  • 新生児は、食事に関して自分で選択できることはほとんどない。母乳で育てられる場合は、炭水化物比率55%(主に乳糖)、脂肪比率38%の低タンパク質(約7%)食を与えられる。これは人間が飢饉でもない限りけっして食べない、タンパク質比率が最も低い食事だ。だが離乳までの乳児にとっては、紛れもなく最適な食事組成である。
  • これはすべての霊長類に共通することだが、その理由が興味深い。霊長類は大きな脳をもち、複雑な社会生活を送るから、大人として知る必要があるすべてのことを学ぶために、長い幼少期を必要とする。低タンパク質の母乳は成長を遅らせることで、これを可能にするのだ。
  • また、母乳が最適な理由はもう1つある。
  • 市販の乳児用調合乳で育った人間の赤ちゃんは、母乳で育った赤ちゃんに比べ、その後の人生で肥満になりやすいことが研究で示されている。市販の調合乳の多くは、母乳よりもタンパク質含有量が多い。新生児に高タンパク質(通常の7%よりも高い11%)の調合乳を与えた実験でも、同じ結果が得られた。

 

13章のまとめ

  1. タンパク質とエネルギーの必要量は、ライフスタイルによって、また誕生から老齢まで生涯を通して変化し続ける。タンパク質ターゲットは、出生より前に、親のライフスタイルによって決定されることさえある。
  2. タンパク質ターゲットが高いほど、それを達成するために多くの食べ物を食べなくてはならない。食物繊維が少なくエネルギーが高い食事の場合、タンパク質ターゲットを達成するために余分なカロリーを摂取しなくてはならない。この結果、体重増加とインスリン抵抗性(糖尿病前症)のリスクが高まる。
  3. インスリン抵抗性は体内のタンパク質が減少する速度を高めるため、タンパク質ターゲットはさらに上昇し、過食と持続的な体重増加、2型糖尿病や心臓病、そのほかの健康問題を助長する悪循環が生じる。
  4. この悪循環を抜け出すにはどうしたらいいだろう?

 

「タンパク質欲」は普遍的な欲求

  1. タンパク質に対する特別な渇望は、普遍的な欲求だ。タンパク質欲は、あらゆる動物が栄養素の摂取ターゲットに到達するのを支援するために進化した。動物はタンパク質が必要になると、その風味への渇望を感じる。ヒトはタンパク質が不足すると、あの食欲をそそる旨みにたまらなく引きつけられる。
  2. タンパク質欲は、ほかのいくつかの食欲――主に炭水化物、脂肪、ナトリウム、カルシウムに対する食欲――と協力して、健康的でバランスの取れた食餌を摂るよう動物を誘導する。
  3. この誘導システムは、自然の食環境の中で進化した。この環境では、食べ物に含まれるすべての栄養素の間に、確かな相関関係が存在した――これらたった5つの栄養素の摂取を調整するだけで、おのずとそのほかの数十の有益な物質を含む、バランスの取れた食餌を摂ることができた。
  4. だが自然にあっても、特定の食べ物が不足してバランスの取れた食餌が摂れなくなることがある。そういう状況になると、食欲は協力するのをやめて、競争する。
  5. ヒトをはじめとする様々な種では、競争に勝つのはタンパク質だ。その結果、タンパク質欲が、全体的な摂食パターンを決めるようになる。
  6. 食環境にタンパク質が不足していれば、私たちはタンパク質欲が満たされるまで食べ続ける。他方食事のタンパク質比率が、体が必要とするよりも高ければ、タンパク質欲は早めに――総摂取カロリーが少ないうちに―満たされる。
  7. だからといって、タンパク質が多ければ多いほどよいというわけではまったくない。イースト細胞からハエ、マウス、サルまでの生物は、タンパク質を過剰摂取しないよう進化した。それにはいくつか理由があるが、主な理由は、タンパク質を摂りすぎると、老化を早め寿命を縮める生物学的プロセスが作動するからである。
  8. 私たちは、食システムの工業化によって、栄養バランスを図る能力を著しく阻害されている。人間は食環境に次のような影響をおよぼしてきた。
  • 低タンパク質の加工食品に、糖、脂肪、塩、化学物質を添加して、不自然においしくした。
  • 安価な超加工脂肪と炭水化物を大量に投入して、食料供給におけるタンパク質の存在を希釈した。
  • 満腹感を高め腸内微生物の餌になる、食物繊維の摂取を減らすことによって、食欲システムのブレーキを解除した。
  • 子どもを含む消費者に超加工食品を積極的に売り込むことで、世界の食文化を変容させ、超加工食品を定着させた。
  • 食肉タンパク質への世界的な需要を満たすために、食肉生産を持続不可能な方法で増やし、環境に負荷を与えた。
  • 環境中の二酸化炭素濃度を高めることで、主要食用作物のタンパク質含有量を減少させた。
  • ここに挙げた点を、正直なところ、とても危険な徴候だと考えている。これらはとりもなおさず、人間が栄養に関わるみずからの生物学的機構と相容れない食環境を生み出したことを示しているからだ。
  • だが希望の光はある。今や私たちは十分な知識をもち、生物学的機構と敵対するのではなく協力して、問題を解決し始めることができるのだ。

