エクストリーム・チームズ

  • 外部 の 目 には 見え にくい が、 企業 として の 成功 の 土台 には、 それ を 押し進め た チーム の 力 が ある。 特に 規模 が 大きく 構造 が 複雑 な 企業 の 場合、 どんなに リーダー が 有能 で カリスマ 性 が あっ た として も、 リーダー の 力 だけで 成功 する のは 不可能 だ。 先見 性 の ある リーダー の 影響力 を 軽 ん じ る わけ では ない が、 リーダー が 果たす べき 最大 の 役割 は、 会社 の 成長 に 必要 な チーム を そろえ、 サポート し て いく こと に ある。

  • 1992 年 公開 の アニメ『 トイ・ストーリー 2』 の 製作 途中 で、 その 事実 を 裏づける 出来事 が あっ た。『 2』 は ピクサー と ディズニー との 共同 製作 だっ た が、 明らか に 作品 として の でき が いまひとつ だっ た。 大々的 な 軌道 修正 が 必要 だ。 しかも 厳しい スケジュール の もと で 何とか し なく ては なら ない。 公開 日 に 間に合わ せ、 同時に ピクサー の 非常 に 高い クオリティ 水準 を 満たす ため、 現場 は 9 ヵ月 の タイム レース 状態 に なっ た。 関係者 の ほとんど が 連日 ほぼ 無休 で 働い た。

  • この 苛酷 な 期間 の ある 日 の こと、 一人 の 男性 アニメーター が 子ども を 車 に 置き去り に する という 事件 が 起き た。 彼 は いつも どおり 車 で 出勤 し た の だ が、 その 日 の 作業 で 頭 が いっぱい だっ た せい で、 途中 で 保育所 に 寄っ て 子ども を 預ける のを 忘れ た。 それどころか 子ども を 後部 座席 に 乗せ て い た こと さえ さっぱり 忘れ て しまっ た の だ。 3 時間 後 に 妻 から 電話 が あっ て 初めて 自分 の 失態 に 気づき、 駐車場 に 駆けつけ た。   幸い、 車内 に い た 子ども に 深刻 な 被害 は なかっ た が、 ピクサー は この 件 を 受け て―― 他 に、 長時間 労働 の ストレス に 起因 する 事故 が 増え て い た―― 大きく 認識 を 改める こと と なっ た。ピクサー の 製作 チーム は、 彼ら の 表現 に よれ ば「 世界中 の 人 の 心 を 動かす」 優れ た 作品 を 作る ため、 どんな こと でも する という 強い 意欲 に 満ち あふれ て いる。だ が、 そうした やる気 を 多少 なだめる 配慮 も 必要 だ、 と ピクサー 幹部 陣 は 気づい た。 ピクサー の 問題 は、 社員 に モチベーション が 欠け て い た こと では ない。 むしろ モチベーション が あり すぎ た こと が 問題 だっ た の だ。

 

  • 社内 の 緊密 な 人間関係 を 推奨 せ ず、 個人的 な つきあい や 感情的 な つながり を 持た ない 運営 を 好む 企業 も ある。 解雇 に かかわる 場面 では、 そうした 企業 の ほう が ピクサー よりも 遥か に 楽 だ。「 個人的 な 恨み では ない、 これ は ビジネス なの だ から」 と 割り切れる。 反対 に、 社内 の 緊密 な 人間関係 を 推奨 し て おき ながら、 トラブル 発生 時 に チーム や 企業 として 必要 な 対処 が でき ない、 あるいは 対処 が 遅れる 企業 も ある。 こちら は 人間関係 を 大事 に し すぎ て、 ビジネス として の 判断 が 滞っ て いる の だ。 ビジネス や プロジェクト の 進行 には しばしば 厳しい 判断 が 必要 と なる のに、 人 と 人 との 絆 が 決断 の 邪魔 に なっ て しまう。  

