メタバース さよならアトムの時代

メタバース7つの条件

今回のメタバースのブームに合わせて、ブログなどのメディアで識者たちが「メタバースであることの条件」を論じながら、各々がこの概念の再定義を試みている。 どれが正解というわけでもないし、そのすべてを紹介することに意味はないので、代表的なものを1つ引用しつつ考察してみたい。

ここで引用するのは、メイカーズ・ファンド (Makers Fund) のベンチャーパートナーでもあるマシュー・ボールが論じた定義だ。メイカーズ・ファンドはVRSNSVRチャット (VRChat)」の運営会社にも出資するなど、メタバース領域への投資を行うベンチャーキャピタルである。マシュー・ボールは、今回のブームが来る2年弱前の時点で、「メタバースとは何か」を7つのポイントを挙げて説明している。

彼が2020年1月に書いた 「The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It (メタバース:メタバースとは何か、どこで見つけられるのか、 そして誰が構築するのか)」という記事を参考に、メタバースであることの条件を紹介していきたい。

①永続的に存在する

現実世界と同等の振る舞いが期待されるメタバースにおいて、永続的に存在することは外せない条件と言える。様々な人が同時プレイする世界で、体験の最中にリセットやポーズ、エンドするという概念が存在してしまうと困ったことになるだろう。現実世界でそういった権限を持つプレイヤーがいたとしたら神と等しい力を持つことになる。

一般的なゲームはポーズボタンを押せば一時停止し画面をフリーズさせることができるし、基本的にはゲームクリアが存在する。リセットして最初からやり直したりもできる。そう、これらの特徴によって神のごとき万能感が得られるからゲームは楽しい。

しかしメタバースにはそういった概念が存在してはいけない。現実世界と同様に体験
が一続きになっている必要がある。

②リアルタイム性

同期体験、すなわちリアルタイムに他者と同一体験を共有できるという重要な条件だ。インターネットの歴史を振り返ると、コミュニケーションという本質は変わらないものの、初めは技術的制約もあり同期体験を重視していなかった。掲示板やメールがリアルタイム性の高いコミュニケーション体験ではないことはご存じの通りである。

一度目のメタバース・ブームの火付け役であるセカンドライフも完全同期型のサービスであるが、当時の通信やコンピューティング環境では充分な体験を得ることができなかった。代わりに「ニコニコ動画」のような、完全な同期体験ではなく、ストックされるコメントによって擬似的に同期するような体験を得られるサービスが人気を博すようになった。

しかし、スマートフォンが普及し5Gの運用も開始された現代の通信環境では、インターネットの同時性、リアルタイムな体験が常識となっており、ライブ配信やオンライン対戦ゲームを誰もが楽しんでいる。

③同時参加人数に制限がない

メタバースは現実を超えなくては意味がない。現実では物理的な制限があり、どんなに広い会場でも入れる人数には限りがあるが、メタバースならその制限を外すことができる。

ただし技術的な制約で、この条件を満たすスマートな解決策を提供しているサービスは今のところない。サーバーの構造的な問題もあれば、描画コストの問題もある。しかし近い将来、技術的な解決策がいくつか生まれてくるだろう。そうなれば現実を越える臨場感のあるライブを、世界中の人が同時に楽しむことが可能になる。

ちなみに僕の会社が運営するプラットフォーム「クラスター」では、同一空間に100人以上入る場合は、101人目からはアバターを描画しないで透明人間になってもらうことにより数十万人の同時接続を可能にしている。

④経済性がある

文明がこれだけ発達できた背景には、「価値の交換」が存在する。人間は一人ひとり生まれの条件も違えば趣味嗜好も違う。それでも社会というシステムがうまく動作し、自立的に発展できたのは、通貨等を媒介にして価値を交換してきたからだ。たくさんの人が集まったシステムを考える上で、経済性の存在は不可欠と言っていい。

経済性はメタバースが持続的に発展していくためにも重要な条件となる。デジタル空間で何かを作ったり、保有したり、売買したりできることが求められる。 究極的にはその中で仕事をして、生活を営めるようになるべきだろう。もちろん、その世界での投資活動も可能にしなくてはならない。

メタバースにおける経済の発展については第5章で詳しく語ろう。

⑤体験に垣根がない

メタバースはデジタル世界とフィジカルな現実世界をシームレスにつなぐし、プライベートとパブリックなネットワークおよび体験をまたぐ存在であるべき、という条件である。

デジタルですべてを完結するのではなく、フィジカルな世界とも連動するべきだという条件を入れることについては賛否両論がある。人類にとっての理想形は、認識のすべてがパーフェクトにデジタルで完結する状態だという主張もあるのだ。僕も本心を言えば、デジタルで完結してほしい派である。

しかし今は過渡期。当然すべてがデジタルで完結する世界は、数十年という時間軸では到底到来し得ない。デジタルとフィジカルのどちらもが存在し、それぞれを使い分けながら生活するのが現実的だ。デジタルに対してアレルギーを持っている方がいるのも事実なので、あまり幅を狭めないほうがいいという判断もあるだろう。

⑥相互運用性

異なるベンダーによる製品間でも問題なく接続し運用できるという状態を「相互運用性(interoperability)」があると表現する。メタバースの文脈においては、アバターやアイテムをプラットフォーム間で自由に持ち運びできる状態を指す。

ただこの条件の実現は難しい。運営会社が対応するには相当なハードルがあるにもかかわらず、ユーザーにとってのメリットがそのコストを上回るケースが非常に少ないからだ。たとえば、従来のSNSでもこの相互運用性は議論されていたが、結局のところ実現はされなかった。

しかし、この条件はこれからメタバースをどのように発展させていくかという議論の核心部分でもある。

1つのメタバースにサービスを集約させていくクローズド・メタバースという概念に対し、複数のメタバースがゆるやかにつながるオープン・メタバースという概念が提唱されている。

メタバースは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に通じる閉ざされたディストピア世界だ、というイメージを持っている方もいるかもしれない。だが仮にそういったディストピアが形成されるとしたら、それは中央集権的なクローズド・メタバースに独占されたケースである。人類の理想はオープン・メタバースだと僕は考えている。

オープン・メタバースやより大きな枠組みとしてのWeb3.0というムーブメントについて
は、のちほど詳しく説明する。

⑦幅広い企業・個人による貢献

企業や個人を問わず誰でも参加でき、何かを売ったりサービスを提供したりして、コンテンツがあふれている状態でないといけないという条件だ。

単一企業がコンテンツを供給する状態はメタバースでないし、企業や個人の属性で参加条件を決めるべきでもない。たくさんの企業と人が関わることで、初めてメタバースができるということだ。

8つ目の条件は「身体性」

さて、この7つの条件はおおむね良いというのが僕の実感なのだが、メタバースに限らずインターネット全般にあてはまることのようにも感じる。

そこで、メタバースならでは、という条件をここに付け加えてみたいと思う。

⑧身体性

メタバースが従来のインターネットと最も異なる点、それは身体性(身体感覚)の有無である。

メタバースはディスプレイの向こう側にデジタル世界が広がっている状態ではない。自分自身がデジタル世界の中に入り込み、その中に住んでしまっているという感覚が重要なのである。

「はじめに」にも書いたが、既存のインターネットに乗っていない感覚が、この身体性だ。だからこそ、インターネットにつながっていたとしても、家から一切出ることができなければ、徐々にストレスが溜まっていくのである。それは新型コロナウイルスによって家から出なくなったわれわれが最も理解しているだろう。

マシュー・ボールはデジタルとフィジカル(身体)を行き来することがメタバースだとしているが、僕はむしろデジタルでフィジカル(身体)を実感できることがメタバースだと考えている。

 

オンラインゲームはこの世に星の数ほど存在するが、なぜメタバースを語るにあたってフォートナイトの名前が特段に挙がりやすいかというと、エピックゲームズの創設者兼CEOのティム・スウィーニーがブーム前からメタバースを意識した発言を繰り返ししていたというのが大きい。彼は「われわれはメタバースを構築する」と明言している。

メタバースの実現に向けて、エピックゲームズが取り組んでいるのはフォートナイトだけではない。彼らは「アンリアルエンジン (Unreal Engine)」というゲームエンジンを開発・販売しており、むしろこっちのほうが主力事業という位置づけだ。

