佐々木敏の栄養データはこう読む!

  • 動物性の脂は総じて血液中のコレステロールを上げます。でも、それはコレステロールが含まれているからというよりも、飽和脂肪酸が多くて不飽和脂肪酸が少ないからという理由のほうが大きいようです。
  • コレステロール・ゼロ」と書かれた(しかもかなり大きく)植物油のラベルに見覚
    えのある人はいませんか? 誤りではありませんが、「ほかの製品(植物油)にはコレステロールが入っているけれど、この製品には(特別に)入っていないから健康によいのだ」という誤解を消費者に与えてしまいそうで、少し心配です。
  • 揚げ物の揚げ油ではコレステロールは上がらないと考えてよいみたいです。日本人がよく使う種類の揚げ油なら、血液中のコレステロールは上がりません。とはいえ、あくまでも、揚げ物も含めた食事全体の総エネルギー (カロリー)は一定という条件つきです。揚げ物に限らず食べすぎは肥満を招き、肥満は血液中のコレステロールを上げる方向に働きます。肥満を防ぐためにも野菜たっぷり。は基本と考えたいところです。
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トランス型脂肪酸の化学
  • 脂質(あぶら)は脂肪酸でできています。脂肪酸は炭素を背骨に持つ鎖状の物質です。通常、脂肪酸の炭素同士は互いに1本の結合の手を出し合って結合しています。
  • でも、ときどき結合の手を2本出し合っている場合があります。それぞれ飽和結合、不飽和結合(二重結合)と呼んでいます。不飽和結合が一つでもあれば不飽和脂肪酸、すべて飽和結合ならば飽和脂肪酸です。さらに、不飽和結合の前後の炭素のつながり方は図1のように2種類あります。不飽和結合のところで背骨が折れ曲がるタイプがシス型結合、まっすぐなタイプがトランス型結合です。食品に含まれる脂肪酸の不飽和結合はシス型がほとんどで、トランス型結合の多くは、シス
    型の不飽和脂肪酸を使って工業的にマーガリンやショートニングなどの加工油脂を作るさいにできるもののようです。ほかには、牛乳や牛などの反芻動物の脂にもともと少しだけ含まれています。
  • 興味深いことに、人の体はシス型の不飽和結合しか不飽和結合だと認識しません。そのため、トランス型脂肪酸不飽和脂肪酸としての働かず、むしろ、飽和脂肪酸に近い影響を体に与えると考えられます。さらに、この影響は工業的に作られたトランス型脂肪酸で特に顕著なようです。
飽和脂肪酸との比較

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  • 腐敗の原因となる微生物の多くは、極端な低温や高温では活動できません。しかし、加熱すれば食品そのものが変質してしまいますから、冷やす、つまり冷蔵または冷凍して保存することが、塩を使わない最も確実な食品保存の方法であるわけです。
  • 冷蔵庫がわが国の一般家庭に普及し始めたのは1960年ごろです(図2)。そして、1年には9割の家庭に普及し、8年には3%に達しています。つまり、われわれが日常的に冷蔵庫で食べ物を保存し始めてからまだ半世紀にも満たないわけで、これは、人類の歴史から見れば、ごく最近というべきでしょう。このように、「塩」は、食品を腐敗から守ることによって人類を食中毒から守ってくれていたとてもありがたいものだったのです。なお、「微生物から水を奪う」という点では、乾燥や砂糖漬けなども同じ原理です。

 

  • 生活習慣病対策のために世界全体がとるべき5つのアクション
  • タバコ、食塩、肥満・不健康な食事・運動不足、有害飲酒、心血管系疾患のリスクの低下 

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ノーソルト・カルチャー

  • われわれ日本人には信じがたいことですが、食塩をほとんど使わない民族の存在が世界で数か所知られています。不思議なことには、アマゾン河上流域の熱帯雨林のなかなど、すべて熱帯に住んでいます。蒸し暑い気候で汗をたくさんかくため、相当量の食塩が必要なのではないかと考えがちですが、これは誤りのようで、食料を長期保存する必要がなかったからという理由のほうが確からしそうです。調味には、食塩の代わりに灰を使うそうです。灰はカリウムが豊富で、カリウムはナトリウムとは逆に高血圧を予防してくれるミネラルです。驚くことに、彼らの血圧は一生を通じてほとんど変わらず(加齢に伴う血圧上昇はなく)(図3)、その結果、高血圧の人はほとんどいません。