  • その 点 で ピクサー は ユニーク だ。 ラセター の「 ピクサー に いる 人 たち は、 みんな 私 の 親友 だ」 という 言葉 に 表れ て いる とおり、 一般的 な 企業 よりも 人間関係 に関して 相当 に ソフト で ある 一方 で、 最高 の 映画 を 作る ため に 必要 と 思え ば、 親友 の 映画監督 でも クビ に する ハード さも 兼ね備え て いる。 この ジレンマ について、 一人 の 社員 が こんなふうに 語っ て いる。  

  • ピクサー は、 正しい と 信じる 運営 の ため、 辛い 決断 を する こと も ある。 この 会社 は あらゆる こと に 協力 を 惜しま ない し、 思いやり が ある。 だが、 つねに 人 よりも 映画 の ストーリー が 優先 だ。 ピクサー が 掲げる 高い 水準 に 見合っ た 作品 が 作れ ない と、 その 監督 は 交代 に なる。 たいてい は 別 の プロジェクト か、 以前 に やっ て い た 業務 に 戻る こと を 提示 さ れる が、 ほとんど の 人 は 辞め て しまう。 能力 を 信じ て もらえ ず に 降ろさ れ た と あれ ば、 気持ち として は 辛 すぎる からね。 監督 で こう なる こと が 多い けれど、 下 の 階層 でも 同じ こと が 生じる 場合 が ある。

  • ピクサー の よう な 企業 は、 一般的 な 会社 と 比べ て、 より ソフト でも あり、 より ハード でも ある。 学術 的 には「 共同 関係」 と「 交換 関係」 という 言葉 で 研究 さ れ て いる 特徴 だ。

 

  • チーム と チームワーク に対する 新しい アプローチ を 積極的 に 実験 し て いく 企業 で ある こと だ。 この 7 社 は、 業務管理 の 一般的 な 手法 には 固執 せ ず、 つねに 運営 方法 の 改善 に 努め て いる。 たとえば 一般 の 企業 では 給与 情報 は 秘密 に する もの だ が、 ホールフーズ は その 逆 で、 全 社員 の 給料 額 を 社内 で オープン に し て いる。 透明 性 こそ が 大切 だ と 確信 し、 従来 ながら の 発想 に 背い て いる の だ。 

 

  • 一連の解雇が済んだあと、ネットフリックスのリーダー陣は、会社を成長させる取り組みはできなくなるのではないかと恐れた。残った80人で既存事業を回すことに集中しなければならないからだ。ところが驚いたことに、人数を減らしてからのほうが仕事の速度が上がり、質も高くなった。CEOのヘイスティングスが、当時のことをこう説明している。
  • 「理由を考えてみたら、あることに気づいた。少数精鋭になったことで
    『誰かの不手際をフォローする』ための雑務が必要なくなっていたのだ。全員の仕事が速くなり、すべてが適切に動いていた。
  • 解雇されずに残った人材にとって、職場はむしろ働きやすい環境になっていた。全員が優秀で、全員がすばらしい仕事をする、とお互いに信用し合えるからだ。優秀な人材だけで構成される会社で働くことを、彼らは喜んでいた。玉石混交の集団で得られる成功よりも、この働き方で感じる喜びのほうが大きかったのだ。こうした気づきを踏まえてネットフリックスは、卓越した人材だけが働き続け、進歩し続け、決して凡庸に陥らないアプローチを開発すべきだと考えた
  • ネットフリックスの考えでは、ほとんどの企業が、それと反対の落とし穴に落ちてしまう。会社として成長するにつれ、落とし穴は深くなる。会社が順調なら少しくらい凡庸な人材がいても支障はないし、財政的に余裕があるので、能力を発揮できない者を抱えていることもできてしまうからだ。小さなスタートアップでは一般的にそんな贅沢は言っていられないが、大企業なら大丈夫だ。卓越していない人材でも雇用し続けていられる。
  • だが企業が成長し、人材濃度が薄くなると、それを補うための雑多なプロセスが必要となってくる。たとえば大企業には毎年の業務計画が必要だし、定期的な業務レビューを実施して、多数のグループがちゃんと優先事項に集中しているかどうか確認しなければならない(少数精鋭なら、
    自発的にそのように働くと信頼することができる)。また、財務部や人事部などの業務部門がそれぞれの意図に沿った業務手順を定めるので、それが積み重なって、会社全体に役所的な息苦しさが生じる場合がある。