ゲームエンジンとは、ゲーム開発を効率化するための統合開発環境である。

ゲームをゼロから作るには大変なコストと手間がかかる。しかも、ゲーム制作にはよく似た技術要素が多い。 コントローラによる操作によって3DCGのアバターが動き、光があたると影ができて立体に見える、という表現は大抵のゲームにおいて共通のものだ。これら共通の要素がたくさんあるのに、毎回ゼロから作るのは馬鹿馬鹿しい。ゲームを作る手間を省き、いわゆる「車輪の再発明」を防ぐために作られたソフトウェア群がゲームエンジンだ。

大手のゲーム会社は自社製のゲームエンジンを持っていることが多いが、ゲームエンジンを作る余力のない中小のゲームメーカーは既製のゲームエンジンを利用していることがほとんどだ。

2大ゲームエンジンと言われているのが米ユニティ・テクノロジーズの「ユニティ(Unity)」 と、 エピックゲームズの「アンリアルエンジン」である。メタバースを推進しているエピックゲームズが2大ゲームエンジンの1つを開発していることには大きな意味がある。

メタバースにおいて、クリエイターの存在はとても重要だ。先程挙げたメタバースの条件にもあったように、多くの個人や組織を巻き込んでメタバースが構築されていること自体が、メタバースを持続可能なものにする。そしてメタバースを構築する基礎技術はすなわちゲーム技術であり、ゲームエンジンの役割は非常に重要なのである。

ティム・スウィーニーはフェイスブックメタバースにシフトしたことも意識しており、「フォートナイトがめざす世界は広告ビジネスではない」という牽制発言もしている。フェイスブックとは違うぞ、というアピールだ。フェイスブックがクルマの広告をあちこちに貼るとしたら、フォートナイトがめざす未来はその世界でクルマに乗っても
らうことだと息巻いている。

エピックゲームズはIT関連の企業の買収を積極的に進めていて、フォートナ中心とした独自のメタバースエコシステムを構築しようと目論む中心的存在だ。

一番メタバースに近い会社・ロブロックス

メタバースのもう1つの主要企業、それがロブロックスだ。

ブロックスは2004年創業の会社で、2年後の2006年に社名と同じ「ロブロックス」をローンチした。オンラインのゲーム・プラットフォームであり、ゲーム作成システム「ロブロックス・スタジオ」も同時に提供している。クリエイターが参加してゲームを作り、そのゲームを他のユーザーたちと一緒に楽しむことができる。

日本ではまだ知名度は低いが、2021年第4四半期のDAUが5千万人、月間のアクティブユーザーが2億人という巨大なプラットフォームだ。史上最も売れたゲームと言われている「マインクラフト (Minecraft)」 にアクティブユーザー数で勝っていると言えば、その数のすごさがわかると思う。

アクティブユーザーのうち半分以上が15歳以下というのがこれまた恐ろしい。 大人からすると、まったく想像のできない巨大なバーチャル世界がすでに形成されているのである。

ブロックスは自分たちでゲームを作っていない。ゲームを作る環境を与えて、クリエイターがゲームを作ったり、楽しんだりすることを支援している。 ゲーム版YouTubeと称されることも多く、クリエイターによって投稿されたゲームの数は2400万件にも上る。

ちなみに、ロブロックスのローンチ以前は、前身となる物理エンジン、つまり、3DCGの物理演算をシミュレートするソフトウェアを開発していた。そのソフトウェアを一般ユーザーが使えるようにしたというのが今のプラットフォームにつながっている。

アバターデザインはかなりレゴに似ている。アクティブユーザーの大半が小学生以下なので、小さい頃からゲームを作ることに親しめるわけだ。

ブロックスがなぜメタバース関連企業として話題にのぼるかと言えば、エピックゲームズ同様、共同創業者兼CEOのデービット・バズッキがメタバースについて積極的に発言しているのが大きい。

CEOが様々なインタビューやカンファレンスで、ロブロックスメタバースとしてプッシュしているのに加えて、株主向け資料の中でもメタバースというワードを多用しており、ロブロックスメタバース関連株として注目されている。2021年の3月に上場したばかりだが、一時は時価総額が5兆円近くになった。

ブロックスもフォートナイトと同様に、アニメーションやキャラクターなどのIP(知的財産)やファッションとのコラボを行っており、2021年にはグッチ (Gucci)とコラボしてバーチャルなバッグを販売したりバーチャル展示会を開催したりした。

クリエイターの収益化手段も用意されている。 「ロバックス (Robux)」 という現金化可能なアプリ内通貨を用いてゲームアイテムやアバターを売買することが可能だが、なんと年間の流通額が1000億円以上もある。現存するサービスの中で、ロブロックスは最もメタバースに近い場所にいると言える企業だ。

MMORPGとの違いは「自己組織化」

さて、ここまで読んだ読者の中には疑問に思う方がいるだろう。「フォートナイト」や「ロブロックス」はオンラインゲームとしての側面が大きい。それではなぜ既存のMORPGメタバースとして語られることが少ないのか。

しかし、「MMORPGによってメタバースはすでに実現されています」で議論を終わらせてしまうのは歯がゆいし、思考停止と言えるだろう。

MMORPGと比べた時に、あらためてメタバースとは何か? という問いが浮かんでくる。 MMORPGが満たしていない重要な要素を、メタバースの条件としてさらに加えてもよいかもしれない。

9自己組織化

それは「自己組織化 (self-organization)」だ。

自己組織化とは、もとは1977年にノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリゴジンが定義したもので、個々の物質は自律的に振舞っているのに、結果として秩序だった大きな構造が生まれることを指している。雪の美しい結晶が自然とできあがるのも、自己組織化の1つと言える。

人間の組織についても同様で、各々のプレイヤーは組織全体を俯瞰できないし、それぞれ思い思いの行動をしている。にもかかわらず、結果として秩序だった大きな構造(=組織)ができてしまう。それも自己組織化だ。

僕は一人の個人なので、日本の産業全体を俯瞰して見ることはできない。僕だけではなく、政府ですら産業全体を俯瞰してそれをコントロールすることは難しい。だが、大勢の人が自由に働いた結果、秩序を持った形で産業が発展していく。そこには自己組織化が働いている。

MMORPGにはゲーム世界全体を俯瞰して観察し、コントロールする存在がいる。もちろん、それはサービスを提供している企業(ゲーム制作者)だ。

ユーザーにとって快適なようにゲームが設計され、世界観のあるストーリーや統一感のあるテーマが提示され、隅々までデザインが行き届いている。そこに自己組織化する自由は存在しない。どこまで行ってもそれはゲームでしかないのである。

ゲームの性として、ゲーム制作者の想像の範疇を越えることはできないのだ。

「FFXW」 と 「ドラクエX」の中で行われていることは、ゲーム制作者にとっては想定内の出来事でしかない。もちろん自由度の高さゆえに突拍子もないことをしでかすユーザーたちもいるが、ゲーム制作者の描くシナリオに収まらないものは大抵「バグ」のレッテルが貼られて、システム的に鎮圧されていく。

「ゲームの中でユーザー同士が結婚したらいいよね」という想定があるからこそ、ウエ
ディングドレスのアバターが実装されるのである。

ゲームには旬や賞味期限が存在する。どんな大ヒットゲームでも放っておけば人気が下がっていくものだ。そこで運営側が、熱量を保つために全力で追加コンテンツやイベントなどを投入する必要がある。

MMORPGは自己組織化することはなく、あくまで他者が組織化した世界だ。つまあくまでもコンテンツ。 運営がコントロールし続けることで存続するゲーム世界なのである。

一方、メタバースは自己組織化された構造体である。

そのため、プラットフォームを提供する企業が想像もつかないようなコンテンツが創
造される可能性に開かれている。

参加したユーザーの中に才能あるクリエイターたちが存在し、クリエイターの想像か
ら新たなコンテンツが生まれるのである。

自己組織化されることでメタバースは発展し続ける。 ユーザーが熱量を保つために追加コンテンツを投下するといった運用は必要ない。やがて大きくなって世界を飲み込むようなエコシステムになっていく。

この点でメタバースMMORPGには、運営スタンスや概念という観点から、大きい違いがあるわけだ。

 

2. マッピングと解釈

現実空間を1つのバース(宇宙)として含んでメタバースを実践していくあり方においては、現実世界をいかにマッピング、すなわちデータとして扱える形に取り込んでいくかが重要だ。

