やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

要するに、どんな分野であれ、大きな成功を収めた人たちには断固たる強い決意があり、それがふたつの形となって現れていた。第一に、このような模範となる人達は、並外れて粘り強く、努力家だった。第二に、自分が何を求めているのかをよく理解していた。決意だけでなく、方向性も定まっていたということだ。・・・「情熱」と「粘り強さ」・・・つまり、「グリット」(やり抜く力)が強かったのだ。

「やり抜く力」と「才能」は別物・・・SATのスコアとやり抜く力は逆相関の関係にある・・・才能があっても、その才能を生かせるかどうかは別の問題

 一般的に数学は、数学的な才能のある生徒ほどよく出来て、数学の苦手な生徒との差が著しいと考えられている。・・・私は「才能」に目を奪われていたのだ。・・・「才能には生まれつき差がある」などと決めつけずに、努力の重要性をもっと考慮すべきなのでは?・・・数学が苦手な生徒たちも、自分が本当に興味を持っていることを話すときは、びっくりするほど頭の回転が早くて、生き生きとしていることだった。

ゴルトンは結論として、偉業を成し遂げた人物には3つの特徴があると述べた。すなわち、稀有な「才能」と、並外れた「熱意」と、「努力を継続する力」をあわせ持っていることだ。その本の最初の50ページを読んだダーウィン、ゴルトンに手紙を書き、不可欠な特徴の中に「才能」が含まれていることに驚きを示した。「ある意味、君のおかげで考えを改めたと言えるだろう。私は常々、愚か者でもない限り、人間の知的能力に大した差はない、差があるのは熱意と努力だけだ、と主張してきたのだから。だがやはり、もっとも重要なのはそのふたつだと私は考えている」

伝記作家たちは総じて、ダーウィンが人間離れした知能の持ち主だったとは言っていない。たしかに知能は高かったが、なにごとも瞬時に洞察を得るような鋭いタイプではなく、むしろ、コツコツとじっくり取り組むタイプだったようだ。・・・「頭のいい人の中には、直観的な理解力が卓越している人がいるが、私にはそうした能力はない」「私の場合、純粋に抽象的な概念について延々と思索する力に乏しい」そして、自分は優秀な数学者や哲学者にはなれなかっただろうと述べている。さらには、記憶力も平均以下だったという。「記憶力があまりにも低いせいで、ほんの数日でも、詩の一行はおろか日付さえ覚えていられないほどだ」・・・「私が普通の人より優れている点は、普通なら見逃してしまう様なことに気付き、それを注意深く観察することだろう。観察にかけても、事実の集積にかけても、私は非常に熱心にやってきた。さらに、それにもまして重要な事は、自然科学に対して尽きせぬ情熱を持ち続けていることだ。」・・・彼は突き止めたいと思っている問題は、全て頭の片隅に止めておき、少しでも関連のありそうなデータが現れたら、いつでもすぐにその問題と付き合わせることが出来た。

ハーバード大学教授のウィリアム・ジェイムズ・・・「我々の潜在能力は、半分しか目覚めていない。薪は湿って燃えず、通気は妨げられている。我々は精神的にも肉体的にも、持っている能力のごく一部しか利用していない。」・・・「人間は自分の持っている能力をほとんど使わずに暮らしている。様々な潜在能力があるにも関わらず、ことごとく生かせていない。自分の能力の限界に挑戦することもなく、適当なところで満足していしまう。」・・・「人間は誰でもはかり知れない能力を持っているが、その能力を存分に生かし切ることが出来るのは、ごくひとにぎりの並外れた人々にすぎない」

1907年に書かれたこれらの言葉は、今も昔も変わらぬ真実だ。それなのになぜ私達は、これほど「才能」を重要視するのだろうか?私たちは様々な能力を持っており、いくらでも伸ばす余地があるのに、なぜすぐに「能力の限界」だと思ってしまうのだろうか?将来何を成し遂げられるかは、努力ではなく才能で決まると考えてしまうのはなぜだろう?

