論点思考 内田和成の思考

  • どうしたら正しい問題、あるいは解くべき問題に突き当たることができるのか。ボストンコンサルティンググループ (BCG)では、この解くべき問題(課題)のことを論点と呼んでいる。社内では毎日のように「このプロジェクトの論点はなにか」「ここで答えておくべき論点はこれとこれだ」といった議論を繰り広げている。
  • 論点とは「解くべき問題」のことだが、その解くべき問題を定義するプロセスを論点思考と呼ぶ。 そして、問題解決のプロセスはいくつもの論点候補の中から本当の論点を設定し、その論点に対するいくつかの解決策を考えだし、そこから最もよい解決策を選び、実行していくという流れで進む。つまり、論点思考は問題解決プロセスの最上流にある。
  • 最初に論点設定を間違えると、間違った問題に取り組むことになるので、その後の問題解決の作業をいくら正しくやったところで意味のある結果は生まれない。論点設定に戻ってやり直すことになる。したがって、短期間で答えを出すためには最初の論点設定がきわめて重要になる。

 

  • ピーター・ドラッカーは次のように述べている。
  • 「経営における最も重大なあやまちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」 “The most serious mistakes are not being made as a result of wrong answers. The truly dangerous thing is asking the wrong questions." (Men, Ideas and Politics)
  • 「分析の技術的な完全さを求めるのではなく、意見の対立や判断に関わる問題を明確にすることが重要である。正しい答えではなく、正しい問いが必要である」(『新訳 創造する経営者』ダイヤモンド社)
  • まさしくそのとおりで、真の問題に気づく力こそ、現在のビジネスパーソンに最も必要なものだ。 

 

  • コンサルティング会社のプロジェクトを例にとると、目的や論点を正しくとらえたよい提案書(プロポーザル)ができれば、期待された成果を出してプロジェクトが成功する確率はかなり高くなる。だからこそ、コンサルティング会社のパートナーは他の調査・分析作業は部下に任せることはあっても、ここに自分の経験と能力をフルに投入し、徹底的に考え抜き、最良のプロポーザルをつくりだそうと努力する。
  • これはビジネスにおいても同じだ。なにを問題とするか、いかに論点を設定するかによって、その後の成否が決まるのである。

 

論点思考の四つのステップ

  • 論点思考を行なう際、覚えておきたいのが、以下のステップだ。
  1. 論点候補を拾いだす(→第2章)
  2. 論点を絞り込む (→第3章)
  3. 論点を確定する(→第4章)
  4. 全体像で確認する(→第4章)
  • 論点設定とは大論点を定義することである。前述したように、大論点とはいく
    つかある論点の中で、ゴールを規定する最上位の論点であり、戦略思考の出発点
    となる。自分の仕事の依頼主 (社長のこともあれば、部門長、上司、場合によっ
    ては自分自身のこともあるだろう)が問題解決を求めている高次元の悩み・課題
    を、自分にとっての問い、自分に課せられている任務そのものの目的として翻訳
    したものといってよい。
  • 論点の整理・確認とは、大論点に答えるために、「掘るべき筋と単位」を中論
    点、小論点として因数分解し、構造化することだ。言い換えると、答えを導きだ
    すために、仮説を立て、検証・反証していく道筋であり、横方向の因数分解と縦方向の上下関係の構造で全体像が定義される。この論点を縦横に展開した構造全体を、「イシュー・ツリー」と呼んでいる。
  • このうち論点思考の肝となるのが、論点を設定する部分だ。要するになにが一番の問題なのかを発見することである。
  • 論点を設定する際に、どうしても省略できないステップがある。それが「論点候補を拾いだす」だ。「本当の論点がなにか」を探るためには、まずどんな論点がありそうかをリストアップする必要がある。 それが、論点思考の出発点である。
  • もちろんコンサルタントであれば顧客から教えられた問題点がそのまま論点の場合もある。ビジネスパーソンであれば、上司からいわれた課題がそのまま論点の場合もあるだろう。しかし、世の中、そうでないことが多いというふうに思っておけば間違いない。顧客の論点や上司の論点は疑ってかかったほうが、早く答えにたどり着く。
  • 問題解決が速い人は、本当に解決すべき問題すなわち「真の論点はなにか」とつねに考えている。もう少し具体的にいえば、「なにが問題なのか」「それは解けるのか」「解けるとどんないいことがあるのか」を考える。
  • そのためには思いついた論点候補のうち、どれが真の論点かの「当たりをつける」あるいは「筋の善し悪しを考える」。さらにそれが本当に問題解決になるかを顧客・上司にぶつけたり、インタビューしたり、自分の頭の中のデータベースを参照したりして、補強していく。これさえできればまだなにも解決策を考えていなくても、問題解決の九割方は終わっている。
  • 私の感覚では、「②論点を絞り込む」と「③論点を確定する」は行ったり来たりすることが多いが、②で絞り込んだ瞬間に自動的に論点が確定される場合もある。当たりをつけてしっくりいかない場合に、相手に探り針を入れたり、真意の確認をして論点が間違いないかたしかめ直すこともある。それでも①~④すべてのステップを順番に行なうことは滅多にない。
  • 論点設定に不慣れな人はいきなり③の手法の一つである「顧客・上司へのヒアリング」から取りかかる。そして聞き取ったものを「構造化」しようとする。 要するに与えられた課題について、それが解くべき論点であるとなんの疑いもなく作業を始めて、結果としては顧客・上司の満足する解決策を見極めることができずに失敗することが多い。
  • ベテランは「本当の論点はなにか」を考える。初心者はインプットと構造化を繰り返す。ここがベテランと初心者の大きな違いだろう。

