その問題、数理モデルが解決します

数学を用いて観察される現象を分析する方法を一般に(数理)科学といい、科学は大きく自然現象を分析する自然科学(物理学など)と社会現象を分析する社会科学(経済学など)に分けることができる。中学や高校の物理学では数学が用いられ、自然科学の基礎的な方法論を学ぶための導入が適切になされているのに対し、公民や地歴といった分野は伝統的に人文学的な側面が重視されすぎており、社会科学の基礎的な方法論が適切に教えられていないことが多い(教える側の能力の問題でもありそうだが)。本書は社会現象の数理的な分析に関心がある中学生や高校生にとって、社会科学的方法論を学ぶ第一歩としておすすめできる。また、科学的な方法論に馴染みのない大学生や社会人にとってもよい導入になると思われる。とくに統計的検定の説明は、「数学の苦手な人が数学の苦手な人にする説明」としては最高レベルでに分かりやすいと思った。

 

アルバイトの配属方法

  • アルバイトを店舗に配属させる方法としてDAアルゴリズムが有効である
  • DAアルゴリズムは安定的なマッチングを実現する
  • このアルゴリズムは、アルバイト側から申し込む場合と、店舗側から申し込む場合とで、一般的には異なる結果を生む。ただし、どちらも安定的である
  • マッチングが安定的であるとは《お互いに現在の相手を捨てて新たにペアをつくったほうがよい》というペアが存在しないことである

チョコレート実験

  • 価格が0円になったときに生じる不思議な効果については、行動経済学者によるおもしろい実験がある。彼らは大学のカフェテリア利用者に対して、追加的にチョコレートを買うかどうかの選択を提示して、その行動を観測したんだ」
  • 「へえ、おもしろそう」
  • 「この実験は、被験者によるチョコレートの追加購入に《小銭を取り出すのが煩わしい》という取引コストがかからないように工夫してある」
  • 「どうやったの?」
  • 「すでに何かを購入してレジに来た人だけを対象にしたんだ。だからチョコレートを購入しなくても、どのみち別の商品の料金を支支払う人が被験者になっている」
  • 「なるほど。面倒だから買わないって言う人はいないわけね」
  • 「そういうこと。この条件で、被験者に提示された第1の選択肢はこうだ。
    リンツのトリュフチョコ 14セント
    ハーシーのキスチョコ 1セント
  • レジの横に2種類のチョコレートと値段が提示され、1人1個しか購入できない。この選択肢をカフェテリア利用者に提示したところ、リンツを選択する者が30%、ハーシーは8%、どちらも選択しない者が62%だった」
  • リンツが高級なチョコレートで、ハーシーが普通のチョコレートってことだね。14セントってことは、1ドル100円とすると14円か。うーん、この値段なら私もリンツを選ぶかな。あれ、おいしいんだよねー」
  • 「次に、価格をそれぞれ1セントずつ下げた選択肢を使って比較する。
    リンツのトリュフチョコ 13セント
    ハーシーのキスチョコ 0セント
  • ハーシーは、最初の条件で、1セントだったから、1セント下げると0円になる。結果はどうなったと思う?」
  • 「そうだな・・・。無料になったからハーシーを選ぶ人が増えたんじゃない?」
  • 「そのとおり。ハーシーを選択する者が31%、リンツが13%、どちらも選ばない者が56%となった。つまりハーシーは無料になったとたん、急に人気が出た」
  • この選好の逆転をゼロ価格効果と呼ぶことにしよう。

Zero as a Special Price: The True Value of Free Products

https://www-2.rotman.utoronto.ca/facbios/file/ZeroPrice.pdf

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ウォール街のアルゴリズム戦争

もっとフラッシュ・ボーイズな話を読みたいと思った人向け(原著はフラッシュ・ボーイズよりも先に出版されたが、マイケル・ルイス知名度も相まって、翻訳本はフラッシュ・ボーイズが先)。娯楽成分はやや失われ、比較的真面目なトーンで話が進むので、人によっては無味乾燥に感じるかもしれない。