地理データの活用を試みるにあたり、気象情報など様々なデータは各種組織により計測されているが、課題としてはそれらの情報がバラバラに点在していることにある。いかに統合し、意味のある形で扱ってやるかというプロジェクトはすでにいくつかある。

有名なのは「セシウム(CESIUM)」だ。 地理情報に特化したウェブブラウザ向け3Dビュアーエンジンで、航空宇宙系のソフトウェア会社であるアナリティカルグラフィクス (Analytical Graphics) が2011年に開発し、オープンソース・プロジェクトとしてリリースされた。

日本ではシンメトリー・ディメンションズ (Symmetry Dimensions) が、 ネット上の各種APIを統合し3D地図にマッピングして表示し、ユーザーによる独自分析や可視化が可能なサービスを展開している。

近年デジタルツインやスマートシティという言葉が流行したことを受けて、世界中の国や自治体でオープンデータ化の取り組みが加速している。

アメリカ政府機関や州・都市などが保有する公共データを一元的に管理提供する「Data.gov」や、日本では国土交通省によって公開された3D都市モデル「プロジェク・
プラトー (Project PLATEAU)」 などが代表例だ。

そしてこの文脈で必ず名前が挙がるのが「ポケモンGO」で有名になったナイアンテイックだ。彼らは自社サービスで培ったAR技術を 「Lightship」と名付けプラットフォーム化し、技術者たちが自由に使えるように開発キット 「Niantic Lightship ARDK」 第一弾を2021年1月に公開した。ユニティベースの開発キットで、マッピング、環境解釈、体験のシェアリングの3つの機能をアプリ開発に役立てることができる。

 

現実世界はすべてシミュレートできるのか

そこで自然に湧いてくるのが「現実世界すべてをシミュレートすることはできるのか?」という疑問だ。

結論から書くと、不可能だ。

コーネル大学のリチャード・パルマーという研究者が1989年に発表した「ポリゴンの動きと安定性の計算複雑性」という興味深い論文がある。

3DCGにおける物体の動きを計算することについての論文なのだが、バーチャル空間上のモノを動かしたり、衝突させたりしたときに発生する計算量について論じている。

とても高度な内容なので結論だけ書くが、現実世界を3Dオブジェクトの集合体へと簡素化しても、物体同士の干渉をシミュレートする計算はNP困難、すなわち現代の計算機アーキテクチャでは効率的に解くことは不可能なのだという。現実世界を全部シミュレートしようとすると、計算量が増えすぎてコンピュータが追いつかないのだ。

これは僕の運営する空間プラットフォーム「クラスター」でも直面している問題なので、実感できる。バーチャル空間にアバターが入れば入るほど、アイテムのようなオブジェクトを表示すれば表示するほど、加速度的に計算量が増えていくし、一瞬で計算リソースが足らなくなってしまうのである。

物理学においても、扱う対象が増えることによって爆発的に計算量が増える問題は顕たとえばニュートン力学は、扱う対象が1つだけという場合の計算はとても得意だ。対象が2つの場合もわりと強い。しかし、対象が3つになった瞬間、とたんに計算が難しくなる。三体問題と呼ばれており、運動方程式の一般解が通常は定まらない問題として有名だ。4つ以上になってしまったら、一気にお手上げになってしまう。

しかし面白いことに、逆に扱う物体の数が非常に大きい状況下を考えると、まったく別のアプローチを用いることで意味のある計算が可能となるのである。熱力学や統計力学といった学問では、個別の粒子の振る舞いを捉えるのではなく、統計的手法を用いることで、温度や圧力といった「人間にとって意味のある」情報を扱えるようになるのだ。

 

ビームスはメタバース時代の「百貨店」になる? ビームスクリエイティブ代表・池内光氏に聞く

 

www.moguravr.com

 

続くバーチャルマーケット6(2021年8月開催)では、1階はビームス原宿店の店舗イメージを踏襲しつつ、2階を企画スペースにしました。牛乳石鹸と組んで同時期にリアルで実施していた企画を再現した「バーチャル銭湯」を提供したのですが、社内では最初、「これ、誰が来るの?」という議論もありましたね(笑)。ところが、実際にオープンしたら外国人の参加者も含め、「日本文化としての銭湯」を楽しんでもらえたようで好評でした。他には「PUI PUIモルカー」の3Dアバターも販売。正直、これも私たちの中では半信半疑だったのですが、HIKKYに意見を聞くと「これは売れるでしょう」という人が多く、実際に大人気でかなり売れました。

 

もう一つ、バーチャルマーケットで経験を積む中で気づいたのは、メタバースでものを売る感覚はECサイトよりも現実のショップに近い、ということです。ECでは一覧性が重視されますが、メタバースは多くの人が往来する場ですし、アバター同士でのコミュニケーションも発生します。そのような場でECのように商品の一覧性を高めても、うまく機能しません。

これはバーチャルマーケット5のときから継続しているのですが、ビームスのバーチャル店舗ではボットやAIアバターではなく、あえてリアルのスタッフがアバターとして店舗に立ち、接客をしています。外国からの参加者などは「本当にそんなことやっているの? 本当にクレイジーだな」なんて言われましたが(笑)。

実はこれがかなり好評で、バーチャル店舗に来てくれた参加者とスタッフが仲良くなり、「本人に会いたい」とリアルの店舗に来てくれたこともあります。私たちが現実世界で培ってきたコミュニケーションや接客のノウハウが、バーチャル世界でも通用する手応えを感じています。

 

理想を言えば、HIKKYが「パラリアル」(パラレルワールド:並行世界と、リアル:現実世界を組み合わせた造語)と呼んでいるような世界が望ましい。メタバースの中で商品紹介をし、そこでアバターやデジタルファッションを売り買いできつつ、リアル商品としても話題になって現実世界で売れるという構造です。とはいえ、メタバースの中だけで売れる、いわゆるデジタルコンテンツでもヒット作品を生み出したいと思っているので、そちらも並行してやっていきます。

 

――バーチャルマーケット以外では、例えば「The Sandbox」などではメタバース内の“土地”を販売しているケースもありますが、出店戦略としてバーチャル空間の“一等地”に興味はありますか。

池内:
もちろん興味はあるのですが、正直高いですよね(笑)。バーチャル世界でデジタルコンテンツを売って稼ぐことに特化するのであれば、当然ユーザーが多くて立地がよく、高い収益性を見込める“立地”が必要になります。

ただ、現状、私たちは売り上げの側面だけではなく、バーチャルとリアルの接点を作る、その可能性を広げるトライアルをしているところ。すでに高い値段がついていて一等地はもう他のブランドに押さえられているとなると、参入は難しいでしょうね。

 

www.s-housing.jp

サイバーエージェント(東京都渋谷区)は7月12日、メタバース空間における建築物や空間デザインの研究・企画・制作を目的にした専門組織「Metaverse Architecture Lab(メタバースアーキテクチャラボ)」を設立したと発表した。顧問には、建築家の隈研吾さん(東京大学特別教授・名誉教授)が就任した。

同組織では、簡易テンプレートで構築するバーチャル店舗、実在の街並み・実店舗を再現した空間・建築物、建築基準法などの法規制にとらわれないオリジナルのメタバース空間デザインや、ユーザー体験・ブランディング価値を高めるバーチャル建築物の在り方について隈さんとともに研究。アパレルなどのブランド企業や小売企業の販促およびブランディング活動において、新しい価値を生み出すバーチャル建築物を制作する。

商業空間だけでなく、複合施設や仮想都市などの開発、メタバース空間だからこそ実現可能な建築のコンセプト設計、コンテンツ企画やユーザー体験の設計など、バーチャル建築物のアーキテクチャ概念の検証から実証実験、プロトタイプの作成まで取り組んでいく。組織設立に伴い、同社はバーチャル建築物ならではの価値創造に取り組む空間デザイナーやCGアーティストなど、クリエイター・デザイナー職の採用を強化。さらなる体制強化を図る。

kabukiso.com

また、通信の完全5G化を前に、スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)は、仮想の社会・経済圏を体験できるゲーム「ザ・サンドボックス」に出資し、自社ゲームのアイテムやキャラクターの利用提供を開始。「ザ・サンドボックス」にはソフトバンクグループ(9984)も出資しており、仮想空間上の土地の高額取引が話題となりました。