成功するためには、才能と努力のどちらがより重要だと思いますか?」アメリカ人の場合、努力と答える人は才能と答える人のおよそ2倍だ。・・・「新しい従業員を雇うとします。知的能力が高いことと、勤勉であることでは、どちらのほうが重要だと思いますか?」この場合、「勤勉であること」と答える人は、「知的能力が高いこと」と答える人の5倍近くにものぼる。・・・心理学者のチアユン・ツァイがプロの音楽家を対象に実施したアンケート調査の結果とも一致している。音楽家たちも、同様の質問に対してほぼ例外なく、「生まれながらの才能」よりも「熱心に練習すること」のほうが重要だと回答した。しかし、ツァイがある実験でもっと間接的な方法によって人々の心理的傾向を調査したところ、正反対の結果が表れた。・・・ある一人のピアニストが、同じ曲の別の部分を演奏・・・2名のピアニストの紹介の仕方にあった。ひとりは「才能豊かで、幼少時から天賦の才を示した」とある一方、もうひとりは「努力家で、幼少時から熱心に練習し、粘り強さを示した」とあった。するとこの実験では、先ほど紹介したアンケート調査の結果(才能よりも努力が重要)とは矛盾する結果が出た。音楽家らは、「天賦の才」に恵まれたピアニストのほうが、プロの演奏家として成功する確率が高いと評価したのだ。・・・音楽家を対象に行なった実験と同様に、今回もやはり天才型、つまり「生まれつき才能のある人」のほうが、起業家として成功する確率が高いと評価され、事業計画の内容についても高い評価を獲得した。・・・私たちは「才能」と「努力」に関しては、二面性を持っていることが明らかになった。私達が重要だと行っていることと、心の底でもっと重要だと思っていることは、実際には異なっている。これではまるで、「恋人の外見なんて気にしない」などと言っておきながら、実際にデートの相手を選ぶとなったら、「いい人」よりも「かっこいい人」を選んでしまうのと同じだ。・・・私たちの選択を見れば、そのような偏見を持っているのは明らかだ。

 『ウォーフォータレント』では、競争を勝ち残る企業は、最も能力の高い人材を積極的に昇進させる一方で、能力の低い人材は容赦なく切り捨てるべきだと言っている。・・・そのようなマッキンゼーのビジネス哲学を「人材育成競争(ウォーフォータレント)」と呼んだ・・・マッキンゼーの推奨どおりに人材を扱った実例として登場した企業は、同書の刊行後、いずれも業績が低迷・・・マルコム・グラッドウェルも批判・・・マッキンゼーが提唱した「精鋭主義」を実践した代表例がエンロンだ。・・・「誰よりも優秀だと証明してみせろ」と従業員たちを煽り立てることで、ナルシストの温床が出来上がり、信じがたいほど自惚れが強いと同時に、つねに「自分の能力を見せつけなければ」という強い不安と衝動に駆られる従業員が増えすぎたのだ。短期間で結果を出すことを何よりも重視し、長期的な学習や成長を妨げる企業文化だった。・・・ジェフリー・スキリング・・・エンロンの社内では、この評価制度は「ランクアンドヤンク(昇進と処罰)」と呼ばれていた。スキリングはこれを、エンロンでもっとも重要な経営戦略の一つと考えていた。しかしこれこそが、狡猾なものばかりが得をして、正直者は馬鹿を見るような職場環境を作り出したとも言える。

 才能は悪いものなのだろうか?人間は誰でも同じように才能があるのだろうか?答えはいずれもノーだ。どんなスキルであれ、学習曲線を上昇するのが早いのは良いことだ。そして、そのスピードがとりわけ速い人達がいるのも事実だ。では、生まれつき才能のある人を努力家より優遇してはいけないのだろうか?・・・「才能」に対するえこひいきが弊害をもたらす可能性がある最大の理由は単純で、「才能」だけにスポットライトを当てることで、他のすべてが影に覆われてしまう危険性があるからだ。「やり抜く力」を含め、実際には重要な他の要素が全て、どうでもいいように思えてしまう

才能を過大評価すると、他のすべてを過小評価してしまうことになる。極端な場合には、(才能⇒達成)と思いかねない。・・・私自信も、気がつけば同じようなことをしている。あっと驚くようなすごい人を見るとつい「天才だ!」と思ってしまうのだ。全く情けない―その裏にどれ程の努力があるか、わかっているはずなのに。・・・「才能」に対する無意識の先入観は、どうしてこうも根深いのだろう?・・・一流の人達が行っている当たり前のこと・・・人間のどんなにとてつもない偉業も、実際は小さなことをたくさん積み重ねた結果であり、その一つ一つは、ある意味、「当たり前のこと」ばかりだということ。・・・ハミルトン・カレッジの社会学者、ダニエル・F・チャンブリス・・・「最高のパフォーマンスは、無数の小さなスキルや行動を積み重ねた結果として生み出される。それは本人が意識的に習得する数々のスキルや、試行錯誤する中で見出した方法などが、周到な訓練によって叩き込まれ、習慣となり、やがて一体化したものなのだ。やっていることの一つ一つには、特別なことや超人的なところは何もないが、それらを継続的に正しく積み重ねていくことで生じる相乗効果によって、卓越したレベルに到達できる」しかし、人は「当たり前のこと」では納得しない。・・・「なんか地味だよね、もうちょっと面白みがないと・・・」・・・「私たちは優秀なアスリートを見ると、すぐに才能があると決めつけてしまう。それこそが一流のアスリートの証だとでもいうように」・・・常人の域をはるかに超えたパフォーマンスに圧倒され、それが凄まじい訓練と経験の積み重ねの成果であることが想像できないと、何も考えずにただ「生まれつき才能がある人」と決めつけてしまうのだ。