yamanatan.hatenablog.com

  • レヴィンはスプレッドというもう一つの問題に気がついた。株価がなぜ8分の1ドル(または、しばしば4分の1ドル)で表示されるのかが、レヴィンには理解できなかった。アメリカで売られている他の品物と同様に、なぜ株の価格もペニーで表示しないのだろうか。人々はシリアルを一箱2ドル45セントで買えるのに、株はそれと同じ値段で買えなかった。
  • すべてはアメリカ大陸の征服に支えられ、スペインドルが世界通貨として浮上した18世紀に遡る。スペイン商人は支払方法として1枚のダブロン金貨を8個に割った。これがいわゆるピース・オブ・エイト銀貨である。エルナンド・コルテスやフランシスコ・ピサロのようなコンキスタドールが何世紀も前に南北アメリカの地に分け入ったことから、米国の株価は8分の1ドル刻みで取引されることになった。
  • レヴィンはその慣習が時代遅れなだけではなく、紛れもない盗みだと思った。それはスプッドの幅を作為的に広くし、マーケットメイカーやスペシャリストに過大な利益を与えていた。フォード社からムスタングを3万ドルで仕入れたディーラーがその車を3万5000ドルでしか売れないようなものだった。競争相手が同じモデルのムスタングを3万2500ドルで売りたいと思っても、ウォール街の百年ルールではそれはできなかった。

 

編集中

漫画201909

初期からの読者が読みたいものと、作者が書きたいものの間にギャップが生まれて、埋まりそうにないまま終わりそうだな、という感想です。2点

近隣諸国との政治的駆け引きみたいなプロットが並行していますが、ぶっちゃけ本編に深みを与えるわけではなく、今のところ完全な蛇足かな、という感じです。やっていることが基本的に同じなので、マンネリ化を避けたいという気持ちは理解できますが、「深夜食堂」路線のほうがこの作品には合っているように思います。3点

そろそろキャラ名が覚えられませんが、安定ののんびり農家ライフ。後半はさくさくバトルで、こちらもテンポがいいですね。引き続き、人にお勧めできるクオリティです。アニメには向かない作品だとは思いますけど。4点

ハンターハンターからちょくちょくとネタをパクってくることで個人的に有名な失格紋。グリードアイランドの次は何をパクってくるのかと思ったら、「マチの縫合」と「ゲンスルー戦で使った大穴」の2ネタをパクってきました。後者はちょっと穿って見た気もしますが、マチのほうは完全に有罪では笑。3点

アニメは好調、美少女たちの山賊ダイアリーのように日常系路線へのシフトもありな気がしますが、大前提として彼女たちは遭難中ということで、色々と変化をつけてきた5巻。各人の成長も一通り描いたので、タイミングとしては脱出を考えてもよさそうです。エロ成分をやや増やしたのも、判断としては悪くないように思います(これ以上は不要だけど)。7-8巻くらいでキレイに着地できると大成功でしょうか。それにしても父親が出てこなくなったな。4点

ちょうど1年前が11巻のレビューで、そのときはリップシュタットをやっていたんですね。この1年間くらいは双方の国内部のゴタゴタがメインの話でしたが、久しぶりに帝国対同盟が復活です。本巻のテーマはユリアンの成長でしょうか。これまでも優秀なバイプレイヤーとして活躍してきた彼ですが、遭遇戦以降一気にプレゼンスが増していきます。下のシーンなどは、そうした役柄の変化を象徴的に示すシーンなのかな、と感じました。

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  1. 第六次イゼルローン(794/485)
  2. 第六次イゼルローン
  3. 第六次イゼルローン、第三次ティアマト(795/486)
  4. 第四次ティアマト(795/486)、アスターテ(796/487)
  5. 第七次イゼルローン(796/487)
  6. カストロプ動乱(796/487)
  7. 帝国領侵攻(796/487)
  8. アムリッツァ星域会戦(796/487)
  9. リップシュタット戦役(488~)
  10. 救国軍事会議のクーデター
  11. イゼルローン回廊帝国側宙域の遭遇戦←イマココ
  12. 第8次イゼルローン攻防戦
  13. ラグナロック(神々の黄昏)作戦

英伝は、現実社会への風刺として非常によくできた作品だと思っており、そうした風刺ファンにとって本巻の最大の山場は、無意味な査問会ですね。5点

『他人の業績に敬意を払ったり高く評価することができない人がいるのです。もし自分にその機会が訪れていたら自分でもできていたと思う人々です』

yamanatan.hatenablog.com

キングダムも銀河英雄伝説もコンスタントに話が進んでくれて嬉しいです。ようやく趙峩龍とも決着ということで、趙戦はもう二波乱くらいありそうですが、ようやく終わりが見えてきたという感じ。しかし、堯雲も趙峩龍も実在していないのでいくらでも話が盛れてしまうなぁ、と回想編を読みながら苦笑。おまけマンガではみんなだいすきなファルファルの謎が解き明かされます(解き明かされない)。4点

