愚直に、考え抜く。

  • 調査も分析も、役に立つのは、課題方程式でいう「現実」を理解する部分である。しかし、「あるべき姿」を考えるのに調査と分析を使用すると、思考は止まり、予測というオリジナリティに欠けたものに陥ってしまう。

 

  • 2018年1月に、セールスフォース社CEO (当時)のマーク・ベニオフ氏とダボスで会うことができた。そのときの会話が印象に残っている。
  • 彼は今でも、毎月、何を実現すべきか鏡に向かって問うているという。声に出して言う。そしてその実現のために、自分は何をしなければならないのか、また言葉にする。何度も言葉にすることで、そしてそれを鏡の中の自分に向かって言うことで、「crystal clear (=一点の曇りもない)」な状態にしているとのことだった。
  • マーク・ベニオフともあろう人が、今なお、その基本中の基本を徹底していることに感銘を受けた。彼が自分を超えつづけられる理由は、ここにあるのだろう。
    「あなたなりの「あるべき姿』はなんですか」
    「あなたは人生でどんな課題にケリをつけますか」
  • この2つの質問に、自信を持って5秒ずつで答えられるようにしてみるといい。声
    に出して、脳に響かせるのだ。そして一点の曇りもない状態にする。「あるべき姿」が明確になれば、それと現実のギャップが「課題」である。課題を特定することもまたひとつの難作業である。
  • はっきりと口に出さず、頭の中だけで、「あるべき姿」や「課題」 を定義しても、脳の中のおぼろげな言葉に過ぎない。さまざまな思いが交錯して、そのおぼろげな言葉のまわりに心配や不安、「やめたほうがいいんじゃないか」という思いが付帯しているだろう。だから、声に出すのだ。声に出すことで、雑念が飛ぶ。脳に響かせることで、明確に「あるべき姿」と「課題」だけが浮き彫りになる。

 

  • アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは、アップル社から追い出され、まだ戻れていなかった1995年のインタビューで、こういうことを言っている(「ス
    ティーブ・ジョブス1995 ~失われたインタビュー~」より。訳は著者)。この言葉は、ワクワクする課題を解決していく道のりの現実と、その細かな問題解決の重要性を物語っている。
  • 「彼ら(ダメな経営者)はアイデアを出せば作業の9割は完成だと考える。それを伝
    えたら社員が実現してくれると思う。しかし、すごいアイデアから優れた製品を生み出すには、大変な職人技の積み重ねが必要だ。製品に発展させる中でアイデアは変容し、成長する。細部を詰める過程で多くを学ぶし、妥協も必要になってくるから。(中略)..... 同時に5000ものことを考えることになる。大量のコンセプトを試行錯誤しながら組み換え、新たな方法でつなぎ、望みのものを生み出すんだ。 未知の発見や問題が現れるたびに全体を組み直す。そういったプロセスがマジックを起こすのさ」

 

  • とにかく、整理する。 構造化をする。 構造化しながら書く。書かなければ、思考は雲散霧消する。構造化して書き下すと、思考に広がりを生み出し、行動が明確になる。解決のための新たな可能性をつくってくれる。

 

  • 学ばなければならないことが無限ではなく有限であるということ、今学んでいる知識が知識の地図上のどこなのかがわかること。構造化は、そんな洪水のごとく押し寄せる数々の議論や分析の中で溺れないですむための羅針盤になりうる。
  • こうしたことがわかるだけで、採るべきアクションが明確になり、課題解決のために最速で邁進していくことが可能となる。さらには、どれだけ難しい課題が出てこようが、網羅できているというだけで、精神的な安定も得られる。
  • 何もわからないからといって、ひるむ必要はない。すべてを構造化すれば、課題やアクションには限りがあることがわかるし、選択肢もひとつに限られないということがわかる。何かを進めることができる。

 

  • 解くべき課題を細分化すると日々の活動は膨大になる。解決オプションからひとつの選択肢を選ぶとき、思考が疎かになり、ついつい思い込みやバイアスのかかった思考になるときがある。または、膨大な作業の中で優先順位をうまくつけられなくなることがある。