肝心なのは、偉業は達成可能ということです。偉業というのは、小さなことを一つずつ達成して、それを無数に積み重ねた成果だから。一つ一つのことは、やれば出来ることなんです。・・・ニーチェ・・・「芸術家の素晴らしい作品を見ても、それがどれほどの努力と鍛錬に裏打ちされているかを見抜ける人はいないそのほうがむしろ好都合と言っていい。気の遠くなるような努力の賜物だと知ったら、感動が薄れるかもしれないから」・・・「我々の虚栄心や利己心によって、天才崇拝にはますます拍車がかかる。天才というのは神がかった存在だと思えば、それに比べて引け目を感じる必要がないからだ。『あの人は超人的だ』というのは、『張り合っても仕方ない』という意味なのだ」・・・偉業を達成する人々は、「一つのことをひたすら考え続け、ありとあらゆるものを活用し、自分の内面に観察の目を向けるだけでなく、他の人々の精神生活も熱心に観察し、いたるところに見習うべき人物を見つけては奮起し、飽くなき探究心を持ってありとあらゆる手段を利用する」。・・・ニーチェは偉業を達成した人々のことを、何よりも「職人」と考えるべきだと訴えている。「天分だの、天賦の才だのと言って片付けないで欲しい!才能に恵まれていない人々も、偉大な達人になるのだから。達人たちは努力によって偉業を成し遂げ、天才になったのだ。・・・彼らは皆、腕の立つ熟練工の如き真剣さで、まずは一つ一つの部品を正確に組み立てる技術を身につける。そのうえでようやく思い切って、最後には壮大なものを創り上げる。それ以前の段階にじっくりと時間をかけるのは、輝かしい完成の瞬間よりも、むしろ細部をおろそかにせず丁寧な仕事をすることに喜びを覚えるからだ。」

「才能」とは、努力によってスキルが上達する速さのこと。いっぽう「達成」は、習得したスキルを活用することによって表れる成果のことだ。・・・才能すなわちスキルが上達する速さは、間違いなく重要だ。しかし両方の式を見れば分かる通り、努力は一つではなく二つ入っている

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ウォーレン・マッケンジーという著名な陶芸家・・・「私は自分にできる限り、最高に心が踊るものを作ろう、人々の家によく似合うものを作ろうと、努力しているんです」・・・最初の1万個は難しいんだよ。それを超えると、少し分かってくる

現代アメリカ文学における偉大な語り手・・・ジョン・アーヴィングはこう語る。「ほとんどの作品は、最初から最後まで書き直した。自分の才能のなさを骨身にしみて感じた」アーヴィングは重度の読字障害(Dyslexia)・・・「文字を指でたどりながら読むんだ。僕もそうだったし、実は今でもそうなんだ。自分で書いた文章でない限り、僕も読むのが遅いんだよ。」・・・「何かを本当にうまくなりたいと思ったら、自分の能力以上に背伸びをする必要がある。僕の場合は、人の倍の注意力が必要だとわかった。でも、そのうち分かってきたんだ。同じことを何度も繰り返すうちに、以前はできそうになかったことが、当たり前のように出来るようになる。だがそれは、一朝一夕にはいかない」・・・「小説を書く場合、執筆のペースが遅くても、別に誰にも迷惑はかからないからね。いくらしつこく書き直したってかまわない。」

才能とスキルは別物だとはっきり認識する必要がある」と、俳優のウィル・スミスは言っている。「だけど、一流になりたい、自分には夢がある、成し遂げたいことがあるんだ、なんて言っている人達に限って、そのことをちゃんと理解していない。たしかに、才能は生まれつきのものだ。だがスキルは、ひたすら何百時間も何千時間もかけて身につけるしかない

「そして、これが一番重要なこと。やり抜く力は、自分にとってかけがえのないことに取り組んでこそ発揮されるの。だからこそ、ひたむきに頑張れるのよ」・・・「そう、自分が本当に好きなことに打ち込むの。でも、好きになるだけじゃだめなのよ。愛し続けないとね」

「やり抜く力」と言うのは、一つの重要な目標に向かって、長年の努力を続けることだ。・・・やり抜く力が非常に強い人の場合、中位と下位の目標のほとんどは、何らかの形で最上位の目標と関連している。それとは逆に、各目標がバラバラで関連性が低い場合は、「やり抜く力」が弱いと言える。・・・夢を実現するための中位や下位の目標を具体的に設定することが出来ない。そのため、目標がピラミッド型の構造になっていない。最上位の目標がぽつんと浮かんでいるだけで、それを支える中位や下位の目標がまったくないのだ。・・・ガブリエル・エッティンゲン・・・「ポジティブな空想」と呼んでいる。・・・もっと多いのは、中位の目標が乱立するばかりで、それを一つに束ねる最上位の目標が存在しないケースだ。・・・目標のピラミッドが全体として一つにまとまり、各目標が関連性をもって、整然と並んでいる状態が望ましいのだ。・・・「時間とエネルギーは限られている」という事実をしっかりと認識することなのだ、と。