面白いだけの漫画の筆頭格、気づけば20巻も目前の長寿作品に。ギャグ漫画なのに作中でどんどん月日が流れていき、サブキャラだったはずのあの人はとうとう表紙になりました。作中では、主人公だったはずのヒナがすっかりサブキャラになりつつあり、閣下まつりの様相を呈してきました。読後に「我々は何を読まされているんだろう」と複雑な気持ちになるのが常ですが、そんなことを考えるだけ無駄な作品です。4点

 知り合いから面白いと勧められたので読みました。ヒナまつりに通じる面白いだけの漫画でした(褒め言葉)。出落ち感満載ですが、飽きずに読み進められたので、ベーシックにギャグセンスが高いんだろうなと思いました。この作品にはまったく不要な「画力の高さ」も魅力的です。5点

ようやく長い旅立ち編が終わり(旅立ちからラスボス戦)、もうこれで終わってもいいんじゃね?と思いつつ、ようやく長い冒険が始まりました。設定が凝っているので、どう活かすか楽しみです。前半4点、後半3点

新キャラの使い方がうますぎるので、ほかの作品は見習うべきだと思います。これだけ続けてマンネリをまったく感じさせないのは素晴らしいです(主人公の二人の出番の数は顕著に下降線をたどっているけど)。4点

定期告知

漫画を大量に買うなら、豪邸に住んでいない限りkindle一択です。無印kindleは容量と解像度に問題があるので。Paperwhiteがおすすめです。

  

aaaaa

タイ・カンボジア旅行覚書

観光でタイ・カンボジアに旅行に行ったので覚書。

 

  • 8月は雨季だが基本的に蒸し暑い。折りたたみ傘は必携で耐水性のある服装が望ましい。靴もGORE-TEX素材の方がいいと思う。
  • 今回はLCCを使ったので、空港はドンムアン空港。ドンムアンから市内まではGrabで30分程度だけど、タイは交通渋滞で最大4倍程度所要時間に余裕をみておいたほうがいい(とくに市内)。雨が降ると、時間帯によっては本当に動かなくなるので、とくにフライトが絡むときは余裕をもっておきましょう。
  • 新興国なので、市内で買い物旅行オンリーでもない限り、現金はそれなりに必要。チップ文化もある。一人一日5000円くらいあれば不自由はないと思う。
  • クレジットカードは標準的なVISA・マスターカードのほか、積極的にキャンペーンを展開しているJCBがおすすめ。様々な場所で割引などの優待を受けることができる。

  • 今回はトラベロッジ スクンビット 11に宿泊、ナナ駅から徒歩で10分程度。新しく清潔なホテルだったが、シャワールームの壁が半分がら空きなので、シャワーを利用すると、トイレ部分がベチャベチャになるのが大きな欠点(他のホテルの写真にも同じような設計のものを見かけた(Ex. シタディーンスクンビット16)ので、タイのホテルはどこでもそうなのかもしれないが)。朝食も美味しいらしいが、早朝から遺跡や寺をめぐる修行ツアーを計画していたので、今回は食べていない。
  • 為替は定番のスーパーリッチタイランドへ。ただ、そこまで他の換金所とレートが異なるわけではなかったので、少額なら適当な場所で換えていいように思った(空港はさすがにレートが悪すぎるのでやめたほうがいいと思うけど)。
  • 有名なMake Me Mango、インスタ映えはするが、全体的にやや人工的な甘さを感じた。マンゴーの素の美味しさではMango Tangoの方が美味しいと思う。

www.facebook.com

www.bangkoknavi.com

  • 初日はディナークルーズに参加。やや集合場所がわかりにくいのが難点だが、料理は美味しく、日本のせこいツアーのように料理が足りなくなることもない。生ライブも楽しいし、ラマ8世公園やワット・アルンのライトアップなども楽しめるなど、非常に満足感の高いクルーズだった。

www.veltra.com

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  • 翌日はやはりVeltraを利用してアユタヤツアーへ。ややお値段のするツアーだが、待ち無しでソンブーンのカニカレーが食べられるし、線路市場、水上マーケット、アユタヤといった市内中心部以外のスポットを1日で効率的に回ることができるので、満足度が高いツアーだった。

www.veltra.com

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  • 3日目は夜にカンボジアへのフライトがあったので、下記のツアーを参考に、自力で3大寺院を観光。ワット・アルン→フェリーに乗って対岸へ(ワット・アルンすぐのフェリー乗り場はボッタクリなので、少し北側に歩く)→ワット・ポー→王宮・エメラルド寺院
  • 正直なところ、ワット・ポーはいまいちだったので、時間がないならスキップしていいように思った。ワット・ポーから王宮へは少し距離があるのでGrabを使ってもいいと思う。歩く場合は、右回りでも左回りでもいいと教えてもらったが、明らかに右回りで歩いた方が近いと思う。
  • その後はバーンパッタイで食事、最後にやや離れたワットパクナムへ行った。ほぼ完全にツアーを再現できることがわかったので、ガイドが必要なければ、寺院ツアーに関しては、参加する必要が無いと思う。