日本人にとってとりにくいカリウム。どんな食品からもとることができますが、少しだけくふうが必要です。

  • 野菜を水に浸すと、カリウムは水溶性なので、水に溶けだします。
  • 野菜はていねいに皮をむいて、さいの目や薄切りにしてゆでる習慣が日本にはあります。その結果、表面積が増えてさらに(カリウムは)とけ出しやすくなるでしょう。葉物はゆで汁からあげて水にとり、しっかりと絞ったりもします。これでまた、少しだけカリウムが減ります。そして、ここが最大の問題なのですが、ゆで汁を捨てる特徴があります。一方、西洋の家庭料理では、トマトソースやラタトゥイユのように、煮汁ごと食べてしまうのが一般的ではないでしょうか。
  • 食べたものを調べる食事調査では、なにを(どの食品を)どのくらい(何g)食べたかを尋ねますが、調理法は、その調理時間は、ゆで汁は、というところまで考慮して調査を行なうのは至難の業です。結局、調理をして食べたのに生の値で計算したり、ある決まった調理法を使ったと仮定して集計せざるをえないのが実状のようです。食事調査によって得られた摂取量と、蓄尿によって得られた排泄量との乖離が日本人で目立つのは、「日本人の調理方法がきめ細やかすぎて食事調査の限界を上まわってしまっている」ためかもしれない……ぼくはこのようににらんでいます。
  • ということは、日本人はせっかくかなりの量の野菜を食べているにもかかわらず、カリウムを有効に摂取していないことになります。ていねいに皮をむく、面をとる、ゆで汁を捨てるなどは日本料理のきちょうめんさ、美しさ、味の繊細さを示す誇るべき調理技術だと思います。でも、カリウムを摂取するためには、もう少し大ざっぱなほうがよいみたいです。
  • 日本人のカリウム摂取量は世界の中ではやや少なめ・・・野菜を丁寧に調理したり、お米など穀物を精製すると減ってしまったりと、日本人の調理習慣と食の好みから考えるとなかなか難しい課題を抱えている栄養素でもあるようです。
  • 首都コペンハーゲンに住むおよそ1万3000人の人たちにお願いをして、最もよく飲むお酒の種類とその頻度を尋ねておき、その後、約1年間にわたって総死亡率を調べ上げました典る。 お酒を飲まない人の死亡率に比べた相対的な値として示したのが図2です。三つの曲線は、それぞビール、ワイン、蒸留酒(ウイスキーなど)を表わしています。結果は、「ワインをたくさん飲んでいた人ほど死亡率が低く、このような傾向はほかのお酒では認められない」というものでした。「ワインがよいらしい」というこの結果は、世界中の人々を魅了しました。なかでも、赤ワインに含まれるポリフェノールが効用をもたらす物質の候補としてあげられました。ポリフェノールには抗酸化作用があり、動脈硬化を予防し、その結果として心筋梗塞を予防すると考えられたからです。心筋梗塞を中心とする循環器疾患は、生活習慣病の代表であり、総死亡率にも大きな影響を及ぼします。特に、日本に比べて欧米諸国では心筋梗塞が多く、その死亡率が総死亡率を大きく左右します。パラドックスなどではなく、きちんとした理由があったわけです。しかし、事はそう単純ではありませんでした。
  • ワイン好きの人たちが、ビールや蒸留酒好きの人たちよりも野菜と果物をたくさん食べ、赤身肉と油であげた肉の摂取が少ないことが分かります。ここで言う赤身肉とは、牛や豚など哺乳動物の肉を指し、鶏肉は入りません。哺乳動物の肉には飽和脂肪酸が多く、心筋梗塞の原因になることが明らかにされています。一方、野菜とくだものにはカリウムというミネラルが豊富で、血圧を下げることによって、心筋梗塞の予防効果が期待されます。つまり、ワイン好きの人たちは、ひょっとすると、ワインによってと言うよりも、食べ物の結果として健康を保っていたのかもしれないという考えが浮かんできました。

「お酒≒アルコール」と考えるべき

  • アルコール(化学物質としての名前はエタノール)には、動脈のなかで血液がかたまってしまうのを防ぐ働きがあります。抗凝固作用と呼ばれます。心臓の筋肉に血液を送っている冠動脈のなかで血液がかたまり、冠動脈が詰まるのが心筋梗塞という病気ですから、お酒はその種類を問わず、心筋梗塞を予防してくれます。脳卒中の一種であり、脳のなかの動脈で血液がかたまり、脳のなかの動脈が詰まってしまう脳梗塞も同じです。ワインのなかの不思議な物質よりも、アルコール自体の作用によるところが大きいと解釈されるようです。その証拠として、お酒の種類にかかわらず、飲酒習慣のある人はない人よりも心筋梗塞脳卒中の発症率が低いことが世界中で観察されています。
  • さて、週末にはどのお酒をいただきましょうか。健康のためには、お酒の種類ではなくて、どんな料理といっしょにいただくかに気を配るのが正解のようです。今回は登場しなかったのですが、こう考えると、日本酒はかなりおすすめかもしれません。ところで、今回のお話で「地中海食」や「オリーブオイル」のことを思い浮かべたかたがいるかもしれません。飲むお酒の種類によって健康に差が出るわけではありません。

「ビールだけ避ける」はちょっと的外れ

  • ビール好きにとって気になるのが、痛風→尿酸→プリン体、です。でも、痛風高尿酸血症への影響は、プリン体よりもアルコール(エタノール)のほうが大きく、プリン体をカットしてもアルコールをカットしない限り、根本的な解決にはなりません。さらに、プリン体はビールだけでなく、魚介類や肉類にも含まれていて、これらの食べすぎも原因になるようです。ほどほどのお酒と、魚介類や肉類に偏らない食べ方がカギのようです。
 目の前の高血糖対策にとらわれすぎて生涯の合併症予防をおろそかにしてはならない。
  • 糖尿病の怖さは目の前の高血糖よりも、長い年月をかけてじわじわと忍び寄ってくる合併症にあります。健康な人に比べて心筋梗塞脳卒中といった循環器疾患にかなりかかりやすいということに加えて、目が不自由になる(網膜症)、腎臓が働かなくなる(腎症)、足などの皮膚感覚が鈍くなり切断にも至る(神経症)という三大合併症があります。もう一つ怖いのが低血糖発作です。意識不明に陥ることもあり、放置すればたいへんな事態になります。糖尿病は、「血糖値を下げればそれでよい」といった単純なものではなく、じつはとても複雑な病気なのです。