 

  • 人材に対するネットフリックス流アプローチは、CEOのヘイスティングスが頻繁に語るエピソードに象徴されている。彼はキャリアの初期に、エンジニアとして、あるテクノロジー系スタートアップで働いていた。長時間猛烈に働いていたが、たとえば使ったコーヒーカップを洗うといったような、オフィスで発生するささいな雑務は無視することが少なくなかった。彼が机にコーヒーカップを積み上げておくと、週の終わりに誰かが片づけ、洗って、元の位置に戻しておいてくれる。掃除係がやっているのだとヘイスティングスは思っていた。
  • これが1年ほど続いたある日、朝5時に出社すると、CEOが給湯室で彼のコーヒーカップを洗っている姿が目に入ってきた。ヘイスティングスは驚き、毎週洗っていたのはあなただったのですか、と尋ねた。CEOはうなずいた。ヘイスティングスが徹夜も辞さず必死に働いているのを知っていたので、少しでも助けになればと考えたのだという。ヘイスティングスはこの気配りに感動し、このCEOに世界の終わりの日までついていきたいと思った。そしてーこれがこの話のオチなのだがーCEOはまさに終焉へと会社を導いていった。
  • 社員への接し方はすばらしかったが、消費者が買いたがる商品を作っていく腕がなかったのだ。ヘイスティングスはここから教訓を学び取った。思いやりも大事だが、会社を成功させるための判断力がなければ意味がない。
  • 会社としての成長を後押しするためには何が必要か?前に進むためにはどんな決断が必要なのか? 

 

  • ネットフリックスが重視しているのは、「社員がこれまでどう貢献してきたか」ではなく、あくまで「これからどう貢献していけるか」なのだ。忠誠を捧げるべきは未来であって、過去ではない。たとえば、ネットフリックスのDVD事業を育てあげた人物が、ストリーミング事業を成長させるスキルを持たないかもしれない。ストリーミング事業を率いた人物が、
    オリジナル作品の製作を進めるスキルは持たないかもしれない。アメリカ国内事業の構築に尽力した人物が、国際事業の拡大に対応するスキルを持たないかもしれない。未来の成長を導くための素質が欠けているのなら、
    過去にどんなにすばらしい成果を出していたとしても、それを根拠に漫然と同じ役割に座り続けるべきではないのだ。
  • 過去の働きぶりにもとづいて給料を支払い続け、人材を維持していくのは、会社の業績に対してマイナスの作用だ。さらに、新たに入ってきた人材や若手社員に対しても、「なんだ、宣言したほどパフォーマンス重視じゃないじゃないか」という印象を与えかねない。
  • 多くの企業では、「よくやった」と過去の働きぶりを褒めてやる証として、そこから先の役職を与えるのが一般的だ。だがネットフリックスは違う。未来の会社の成長に貢献できないなら、過去にどれだけの功績を出していようと、解雇をためらわないのである。
  • 一般論として、上司として人の上に立つマネジャーは、会社の将来的ニーズにそぐわない人物を排除するという辛い作業をしたがらない。逃げ腰になる理由はいくらでも思いつくものだ。第1の理由として、人材の査定は簡単ではない。明らかに仕事ができていないならともかく、平均的なパフォーマンスの場合は、多様な要因が介在することを考えてー業務の難易度、リソースの有無、他部署の協力などー査定は難航する。
  • そして第2の理由として、チームメンバーの家族が受ける影響も心配になる。心苦しく感じて、職務から外すことに対して二の足を踏んでしまう。さらに第3の理由として、社員を解雇または降格した際に生じうる法的トラブルも、できれば避けておきたい。チームから外した理由を説明する正式な文書がない場合(もしくは、解雇をどうしても正当化したい場合)には、のちのち揉める可能性が高いからだ。それから第4の理由として、
    マネジャーという立場に就く者の多くが、部下を導いて伸ばしていけると信じている。たとえ前任の上司が育成に失敗している場合でも、「自分なら、能力を発揮していないメンバーを改善させる力がある」と思い込んでしまうのだ。