www.veltra.com

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  • ドンムアン空港ではプライオリティ・パスを利用してコーラルランジを利用、一人しか利用できないはずだが、おそらく係員の勘違いで二人無料で入れてくれた。

johnny-thai.net

  • 海外旅行に行くなら、プライオリティパスは必携レベルなので、楽天プレミアムカードを発行しておくとよい。

  • カンボジアシェムリアップ国際空港へ到着。事前にe-visaを発行しておくのを忘れずに(偽サイトに注意しましょう)。
  • 中国人はチップを入国審査に要求されるそうだが、日本人は心配なし。
  • 日本人は英語を喋れないことが知れ渡っているらしく、日本語で喋りかけてくれるカンボジア人が多い(英語で喋っていたら、お前は日本人なのに珍しいな、と驚かれる)。

www.evisa.gov.kh

  • ホテルは空港から30分程度のところにあるダムレイアンコールホテルをチョイス、バランスが取れていてよいホテルでした。朝食も美味しかった。シャトルサービスもやっており、行きは無料。帰りは10ドル。Grabでも10ドル程度なので、シャトルを利用したほうが無難だと思う。
  • カンボジアはUSD決済が中心なので、ソニー銀行やSBIのデビットカードを持っていくと捗る。
  • 初日は自力で再現するのが難しいベンメリア・コーケー・プレアヴィヒアのVeltraツアーへ参加。残念ながら曇っていて絶景は見れなかったが、ツアー自体はよい構成だと思う。ただ、ガイドは残念だった。

www.veltra.com

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  • アンコールワットは自力で観光、雨季で曇っていたのが幸いし、直射日光に悩まされずに観光できた。朝焼けや夕焼けを楽しみにしているなら雨季はよろしくないが、フラフラにならずに観光するなら、観光客も比較的少ないだろうし、悪くないシーズンだと思った。
  • アンコールワット遺跡群に入るには、まずチケットを購入する必要がある。こちらはアンコールエンタープライズという場所で購入、遺跡本体とはやや離れたところにあるので、自力で行く人は間違えないように。5時から空いている。
  •  早朝は比較的観光客が少ない、特に某国のツアー客が少ないので、静かに観光を楽しむことができる。8時以降は騒がしくなるので、早め早めの行動がおすすめ。少なくともアンコールワットだけは8時までにクリアしておきたい。
  • 遺跡の中に入ると交通手段が利用できなくなるので、Grab Rentで8時間チャーターするのがおすすめ。ただし、ホテルに戻った時点で、残り時間はすべてキャンセルされてしまうので、計画的に利用したい。今回は朝食を食べずに出撃したので、ワット→トムで一時退散し、ホテルで朝食を食べたあと小休止し、その後Rentを再契約してタ・プローム寺院とバンテアイ・クデイ、スラ・スランに行った。
  • 正直なところ、途中で石の塊に飽きたので、プリヤ・カーンやタケウは行かなかった。乾季の場合は、飽きに体力の減少が加わるので、たまったものではない。意地でも全部回りたい(&朝焼けや夕焼けを楽しみたい)のであれば、たしかに3日券を買ったほうがいいと思う。各遺跡にはぼったくりガイドが出現するので、注意しよう。

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  • シェムリアップは朝の6時前に到着したのだが(フライトが朝の8時35だった)、7時になるまでまったく受付が始まらなかった。早朝フライトの人は頑張りすぎなくていいと思う。空港は狭くてあまり買うものはない。ラウンジは定番のプラザプレミアム、僕だけしか利用者がいなかった。

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MONOQLO 201910

バズったもの特集

こすらないお風呂洗剤は買いとのこと。ストックが切れたら試し買いしてみたいと思いました。

割れないグラスも面白いですね、アウトドアによさそうです。

知人に紹介したら、すぐに買ってました。

ニコンから乗り換えたい

安くて良い家電50

体組成計は1台あるといいですね。

洗濯洗剤TEST THE BEST

今回の個人的な目玉企画、予想通り性能では粉末>液体>ジェルボールでアタックがとにかく強いという結果に。コスパではマツモトキヨシの粉末もよいとのこと。

粉末最強

液体最強

ジェルボール最強

世にも美しき数学者たちの日常

まぁ、こんな感じになるんだろうね、という予想通りの出来。決して面白くないわけではないけれど、全体的に踏み込みが中途半端だな、という感想(できないのも分かってるけど)。構成的に、数学好きの一般人を紹介するくらいなら、応用数学者(物理学や経済学者など;渕野さんからヒント貰ってるんだし)を紹介したほうがいいってことすら分からないんだろうな、というある種の諦念も。一般人(小中学生)向け書籍って感じですね。