「何をやるかより、何をやらないかが大切だ」とよくいっている。一人の科学者の一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでたら、本当に大切なことをやる暇がないうちに一生が終わってしまうんですよ。だから、これは自分はこれが本当に重要なことだと思う。これなら一生続けても食いはないと思うことが見つかるまで研究を始めるなといってるんです。

利根川進

小さな計画は立てないように、そういうものは人の魂を揺り動かすような魔力はないのだから。

フランク・ロイド・ライト

成功するには 「やるべきこと」を絞り込むとともに、「やらないこと」を決める必要がある。なるほど、そのとおりだ。「やらないこと」をもっとしっかりと決めなければ。

「なんでも必死にがんばる」のは意味がない

ザ・ニューヨーカー誌の漫画家として著名なロズ・チャースト・・・ベテランの彼女でさえ、作品の不採用率は90%だそうだ。・・・漫画編集者、ボブ・マンコフに電話をして、不採用率90%と言うのは普通なのか訊いてみた。・・・「ロズ・チャーストは、ちょっと例外でね」・・・「ほとんどの漫画家の場合、ボツになる確率はもっと高いですよ」・・・不採用率は96%異常だ。「ウソでしょう!そんなに確率が低くても、めげずに挑戦する人なんているんですか?」・・・「何度やってもだめだったら、他のやり方を試すこと」・・・ピラミッドの下位にある重要度の低い目標には、まさにそのような態度で取り組む必要がある。

 若手を指導する立場になったマンコフは、漫画家志望者には「作品は10単位で持ち込むように」とアドバイスをしている。「漫画も人生もそうだけど、9割方はうまく行かないからね。」

実際、重要度の低い目標をあきらめるのは悪いことではなく、むしろ必要な場合もある。他にもっとよい実行可能な目標があるなら、一つの目標だけにいつまでも固執するべきではない。・・・しかし、重要度の高い目標の場合は、安易に妥協するべきではない。

道を間違っているのなら、走ったって仕方がないじゃないか。

(ドイツのことわざ)

ジョン・スチュアート・ミル・・・幼少時の推定知能指数は190だった・・・ニュートン・・・130だった。・・・コックスは、「偉大な功績を収めた歴史上の人物たちは、一般の人々に比べて知能が高い」・・・これらの人々を「功績の偉大さ」で比較した場合、知能指数の高さはほとんど関係なかったのだ。・・・功績の偉大さで最も高いレベルに位置する天才たちの場合、幼少時の平均知能指数は146だった。いっぽう、功績の偉大さで最も低いレベルに位置する人々の場合、幼少時の平均知能指数は143だった。・・・コックスの研究標本において、知能と功績の関連性はきわめて低かったといえる。・・・偉人たちと一般の人々の決定的な相違点は、次の4つにまとめられる。・・・コックスは4つの指標を「動機の持続性」と名付けた。

  1. 遠くの目標を視野に入れて努力している。晩年への備えを怠らない。明確な目標に向かって努力している。
  2. 一旦取り組んだことは気まぐれにやめない。気分転換に目新しさを求めて新しいものに飛びつかない。
  3. 意志力の強さ、粘り強さ。いったん目標を決めたら守り抜こうと心に誓っている。
  4. 障害にぶつかっても、諦めずに取り組む。粘り強さ、根気強さ、辛抱強さ。

 知能のレベルは最高ではなくても、最大限の粘り強さを発揮して努力する人は、知能のレベルが最高に高くてもあまり粘り強く努力しない人より、はるかに偉大な功績を収める。

「情熱に従って生きよう」学位授与式のスピーチで任期のテーマだ。・・・半数以上のスピーカーは、「自分が本当に好きなことをするのが大切だ」と訴えていた。・・・「ニューヨーク・タイムズ」のクロスワードパズル担当のベテラン担当者、ウィル・ショーツ・・・「私から皆さんへのアドバイスは、自分が一番楽しいと思うことを見つけて、それを仕事にすることです。人生は短いのです。情熱に従って生きましょう」ジェフ・ベゾスプリンストン大学の卒業生たちに、・・・「よく考え抜いた結果、情熱に従って生きるために、険しい道のりを選んだのです」「なにをするにしても、自分のやっていることに情熱を持っていない限り、長続きはしないことがわかるでしょう」

メガ成功者たちは必ず「同じこと」を言う

「何度も聞いたのは『この仕事が大好きだ』という言葉です。普通の人も言いますが、もっとあっさりしています。・・・『僕は本当にラッキーだよ。朝、目が冷めて、今日も仕事ができると思うとうれしいんだ。・・・次のプロジェクトに着手するのが待ち遠しい』。彼らは、やらざるを得ないからとか、金銭面で魅力的だからとか、そんな理由で仕事をしているわけじゃないんです」

「堅実がいちばん」という考え方を説く人

「自分が本当に好きなことを見つけたい」などと理想を追い求めたりすれば、貧困と失望が待ち受けているだけだと釘を刺された。

「好きなことを仕事にする」は本当にいいのか?