 

  • (社員の)尊厳は守られるべきだと思っている(……)たいていの会社では、
    誰かに辞めてもらいたいと思ったら、「あなたは不適格だ」と告げるのが人事管理者の仕事だ。ありとあらゆる書類を用意して、能力不足を理由にクビにする。それでは数カ月もかかってしまう。ネットフリックスのやり方では、人事部の仕事は、小切手を切ること。去ってもらうにあたり、きちんと解雇手当を払う。ネットフリックスという会社が偉大であるためには、この会社が次の就職先への良いステップになるようでなくてはいけない。

 

  • ニューヨーク・タイムズ』の記事は、アマゾンの第3の欠点として、駆け引きや根回しが横行する社風についても指摘している。社員同士が業務と評価を競い合うので、ときには、自分に利するために同僚を陥れる社員もいるほどだ。もちろん、社員の行動に駆け引きがかかわってくるのは、
    アマゾンに限ったことではない。旧態依然とした役所体質の企業では社内政治がはびこっていることが多い。だがアマゾンの文化は、もはや弱肉強食というか、全体主義の監視社会に近いという意見もある。たとえば同僚の長所と短所について意見を言えるフィードバック・システムがあるのだが、同紙の取材では、これが実際には競争相手の足を引っ張るために利
    用されることも少なくないとわかった。

 

  • 仕事に対するジョブズの批判はいささか厳しすぎると受け取られかねない、と僕は説明した。この仕事に僕たちは心血を注いでいる。もっと穏やかな言い方のほうがいいんじゃないか、と言うと、彼は「どうして」と問い返した。僕が「チームのことが心配なんだ」と言ったら、容赦ない指摘を浴びせられたよ。「違うな。きみはただ自分がかわいいだけだ」「きみは自分が好かれたいだけだ。正直言って驚きだよ。きみはプロダクトの完成度を重視する人だと思っていたのに。人からどう思われるかじゃなく」。僕はひどく腹が立った。彼の言ったことは正しかったからだ。

 

  • エアビーアンドビーの社員が、こんな発言をしている。我が社にはコミュニティ文化があります。「みんなで一緒にやっていこう」という雰囲気があるのです。とてもユニークでパワフルです。私はテクノロジー業界で長年働いてきましたが、エアビーアンドビーほど、人間中心主義の会社を知りません。けれど、この文化の問題点として、能力のない者でも会社に居座り続けてしまいます。別の部署に異動になったり、あまり責任の重くない業務になったり。マネジャーが、「社員を解雇する人間」だと見られたくなくて、そうなるのです。能力不足の者がいるとどうなるかわかっていながら、行動を起こしません。これは一生懸命働いて結果を出している社員のやる気を損ないます。

  • ネットフリックスのような企業は、これとは反対だ。成果を出さない者に対して迅速に厳しい判断を下す。市場の競争に勝つために必要な基準を下回る人材がいるのに、その現実に向き合わずにいると、会社に停滞または失敗を招くと確信しているからだ。

  • だとすれば、人材には断固として対応するのが最善のアプローチなのかというと、実は、ピクサーはそうは考えていない。拙速に行動すると職場に不毛な不安感が広がってしまう。「次は自分がクビだろうか」と、誰もが心配に思うからだ。不安で気が散るし、何より創造力の妨げになる。業績不振の者がたとえチームリーダーであったとしても、その人物を排除すべきとチーム全員が認識するまで待つべきだとピクサーは考えている。作品を担当する監督を交代させるときは、すでに「交代すべき」という結論がチームで固まっている場合が多い。そうなっていれば、交代を実行しても、無用な不安を引き起こさずに賛同が得られる。