加藤文元

  • 「共同研究も、その人と共同生活をすることなんですね、問題と一緒に。食事に行くときも、旅行中も、遊びに行っても、その問題について話ができる状態にする」
  • 「数学では『共鳴箱』という表現をすることがありまして、いい共鳴箱を持つことは重要なんですね」
  • 共鳴箱自体は音を出さない。しかしオルゴール単体では聞こえづらい演奏の音色を大きく、鮮やかにすることができる。
  • 「聞き手に向かって話すことで、自分のアイデアが育っていくことがあります。二人の共同研究でも、片方がどんどんアイデアを出して、片方はひたすら共鳴するというスタイルもあるでしょう」

 

  • 「そうです。数式は音楽家が使う音符と同じものであって。誰かに伝える時に音符があると便利だけど、でも音符を読めなくても音楽は楽しめるじゃないですか。本質は楽譜じゃなくて、奏でることにある。数学イコール数式というのは、
    全然違うんですよ。数学を味わうのに、必ずしも数字や数式は必要ではない」

 

  •  「いや、文字通り不可能なんですよ。表現できない。でね、じゃあ数値的には計算できると思いますよね。曖昧さは何もないはっきりとした方程式だから、数値計算すればいいはず。ところが数値の誤差が少しでも入ると、エラーがものすごく大きく広がっていくという性質があるんです。だからその解がどうなっていくのか、ほとんど予想がつかないんですよ」
  • 「数字の計算で、エラーが起きるものですか?」
  • 「本来なら無限の精度でやらなきゃいけないところを、有限精度でやるからですね。計算の中で小数点以下何桁、とかで切っちゃうでしょ。計算機で計算するとしても、プログラムの中で何桁目を四捨五入するとか、切り捨てとか、決まっているわけです。結果に大きな影響が出ないのならそれでいいんですが、カオスの場合はそのちょっとした誤差がとてつもなく大きな影響を及ぼして、エラーだらけにしてしまうんです。何が本当の解だったのか、全くわからなくなってしまう」
  • 数学というのはとても論理的で、それが透徹していないとならないけど、意味のない論理展開をしてもしょうがないんです。一つ一つ数学として意味があることをやって、その結果今まで見えていなかったようなことがワーツと見えてくるような、そういうのがいい証明なんです」
  • 「そういえば渕野さんは日記に、数学は才能が占める部分が大きく、努力で補える部分は少ない、と書かれていましたが……」
  • 「そうですね。僕は大学院生の指導もするわけですが、学生のレベルと研究者のレベルとの間にはやはりハードルがあって、それを超えるだけの能力がない人はいるわけなんです。いかに数学に興味を持っていて、数学者になりたいと思っていても」
  • 「それはもう、はっきりわかってしまうものなんですか」
  • 「『この人はこのぐらいのレベルだな』というのは、少し数学的な議論をすればすぐにわかってしまいます。学生とでもそうだし、数学者同士でもそう。だから怖い世界ですよね。他の世界ならもっといろいろな要素があるから、努力でカバーできる部分もあるでしょう。でも数学は閃き、センスみたいなものが占める部分がかなり大きいので、ダメな時は本当にダメ。で、そういう人をどう扱ったらいいかというのは、本当に難しい問題なんです」

 

  • 「江戸時代の数学は他の学問、たとえば物理学や社会科学と影響し合って発展する、という道を取らなかったんですね」神戸大学は数学研究室の談話スペース。ソファに腰かけた渕野さんが言うと、後ろでまとめた長髪が軽く揺れた。
  • 「特に物理と繋がっていなかった。ヨーロッパでは、数学は物理学とか天文学とかと繋がって大きく発展してきているんですよ。一方の日本は、純粋に数学、パズルを解くことを通じて、精神性、人間性を高めるとか、そういった要素が強かった。そういう体質が現代にも一部、引き継がれてしまっているんじゃないかと思います」いろんな人がいるので全員に当てはまるわけではないけれど、と渕野さんは前置きして続ける。
  • 「そういう遊芸としての数学とか、いい点を取って大学に入るための数学、すなわち受験数学が、日本では一人歩きしちゃつているところがあるのかと。点をできるだけ取って、ちょっとでもいい大学に入ろうとする人たちには、問題は解けてもその奥の意味を知る余裕がないんですよね。だから学ぶモチベーションが消えてしまう。せっかく大学に入ってもそのまま、いい点を取るにはどうすればいいのか、という気持ちのまま数学をしてしまうんじゃないか。数学の考え方を踏み台にして何かをより深く理解する、ということを目指すと、違ってくるとは思うんですが・・・」
  • 数学は点を取るだけのものだと思っている人と、宇宙を知るための道具の一つだと思っている人。確かにこの違いは深刻だ。僕は今のところ前者のタイプだが、
    もし後者のタイプだったとしたらどうだろう。
  • 数学が社会で何の役に立つのかと聞かれても、「うーん、そこからか・・・」と頭を抱えてしまいそうだ。全ての基盤になる部分を研究しているつもりなのに、役に立たないことに血道を上げる変人のように見なされてしまうかもしれない。素晴らしさをわかってもらうには、実際にやってもらうのが早いのだが「数学は恐ろしくて、難しい」と言われてしまう。そんなに怖がらなくても、やってみれば意外と簡単だし、楽しいのに・・・。