 

  • 誰の論点を解くかによってアプローチも違えば答えも違ってくる。さらには誰を満足させるかも違ってくる。誰の論点を解くかを間違えると、まったく違う答えを出してしまう。これは試験官が複数いて、試験官ごとに出題内容が違っているようなものだ。解答する前に、どの試験官の問題を解くかを判断しなくてはならない。

 

論点は環境とともに変化する

  • 論点は、実はさまざまな外的要因や内的要因の影響を受けたり、トップの問題意識が変わったり、優先順位に変更があったりして、動くことが多い。
  • 論点は「点」と表現されるから静的なイメージがある。だが、これはつねにダイナミックに動く。非常に動的なものだ。

論点は進化する

  • 仕事を進めるにつれて論点が動くケースもある。作業を進めるにつれて、当初考えていなかった論点が浮かび上がってきて、そちらのほうがより本質的な課題であることに気づくことを意味する。

 

  • 論点らしきものが目の前に現れたとき、私は次の三つのポイントで問題を検討する。
  1. 解決できるか、できないか。
  2. 解決できるとして実行可能 (容易)か
  3. 解決したらどれだけの効果があるか。
  • まず、「解決できるか、できないか」を見極める。 解けない問題にチャレンジしても成果はあがらず、時間と手間がムダになるだけだ。解けないとわかったら、その論点はすぐに捨て、論点設定をやり直す。
  • 解けない問題にチャレンジするのは無意味である。
  • 学者が研究の場面で、解けない問題にチャレンジするのはいい。未知の領域の研究、難間にチャレンジすることは人類の進歩につながる可能性がある。 例えば数学の世界には、ミレニアム懸賞問題というものがある。 クレイ数学研究所によって一〇〇万ドルの懸賞金がかけられている七つの問題だ。すでに解決されたのはポアンカレ予想だけだが、他も難問ばかりである。
  • それぞれ学問的には重要な問題だが、こうした問題に向き合うことはビジネスにおいては最悪だ。大事なことは、難問をクリアすることではない。仕事で成果を出すことが大事だ。
  • 解けない問題にチャレンジするのは無意味。私たちコンサルタントは「解決できるか、できないか」にすごくこだわる。

なにかこの人は勘違いしているようだが、研究者も研究課題を設定する際に一番重視するのはfeasibilityである。解けない問題と思っているにもかかわらず、やけくそで挑戦するような研究者は存在しない。解けない(と考えられる)問題にチャレンジするのは無意味であり、その見定めに係る厳しさはコンサルタントの比ではない。なんでもかんでも研究者(学者という名称を使うのもどうかと思う、研究者は自分のことを学者とは言わない)をディスるのは止めてほしい。ましてや、誤解や理解不足に基づく誹謗中傷は尚更だ。

 