第一に、人は自分の興味にあった仕事をしている方が、仕事に対する満足度が遥かに高いことが、研究によって明らかになった。これは約100件もの研究データをまとめ、 ありとあらゆる職種の従業員を網羅したメタ分析による結論だ。・・・自分の興味にあった仕事をしている人は、人生に対する全体的な満足度が高い傾向にあることがわかった。

第二に、人は自分のやっている仕事を面白いと感じているときのほうが、業績が高くなる。これは過去60年間に行われた、60件の研究データを集計したメタ分析による結論だ。・・・これらの科学的研究の結果は、学位授与式のスピーチに込められた叡智を裏付けている。何をするにしても、その人がどれくらい成功するかを左右する「決定投票」は、その人がその仕事を「どれだけ切望し、どれだけ強い情熱と興味を持っているかにかかっている」のだ。

どの人にも、あるとき突然、天から与えられた「情熱」に目覚めた瞬間があったに違いないと思っていた。・・・人生で何をしたいのか、さっぱりわからない。それがあるとき突然、はっきりと分かる。自分が何をするために生まれてきたのか、悟る時が来るのだ、と。ところが、実際にインタビューで話を聞いてみると、ほとんどの人は「これだ」と思うものが見つかるまでに何年もかかっており、その間、様々なことに興味を持って挑戦してきたことがわかった。今は寝ても覚めても、そのことばかり考えてしまうほど夢中になっていることも、最初から「これが自分の天職だ」と悟っていたわけではなかったのだ。・・・本当に好きな仕事に打ち込んでいる人を見ると、うらやましくなってしまうことがあるかもしれない。だが、そもそもそういう人は、出発点からして自分とは違うのだろう、などと思うべきではない。そういう人も、一生をかけてやりたいものが見つかるまでには、かなりの時間がかかった場合が多い。

おとなになったら何をしたいかなど、子供の頃には早すぎてわからない。・・・興味は内省によって発見するものではなく、外の世界と交流する中で生まれる。興味を持てるものに出会うまでの道のりは、すんなりとは行かず、回り道が多く、偶然の要素も強いかもしれない。・・・・ジェフ・ベゾス「ありがちなことだが、無理やり興味を持とうとするのは大きな間違いだ」・・・第三に、興味を持てることが見つかったら、今度はさらに長い時間をかけて、自分で積極的に掘り下げていかなければならない。最初に興味を持ったきっかけの後に、何度も繰り返し、さらに興味をかき立てられる経験をする必要がある。・・・マイク・ホプキンス「ひとつのことを調べていくと、そのつながりで、どんどん新しい情報が手に入りました。」

「やり抜く力の半分は、粘り強さです」・・・「でも誰だって、自分が本当に面白いと思っていることでなければ、辛抱強く努力を続けることはできません」というと、保護者はうなずくのをやめたり、首をかしげたりする。・・・エイミー・チュア「ただ好きだからといって、上達できるとは限らない。努力をしない限り、上達するはずがないのだ。だから多くの人は、好きなことをやっていても全然うまくならない」・・・自分の興味があることを掘り下げるにしても、練習に励み、研究を怠らず、つねに学ぶなど、やるべきことは山ほどある。だからこそ言っておきたいのは、好きでもないことは、なおさらうまくなれるはずがないということだ。

ベンジャミン・ブルーム・・・スキルは3つの段階を経て進歩し、各段階につき数年を要する・・・興味のあることを見つけて掘り下げていく段階を、ブルームは初期と呼んでいる。この初期に励ましを受けるのは極めて重要だ。・・・優しくて面倒見のよい指導者(メンター)を得ることだ。「そのような指導者たちの最大の特長は、最初の学びを楽しく、満足感の得られるものにしたことである。入門のごく基礎的なことは、ほとんど遊びを通して学ぶ。最初のうちは学びというより、ゲームのようなものだ」また初期には、ある程度の自主性が尊重されることも大切だ。

スポーツ心理学者のジャン・コティは、この最初の段階でのびのびと、遊びを通して興味を持ち、さらに興味を深めておかないと、将来、悲惨な結果を招くおそれがあることを突き止めた。・・・子供の頃から様々なスポーツを試した後に一つの競技に的を絞ったプロのアスリートたちは、全体的に長期間にわたって成績がよい・・・早い時期に様々なスポーツに触れることで、自分がどのスポーツに向いているかが分かりやすくなるのだ。・・・いきなり専門分野でみっちりトレーニングを受けた選手たちは、経験の浅い選手たちと競争した場合、最初のうちは明らかに有利だ。しかしコティの研究では、そのような選手たちは負傷したり、燃え尽き症候群に陥ったりする確率が高いことがわかっている。・・・エキスパートと初心者では動機づけの方法が異なって当然・・・初心者のうちにあまり厳しくすると、せっかく芽生えた興味が台無しになってしまう。一度そうなったら、取り返しはつかないと思ったほうがいい。