 

  • 高タンパク質食ダイエットが流行り始めたのは、しばらく前のことだ。
  • この考えを広めたのは、ロバート・アトキンスの著書だった。アトキンスは減量のために、低炭水化物・高脂肪・高タンパク質食を推奨した。彼は正しかった。その理由はもうおわかりだろう。そうした食事では、タンパク質欲が満たされ、全体的に食べる量が減るからだ。
  • アトキンスに続いて、パレオダイエット、ケトジェニックダイエット、肉食ダイエットなど、低炭水化物食やゼロ炭水化物食を推奨するダイエットが流行した。肉、魚、卵、バターだけを食べて、楽に体重を減らし、強壮で動物的な健康を手に入れよう、という考えである。
  • こういった手法はどれも確実に減量を促す。タンパク質を十分摂ることで飢えが満たされるうえ、超・低炭水化物のケトン食を摂る(1日当たりの炭水化物摂取量を20gーリンゴ1個分に相当―以内に抑える)と、体は細胞の主な燃料としてグルコース(ブドウ糖)の代わりに、脂肪の分解産物であるケトンを燃やすようになるからだ。
  • またケトンはタンパク質の摂取量が少ないときにも、カロリー摂取を抑制する効果があると考えられている。

 

  • 自分の「タンパク質ターゲット」を理解する
  • あなたのタンパク質の摂取ターゲットを、次の3ステップで推定しよう。

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  • ステップ1:あなたの年齢、性別、活動量をもとに、1日のエネルギー(カロリー)の必要量を推定する。「ハリス・ベネディクト法」と呼ばれる式を使って計算してくれるサイトを利用しよう。
  • ステップ2:このカロリーのうち、どれだけをタンパク質から摂る必要があるか(つまりあなたのタンパク質摂取ターゲット)を推定しよう。ステップ1で出した値に、次の係数をかけて算出する。
  • 子ども、青少年:0.15(タンパク質比率15%の食事を意味する)
  • 若年成人(8歳~30歳):0.18
  • 妊婦、授乳婦 :0.20
  • 成熟した成人(30代):0.17
  • 中年(0歳~6歳):0.15
  • 老年(8歳超):0.20
  • ステップ3:ステップ2で算出した値を4で割って、1日に摂取すべきタンパク質のグラム数を算出しよう(タンパク質1gは4%に相当する)。

 

  • 「超加工食品」を避ける
  • 超加工食品を避けよう。目の前にあると食べてしまうから、家の中にもち込まないのがいちばんだ。そういう食品はついつい食べてしまうようにできている。
  • 超加工食品は、世界的な慢性病の蔓延を引き起こした最大の原因である――栄養と食欲の相互作用を悪用してきたのだ。
  • こうした食品を見分ける方法はあるだろうか? カルロス・モンテイロ自身が、次のように説明している。
  • 「超加工食品を見分ける実用的な方法としては、NOVA超加工食品群に特徴的な成分が少なくとも1種類以上、原材料のリストに含まれているかどうかを調べるといい。つまり、キッチンでけっしてまたはめったに使われない食品成分(高果糖コーンシロップ、水素添加油脂やエステル交換脂肪、タンパク質加水分解物など)、または最終製品の嗜好性や魅力を高めるための添加物(香味料、旨み物質、着色料、乳化剤、乳化塩、甘味料、増粘剤、消泡剤、充填剤、炭酸化剤、発泡剤、ゲル化剤、つや出し剤など)である」

 

  • 「高タンパク質食品」を食べる
  • 多種多様な動物性食品(鶏肉、肉、魚、卵、乳製品)および/または植物性食品(種、ナッツ、豆)の中から高タンパク質食品を選び、タンパク質の摂取ターゲットを満たすとともに、タンパク質欲を最もよく満足させるバランスでアミノ酸が含まれた食事を摂ろう。
  • ベジタリアン(悪いことではない)の人は、さらに多様な食品を食べる努力をしなくてはならない。単一の植物性タンパク質は、多くの動物性タンパク質に比べ、アミノ酸のバランスが劣る傾向にあるからだ。