  • だとすれば、能力不足の人材を取り除くのはできる限り待ったほうがいいのかーというと、これもそうとは限らない。ベストなタイミングはさまざまな要因に左右されるし、どんなやり方にもリスクは伴う。リーダーの対応が速すぎて残りのメンバーに不安を抱かせることもあるだろうし、遅すぎてチームに負担をかけることもあるだろう。リーダーはそれぞれの状況を検討し、とるべき対応やチームの性質を鑑みながら、適切なタイミングとアプローチで必要な変革を起こすしかない。 

 

  • 先鋭的企業に見られるパラドックスなのだが、彼らは儲けを重要視せず、
    しかし、それが理由で儲けが入っている。一般的企業のように四半期業績だけに主眼を置くことはしない。先鋭的企業の多くは業界内で最も急速な成長を遂げているにもかかわらず、彼ら自身は成長にこだわってもいない。たとえばピクサーは数々の大ヒット映画を生み出し、数十億ドル以上を稼いできた。作品の商業的成功を誇らしく思っているし、成功に応じて社員にはボーナスを出す。だが、収益はピクサーの成功を決める究極的な指標ではない。第一の目標は、人の心に触れる作品を生み出すことなのだ。理想主義的で青臭いと感じられるかもしれないが、ピクサーは堂々とその目標を掲げている。
  • ファインディング・ニモ』は水中を描くアニメーション技術がすばらしかったが、同作品が成功した理由は、過保護な父親が良い親になっていくという、とてもよく練られたストーリーにあった。興行収入を重視する映画スタジオだとしたら、このようなヒット作が出たら、普通はすぐに続編を作る。1作目を気に入ったファンが財布を開きやすいからだ。しかしピクサーは、商業的に適したタイミングで続編を作ろうとはしなかった。『2』に相当する『ファインディング·ドリー』が世に出たのは、なんと13年後ーピクサーの水準に見合うストーリーが完成するまで、それだけの年月をかけたのだ。 

 

  • 「突き抜けた(エクストリームな)成功」というのは、私が思うに、一般的に言われる「成功」とは違うのです。お金持ちになりたい、何かを成就したい、すばらしい生活を維持したいと思う程度なら(……)イーロンのようにならなくても、望みが叶う可能性は高いでしょう。でも、極端に振り切れている人間は、自分らしいやり方で生きていくしかないのです。それが幸せかどうかという問題ではありません。彼らはたいてい変わり者で社会不適合者ですから、かなり厳しい人生を強いられます。そのため、彼らは自分が生き延びるための戦略を立てます。年齢を重ねるうちに、その戦略を他のことにも応用していきます。そうして自分だけの強い武器を作っていくのです。彼らは一般の人のような考え方はしません。別の角度からものを見て、まったく新しいアイデアインサイトを引き出します。そして一般人は彼らのことを、「常軌を逸している」と見るのです。
  • 先見性のあるリーダーを「変わり者で社会不適合者」と呼ぶのは、言いすぎと感じられるかもしれない。だが、成功に対して無謀すぎるほど強い意欲を抱き、完全に没頭する様子は、確かにジャスティン·マスクが言うとおり一種異様なものだ。そうした異様な執着を示せば必ず成功すると言いたいわけではない。執拗で偏執的なだけで、才能やスキルを持たない人間も大勢いる。
  • 執着する性格で極端に突き抜けた成功を引き出すためには、リーダーとして課題を解決し、組織の試練に立ち向かう能力が不可欠だ。たとえば高度な分析能力が必要かもしれない。たとえば、協力関係を築いてチーム内の紛争を管理する能力が必要かもしれない。だが「逆もまた真なり」と言うように、こうした能力があるだけではだめだ。執着する強いこだわりを持たない人は、ある程度の成功は成し遂げるにせよ、突き抜けた成果を生み出すことはない。仮に突き抜けた成果を出す素質があったとしても、執着心がないと、その素質は開花しにくい。