ジェフ・ベゾスの母ジャッキー・・・子供の興味に合わせていきました。子どもたちが自分の好きなことを思いきりやれるようにしてあげるのが、私の責任だと思っていました。 

エキスパートほど「知れば知るほど、わからないことが出てくる」ということが多い・・・サー・ジョン・テンプルトン(分散型投資信託を世に広めた伝説の投資家)ジャ。慈善基金の設立にあたって「無知の知は学ぶ意欲を高める」をモットーにした

初心者にとっての目新しさとベテランにとっての目新しさは、別物だということだ。初心者は初めて経験することばかりでなんでも目新しく感じるが、ベテランが目新しいと感じるのは微妙な差異(ニュアンス)なのだ。「たとえばモダンアートなら、初心者にはどの作品も同じようにみえるかもしれませんが、エキスパートにはそれぞれの違いがよく分かる。初心者にはニュアンスを見分けるのに必要な背景知識がないため、単に色や形を見ているだけで、内容はよく分かりません」

Will Shortz - Wikipedia


  • まずは好き嫌いをはっきりさせて、そこから積み上げていこう
  • とりあえずいいと思ったことをやってみる
  • うまく行かなかった場合は、取り消したってかまわない

発見の次は発展の時期だ。・・・興味を掘り下げるには、時間がかかる。つねに疑問を持って答えを探そう。答えが見つかると、さらに多くの疑問へとつながっていく。どんどん掘り下げていこう。・・・ウィリアム・ジェイムズ「新しきものに古きものを見出したとき、人は注意をひかれるーあるいは古きものに、さりげない新しさを見出したときに」

エキスパートたちの練習法

  1. ある一点に的を絞って、ストレッチ目標(高めの目標)を設定する・・・ヴィオラの巨匠、ロベルト・ディアス「アキレス腱を見つけること―その曲の中でうまく出来ない部分を洗い出して、克服しなければならない」
  2. しっかりと集中して、努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す。・・・エキスパートたちは、自分のパフォーマンスが終わるとすぐ、熱心にフィードバックを求める。・・・ウルリック・クリステンセンは医師から起業家へと転身した人物で、「意図的な練習」の原則に基づいて、「適応学習」のソフトウェアを開発した。
  3. 改善すべき点がわかったとは、うまく出来るまで何度でも繰り返し練習する。 

意図的な練習・・・人間の持つどんなに複雑でクリエイティブな能力も、それを構成するしスキルは細分化することができる。そして、一つ一つのスキルは、練習をしつこく積み重ねることによって習得することができる。・・・ベンジャミン・フランクリンが文章力を培った方法は、まさに「意図的な練習」・・・愛読誌「スペクテイター」に掲載されたエッセイを精選し、何度も繰り返し読みながらメモ・・・原稿を引き出しの奥にしまい込み、原稿を見ずにそれらのエッセイを書いて見た。自分が書いた原稿とオリジナルの原稿を照合し、間違った部分を見つけて修正した。

「才能の発達に関する研究によって、どんな分野であれ複雑なスキルを習得するには、約1万時間の練習が必要であることがわかっている。(中略)そうした練習は非常に単調で、つらく感じる場合が多い。だがそのような場合が多いとは言え、練習はいかなる場合も辛いものだと決まっているわけではない」

「非常な努力を要するとしても、これは努力する価値のあることで、頑張ればきっと習得できる。それに学んだことを実践するのは、自分という人間を表現することにもなり、願望の実現にもつながる。そうおもえば、つらくはないはずだ。」

意図的な練習

  • 明確に定義されたストレッチ目標
  • 完全な集中と努力
  • すみやかで有益なフィードバック
  • たゆまぬ反省と改良

オリンピックのボート競技金メダリスト、マッズ・ラスムッセンは、日本のチームに招かれて訪日した際、選手たちの練習時間のあまりの長さに衝撃を受けた。そして、「ただ何時間も猛練習をして、自分たちを極度の疲労に追い込めばいいってものじゃない」・・・周到に考えた質の高いトレーニング目標・・・長くても1日数時間が限度だ。

競泳選手のローディ・ゲインズ・・・練習に行くのを楽しいと思ったことは一度もないし、練習中はもちろん楽しくなかった。それどころか、朝の4時とか4時半にプールに向かうときや、あまりにも練習が辛いときは、『ここまでする価値があるのか?』なんて考えが、頭をよぎったこともありました・・・水泳が大好きだったから。競争は胸が躍るし、トレーニングの成果が現れたときも、調子がいいときも、レースで勝ったときも、最高の気分になる。遠征も好きだし、仲間たちにも会える。だから練習は嫌いだったけど、やっぱり水泳は大好きだったんです。・・・マッズ・ラスムッセン・・・努力あるのみ。楽しくなかろうが、とにかくやるべきことをやるんだ。だって結果を出したときは、信じられないほどうれしいんだから。・・・自分のスキルを上回る目標を設定しては、それをクリアする「練習」を何年のも続ける。それによって挑戦すべき課題に十分見合ったスキルを身に着けた結果として、フローを体験すると考えれば、エリート選手が見事なパフォーマンスを軽々とこなしているようにみえるのもうなずける。見えるだけでなく、ある意味では実際にそうなのだ。