上位概念の論点を考える

  • 構造化の際、ある論点を起点に上位概念の論点を考えることで、横にある論点を浮かび上がらせる手法もある(図表4-3)。論点aの上位論点Aを考えることによって、論点aと同じ階層にある論点b、論点が見えてくる。
  • 例えば、上司から新規顧客開拓を考えるよう命令されたとする。そのとき普通は、新規顧客開拓を構成する下位の論点x、y、zを考えてしまう。ところができるビジネスパーソンは、そのとき、なぜ新規顧客開拓を行なう必要があるのかという上位概念の論点を考える。
  • もし上司が売上げアップのために新規顧客開拓を考えていたとすれば、bやcには新製品開発や既存顧客の深掘りといった論点が並ぶはずだ。それらの横に並ぶ論点と比較検討した上で、新規顧客開拓策を提言したほうが上司の満足度は高いはずだ。
  • 一方で、上司のねらいが売上げアップではなく、業績不振から来る利益減少を補うための手段として新規顧客開拓を考えているとしたら、(論点a)新規顧客開拓に並ぶ論点は、(論点b) コスト削減、(論点c) 販売促進・広告宣伝費の効率化・・・

 

  • シャチについての四つの問いがある。
  1. 「シャチは魚か」(=仮説に基づいた質問)
  2.  「シャチは魚かほ乳類か」(=白か黒かをはっきりさせる論点)
  3.  「シャチは何類か」(=オープンな論点)
  4. 「シャチはどんな生物か」(=ただの質問)
  • ①の「シャチは魚か」というのは、「シャチは魚である」という仮説に基づく問いだ。② 「シャチは魚かほ乳類か」というのは、二者択一で白黒つける論点だ。 これに答えることで、半分の可能性を捨てることができる。 ③「シャチは何類か」という問いはオープンな論点である。 ④「シャチはどんな生物か」というのは、どんな答えが返ってくるか予想がつかない曖昧な質問だ。
  • あなたがチームリーダーだとして、こうした問いをメンバーに投げ掛けたとしたらどんな反応があるだろうか。
  • 「シャチはどんな生物か」という問いを設定すると、メンバーの答えは、「大きい」「海に住んでいる」「獰猛である」など、とめどなく広がり、収拾がつかなくなる。 したがって④の質問は避けたほうがいい。
  • だが、そのときに「シャチは何類か」と問いかければ迷わない。 「シャチは魚かほ乳類か」と聞けばより迷いは少なくなる。
  • コンサルティング・プロジェクトでリーダーがメンバーに仕事を頼むときに、メンバーには「シャチは何類か」というオープンな論点を背景として説明し、「ほ乳類か魚かを調べてほしい」と白黒論点レベルで仕事を依頼するとうまくいくと森さんは語る。すなわち、②と③を使う。
  • では、なぜ①の「シャチは魚か」と仮説を提示しないのか。実は仮説をストレートにメンバーに提示するのはリスクがある。これは私のほうで説明しよう。
  • まず一つ目は論点を絞り込みすぎて、もしかしたら他にもあるかもしれない論点を見落とす、あるいは考えてもみようとしなくなるリスクだ。例えばシャチは魚かどうかを検証しろといわれたら、本当はほ乳類かもしれないしあるいは両生類かもしれないのを考慮しない可能性が高い。しかも、仮説が検証できなかったとき、すなわちシャチが魚ではないと判明した場合、もう一度頭に戻って仮説構築から始めないとならない。もちろん、やり直せばよいのであるが、少し時間がかかる。
  • 次いで、一つ目とも絡むが自分で論点を考える癖がつかない。いつも論点は上司から降ってきて、自分はそれを検証すればよいと思い込んでしまうと、いつまでも論点思考力が身につかない。仮説の検証が得意な分析屋、作業屋のままで終わってしまう。部門を任されるとからっきしダメな人間になりかねない。逆にいえば②のように複数の論点を与えるか、あるいは③のようにややオープンな論点を与えられれば、自分で比較対象を調べたり、異なる論点を見つけたりする可能性が高い。何度も繰り返すようだが、論点は対立軸があったほうが、より鮮明に浮かび上がる可能性が高い。
  • 最後のリスクは、自分の思い込みで自分の都合のよい情報だけを拾って、ロジックを組み立ててしまうことだ。通常私たちは自分がどのような事実を見て、それをどう解釈したのか、というような「思考のプロセス」を意識しない。そのため自分の思考の筋道を相手に開示して、それが正しいかどうかを検証したり、またそのプロセスに疑問を抱いたりすることもなく、あたかも自分の考えたことが真実であるかのように思う。これを避けるためにも白か黒かと考えることは極めて重要だ。
  • メンバーに「シャチは魚か」という問いを設定すると、「海を泳いでいます。サメと同じように魚を食べる肉食です。どう見ても魚です」としかいわなくなる。 「魚かほ乳類か」という問いを設定すると、魚とほ乳類の違いをきちんと見極める。その違いは子どもを産むか卵を産むかで、一見シャチは魚に見えるけれどほ乳類だと答えられる。