 

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  • 具体的にタンパク質の摂取ターゲットを達成する方法を理解しやすいように、チャールズ・パーキンス・センターの研究仲間で栄養学者のアマンダ・グレッチ博士が作成してくれた、主要な食品のタンパク質、脂肪、炭水化物、カロリー、飽和脂肪、ナトリウム含有量の表を331ページから載せておく。

 

  • 「繊維」を食べる
  • 人間は生理学的機構が進化した太古の時代に、今よりずっと多くの食物繊維を摂取していた。今日、食欲とともに食事中の食物繊維が、何を食べるかをコントロールする役割を担っているのは、そのためである。
  • 多量の葉物野菜、非デンプン質の野菜、果物、種、全粒穀物を食事に含め、体にカロリ1負荷をかけずに繊維を確保して、食欲ブレーキを再起動させよう。豆や種、乾燥豆(ライ豆、インゲン豆、ひよこ豆、ササゲ、レンズ豆など)を食べることでも、繊維とタンパク質 、健康的な炭水化物を増やすことができる。
  • ビタミンとミネラルが摂れ、サプリメントの必要性が薄れるというおまけつきだ。

 

  • 「カロリー」信奉をやめる
  • カロリー計算にこだわらないこと――きちんとした食事を摂れば タンパク質欲があなたの代わりにカロリーの面倒を見てくれる。
  • 高タンパク質の食品には、良質な炭水化物と脂肪を含む多量の野菜や果物、豆、全粒穀物をつけ合わせよう。そうすれば三大栄養素の食欲をすべて満たすことができる。

 

  • 食べ物を「混ぜ物」にしない
  • 食べ物に加える砂糖や塩は控えめにし、脂肪分を加えるときは「エキストラバージンオイル」などの健康的なものを選ぼう。

 

  • 「空腹」のときに食べる
  • 1から6までのすべてを行っても、単にタンパク質の摂取ターゲットと総エネルギー必要量の推定値を満たしただけにすぎない。
  • これを出発点にして、自分の食欲を自分でコントロールしていると感じられるようになるまで――食事どきに空腹を感じ、食後と食間は満足できるようになるまで 量を増減して調整しよう。

 

  • 「塩味」がほしいことの意味を知る
  • 食欲に耳を傾けよう。自分の胸に尋ねよう――「今ほしいのは、塩味や旨みなのだろうか?。もしそうなら、タンパク質が必要なことを、体が知らせているのだ。 
  • そんなときは、ニセのタンパク質(超加工食品のしょっぱい系のスナックなど)の誘惑にとくに屈しやすくなっている。
  • 誘惑に負けてはいけない――代わりに良質のタンパク質食品を食べよう。

 

  • 「食欲」を信じる
  • その一方で、必要と感じる以上のタンパク質を摂らないようにしよう。タンパク質欲が適量を教えてくれるし、摂りすぎにはデメリットがある。
  • 食欲は計算サイトよりも正確な測定器なのだ。

 

  • 運動時は「20~30g]タンパク質を摂る
  • 運動して筋肉量を増やしているときは、1回の食事につき3gから30gのまとまったタンパク質を摂ると、新しい筋肉タンパク質を形成するための細胞機構が最もよく活性化されることがわかっている。この量が、筋肉合成を起動させるのに最適な量だ。
  • 筋肉合成に関わる機構とは、8章で説明した成長・繁殖経路のことだ。この経路は必然的な副産物として細胞のゴミを放出し、細胞とDNAに損傷を与える。タンパク質を0gから30g含む食事を摂ると、タンパク質合成のスイッチが2時間ほど入り、悪影響をその時間に限定することができる。

 