これらの各会員は、仮想空間での交流がすで実現しており、 このような仮想空間が増えると、そこに広告を出して自社の製品やサービスを宣伝しようとする会社も出てくるでしょう。広告大手の電通グループ(4324)は、仮想空間の広告枠の販売に乗り出しています。テレビや新聞、検索エンジンSNSYou Tubeといった従来のチャネルに仮想空間が広告媒体として加わり、新たなビジネスチャンスが広がりつつあるのです。

 

www.jiji.com

住宅販売の定番ツールである住宅展示場は、建築や運営に多額な費用がかかり、特に中小規模の工務店は出展が難しいものでした。加えて、近年ではコロナ禍の影響により、住宅展示場の来場者は減少しており、新たな集客方法として、高コストの住宅展示場に代わるバーチャル住宅展示場が注目されています。

顧客にとって一生に一度の住宅購入は、充分に吟味、検討を重ねたいもの。その点において、バーチャルの住宅展示場では、従来の住宅展示場では難しい、ニーズに合わせた間取りの変更が可能であり、また複数の住宅を見比べるといったことも、家に居ながらにして叶います。さらに今後は、外壁や内装などの色合いを納得がいくまで試せるカラーシミュレーションや、素材やオプションをアレンジした際の費用を確認する価格シミュレーション機能なども随時実装していきます。

dime.jp

「様々な企業が研究開発を行なっていますが、実用化にはまだ課題がたくさんあります。ITベンダーが研究開発を続けられるか。体力勝負な面もあるでしょう。また実用化されると、暗号がすぐに破られるという話がありますが、今すぐ破られるわけではありません」

【POINT3】仕込むなら今!?2030年を見越した注目のキーワード
ハイパーロケーション
GPS技術よりも高精度な位置情報の取得技術のこと。Appleの「Airタグ」などがその一種である。公共交通機関の運行の最適化や、行動履歴に対するマーケティングなど、人の位置情報に価値が見いだされるようになったが、スマートシティーの実現などに向け、より精緻な位置情報が必要になる。第三者に悪用させないためのプライバシー管理も重要で、これらを総合したソリューションに投資の機運がある。

PETs(Privacy Enhancing Technologies)
プライバシー保護を強化する技術の総称で、通信経路を隠したり、ネット広告でユーザーの識別に使う「Cookie」を代替する技術など。利用者のプライバシー意識の高まりと、デジタル広告技術での利用者の特定ニーズという、相反する関係をうまくコントロールできるソリューションが求められている。様々な課題解決法があるが、次のスタンダードになりそうな企業が登場すれば投資が集まると見られる。

エンペデットファイナンス
日本語では「埋込型金融」や「組込型金融」という。非金融業者が、自社で手がけるサービス内に、金融機関のサービスをパーツ化して埋め込んで利用者に提供する仕組みのこと。例えば、ネット通販サイトの中に、後払いサービスを行なう金融業者のサービスを埋め込むなど。すべての企業が金融サービスを提供できるようになり、このサービスで収益を上げられるビジネスであれば、投資する価値がありそうだ。

コンバーセッションインテリジェンス
AIを活用して行なう次世代の会話技術のこと。電話やオンライン会議ツールなどを経由して顧客が話した内容を瞬時にテキスト化し、企業のデータベースを検索後、適切な接客方法を提案するなどの機能を備えるものである。自然言語処理を行なって文字起こしをするだけでなく、会話を通じてビジネスに役立つソリューションとして提供され始めている。アフターコロナでのリモート接客需要で注目を集めている。

 

 

結局、「メタバース」とは何なのか

bookplus.nikkei.com

 

 2つ目は、「投資やユーザー規模の大きさ」だ。米モルガン・スタンレーはメタやグーグル親会社のアルファベット、ゲームプラットフォームのRoblox(ロブロックス)などを念頭に、「メタバースは8兆ドル(約1080兆円)規模の市場となる」との予測を公表しているほどだ。この中には既存の市場も含まれていると思われるが、新たに生まれる市場への期待感は大きい。

 メタバースにおいては、「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」や「Decentraland(ディセントラランド)」などのブロックチェーンゲーム・サービスが、NFTを生かそうという試みである。例えば、ザ・サンドボックスのゲーム内では、プレーヤーが$SAND(サンドボックスによるトークン)を使って、自分が所有するバーチャルな土地の構築や売買などを行える。

 ザ・サンドボックスやディセントラランドは、プレーヤーがゲーム内で遊んでいるうちに、ゲームにおける資産がたまっていき、それを売買することでトークンを稼ぎ、トークンを法定通貨に変えることもできる。このようなビジネスモデルを「Play to Earn(プレイ・トゥ・アーン、遊んで稼ぐ)」と呼ぶ。新興国を中心に、こうした形で一日中ゲーム内で活動し、Play to Earnのゲームで稼いで生計を成り立たせているプレーヤーも出てきている。

 韓国の代表的なMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)である「リネージュ」シリーズの開発会社NCsoft(エヌシーソフト)は、21年11月の決算発表で独自の暗号資産の用意があることを明言した。また、同社が開発するすべてのゲームにPlay to Earnモデルを取り入れる可能性にも言及している。

NFTには技術的な限界もあるとみられる。ブロックチェーンは改ざん不可能な形で情報を記録できるため、登記情報の公示のようにデジタル資産の取引履歴を誰もが閲覧可能な形で残せる。しかし、無断で他人の著作物をNFT化しているかどうかの判断はつかない。また、デジタル資産そのものはコピー可能であるうえ、NFT上で表現された「所有」と法律上の「所有」が必ずしも一致するわけではない。

 VRバイス自体が普及しないという意見に対しては、少なくとも2022年時点では「普及し始めている」段階であると言っておきたい。VRヘッドセットは16年に「PlayStation VR」などが一斉に発売されて話題を集めたが、大きく普及することはなかった。その当時の印象が残っている人も多いのではないかと思う。

 その後も各社は、機能追加・小型化・高性能化などを繰り返し、市場の反応をうかがう状況が続いてきた。そして、20年10月に発売された一体型VRヘッドセット「Meta Quest 2(メタクエスト2)」がスマッシュヒットとなり、世界累計出荷台数はすでに1500万台を超えている。これはiPhoneの第2世代である「iPhone 3G」の累計販売台数を上回る水準だ。

 

ゲームの運営は、例えばモンスターから取得できるゲーム内の通貨の量を減らすこと(通貨の発行量を減少させる)や、ゲーム内のNPCから購入する必需品の価格を上げる、または種類を増やす(通貨の吸収を行う)ことで、ゲームワールド全体に流通する通貨の量をコントロールできる。これにより、物価を調整するという、いわば中央銀行が行う金融政策のようなことが理論上は可能である。

さらに、MMORPG内ではモンスターからDROPするアイテム自体の取得率をコントロールすることも可能だ。そのため、値上げさせたい特定のアイテムの取得率を絞ることや、その逆を行うことでも物価の調整ができる。メタバースでも、NFT(非代替性トークン)などを用いてモノの供給量を絞るような取り組みや、メタバース内で流通させる通貨を開発する暗号資産決済のアプローチなどがある。MMORPGでは、それに似たようなことが20年以上前から行われてきたといえる。

経済活動について触れたので、オンラインゲームに付きものの「RMT」も解説しておきたい。RMTはReal Money Trade の略で、ゲーム内だけで使われている通貨やアイテム、ゲームアカウントそのものなどを、現実のお金で売買する行為である。多くのゲームでは利用規約上禁止されているが、筆者のプレーしていたゲームを含め、ひそかにRMTを行うユーザーもいたのが実態である。また、オンラインゲーム大国である韓国では、子供にお年玉のような感覚でゲーム内通貨を買ってあげる親もいるとの話もあり、RMTがゲーム文化に溶け込んでいる。

 

ゲームデザイナーで代替現実ゲーム(ARG)研究者であるジェイン・マクゴニガル氏は、こうしたゲームの中でもたらされる努力による勝利のことを「Epic Win(直訳すると壮大な勝利)」と呼んでいる。マクゴニガル氏はさらに、ゲームの中には大きく4つの重要な要素があるとする。

(1)Urgent Optimism:成功への希望はあるか

 多くのゲームでは、人は必ず「自分はこのゲームをクリアできる」と信じてプレーしている。良いゲームは常に成功を意識させるが、それは「失敗をしない」ということではない。ゲームオーバーさえ楽しいと思わせるような「楽しい失敗」を設計し、Small WinとSmall Lossを繰り返すことが重要である。

(2)Social Fabric:ゲームにおいて、人々は強固に結び付けられる

 例えば、筆者が経験したMMORPGでは、グループ単位が協働してゲームを行っており、難しい敵にも協力して作戦を練って立ち向かうことができた。また、掲示板やTwitter、現在ではコミュニケーションツールのDiscord(ディスコード)といった外部ツールを使って、ゲーム外でも連絡を取り合っている点も特徴的で、ゲームの中だけではない連帯感がある。

(3)Blissful Productivity:人間は本来、生産性を喜びとする

 ゲームの中では、自分が何を成し遂げたか、何に影響を与えたかという多くの部分が可視化されている。これによって喜びが生まれている。例えば、レベル上げをすることが快感につながるのは、その典型例だ。また、誰かのために協力してクエストをこなしてあげたり、誰かのためにアイテムを獲得、あるいは制作してあげたりするなど、誰かにとって生産的であることで人は喜びを見いだすことができる。

(4)Epic Meaning:何か壮大な目標に向かっているか?

