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代替医療解剖

 ヒポクラテスはこう述べた。科学と意見という、2つのものがある。前者は知識を生み、後者は無知を生む。


ジェイムズ・リンドは、明晰な頭脳と几帳面な性格のおかげで、慣習や偏見、逸話や伝聞から脱却し、論理と合理性を武器として、壊血病という災いに立ち向かった。・・世界で初めて対象比較試験というものを行うことにより、他の人たちが成し遂げ得なかった成功を収めたのだ。


ギルバート・ブレーンは、「理論だけに基づく提案はしない。何でも経験と事実に照らして確かめる。経験と事実こそは最も確実で間違いの少ない指針である」というリンドの毅然とした宣言に感銘を受けた。・・イギリス人がレモン・セラピーを採用するには遅きに失したが、他の多くの国々は、それよりさらに遅れをとった。そしてそれが、イギリスが遠方の土地を植民地化し、ヨーロッパの隣人たちとの海戦に勝利するうえで、途方もなく有利な条件になったのだ。たとえば1805年のトラファルガーの海戦に先立ち・・英国海軍による海上封鎖によってナポレオンの船は何カ月もの間母港に足止めされ、計画は阻止された。・・ナポレオンの陸軍は英国陸軍よりもずっと強かったから、海上封鎖に失敗していれば、恐らくフランスは侵攻に成功していただろう。


鍼治療師の多くは、鍼の基礎にある哲学は一般的な科学とは相容れないので、臨床試験で鍼の有効性を検証するのは不適切だという。しかしこの非難は的外れだろう。何故なら、臨床試験は哲学とは関係がないからだ。臨床試験で試されるのは、その治療が効くかどうかだけなのだから。


鍼治療師は、代替医療の効果は極めてデリケートなので、臨床試験にはなじまないという。しかし、もしも鍼の効果が検証できないほどデリケートなら、それは行うに値する治療なのだろうか?現代の臨床試験は、どんな治療法の有効性も評価できるほど高度に洗練され、状況に柔軟に対処できるので、むしろデリケートな効果を検証するのに適している


「薬の効能を大げさに言い立てるものが、人を騙そうとしてやっていることはまずめったにない。そういう大げさな言葉は、思いやりあふれる共謀の結果として、良かれと思う気持ちとともに出てくるのが常だ。患者はよくなりたいし、医者は患者を治したいし、製薬会社は医師の力になって患者の役に立ちたいのだ。対象比較試験は、そうした良かれと思う心の共謀に取り込まれないための試みなのである。」

サー・ピーター・メダワー


真実は頑丈にできている。ちょっとつつかれたぐらいで、あぶくのようにはじけたりはしない。それどころか、蹴球のボールのように朝から蹴りまわされて夕方になっても、相変わらずまん丸のままだろう。オリヴァー・ウェンデル・ホームズ


鍼はプラセボに過ぎないという可能性が極めて高いことを明らかにした。・・どうやら鍼という治療法は、きわめてプラセボ反応を引き出しやすいらしい。


ホメオパシーでは、30Cはごく普通の希釈だが、これは初めの母液が百倍に希釈されるプロセスが、30回繰り返されるということだ。・・希釈の程度は、母液中に含まれる分子数よりも著しく大きい。これほど薄まった溶液には、もはや十分な数の分子は含まれていない。・・30Cホメオパシー・レメディは、ほぼ確実にただの水だということになる。


現代科学がホメオパシーを容易に受け入れられないのも無理もない。そもそも「類が類を治療する」と考えるだけの理由がない。また、超高度希釈の溶液がどうすれば人体に影響を及ぼせるのかもわからない。さらに、「生命力」なるものが存在するという考えを支持する証拠も何一つない。・・だからと言ってこの治療法が役立たないという話にはならない。何故なら、臨床試験によって試されるのは、その治療法が奇妙かどうかではなく、効果があるかどうかだからだ。


ホメオパシーへの批判に対し、ホメオパスは、伝染病が大流行した時に、この治療法で対抗できたという例を挙げて反論することが多い。・・おそらくロンドン・ホメオパシー病院の高い生存率は、通常医療の失敗を意味しているのだろう。・・1850年代の医療は、いわゆる「英雄的治療」の段階にあり、医師たちは患者に害をなしていた可能性が高い。英雄的治療とは、19世紀半ばまで主流だった、患者の体を傷つけるタイプの治療を指すために20世紀になって作られた言葉である。患者は瀉血を受けたり、下剤をかけられたり、嘔吐や発汗をさせられたり、皮膚に疱疹を生じさせられたりといった治療に耐えなければならず、・・すでにして弱っている体をさらに痛めつけた。・・英雄的治療の呼称は、英雄的であるとされた医師たちの役割を表しているが、その治療を受けてなお生き延びた人たちこそは真の英雄だろう。


ジェイムズ・ランディ(マジシャン)がしばしば語った次の言葉には、「もしも隣人が庭で山羊を飼っているといったなら、自分としてもそれを信じるだろうが、ユニコーンを飼っているというなら、その角がどれぐらいしっかりと接着してあるか調べたくなるだろう。」