 

  • 「僕、たぶん今生きている人類の中で一番頭のいい人の助手を、半年間ほどやったことがあるんですよ。シェラハ先生っていうんですけど」サハロン・シェラハ。イスラエルの数学者である。
  • 「その人の論文は2千本くらいにまでなったのかな。ゆうに千は超えているはず。共著者がたくさんいるんですけど、中にはシェラハに問題を持ち込んで、教えてもらった結果をほとんどそのまま論文の形にすることしかできない『共著者』もいます。つまり、本当にすごい先生です。僕が彼の助手になった時にね、助手を長らくやっていた方に言われたんですよ。『サハロンを人間だと思ってはいけない、宇宙人みたいなものだと思わないと、やっていけないよ』と。宇宙人なら何でもありでしょ?それくらいの人なんですよ。彼に比べればもう、他の人は全部同じ、どんぐりの背比べみたいなもので」
  • 「そんなに普通の人と違うんですね」「うん、違う。違いすぎるので、もう比較してもしょうがない」「その先生の助手というのは、どんな仕事をするんですか」「いろいろあるんだけどね、研究のアイデアを聞いて細かいところを埋めるとか。シェラハはかなり細かくノートを書いてくれるんだけど、それを普通の人が読んでも全然わからないんですよ。普通の人が読めるような論文の形に、ノートを解読して落とし込まないとならないんです。だから助手と言っても、普通の人にはできない仕事です。僕がその助手をやっていたというのは、まあちょっと威張れることかもしれない」
  • 「渕野さん。ちなみに今言った『普通の人』というのは・・・」「ん、ああ。だから普通の、専門家。普通の数学者ですね」

 

  •  「一つ象徴的なのが、『岡・カルタンの理論』です。岡先生が作った多変数関数論という数学の分野があります。これはフランスの数学者のアンリ・カルタンと互いに刺激し合うような形で、作り上げられていきました。このカルタンという人は、アンドレ・ヴェイユと共に現代数学を作った人なんですね。ある時フランス数学会の機関誌に、岡先生の連作『多変数解析関数について』の七番目の論文が載ることになります。1950年。巻頭論文でした。で、その次に載っている論文がカルタンの論文なんですけれど、これは岡先生の論文を1年ほどかけて全面的に書き直したものなんです」「え? 同じ論文なんですか?」「論理的には同じですね、でもものすごく大きな乖離がある。岡先生の論文はさっきのたとえで言う鶴亀算で、カルタンの論文は連立方程式なんです。つまり「岡の言っているのはこういうことである』と、カルタンたちが作っていた新しい数学の形に、抽象化して組み込んだわけです。こうしてできたのが岡・カルタンの理論。ホモロジ
    ー代数……層係数コホモロジーという新しい代数です」つまり昔の数学と、今の数学がすれ違った瞬間の一つということなのか。
  • ホモロジー代数は大成功を収めました。多変数関数論だけでなく、様々な分野に応用が利いたんですよ。数学の世界に非常に大きな土台を作りまして、その上に代数幾何学なんかもできた。難問だったフェルマー予想を解くことにも繋がっていったんです。これで岡先生は一挙に有名になった。業績を絶賛された。でもね」高瀬先生は声のトーンを落とした。「岡先生はそのカルタンの論文が、非常に嫌いでした。教科書にはカルタンの論文の方が載って、岡先生の論文は読まれなくなって。有名になった岡先生のもとに、学生たちが訪ねてきたりするわけですよ。カルタンの理論を教科書で読んだ学生がね。でも『あんなのは私の理論じゃない』と。怒られた方はなんで起こられたのかよくわからない、尊敬しているのにね