 筆者がプレーしていたMMORPGでは、絶対倒せないと思われていた強力なボスモンスターを皆で倒すイベントを計画した1人のプレーヤーに賛同者が続々と現れ、力を合わせて討伐に至ったという記録ができた。このような壮大な目標に対し、連帯感を持って取り組めるかどうかは、ゲームが生む「幸せ」に直結しているといえる。

 

 そう考えると、ゲーム会社は今後メタバースの構築において重要な役割を担うだろう。現に22年1月、米大手ゲーム開発会社のActivision Blizzardアクティビジョンリザード)の買収に絡んで米マイクロソフトのサティア・ナデラ会長兼CEOは、英フィナンシャル・タイムズの取材に対して、「このようなインタビューも近い将来にはアバターやホログラムで作られた会議室で行われるようになる。そして、それと同様のことをこれまでずっと行ってきたのはゲームだ」と発言している。

 

仮想空間で考えられるビジネスポジションは、大きく以下の4つに分かれる。

(1)メタバースの基盤をつくる役割
(2)モノづくりをサポートする役割
(3)メタバースでモノづくりを行う役割
(4)メタバース上でサービスを提供する役割

(1)メタバースの基盤をつくる役割は、メタバースのプラットフォームなどを提供するプレーヤーである。ユーザーがメタバースを体験するときに意識することすらない無数のベース技術を開発し、受け皿を整え、維持する役割だ。現実世界では、この役割は自然界が担っているが、メタバースにおいては、すべて人工およびAI(人工知能)が生成・維持すると考えられる。ハードウエアやプラットフォームなど、メタバースバリューチェーンの多くがこの役割に該当する。

(2)モノづくりをサポートする役割は、19世紀の米国でブームとなったゴールドラッシュでは、金山を掘り当てた人よりもスコップやジーンズを売っていた人が一番もうけたといわれるが、それと同様の役割である。メタバースにおけるスコップとジーンズは、メタバースでモノづくりをする人たちへのサポート機能だろう。メタバースが普及したときに各プラットフォームにおけるワールドやアバターをつくるためのツール、その基となる3DCGをつくったり管理したりするツールは、継続的にニーズが発生する。

 最後に(4)メタバース上でサービスを提供する役割である。例えば、バーチャル店舗を運営する、バーチャルライブを行うなどのサービスが該当する。つまり、小売り、アパレル、音楽など既存のリアルビジネスを行っている企業がメタバースにも取り組むことだ。プレーヤーは、(3)メタバースでモノづくりを行う役割と同一の場合も多い。

 

 

 

 

ロレアルCDOが語る、Web3.0とメタバース

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 「ビューティ業界は、デジタル化からバーチャル化しつつある」と語るのはアスミタ・デュベイ(Asmita Dubey)=ロレアル最高デジタル&マーケティング責任者(CDMO)だ。「O+O(オフライン+オンライン)からO+O+O(オフライン+オンライン+オンチェーン)へ、つまりウェブ2からウェブ3へと転換しようとている。コミュニケーションの方法や働き方の変化、テクノロジーの進歩、各種暗号通貨の台頭などにより2021年、人類は新たなデジタル・リアリティの入り口に立った。現在はプラットフォームに依存しているクリエイターも主導権を取り戻したがっており、クリエイターエコノミー(個人クリエイターの情報発信や行動によって形成された経済圏)も転換期にある」と続ける。

「未来のビューティ業界にはリアル、デジタル、バーチャルという多様な現実が存在するだろう。それぞれの現実は使い方次第だ」と指摘する。ロレアルは現在、ゲームを足掛かりとするオンチェーン美容の基盤を構築中だ。というのも30億人のゲーマーの約45%が女性だからだ。ロレアルのオンチェーン美容はグループのブランドのDNAとひも付き、メタバース上でマッピングすることができる。「メタバース上のさまざまなコミュニティーを観察しながら、クリエイターエコノミーが広がるのであれば、メタ上のさまざまなコミュニティーを介して広がっていきたい。元来ビューティとは極めて社会性の高いものだから、そうすることがブランドらしく、ロレアルらしい」と説明する。

没入型の美容体験も、テクノロジーや5Gで2次元から3次元へと変化している。「われわれはビューティ産業における新たな新たな美のあり方を考えている」とデュベイCDMO。ビューティの表現方法は今後、コラボによる未来的なWeb3.0でのアバターにもなり得る。例えばWeb2.0ではインスタグラムで膨大なフォロワーを有する「ニックス プロフェッショナル メイクアップ(NYX PROFESSIONAL MAKEUP)」は、Web3.0ではいわば“クリエイターのレコード・レーベル”になるかもしれない。「つまり独自性のあるクリエイターが3Dで、より没入感のあるクリエイションを見せてくれたら、それが『ニックス プロフェッショナル メイクアップ』なのだ」という。

デュベイCDMOは、“現実世界では不十分”というタグラインを掲げる「ミュグレー(MUGLER)」をメタバースネイティブのブランドと呼ぶ。「『ミュグレー』はゲームを通して何かを集めるなどの機会を提供することで消費者を惹き付けている。次の世代を、遊びながらテストして学んでいる」と評価し、エコシステムとパートナーシップの構築がカギを握ると話す。大手テック企業だけでなく、NFT市場をリードするオープンシー(OpenSea)のような新興企業との協業も考えられるだろう。

ギーヴ・バルーチ(Guive Balooch)=ロレアル テクノロジー インキュベーター バイス プレジデント)は、「いろんなパートナーと組めば、消費者にも今のシワや毛穴を分析するのみならず、未来に向けてのスキンケア・プログラムを構築できるかもしれない」と述べる。

例えば「イヴ・サンローランYVES SAINT LAURENT)」のビューティデバイス“ルージュ シュール ムジュール(Rouge Sur Measure)”は、AIを活用したテクノロジーでリップのカラーをパーソナライズし、全体の傾向をコミュニティーで共有するというカスタマイゼーションの未来像だ。「ランコム(LANCOME)」の“シェード ファインダー(Shade Finder)”は、最大2万2500通りの肌色を検知するという。デュベイCDMOは「ロレアルにとって重要なのは、ビューティ業界の未来を形作ることだ」と結んでいる。

 

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ブランドによると、メタバース上では女性のユーザーやクリエイターはわずか20%にしか満たず、女性のNFTアーティストにおいては16%以下という現状だという。また、有色人種や障害を持つアバターの価値は現段階ではほかと比べても低く、表現の多様性に向けての改善点は多い。「メタバース モア ライク アス」では、デジタルの世界でマイノリティなコミュニティーにもスポットを当てていく予定だ。

さらにメイクアップキャンペーンでは、“リアルではない美の基準”に挑戦して個の美しさを表現するため、世界的なメイクアップアーティストのテス・デリ―、シーカ・デイリー、エミラ・ディ・スペインとコラボレーション。肌の色や顔の形、ヘアスタイルに合うように、それぞれ2種のメイクルックを用意する。これらNFTメイクアップルックは、ランダムに選ばれた各セット1968体の「ノンファンジブルピープル」アバター所有者に提供され、アバター所有者はメイクルックを自身のアバターに使用できる。1つ目のルックセットは7月13日にリリースされ、その後も8月から毎月新しいメイクルックをリリースする予定。

 

 

 

 

 

図解ポケット メタバースがよくわかる本

The Sandbox

NFT ゲームとして人気を集めるメタバースの中でも、一番著名な The Sandbox をご紹介します。

クリエイターが楽しめるゲームプラットフォーム

The Sandbox (サンドボックス)は、イーサリアムブロックチェーン技術を基盤としたユーザー主導のゲームプラットフォームです。 The Sandbox 内では LAND (仮想土地のNFT)を売買賃貸したり、オリジナルのキャラクターやアイテム、3Dゲームを作り、収益化することも徐々にできるようになっています。 The Sandbox では、ボクセルベースの NFT を作成できる VoxEdit や、プログラミングの知識がなくとも3Dゲームを作ることができるGame Maker を提供しています。 今後、 The Sandbox を通じて多くのクリエイターが誕生しそうです!