 「知的能力に関する考え方」

  • 知的能力は人の基本的な性質であり、ほとんど変えることは出来ない。
  • 新しいことを学ぶことは出来るが、知的能力自体を向上させることはできない。
  • もともとの知的能力のレベルにかかわらず、かなり向上させることが出来る。
  • 知的能力は常に大きく向上させることが出来る。

 ドウェックによれば、最初の二つのコメントに賛成し、跡の二つのコメントに反対した場合、あなたの考え方は「固定思考」と考えられる。それとは逆だった場合は、あなたの考え方は「成長思考」と考えられる。

「成長思考」・・・人間は買え割れる、成長できる、と信じている人たちは、チャンスと周囲のサポートに恵まれ、「やればできる」と信じて一生懸命努力すれば、自分の能力をもっと伸ばすことは可能だと考えられる。それに対し、人はスキル(自転車に乗る、セールストークを覚えるなど)を習得することは出来るが、好きを習得するための能力、すなわち「才能」は、鍛えて伸ばせるものではないと考える人達もいる。・・・固定思考・・・挫折の経験を、自分には能力がない証拠だと解釈してしまうのだ。それに対し、「成長思考」の人は、努力すればきっとうまくできると信じている。

脳の神経回路には可塑性がある・・・あなたなら逆境を乗り越えられる、と言われるだけじゃダメなんだ。脳の神経回路の再配線が起こるには、下位の抑制領域と同時に、制御回路が活性化する必要がある。それは実際に逆境を経験して、それを乗り越えたときに起こることなんだ。・・・『自分がこうすれば、きっとこうなるはずだ』と思えるようにならないといけない

愛情ゆえの厳しさの根底にあるのは、無私無欲の思いです。それが一番重要だと思います。本当は親の身勝手なのに、お前のために厳しくするのだと言っても、子供はちゃんと嗅ぎつけますよ。私の両親は、ありとあらゆる方法で伝えてくれました。『お前が自分の道で成功するのを、楽しみにしているよ。自分たちのことなど二の次だ』と

課外活動を積極的に行っている子どもたちのほうが、課外活動をあまり行っていない子どもたちよりも、学校の成績が良く、自尊心も高く、問題を起こすことも少ないなど、様々な点で優れていることを示す研究は、枚挙にいとまがない。

ダニエル・チャンブリス・・・「偉大な競泳選手になるには、偉大なチームに入るしかないんです」・・・チーム特有の文化と選手との間には、互恵的な効果が生じる・・・人格形成の対応原則・・・たとえば私自身は、あまり自分に厳しい方じゃない。しかし周りのみんなが論文を書いたり、講演を行ったり、いつも猛烈に仕事をしているから、こちらも自然とそうなる。やはり、人は周りのやり方に合わせるようにできているんです。・・・やり抜く力を身につけるにも、大変な方法と楽な方法があるということでしょう。大変な方法は独力でがんばること。楽な方法は同調性を利用するんです。集団に溶け込もうとする人間の基本的な欲求をね。やり抜く力の強い人達に囲まれていると、自分も自然とそうなるんです

 まとめ

私たちが人生のマラソンで何を成し遂げられるかは、まさに「やり抜く力」―長期的な目標に向けた情熱と粘り強さ―にかかっているからだ。やたらと才能にこだわっていると、この単純な真実を見失ってしまう。・・・・自分自身で内側から伸ばす・・・興味を掘り下げる、自分のスキルを上回る目標を設定してはそれをクリアする練習を習慣化する、自分の取り組んでいることが、自分よりも大きな目的とつながっていることを意識する、絶望的な状況でも希望を持つことを学ぶ・・・外側から伸ばす・・・親、コーチ、教師、上司、メンター、友人など、周りの人々が、個人のやり抜く力を伸ばすために重要な役目を果たす。

始めたことは何でもかんでも最後まで続けようとすると、もっと自分に合っていることを始める機会を見失ってしまう可能性が高い。なにかをやめて、もっと簡単なことを始める場合もあるかもしれないが、自分にとってもっとも重要なことにだけは、しっかりと関心を持ち続けるようにしたい。

人は誰でも限界に直面する―才能だけでなく、機会の面でもだ。しかし実際には、私達が思っている以上に、自分で勝手に無理だと思いこんでいる場合が多い。何かをやって失敗すると、これが自分の能力の限界なのだと思ってしまう。