天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す

「お金持ちになる方法」はあるだろうか?標準的な経済学に従えば、大きく3つあるのだろう。1つ目はインサイダー取引を行うこと、2つ目はねずみ講を組成するなど、詐欺を働くこと。言うまでもないことだが、確実に儲かるがゆえに、これら2つは法律で規制されている。合法的にお金持ちになる唯一の方法である3つ目は、裁定機会を見つけてくることだ。本書はこの「お金持ちになる」方法を実践してきた投資家の自伝である。

上巻

  • 私は怒り狂い、2学期には化学の授業を取らず、専攻は物理学に変えた。おかげで私は有機化学の授業は取らなかった。これは生き物すべてにとって主要な構成要素である炭素化合物を研究する分野だ。つまり生物学の土台である。
  • このとき早まったせいで、私は学校も専攻も変えることになり、おかげで人生の道筋がまるごと変わってしまった。振り返ってみると、変わってよかった。私の興味も私の将来も、物理と数学のほうにあったからだ。何十年もあと、人間が健康にもっと長生きするためのアイディアを追求していて有機化学の知見が必要になったときには、必要な分だけ自分で学んだ。 

 

  • 教授は高名な物理学者の息子だったが彼自身は凡庸だった。いつもビクビクしていた。学生から質問されるのが怖いので、講義はカードの束に書いたことを黒板に写すだけだった。学生がものを言いにくいようにずっと背中を向けている。で、私たち学生は板書を自分のノートに写す。彼はもう何年もそんなやり方をしていて、講義の内容は毎年ほとんど変わらない。バカかと思った。先にカードのコピーを配ってくれたら講義の前に読めるから、興味深い質問もできるのに。もちろん彼は、誰かに何か尋ねられて自分が答えられないのが怖いのだ。
  • 退屈した私は、講義中にUCLAの学生紙『デイリー・ブルーイン』を読み始めた。これで教授の自尊心が傷ついた。執念深い敵を作りたくなければそういうのは絶対に避けないといけない。私がそう知ったのはずっとあとになってからだ。とても怒った彼は、私が完全に新聞に没頭していそうなときを狙って、カードを黒板に写すのを何度も急に止め、質問を私に投げつけた。そのたびに私は正しい答えを言ってまた新聞に戻った。
  • 今から思うと、私はいつも、ケチで凝り固まった凡人を見るとイライラしていた。ずっとあとになって、そういう連中と角を突き合わせたってしょうがないのを学んだ。そういう連中は、できるものなら避けて、できないものなら適当にあしらってやるのがいい。
 
  • CBOEが開所する数カ月前、私はオプション評価の公式を使って取引する準備ができていた。この公式のことはほかに誰も知らない、私はそう思っていた。PNPの独壇場だな。そんな矢先、聞いたことない名前の人から手紙が来て、発表前の論文のコピーが入っていた。ブラックという人だ。手紙はこう言っていた。私はあなたの研究に感服している、自分とショールズで『市場をやっつけろ』の核心であるデルタ· ヘッジのアイディアを拝借して1歩進め、オプション評価の公式を導出した。論文を流し読んでみると、私が使っているのとまったく同じ公式が出てきた。グッドニュースは、彼らが厳密な導出をやってくれたおかげで私が直観に頼ってたどり着いた公式が正しいのが証明されたことだ。バッドニュースは、これで公式は広く一般に知れ渡ったことだ。みんなこの公式を使うに違いない。運よく、そうなるにはしばらく時間がかかった。CBOEが開所し、取引が始まってみると、取引に公式を使っているのは私たちだけのようだった。 

 

  • 大きな組織につきまとう1つの問題は、構成員の大部分が他人の邪魔はしないのがいいと決め込んでしまうことだ。そうして道理が通らなくなるのである。私は親しい友だちに副学科長になって私を助けてくれと頼んだ。私が数学科で職を得るのを手伝ってくれた人だった。その頃にはもう終身の正教授になっていたのだけれど、彼は私の申し出を断った。言い分はこうだ。「オレはこのサルどもと一緒のオリで暮らしていかないといかんのだよ」。彼の言うことはよくわかる。対する私はと言うと、そんなオリに縛りつけられてはいない。私にはPNPがある。こんなことを思った。なんで私がここをなんとかしてやらないといけない?誰も私の味方をしてさえくれないのに?私は入りたくて数学科に入ったのだ。入らないといけないから入ったのではない。もういい頃合いだろう。

 