多くの大手企業が参入

The Sandbox は、 「ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」、「スヌープ・ドッグ (Snoop Dogg)」、 「アディダス(Adidas)」など、多くのパートナーと提携しています。さらに、2022年3月、スクウェア・エニックスやエイベックスが、 The Sandbox で新たな取り組みを行うと発表しました。 これまでに4,000万ダウンロード、 月間アクティブユーザー数が最大 100万人を超えた実績もある The Sandbox には、2006年ごろにSecond Life が注目されていたように、 多くの企業が注目しています。今後、新たなビジネスが続々と生まれていくでしょう!

 

Decentraland

NFTゲームとして人気を集めるメタバースの中で、 The Sandbox とともに著名なDecentraland をご紹介します。

LAND で様々なビジネスを展開

Decentraland (ディセントラランド) も The Sandbox と同じく、イーサリアムブロックチェーン技術を基盤としたユーザー主導のゲームプラットフォームです。 DecentralandもLAND を活用して経済活動ができるメタバースとなっています。 LAND にアート作品の並ぶギャラリーを建てたり、ゲーム施設を提供したりして入場料を得るなど、LAND 上でビジネスを展開して継続的な利益を得る人が増えていきそうです。

ちなみに、 Decentraland は DAO が運営しています。

有名企業も続々と進出

The Sandbox と同じく、 Decentraland にも有名企業が続々と進出しています。 例えば、世界的な金融グループのJPモルガンは、ラウンジ(仮想店舗) 「Onyx by J.P.Morgan」 を開設しています。(原宿にインスパイアされたエリア 「Metajuku」 にあります。) このラウンジの開設は、JPモルガンメタバース調査の一環として行われているようです。

また、サムスン電子アメリカもバーチャルストア 「Samsung837X」をオープンしています。 「Samsung 837X」内で展開されているクエストをクリアし、 NFTのバッジを獲得すると、限定のNFT ウェアラブルコレクションやライブダンスパーティー参加権の抽選に参加できるなどの特典がありました。

さらに、カリブ海の島国バルバドスは、Decentralandに大使館を設立することを計画しているようです。

 

Cryptovoxels

VR でも楽しめるメタバース

Cryptovoxels (クリプトボクセルズ) でも、 The SandboxやDecentraland と同じく、 仮想土地を購入することができます。その仮想土地では、建物や仮想のお店、 音楽スタジオなどを建築したり、保有している NFT を展示したりできます。

他ユーザーとチャットでコミュニケーションを図ったり、ユーザ一同士でコミュニティを形成したりすることもできます。

また、Cryptovoxels はVRにも対応しています。 VRに対応していない他のブロックチェーンベースのメタバースと比べて、高い没入感を得ることができますね。

ゲーム内の独自通貨はなし

The Sandbox は SAND、 Decentraland は MANA というゲーム内の独自通貨を持ちますが、 Cryptovoxels は ETH(イーサリアム上で使われる通貨) のみを利用しています。

SAND や MANAはそれぞれのゲームの注目度が高まることで大きく価格を上げました。 初期ユーザーには、金銭的リターンも多かったでしょう。

一方、ETHは様々な用途に使われているため、Cryptovoxels の動きに価格が強く左右されることはないと思われます。SANDやMANAよりも安定感はあると言えるでしょう。

 

Upland

地球のメタバース

Upland (アップランド)は、The Sandbox や Decentraland、Cryptovoxels と比べるとまだ知名度は高くありませんが、着実に機能を拡張しているメタバース系のゲームです。 地球のメタバースとなっており、馴染みのある世界地図がゲームの舞台となっています。現在はアメリカの一部地域のみで土地が買えるようになっていますが、今後はさらに様々な地域の土地を購入して、ビジネスを展開できるようになることが期待されています。 また、 購入した土地に建物を建てることもできます。 Upland の日本人向けDiscord(主にゲーム用のコミュニケーションツール) は日々盛況で、 日本人街作りに励んでいる人もいます。

数百円で仮想土地が買える

The Sandboxなど著名なメタバース系ゲームの仮想土地は、日本円で数十万円以上することも多く、多くの人はなかなか手を出しづらいです。しかし、 Uplandの土地は安いと数百円で買えるので、あなたが 「メタバースで仮想土地を買ってみたい」と思う場合、Upland から始めるといいかもしれません。 Upland で土地を持っていれば、日々ゲーム内通貨 UPX が付与されます。 ある程度の収入を得るには、 Upland上で多くの土地を持つか、高価な土地を持つ必要がありますが、ちょっとした不労所得にはなりますね!

 

火星が舞台のメタバース

火星が舞台のメタバースをいくつかご紹介します。

1 火星が舞台の様々なメタバース
火星の移住は人類の大きな夢の1つですが、 メタバースであれば火星への移住を疑似体験できそうです!

火星が舞台のメタバースの1つである Mars4は、 NASA の火星データをもとにした空間となっており、地形が詳細な3Dマップで表示されています。 Mars4では Mars Land NFT と呼ばれる土地を所有すると、それだけで収入が得られるようになります。さらに、土地を貸したりゲームをしたりしても報酬を得られるようです。また、Everdome (工バードーム)という火星が舞台のメタバースもあります。 Everdome は 「Unreal Engine (アンリアルエンジン)」と呼ばれる 3D ゲームエンジンを用いて非常にリアルな質感で描かれており、特にリアリティの高い 「超リアル メタバース」 として期待されています。

2 毎日暗号資産がもらえるアプリ

他には、The Mars もあります。このプロジェクトでは、 MRSTというゲーム内通貨(暗号資産)をマイニングできるアプリ (無料)がリリースされています。 このMRSTは2022年中に上場する予定になっているため、その前に無料で MRST を獲得しておくと、後々リターンがあるかもしれません!(上場予定は変わる可能性もあります)

 

VRChat

バーチャル SNS、ソーシャルVRとして世界的に人気なVRChat をご紹介します。

ザ・メタバースといった感じの空間

「VRChat」はバーチャル SNSやソーシャルVRと呼ばれるメタバースの代表格となります。2017年にリリースされましたが、メタバースという言葉がよく知られるにつれて、利用者を大きく増しています! VRChat は、 VR空間内にアバターでログインし、多人数でコミュニケーションできるサービスです。 VRChat 内には、ユーザーが手がけた 「ワールド」 と呼ばれるVR空間があります。ユーザーは多種多様なワールドから好きなワールドを選び、他のユーザーとの交流を楽しめるのです! 周囲にいるプレイヤーとは、ボイスチャットだけでなく、自分の身体の動きをアバターに反映させたボディーランゲージによるコミュニケーションも可能です。 ボディーランゲージができると、 実際に会っている感覚が強まりますね! 多くの人は、 VR を利用しない The Sandbox や Upland よりも、VRChat の方がメタバースと言われてしっくりくるでしょう。

2 様々なイベントを開催

VRChat はただ会話を楽しめる空間ではなく、 ビジネス用途でも利用されています。 後述の「企業のメタバース活用事例」でご紹介する 「バーチャルマーケット (VIRTUAL MARKET、Vケット)」という世界最大の VR イベントは、特に注目を集めています!

 

cluster

日本発のバーチャルSNS、ソーシャルVRとして人気なcluster をご紹介します。

1 cluster とは?
「cluster (クラスター)」は、スマートフォンやPC、VR機器など様々な環境からバーチャル空間に集って遊べる、バーチャルSNS、 ソーシャル VR です。 基本的にはVRChat と同じように楽しめます。

VR空間内にアバターでログインし、公開されているワールドを散策したり、イベントや音楽ライブに参加したりできます。

もちろん、VRヘッドセットで入場すると、より高い臨場感を味わえるのですが、スマホアプリで手軽に楽しめるのも cluster の特徴です!