論理や優先順位を確認するには、倒置法が便利だ。

  • たとえば、「明日は○○社を訪問する」という計画があったとする。これを倒置法
    にすると、「○○社を訪問することこそが、明日やること」となる。
  • そうすれば、本当にそうだろうか、と自分で理由づけをする必要に迫られる。「それは本当に明日やることなのか」と。
  • 必ず「こそが」をつけるので、「コソガ法」と呼んでいる。
  • これは非常に便利で、ありとあらゆることに当てはめることができる。成立解の全体感をいつも見ていれば、常に全体感と照らし合わせて正しい選択をしているか考えることができるようになる。 論理が固まっていないのに「○○こそが、最善の選択肢」と言葉にしてみると、その軽薄さに自分で気づくことになる。 「コソガ法」は論理と優先順位の「ウソ発見器」である。

 

  • 親課題もしくは子課題を解くにあたり、まったく知識がゼロの課題にぶつかるとき、基礎情報を手に入れるための学習時間が必要な場合がある。私の場合、人工衛星の知識や、宇宙物理学の知識はゼロから勉強せざるを得なかった。
  • どんな人でも、完璧な知識があるわけではない。「あるべき姿」にたどり着くには、技術、営業、資金、組織、法律…....。いろんな基礎知識を持っていなければいけない。課題の解決法を考える際に判断ができないからだ。
  • その基礎知識を手に入れるために、「学習時間」が必要である。どんな知識でも最低限のことがわかっていると、判断ができるようになる。たとえば、ある分野の法規制がひとつ変化するとしよう。他の分野である、営業、技術開発、財務にどう影響が出るか即座に判断できる。
  • 他方で、人の時間は有限だ。
  • そこで、「2倍未満の法則」をお伝えしたい。これは、私が何かを学ぶ際に、必ず
    使ってきた法則で、かれこれ高校時代から30年間使っている。
  • 高校時代に、問題集を次々に買って片っ端から完璧に理解して全国模試で1位になったのも、わずか6か月の勉強で国家公務員試験Ⅰ種の法律職に上位合格し大蔵省
    に入ったのも、技術知識ゼロの状態からスペースデブリ除去衛星の設計の仮説を1年で考えたのも(その後大幅に変更しているが)、この2倍未満の法則を使ったからこそできたといえる。
  • 具体的な理屈はこうだ。ひとつの参考書は、4回やると決めていた。1回目にかかった時間を1とする。2回目はわからなかった場所だけやればよいので、かかる時間は1/2になる。3回目を1/4、4回目を1/8の時間でやると、1+1/2+1/4+1/8=1875となる。もし5回目を1/16の時間でやっても、1.875+1/16=1・9375となり、必ず1回目の2倍以下の時間となる。
  • つまり、物事を完全にマスターするのに、最初にやった時間の2倍はかからない、ということになる。
  • これは面白いほど当てはまるもので、憲法民法を初見から学ぶのも、最初に全体を読み込むのに3か月かかったとすると、合計6か月もやれば全条覚えられたし、判例もほぼほぼ頭に入っていた。 法律の知識を使いこなすことはできないが、理解することはできるようになった。 宇宙技術も、300本の論文を最初に3か月で読み込み、その3か月後には、宇宙エンジニアが何を話しているか理解できるようになった。
  • 金融や財務・経理がわからなくて、本当は学んでいたほうがいいと思っている人は、この「2倍未満の法則」を使ってほしい。経理、財務、ファイナンス、税務、M&A、上場、ⅠR……といった金融の知識を学ぶのは、最初は大変だろう。でも、最初に一通り読むのに2か月かかったのなら、全部を理解するのは合計4か月でできてしまう。
  • この法則を知っておくだけで、新しい物事を学習するのにひるむことも、恐れることもなくなるだろう。それがたとえ宇宙物理学であっても、だ。