  • 人生最大の望みはカリフォルニア大学で終身教授になることだと誰かが言うのを何度も聞いた。私にとってもそれは夢だった。長い歳月のあいだに、私はUCIの学生や元職員を何人も雇ってきたが、教授陣でこの挑戦に乗って私の会社に加わってくれたのは1人だけで、終身教授ではなかった。ほかの人たちにとってそんなのは考えるだけでも恐ろしかったのだ。
    まあもちろん、そんなほかの人たちには、あとになって後悔した人もけっこういたけれど。
  • 常勤での講義の仕事はだんだん減らしていき、最終的にUCIの正教授を辞任したのは1982年のことだった。教えるのも研究するのも大好きだったから、一生楽しくやっていくんだろうと思っていた仕事を手放して大きな喪失感を味わった。でも結局、そうしてよかった。私は好きなものをちゃんと持って出たのだ。友だちもそのままだったし、共同研究も続けられた。思うがままに好きなことをやれるわけだから子どもの頃の夢がかなった。自分の研究を学会で発表し続けたし、数学や金融、それにギャンブルの学会誌に論文も載せ続けることができた。そうして私は、学界からウォール街へと押し寄せていた数学者に物理学者、金融経済学者との競争にいっそう力を注ぐようになった。

下巻

  • 政府は、当時とそれ以前の両方にわたるメイドフの顧客のリストを公表している。顧客の数は1万3000件を超えていて、大金持ちとは言いがたいフロリダのご隠居さんから、セレブに億万長者、慈善団体や大学といった非営利組織までさまざまだ。この(あるいはほかの)詐欺であれだけの数の投資家が簡単に、それも多くの場合何十年にもわたって騙されるなら、市場は「効率的」だなんて言う学界の理論はどうなんだろう?投資家は素早く合理的にすべての公開情報をポートフォリオ選択に反映させるとかっていう仮説はなんなのだろう?
  • 多数決という・・・やり方は、場合によってはものすごくうまくいく。樽の中に豆がいくつ入っているかとか、かぼちゃの重さとかを当てるなんて場合がそうだ。たくさんの人の当て推量全部の平均は、だいたい個人それぞれの当て推量の大部分より、ずっといい推定になる。この現象は群衆の叡智と呼ばれている。でも、だいたいの単純な話と同じように、この話にも裏がある。メイドフの事件でいうと、答えはたった2つしかない。イカサマ師か投資の天才かのどちらかだ。群衆は投資の天才のほうに手を挙げ、それは間違いだった。この群衆の叡智の裏を、私はレミングの錯乱と呼んでいる。

 

  • たいしたことない価格の変化に説明をつけるのは金融マスコミが四六時中やらかしている間違いだ。記者には目の前の変動が統計的によくあることなのかめったにないことなのかがわからない。でも考えてみると、人はなんにもないところにパターンを見たり説明を思いついたりなんて誤りをよく犯す。ギャンブルの戦略の歴史、役にも立たないのにやたらとある、パターンに基づく取引手法、それにマスコミの記事を本気にした投資法の大部分を見れば、それがよくわかる。

「大きすぎてつぶせない」なら

  • 個別に見ると、金融業界の重鎮の中には、個人として、あるいは会社として、ひどい傷を負ったケースもあった。でも、政治業界にコネのあるお金持ちは世間一般の人の財布から1兆ドルも奪い取り、「大きすぎてつぶせない」会社を救済させた。一部の利益団体にはたっぷりお金をばら撒いて懐柔し、また報いた。スクラップ直前の車を引き渡して別車を買うと4500ドルもらえる「ポンコツ買い替え補助金」なるものができた。環境にやさしい政策なんてネコをかぶっているけれど、新しい車を買うと車の種類によってはガソリン3.7リットルでほんの1.6キ
    ロから6.4キロ余計に走るだけで補助金がもらえた。燃費が気持ちだけよくなっても、新しい車を作ることで排出される追加の公害のほうがずっと大きい。でも車のディーラーたちは買い替えを後押ししてもらい、売り上げは伸びるわ車庫にたまった在庫がはけるわで大喜びだった。
  • 正社員でもパートタイムでも失業率は上がり続けていた。失業手当の給付期間は何度も延長された。必要だという意味ではこれはいいことなのだけれど、手当てを払うより手の空いている人たちをできるだけたくさん雇い、有意義な事業に携わってもらうほうがみんなのためになると思うのだ。公共事業促進局(WPA、Works Progress Administration)や資源保全市民部隊(CCC、Civilian Conservation Corps)なんかの事業が頭に浮かぶ。子どもの頃、1930年代のそうした事業で道路や橋、公共施設ができた。あのときに改善されたインフラは、それから何十年も私たちに恩恵をもたらした。