2 仮想の街の散策から有料コンサートの開催まで

cluster も個人及び企業に様々な用途で活用されています。例えば、「バーチャル渋谷」や「バーチャル丸の内」など、実際の街を仮想空間で再現しており、イベントや疑似観光を楽しむこともできます!

さらに、イベントは参加するだけでなく、 主催することもできます! 無料イベントは誰でも開催でき、 URL を知っているユーザーのみが入室できる限定公開イベントも実施できます。 新型コロナウイルスの影響や、多くの人が一箇所に集う各種コストを考えると、今後も多くのイベントが開催されそうですね。

また、チケットの販売やバーチャルギフトなどによって、 clusterを活用してお金を稼ぐシステムも用意されています。 駆け出しのミュージシャンが、ライブハウスを借りる代わりに cluster 内でライブをするのも良いかもしれませんね。

 

Web2.0メタバースとWeb3のメタバース

現在メタバースと呼ばれるサービスには、Web2.0メタバースとWeb3のメタバースがあります。 本チャプターでご紹介したメタバースのうち、 Web2.0メタバースはVRChat と cluster で Web3のメタバースはそれ以外のものになります。 Web2.0メタバースとWeb3のメタバースの違いは、ブロックチェーンを主に活用しているかどうかです。どちらの方が優れているというわけではありません。

VRChat や cluster などソーシャルVR と呼ばれるメタバースは、VRヘッドセットを使って没入感高く仮想空間を楽しむことに長けています。 そのため、メタバースの住人と高度なコミュニケーションをとりつつ楽しく暮らしたいのであれば、現状では Web2.0メタバースの方が向いています。

一方、メタバースの土地 (NFT) を購入し、 その土地を活用してイベントを開催したりビジネスをしたりして収益を上げたい場合や、NFTのアイテムを作成して販売したい場合などはWeb3 のメタバースの方が向いています。 (ただし、2022年現在はまだまだ機能が限られています。)

このように、 Web2.0メタバースとWeb3のメタバースにはそれぞれ違った楽しみや特徴がありますので、可能であれば色々と試してみて、自分が向いているもの、 楽しめるもの、あるいは稼げるものを探してみると良いでしょう!

 

NVIDIAのOmniverse

5Gの電波伝搬シミュレーションを高度化するために、メタバースに都市のデジタルツインを構築している事例をご紹介します。

1 メタバースが5Gを加速

2022 年現在、5G に対応したスマホを持つ人が増えてきました。5G の活用用途はまだまだ限定的ですが、 今後あらゆるものがインターネットにつながっていくにつれて、5Gやその次の6Gが担う役割もより大きくなると考えられます。

しかし一般的に、電波を伝搬するシミュレーションを行うのは難しいです。ミリ波帯など今まで扱ってこなかった周波数帯を使う5G ともなればなおさらです。

天候、植物、動くデバイス、 人間など、多様な要素を検討項目に入れる必要がある他、多くの事象を単純化する必要があるため現実と同様の結果を得るのは困難でした。 しかし、 メタバースがこの問題の解決に役立っているのです!

2 エリクソンが都市のデジタルツインを構築

通信機器メーカーのエリクソンは、メタバース上に都市のデジタルツインを構築しました。 エリクソンが利用したのは、 半導体メーカー NVIDIAの 「Omniverse (オムニバース)」 です。 これは、仮想空間内で共同作業を行うためのプラットフォームです。 今回はOmniverse でシカゴの街並みを一部再現し、5Gの電波伝搬をシミュレーションしたのでした。Omniverse上では、複数のパートナーと統合的にシミュレーションを行い、その結果を立体的にわかりやすく可視化することができます。そのため、 開発サイクルの短縮、 ネットワーク品質の向上が期待できます!

 

メタバースにおけるアメックスのサービス

大手カード会社のアメックスは、 メタバースにおいても現実世界と同じようなサービスを提供しようとしているようです。

現実世界の決済サービスをデジタル世界でも提供

世界的なカード会社のアメックス(アメリカン・エキスプレス)は、現実世界のサービスをデジタル世界でも提供しようとしているようです。 2022年3月現在、正式な発表がなされているわけではありませんが、商標登録出願で明らかになっています。

具体的には、 メタバースでカード決済、ATMサービス、 銀行サービス、詐欺検出機能を提供しようとしているようです。

2 アメックスの強みを活かしたビジネス展開

アメックスはただのカード会社ではなく、 旅行、 グルメ、 芸術など、様々なエンターテイメントサービスを提供・紹介している会社でもあります。アメックスのカードの年会費はやや高めなため、今までは興味がなかった人もいるかもしれませんが、 多種多様な優待を会員に提供しているため、 優待を有効活用すれば年会費はむしろ安く感じるでしょう!

そんなアメックスは、メタバースにおける旅行、交通、旅行代理店サービス (予約、ツアーなど)や、メタバースにおけるエンターテインメントおよびコンシェルジュサービスの提供も検討していあるようです。さらに、管理、取り引き、 決済処理などの暗号資産(仮想通貨) 関連サービスも視野に入っているとのこと。

数学者の素願から終活まで

  • 僕が尊敬していた小平さんに,色々お世話にもなった,指導も受けた.指導とい
    うのは数学的にもあったんだけど,“人生アメリカでどういう風に暮らすか” につ
    いて色々指導を受けたこともある.それから伊藤清さんも不思議に丁度 MIT の
    教授をしておられて,僕が Harvard の学生になった頃にいろんなこと教えてもら
    いました.「どんな研究をしたらいいだろう」と言ったら,「とにかく何でも良いから自分に出来そうなことと,それからもう一つは人がやっていないことをやりなさい.そうしたら貴方だって何とかなるだろう」と.その通りだと思いました

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僕の専門は代数幾何なんですけど,僕の教授室に Andr´e Weil という人がやっ
てきて,「是非,標数 0 で終わらないで標数 p までやってくれ」.なんでそんなことを言うんだろうと思って,何か色々屁理屈言っていたけれども,何いってやんでえと思ったんですけど,今思い出そうとして,あれを聞いておけば良かったな,もう一寸耳を傾けておれば良かったな,一寸深い意味があったかも知れないと.

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  • それからまたしばらくすると,Gel’fand というロシヤの教授なんだけど,も
    う晩年にアメリカにやってきて,「僕に会って話したい」,「いいですよ」といって話した.僕は特異点解消というのをやっていた訳だから,「標数 p の特異点の解消,あなたやってください」,「実を言うと,それが結構役に立つのです」と言う訳です.その頃の僕はわざわざ訪問して人の話を聞いている暇はなかったんです.それに Abhyankar がやれば良い, 別にも標数 p の問題を熱心にやっている人はいる.僕の出番ではないと思っていました.だけどこっちがお爺んになった頃にやってみると面白いんですよ.Computer Software を作って根の公式を作成する問題.Hilbert の第 5 問題と関連づける問題.等々と空想が広がります.それは後で説明しますけど,だけど彼が何を言おうとしていたかに僕は何で耳を傾けなかったんだろうと思っています.今は亡くなられた二人の大先生の話を聴いていなかったことを残念に思っています.