バンヴニストは自分をガリレオになぞらえることさえした。しかしそれは2つの理由から的外れだろう。第一に、ガリレオを攻撃したのはもっぱら宗教界の主流派であって、
仲間の科学者たちではなかったこと、第二に、ガリレオはつまるところ、バンブニストとはまったく別種の科学者だったことだ―ガリレオの観測は詳細な検討に耐え、彼の実験結果は他の人々によって再現されたのだから。


科学者がよく言うように、「逸話の複数形はデータではない」のだ。
チーズだけを食べさせれば子供の身長が伸びるという仮説を立て、子供たち全員にチーズばかり食べさせて、一年のに身長を測ってこう言うようなものだ。ほらごらん!全員の身長が伸びたではないか、チーズが効く証拠だ。

ティマンドラ・ハークネス(サイエンスライター


科学的根拠によれば、ホメオパシーの効き目はプラセボ効果に過ぎない。したがって、もしも単なる気休めではない薬を探しているのなら、ホメオパシー・レメディは避けることを強くお勧めしたい。
「私は処方されたホメオパシー睡眠薬を64回も飲んだが、眠気すら感じなかった。薬を飲んだのは、米国連邦議会の会合に出席する前だった。あの会合で眠れないなら、どんな状況でも眠れないだろう。」ロンドン大学医学部の聖ジョージ病院教授マーティン・ブランド
ハーブ薬の中には何らかの症状に効きそうなものもあるが、ほとんどの場合、同等かそれ以上に効く通常医療の薬があるということ。唯一の重要な例外は、風邪薬だ。通常医療の風邪薬はおおむね効果がないのに対し、エキナセアのエキスは、臨床試験でいくらか肯定的な効果を出している。エキナセアは、風邪を予防してはくれないかもしれないが、病気の期間を短くしてくれそうなので、風邪をひいたらこれを試してみる価値はあるかもしれない。


16世紀のスイスの医師パラケルススは、「あらゆる炎症と多くの病気は、磁気によって治すことができる」と言いきった。・・しかし残念ながら、磁気療法については、厳密な研究が行われ、そうした主張はどれひとつとして支持されなかった


代替医療に心惹かれるきっかけは、多くの代替医療の基礎となっている3つの中心原理であることが多い。代替医療は自然で伝統的で全体論的な医療へのアプローチであることが多い。


自然なものが良いとは限らず、自然でないから悪いともいえない。自然界には、ヒ素コブラの毒、放射性元素地震、エボラ・ウイルスなどが存在しているが、ワクチン、眼鏡、人工股関節などはすべて人間が作ったものだ。・・良い伝統は継承し、有望そうな伝統は残し、馬鹿げたものや悪いもの、そして危険な伝統は捨てることができる・・うわべは魅力的でも、陥りやすい罠である中心原理を広めるのに加え、代替医療業界は主流の科学者たちは悪者にすることで新たな患者を獲得しようとする


もしも代替医療の効き目が科学によって検出できないのなら、それはその治療法に効果がないか、治療として考慮に値しないほどわずかな効果しかないかのどちらかだろう。「科学は代替医療がわかっていない」?・・ある治療法のメカニズムが分からないからと言って、効くかどうかが分からないという話にはならないからだ。・・いずれかの代替医療に効果があることが明日にでもきちんと示されれば、科学者はすぐさまそれを受け入れて応用しようとするだろうし、基礎となるメカニズムを解明しようとするだろう。・・科学者の世界は、自分の主張は支持する証拠を見出すことのできた反主流派を温かく受け入れる。


磁気療法のセラピストは、磁石は血液に含まれる鉄に働きかけて、身体の電磁気的バランスを取り戻させるということがあるが、科学的には理解できない。血液中のヘモグロビンには確かに鉄が含まれているが、その鉄は時期に反応しないタイプだからだ・・・本書の著者たちは二人合わせて、医学と素粒子物理学と血液流動学で3つの博士号を持っているが、それでもここで言われていることは理解できないのだ。

 

空飛ぶスパゲッティ・モンスター福音書」という著者の中でボビー・ヘンダーソンが作った傑作な例をみれば、相関と因果関係とを混同してはいけないことがよく分かる。ヘンダーソンは、過去2世紀間に起こった地球規模の温度上昇と、海賊の減少とのあいだに非常に興味深い相関があることに気付いた。もしも相関が因果関係と同じことなら、海賊が減ったために地球が温暖化したのに違いない、ヘンダーソンは推理した。そこで彼は、政治指導者たちは地球温暖化と戦うために、もっと多くの海賊が出没するよう奨励すべきだと提案したのだ。・・ヘンダーソンはそのほかにも証拠を挙げて、海賊と地球温暖化とには関係があることを裏付けた。たとえば、ハロウィンのときには多くの人たちが海賊のコスチュームをつけるが、ハロウィンの仮装パーティが開かれる10月30日から数ヶ月間は、概して温度が下がるのだ。「海賊=天候」というばかげた例を見れば、二つの出来事が同じ時期に起こったからといって、両者の間に必ずしも関係があるわけではないことは明らかだろう。