 

  • だが、仕事に対して強いこだわりを持つことと、仕事に依存することはイコールではない。本書が言う意味での「執着心を持って働く人」は、仕事に意味を見出し、楽しんでいる。依存症患者はそうではない。彼らは不安や不快な気持ちを呼び起こす何か別なものから逃げたくて、仕事に没頭しているにすぎない。

 

  • スピーチが終わると、ある外国企業のCEOがそばにきて、私に「あなたは常軌を逸していると思う」と話しかけてきました。何年も中国に滞在していたとのことで、私が話したような経営方法がうまくいくとは信じられないと言うのです。そこで彼をアリババ本社に招きました。3日間にわたって見学した彼は、「なるほど、ようやくわかりました。ここにはあなたのように極端に振り切れた人が100人いるんですね」と言いました。その意見は正しいと私も認めました。お化け屋敷に住む人は、自分がお化けだとは思っていません。外にいるのがお化けだと信じています。だからこそ、アリババにいる人たちは強く結束しているのです。

 

  • 企業文化に対する執着は、本書で紹介するすべての企業に見られる特徴だ。リーダーたちは自分の勤務時間の大半を、企業文化をあるべき姿にするために捧げている。「あるべき姿」の具体的な意味はそれぞれに異なるが、何を望み何を望まないか、リーダー自身の基準がはっきりしている点は各社ともに同じだ。エアビーアンドビーは、ある大物投資家のアドバイスがきっかけで、企業文化の重要性に気づいた。同社の成長計画について、スタートアップに関する経験が豊富な投資家から指導を受けようとしたときのことだ。CEOが、社員に向けて書いた文書で、この投資家との会合について語っている。
  • 会話の途中で私は、一番重要なアドバイスは何か、と尋ねた。彼の答えは、「企業文化を腐らせるな」。1億5000万ドルを投資する人物がそんなことを言うとは意外だったので、詳しい説明を求めた。すると彼は、エアビーアンドビーに投資をした理由の一つは企業文化だ、と答えた。そう言いつつも、「どんな会社でも、ある程度の規模になったら、企業文化が
    『腐ってくる』のは事実上避けられない」と、冷笑的な見解を持っていた。

 

  • 学歴や経歴など、すばらしいキャリアの持ち主でも、ザッポスの価値観を重視しない人物は採用しない。企業文化に合わないという理由で、能力の高い人材をはねるような採用方法では、ふさわしい人材が決まるまでひどく時間がかかってしまい、短期的には損失が出るー求人が埋まらないせいで直近の業績目標の達成が難しくなるーことは、ザッポスにとって承知の上だ。それでも、四半期目標の達成よりも、企業文化に適した人材の選択を重視するのである。
  • 就職希望者がフィットするかどうか判断する基準として、ザッポスの
    「10のコアバリュー」のそれぞれについて、最低一度は面接で質問をする。たとえば、「サービスを通じて驚嘆(WOW)を届けよう。」というコアバリューを叶える能力があるかどうか、その点に焦点を絞った一連の質問を繰り出す。「あなたがこれまでに仕事関連で受けた最大の賛辞はどんな言葉でしたか」「あなたが過去にした仕事の中で、他の人には知られていなくても、あなた自身が誇りに思っていることは何ですか。ザッポスは卓越した顧客サービスを絶対視しており、最初からそれを大事にする人材を雇いたいと思っているのである。
  • また、同じく10のコアバリューの中から「楽しいこと、ちょっと変わったことを生み出していこう。」という理念を満たすかどうか確認するために、就職希望者に自分自身の変人レベルを1から10で評価させ、最近やってみた珍行動を説明するよう求める。仕事は楽しくあるべきで、ちょっとくらい変人なほうが一緒にいて楽しい!というザッポスの信念を投影した質問というわけだ。就職希望者の変人レベルを評価する企業などそうそうあるとは思えないが、ザッポスは、楽しい職場環境作りを真剣にとらえている。
  • 他にもさまざまな観点から、就職希望者の適性が審査される。たとえば、
    初めて本社ビルに足を踏み入れたとき、周囲の人間にどのように接していたか。会社の価値観に合わない振る舞いをしていた候補者は不採用だ。
    空港から会社まで送迎した社用バスの運転手に無礼な態度をとったという理由で、きわめて能力の高い人材を不採用としたこともある。