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  • 偶然と言うのは,いろんな点で出てきていいもんです.悪いときも有るんだけど.京都大学の学生になってから非常に運が良かったと思うのは,秋月先生が居て,覚えている人が居るかもしれないけど,秋月先生というのは怖いような先生で,ドアが開かないと蹴飛ばして入るような先生でした.だけど学問に対して非常な情熱を持った人です.そして,とにかく人材だったら誰でもというようなところが有って,東京大学から井草準一を京大に呼んで助教授にして,それから名古屋大学から永田雅宜を講師に呼んで,そして自分の直弟子も居たんですけど,それはアメリカに送ったりして,そして何か京都に良い雰囲気を作ろうとしてました
  • あの頃,それまで京都大学の数学教室の,数学科の教授は三人しか居なかった
    のです.だから結構秋月さんは苦労して,岡潔を教授にしようと思って頑張った
    りしたらしい.それで態々岡潔の連続講義などをやってました.僕もその講義を
    聞きました.やっぱり,あの先生は一寸普通の人とは違うところがあって,何か
    教授になれなかったらしい.それでも秋月さん苦労して,奈良女子大学の教授に
    なんとかした訳です.色々問題があったらしいんですけど

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一つ僕言いたいことがあるんだけど,アメリカとかヨーロッパの秀才達というのは,早く,しかも非常に奇抜な発想で新しいもの発見して,それをドンドン発展させて,それが終わったら止めて,又新しいものを発見する.それを三つやったんが天才だという考えが有るんです.それで今でもそうなんだけど,アメリカなんかで早くノーベル賞もらいたいなんか言う人が,何か発見したら New York Timesに電話して,出来たと言う.論文発表するのを待ってはいられない,誰よりも先に,と言うところがある訳です.誰よりも先に,人がビックリすることを,要するに先端の先端をという意識があるのです.これはアメリカの,欧米の秀才達の強さでもあるが欠点となるケースも少なからずだと僕は見て来たのです

 

一番右の背の高いのが,ドイツからお父さんの Emile Artin という数学者に連れられてアメリカにやって来た Michael Artin.自宅ではお父さんは厳しくて,英語を一寸でもしゃべろうとすると,“Deutsch!” 言ってたそうです.その次に居るのは Kleiman というのだけれど,彼はアメリカで生まれた人で,またアメリカ並みの良いとこ持っている.それから三番目に居るのが David Mumford というんだけど,彼はイギリスから若い時にやってきた人です.で,一番左のちっこいのが僕なんですが,日本からやってきた.一番ちっこいけど,一番背が高いじゃなくて一番年上なんです.他の連中は皆若いです.だけどあの連中の才能というのはスゲナー,やっぱり.

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神様というのは平均して才能というものを配るものじゃないなと思いました.とにかくメチャクチャに頭が良い連中でした.David Mumford というのは特に凄いです.それから Michael Artin という人は非常に “数覚”のある人でした.のんびりしているようだけど,何が良いかということをさっと気が付く人なんです.要するに小平先生が昔言っておられたけど,“数覚”というものがあると,鼻で数学の問題を嗅ぐというのです.その “数覚” というものを持った人は,遅くても良い仕事をするよ,とそんなこと言っておられたことあるんです.Michael Artin と言う人は非常な “数覚”のある人でした.それから Kleiman というのも元気な人で一番若かった.

David Mumford というのは,頭が良くて,勘が良くて,そして非常に優しい.この三つ揃いというのは中々ないですよ.横綱でもないですよ,三つ揃っているのは(笑い).とにかく大鵬みたいな人です.こういう人がいたということです.僕より 5 歳か,7 歳か,6 歳年下なんですけど.とにかく色んな事を教えられました.

 

Harvard に居た時,Grothendieck という数学者が来て話をしました.その時,僕は大学院の学生だったんですけど,小平邦彦さんが隣に座っていて,左側にはRaoul Bott.その時 Harvard の教授をしていた人です.まあ僕はまだ学生だった.僕はまだ博士号も取ってない時だけど,3 人が一緒に座っていて,小平さんが Bottの方に向かって,「お前分かるか,Grothendieck が言っていること」,「分からない」.スキームの理論といって,非常に抽象的な話をしていたんです.「何のことか分からないよ」,僕の方に向って「広中,お前は分かるだろう」なんて言って.「いや,分からないよ」って言ってたんです

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行ってみるとビックリしたのですけどね,その時 Rond-Point Bijoux No 5 と言うアドレスだった.Etoile ´ 近くの廃墟となったミューゼアムの一階の半分を借りてそれを研究所と呼んでいるんです.それで所長が一人,モチャン(Motchane)という人で,ルノーからやってきたビジネスマンです.それでも数学科を卒業した人です.それが所長.それから,教授が二人いた.Grothendieck,まだ若かったけど.それと Dieudonn´e という人.Dieudonn´e は,Grothendieck に,こいつは凄い才能を持っていると惚れ込んで,Grothendieck のために研究所を作ろう,そしてモチャンというルノーの重役さんをやってたような人を説き伏せて,とにかく研究所を作った訳です.二人教授が居て,所長が一人いて,研究員が一人いたんです,それは僕なんです(笑い).だけど,贅沢言わなければいくらでも生活出来るんです.この時代の普通の国に生まれた以上,贅沢言わなければ生きていけるんです.暫くすると Deligne ていう若い坊やがやってきて,Grothendieck は「こいつは Hilbert 以来の天才だ」と,こう言うのです.「あっ,そうか」と言って見てたんだけど,Deligne というのは凄いなと思ったのは,Grothendieck が何か説明すると,「ハッー,ハッー,ハッアー」という感じで感心して居るんです,何を言っても「ハッー,ハッー」.僕の家内が,家内といっても家内になろうとしていた人がですね,「Deligne というのはお坊さんみたいな人ね」とか言ってました.

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そして,僕,後に Harvard の教授になって,かつて住んでいた Harvard のすぐ近くの,向いが Harvard というくらい近くに一軒家を買って住むことが出来るようになったんです.その時,Deligne なんかも,その時はもう偉い人だったけど,もう立派な教授になって僕の家に住んでたことあるんです.

 

Thurston というPrinceton の教授になってる人が居るんだけど,彼について Raoul Bott が Michigan 大学に居た頃,彼の入学のテストに関して.Thurston を合格させるか,させないか,色々と議論になったらしい.それは,問題を出しても,彼は絵ばかり描いているって言うんだ.式を全然書かないから本当に分かっているのか,分かっていないのか,分からないって.

彼は視覚的な独特の才能を持ってるんですね.だから,それはそれで良いんです.それで Princeton 大学の教授にもなった.そういう人も居る訳です.見てどうしたら良いか分かる人というのは,中々そういう人でないと出来ないです.もっともっと複雑な物は幾らでも有るんです.この絵は,人の絵を借りてるんで,後で怒られるかも知れない.僕にはこんな絵描けない.だけど,幾何は可視的な要素があってヒントを得るにはいいんです.図形とか何かです.

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チャイコフスキーは最後に第 5 番シンフォニー書いた時,あんまりあれやこれや入っていて,技術的にも非常に複雑なところもあるんだけど,物凄く美しいところも,そうでもないところもあるんだけど,当初はあんまり人気がよくなかったという小文を読んだことがあります.だけどチャイコフスキーはその作曲を終わった時に,嬉しくて涙を流したというんです.

こんなこと経験したくないですか,死ぬ前に.これは誰にということではなくて,自分が自分の仕事で嬉しくて涙を出すという経験をしたいと思わないですか.そんなことは詰まらないというんだったらそれもその生き方で結構ですけど,その人の好みですから.僕にどうのこうのは言う資格はないので言いませんけど,僕はその方が良いと思うんです.僕はそうします.棺桶にはいるときに,涙出してほほえむかも知れないです.

 

 

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https://www.math.kyoto-u.ac.jp/alumni/bulletin1/hironaka.pdf

 

 

 

 

ホ・ジュニ教授の人生はハーバード大学広中平祐名誉教授(91)がソウル大学で行った数学の講義を受講したことで変わった。1970年にフィールズ賞を受賞した学者の講義は数学専攻者でさえ放棄するほどその内容は難しかったが、当時物理学を専攻していたホ教授は最後まで聞いた。ホ教授は「専攻は違ったが広中教授が語った例えを幾つか理解するだけで十分と考えた」「後からもし科学分野のジャーナリストになれば広中教授にインタビューしたいとも思った」と語る。

広中平祐教授との出会いで数学に目覚めたホ・ジュニ教授(朝鮮日報日本語版) - Yahoo!ニュース

プリンストン大学のホ・ジュニ教授が、韓国人として初めて「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞した。国際数学連合(IMU)が5日、発表した。

ホ教授は意外にも、幼いころは数学や算数の才能がないと言われて育ったが、大学に入ると数学の世界に飛び込んだ。きっかけは、同じくフィールズ賞の受賞者である日本の広中平祐教授がソウル大で数学の講義を行ったことだった。ホ教授はその講義を聴講すると、広中教授のアドバイスを受けて数学分野で大学院に進学し、米国に留学した。ホ教授は「私のように、好きなことを見つけるのに時間がかかることもある。そのことを皆さんも心に留めておいてほしい」と話した。

news.yahoo.co.jp