  • 「食べない時間」を1日の中につくる
  • 細胞とDNAの修復・維持を促すために、夜間は断食し、間食を控えよう。
  • たとえば午後8時から翌朝の朝食までは何も食べないようにするなど。毎日の断食によって長寿経路が活性化されるうえ、夜遅くに余分なカロリーを摂取するリスクが減り、眠りにつきやすくなる。
  • 世の中の減量プログラムには、カロリー制限を伴うものがいろいろある(有名なものでは「5:2断食ダイエット」〔1週間のうち5日間は普通の食事をし、2日間は食事制限をする)など)が、たとえ全体的な摂取カロリーを減らさなくても、1日のうちの食べる時間帯を制限する(「間欠的断食」や「時間制限摂食」など)だけでも健康効果があることが、研究によって示されている。
  • なぜ効果があるかといえば、数時間の断食によって、損傷を引き起こす成長経路がオフになり、健康と長寿を支える細胞とDNAの修復・維持プロセスが活性化されるからだ。
  • 寝ている間は何も食べられない。つまり夜間の睡眠は、たまった細胞のゴミを一掃し、日中にDNAと細胞が受けた損傷を修復する機会になる。このことは体内のすべての細胞についていえるが、とくに顕著なのが脳細胞だ。時間制限摂食と良質な睡眠が、心身の健康を増進するのも当然である。

 

  • 「体内時計」に合わせて眠る
  • よく眠ろう。睡眠は、食事・運動とともに、心身の健康の3本柱の1本である。睡眠と栄養は、体内時計を通じて結びついている。
  • 私たちの生物学的機構は、脳にある「親時計」によってコントロールされている。親時計は約1時間周期で動き、睡眠と覚醒、体温、腸運動、血圧、インスリン感受性等々の1日のリズムを刻んでいる。親時計はメラトニンなどのホルモンを利用して、それぞれの臓器にあって別々に動いている子時計を同期させる。実際、細胞の一つひとつに個別の体内時計があり、それらはDNA複製やインスリンシグナル伝達などの基本的な細胞プロセスと緊密に結びついている。
  • 細胞や臓器にある子時計の同期が乱れると、具合が悪くなる。時差ボケに苦しんだことがある人ならわかるだろう。長期のシフト労働者は、肥満や糖尿病、心血管疾患、がんになりやすい。
  • だが体内の親時計はデジタル腕時計のように正確には動かない。少しずつ遅れていくため、信頼できる環境刺激によって毎日リセットする必要がある。時刻設定の主な手がかりになるのは日光だが、食事のタイミングも重要だ。体内時計が睡眠を予期する時間帯に明るい光にさらされたりものを食べたりすると、体内時計システムは撹乱され、それが続けばいつか健康を害してしまう。

 

  • こもらず「外」に出る
  • 活動的になろう――できれば戸外に出よう――そして社交的になろう。身体活動と社会交流は、健康増進と長寿と明らかな相関関係にある。

 

  • つくってみる
  • 大好きな料理を自分でつくれるようにしよう――そしてつくり方を子どもにも教えよう。 それは親が子どもに与えられる最高の贈り物の1つである。

 

  • 「流行り」に惑わされない
  • (超加工食品をできるだけ減らしながら)好きなものを食べよう。栄養バランスのよい食事を摂る方法は無限にある。特別な医療上の理由がない限り、どの食品群(穀物、乳製品など)も除外する必要はないし、また苦手なものや自分の食文化に適さないものを食べる必要もない。
  • 世界の伝統的な食文化や新しい食文化は、地域や歴史、宗教と深く結びつき、人々の生活をゆりかごから墓場まで、病めるときも健やかなるときも支えてきた。いま流行りの、 ヴィーガンからケトンまでの様々な栄養哲学は、特定の状況では健康的な食事になるが、ほとんどの人は続けることができないし、また経済的な既得権益や怒り、狂信が深く絡んでいる。
  • 私たちの物語はこれでおしまいだ。動物が健康的な食事について教えてくれたことを、 あますところなく説明した。
  • 本書ではここまで、いろいろな数値や数式、科学的事実を挙げてきた。これらは健康的な生活を送るための重要なガイドとして活用できるし、ぜひそうしてほしい。
  • だがそれだけが健康的な生活だと思ってはいけない。むしろ本書から得た知識や気づきを、旅行中に地図を使うように、そうした生活に到達するための道しるべや、迷子になったときの参考書として使ってほしい。
  • やがて、ただ健康的な食環境に向かって舵を切り(そして不健康な食環境から遠ざかり)、食欲に耳を傾けるだけで、ことさら意識しなくても楽しく健康的な食事ができるようになる。スポーツや楽器、自動車の運転を習うのに似ている。最初は集中して、意識的にルールを適用し、練習を積み、悪い習慣を捨て去る必要がある。だがいつのまにか、それが生まれつきの習慣のようになる。
  • いや、健康的な食事は、そもそも生まれつきの習慣のはずだ。粘菌からヒヒまでの生物は、数値や数式、スポーツ、音楽、自動車が発明される前から、数百万年間もそういう食餌を摂り続けてきたのだから。