 

  • エアビーアンドビーの面接でも、過去に達成した特別な成果を尋ねることにしている。同社CEOいわく、確認したいのは、夢を抱いてそれを実現しようとする人間かどうかという点だ。
  • それから「あなたの人生を3分で要約してください」と求める。その人を形成した決定的な判断や経験は何だったか知ろうとする。それがわかったら、次は「あなたが人生で成し遂げてきた、最も突出したものごとを二つか三つ挙げてください」と言う。それまでの人生で、何かしら突出したことを一度もしていないとしたら、今後できるとは思えないからだ。
  • 一方、人間関係の充実に貢献するかどうか見極めるには、多様な調べ方がある。投資ファンドCCMPキャピタル会長のグレッグ・ブレネマンは、
    「飛行機テスト」と呼ばれるテクニックを使う。面接が終わったあと、
    その就職希望者について、ブレネマン自身の胸の中でこう考えてみるのだという。この男性または女性と共に飛行機に乗るとして、太平洋を越えるあいだ、ずっと一緒にいたいと思うだろうか。隣にいて心地よくいられるだろうか。会社オーナー、役員、同僚、上司など、実際に共に働く人間とうまくかかわっていけないタイプは、能力も発揮できない。「あなたは何をするのが好きですか」「あなたの趣味は何ですか」と聞いてみれば、
    だいたいわかってくる。その人の周囲で働く人にいくつか質問をして評判を聞けば、だいたい察することができる。
  • これと似たような考え方として、「深夜残業テスト」というものがある。
    自分が遅くまで残業しているときに、その就職希望者と廊下ですれ違いたいかどうか、という想定で考えてみるのだ。こちらは疲労困憊で、面倒な相手とかかわっている時間もない。そんな状況で顔を合わせても大丈夫だと思える相手でなければ、難しい業務に取り組むときに一緒にやっていけるとは考えにくい。

 

  • たとえば一般的企業は社員の勤務時間を管理しているが、先鋭的企業では、たいてい働く時間に多大な融通を与えている(重要な会議があるときや、接客をするチームなどは、その限りではないが)。ピクサーにもそうした融通性があり、本社オフィスは24時間日365日開いている。9時から5時ではないほうが働きやすい社員もいるとわかったので、自分に合った時間帯で働くことを推奨しているのだ。パタゴニアは対照的で、毎日午後8時にはオフィスを閉じ、休日出勤もさせない。社員が職場を離れてエネルギーをチャージすることを望んでいるからだ。

 

  • ジャック・マーは、こんなふうに表現している。「ライバルから学習はすべきですが、まねをしてはなりません。まねをしたら終わりです」。

 

  • 大学で首席だった学生よりも、その一つか二つ下のレベルにいた人材を採用する傾向があったのも、トップに慣れた者は逆境に弱いと考えたからだ。中国のような苛酷な市場でビジネスをやっていこうとすれば、失敗はつきものなのだから、挫折や障害をはねのけていく強さ、レジリエンスが欠かせない。それに、立派な学歴や経歴を持つ者ほど、たいてい人間関係に難がある。過去の栄光のせいで他人に対して優越感を抱いているので、
    協力的に働くことができず、社内のチームワークを乱してしまうからだ。
    マーいわく、明確なビジョンを持って一つの大きな家族のように働く優れたチームなら、10倍の規模のライバルでも倒すことができるものなのである。