勝つ投資 負けない投資

  • 一般に機関投資家は大きな資金を動かします。資金力さえあれば勝てると考えている人もよくいますがこれは誤りで、その巨大さが時には大きな足かせとなる場合もあるのです。
  • また、彼らは大概顧客の資産を預かって運用する立場なので、投資には透明性と説明責任が常に伴います。資産運用ビジネスには信用が何よりも大切ですから、預かった大切な資産をギャンブルのような取引で運用できないように、投資判断をするファンドマネージャーや、取引を行うトレーダーには様々なルールが課せられているのです。
  • そのひとつが、流動性に乏しい銘柄には投資しないというものです。株式投資における流動性とは売買代金のことで、トヨタであればある日の商いをみると751万株、626億円もの取引が行われているため、億単位で投資をしていても1日から数日で売買を完了させることができます。しかし、上場企業の中にも、一般にほとんどその名を知られていないような小型株も存在します。そうした銘柄は時価総額が数十億円程度の小さいものから存在し、1日の売買代金は数百万円から数千万円。時には1日を通じて売買が成立しないこともあります。このような銘柄では、買うにも売るにもとても時間がかかってしまうし、その間に不測の事態が起こった場合、売るに売れないまま巻き込まれてしまいます。これではリスクが高過ぎるということで、「流動性が基準に満たない銘柄への投資は避けよう」ということになるわけです。
  • もうひとつは、「フルインベストメント」という考え方です。ほとんどの投資信託やファンドでは運用資産のうち現金で持っておけるのは数%までとルールで定められています。
  • これは何を意味するかというと、今はあまり儲からなさそうな相場だとか、下手をすればこれから株価が下げていきそうだと運用者が思っていても、株を売って次のチャンスに備えることができないということです。
  • 普通の人が聞くといかにもバカバカしいと思うかもしれませんが、これは市場平均より好成績を納めれば優秀とみなす運用業界の評価基準から来るものです。つまり、ベンチマークとしている指数である日経平均株価TOPIXが年間で5%下落していたら、10%の下落ですませたファンドマネージャーは「非常に優秀」ということになります。
  • しかし、個人投資家には上記の2つのことはいずれも理解し難い話だと思います。将来上がりそうな良い銘柄であれば、流動性に乏しかろうが買うべきだし、自分の大切な資産が目減りしている状態で、ベンチマークより下落がマシだったから今年は良かったなと振り返られる人はほとんどいないでしょう。
  • まだ日の目を見ていない銘柄を先に仕込んでおいて、人気が出るのを待つ。下がると思えば売っておいて、安くなってから買い直してリターンを得る。そうした自然な投資行動を取れる機動力こそが、個人投資家機関投資家に対して優位に立てる唯一の武器なのです。それをどう活かすかが、投資活動の成否を決める重大な鍵となっていきます。
  • 慎重に銘柄を選別しますから、大きく外すリスクはかなり低減されているはずです。ただ、その一方で得られるはずのリターンの一部は、取り逃がしてしまっています。「この銘柄、いいかもしれないな」というインスピレーションが湧いたところから数えて1か月後、2か月後にようやく投資行動に出るのですから、その間に他の投資家が、その銘柄の価値に気づいて買い進め、株価がかなり上がってしまうケースもよくあります。この投資の意思決定の遅さは、組織で運用を行う機関投資家にとっては、大きな制約のひとつといえます。
  • つまり、こうした機関投資家の弱点を知ってさえおけば、個人投資家でも十分、機関投資家に太刀打ちできるということです。巨砲を持つ戦艦大和が、機動力に勝る駆逐艦に負けるようなことは、株式市場では頻繁に起こっています。