信じる者は、確証バイアスを持ちやすいからだ。何が起こっても、先入観を強めるような形でその出来事を解釈する傾向のことだ。・・「トルストイ・シンドローム」と呼ばれる。


自慢げに人に教えたことや、人生の礎としてきたことが、間違いだったと認めなければならないような事態になれば、大概の人は、・・込み入った問題をやすやすと理解できる人まで含めて・・明明白白たる事実さえ認められないものだ。


安価で安全で患者の役に立つプラセボ効果は確かに魅力的だが、医者を始め医療従事者がプラセボ効果のためにホメオパシー・レメディを用いることは間違いだと、我々は強く信じている。


主な理由の一つは、医師と患者との関係が、嘘のない誠実なものであってほしいと思うからだ。この数十年ほどの間に、医師と患者が情報を共有し、十分なインフォームド・コンセントに基づいて関係を作り上げていく方向にはっきりと合意が進んだ。それに伴い、医師たちは、成功する可能性が最も高い治療法を用いるために、科学的根拠に基づく医療の立場をとることになった。プラセボ効果だけしかない治療に多少とも頼ることは、目指すべき目標のすべてを覆すことだ。


メディアには読者、視聴者を引き付けたいという願望があるため、話題をセンセーショナルにしなければという圧力がかかる。そのせいで、事実に立脚したいい記事や番組を作れないということが起こってしまう。・・マスメディアは、大衆に必要な知識を提供するために、責任ある態度で医療問題を取り上げるのか、それともショッキングな記事にしたいがために恐ろしげなレポートにするのか、立場を決めなければならない。残念ながら、メディアには利益をあげたいという動機があり、自制心が足りないため、今後も校舎の魅力に逆らうのは難しいだろう。


謎の殺人化学物質
この物質は、さまざまなガン細胞の中に見出されている。・・ガンとの間に何か因果関係があるという証拠は得られていない―少なくとも、これまでのところは。・・DHMOは、致死的な子宮頸ガンの95%以上に見出され、末期がんの患者から集められたガン細胞の85%以上に見出されているのだ。それにもかかわらず、この物質は今も、工業用の溶剤や冷却材として用いられ、引火を遅らせたり、引火を抑えたりするために利用され、さらには生物兵器化学兵器の製造や、原子力発電所でも使われている。そしてあろうことか、・・エリート・スポーツマンがこの物質を摂取しているのだ。・・固体の時は重いやけどを引き起こすこともあり、高温ガスの状態では、年間数百人もの人々を死に至らしめている。そして液体状態のDHMOを少量を肺に吸入したというだけで、毎年何千人もの人たちが命を落としているのだ。

実は、DHMOとはただの水のことである。この記事を書いたカール・クルシャルニッキは、大衆を怖がらせるのがいかに簡単かを示そうとしたという。「この記事を読んだ人たちに意見調査をすれば、4人中3人はDHMOの禁止請願に署名してくれるだろう。」

 

二つの相矛盾する必要性のあいだで、デリケートなバランスを取らなければならないと思うのです。提示された仮説は、とことん懐疑的に吟味すること。それと同時に、新しいアイデアに対しては、大きく心を開いておくことです。もしも懐疑的なだけなら、新しいアイデアは一つも理解できないでしょう。新しいことは何も学べず、世界は無意味なものに支配されていると信じ込んだ、気難しい老人になってしまうでしょう。一方、騙されやすいほどに心を開き、懐疑的な思考が全くできなければ、有用なアイデアを価値のないアイデアから選り分けることはできません。もしもすべてのアイデアが同じぐらい万事休すです。何故ならその場合、どのアイデアも正しくないということになるでしょうから。カール・セーガン


アロマセラピー
いくつかの臨床試験によって、アロマセラピーとマッサージにはリラックス効果があることが裏付けられている。しかしその効果は一時的なもので、治療としての価値については議論のあるところだ。


「クリスタルセラピー」
何らかの病気に効果があることを示す根拠はない。


「スピリチュアル・ヒーリング」
生物学的にはおよそ考えにくく、その効果はプラセボ反応によっている。最悪の場合、早急に通常医療を受けなければならない重病の患者が金を巻き上げられるだけという結果にもなりかねない。


デトックス
代替医療のデトックスを擁護する人たちが、実際にデトックスで毒素を減らせることを示した例はただの一つもない。いずれにせよ、人体には極めて効率的に毒素を排出してくれる臓器があり、不摂生な生活で取り込んだ毒素を除去してくれている。たっぷり水を飲み、適度な運動をして、ゆったり休養し、分別を持って食事をすれば、不摂生をしても体は速やかに正常に戻る。そのために効果なデトックスをする必要はないはずだ。・・患者から除去されていくのは、たいていはお金だけだろう。


風水
空間内のエネルギーの流れに対する解釈は、風水師によってバラバラであることが示された。・・風水を仕事にすれば金が舞い込むという点を別にすれば、風水に何らかの効果があることを示す科学的根拠はない。


「霊気」
臨床試験から得られている科学的根拠によれば、何にせよ病気に対する有効性は示されていない。

代替医療解剖 (新潮文庫)

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