  • 一歩ずつでも前に進む
  • 興味のある重要な目標に、粘り強く取り組む
  • 厳しい練習を毎日、何年間も続ける
  • 七回転んだら八回起き上がる

わかりますよ。ぼくもこの仕事が大好きですから。でも僕の知り合いでも、40代になっても仕事に打ち込んでいない人があまりに多くて驚きますよ。人生にどれだけ大きなものが欠けているか、きっとわかっていないんでしょうね。 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

 

 

悪いヤツほど出世する

2012年ライトマネジメント仕事満足度調査・・・ 全世界で約3万人の被用者を調査した結果、国によってばらつきはあるが、28~56%が今の仕事を辞めたいと答えたという。・・・ギャラップ2012年調査・・・アメリカでは仕事に意欲的な被用者は全体の30%にすぎないという。それどころか、20%は仕事を怠け、職場の雰囲気を悪くし、会社の評判を落としている。また142カ国で行った調査によれば、アメリカ以外の状況はもっと悪い。仕事に意欲的な労働者はわずか13%で、24%が怠けている。・・・経済のあり方はがらりと変わったにも関わらず、やる気のある社員の比率はほとんど変わっていないという。・・・部下が上司に不満をいだいていることだ。・・・2012年夏にパレード誌・・・アメリカ企業の被用者の35%が、直属の上司の解雇と引き換えなら昇給を諦めてもいいと答えている。

ビル・ジェントリー「リーダーやマネジャーの二人に一人は現時点での職務を十分に果たせていない。すなわち無能力か、不適任か、完全な失敗である」・・・別の報告も「組織の種類を問わず、管理者が無能力である比率は極めて高い」・・・2014年の人材開発調査・・・回答企業の66%がリーダー育成は不十分であり、しかもこの傾向は年々悪化していると認めた。

リーダーの行動と職場の結果の間には強い因果関係があるとの前提に立っているにもかかわらず、実際にリーダーは教わったことを実行しているのか、ほとんど実態調査は行われていないことだ。・・・リーダーシップ教育産業は怠慢・・・大量のプログラムやセミナーを提供して助言をするだけで、実践されたかどうか、事態が改善されたかどうか、改善されていないとすればそれはなぜか、といったことを突き止める努力もしていない。

リーダーをめぐる状況が改善されないもう一つの重大な理由は、リーダーシップを教えるのに知識も経験も資格も必要ないことだ。つまりリーダーシップ教育産業には参入障壁が全くない。・・・現在リーダー向けにコンサルティングサービスを提供している人の多くは、一度もリーダーの地位に就いたことがないか、就いたことがあっても不評または失敗した人間だという。・・・リーダーシップ教育産業に参入する連中の多くは、知識も経験もない上に、どうも興味もないようにみえる。付け焼き刃でも本を読むとか勉強をするいう気もないらしい。・・・ある会議でリーダーシップに関する講師を探していた企画担当者は、適任者を見つけたと嬉しそうに話してくれた。だが実は彼が講師を選んだ理由は、なんとイケメンだったことらしい。

<日本の経済学教育も似たような状況にある。リーダーシップと違って、経済学にはちゃんと博士号があるのだが・・・。

リーダーシップに限らず、何事もクオリティを高める原則の一つは、点検し計測することである。・・・リーダーシップ関連プログラムの評価方法として最も多用されているのは、参加者による満足度評価・・・最近行われた分析では、学生による評価と学習効果との間には統計的に有意な相関性は見られない。・・・学習効果の計測が客観的であるほど、学生による評価との相関性は薄れる。・・・学生による教員ランキングと学習効果の間には有意な相関性はない。・・・ウォートン・スクールのスコット・アームストロング「学習というものは変化を要求する。そしてこれは、辛いことだ。重要な振る舞いや態度の変化に関わる場合には、なおのことである。」・・・学生による評価はマイナス面が多い。学生が授業や教員を評価するとなれば、教員の方は多少手加減して評価を高めようとする。すると教育の効果は薄れてしまう。アームストロングが「教育評価は学生に不利益をもたらす」と断言する理由の一つは、ここにある。・・・間違ったものを計測するのは、何も計測しないより悪いことが多い。なぜなら、計測したものに囚われるようになるからだ。

多くの進化心理学の研究で明らかにされているように、自己欺瞞には利点がある。・・・自己欺瞞は、進化にとって有利に働く。自分自身を騙すことができれば、自身を持って容易に他の個体をだませるからだ。・・・トリヴァースとヒッペル「人間の近くにバイアスがかかっているという事実は、様々な方法で自己欺瞞が行われており、場合によって真実の無意識の近くさえできなくなる可能性があることを示唆する。」と指摘する。となればリーダーが語るストーリーは、もっと言えば誰が語っても、当人の自覚なしに事実と異なる可能性がある、ということだ。・・・こうした認知バイアスの存在が学問的にも確かめられているにも関わらず、私たちはリーダーシップ神話を受け入れやすい。・・・「世の中はうまく出来ている」と考えたがる私達の傾向・・・「世界は公正であり、善は報われ悪は罰される」・・・「公正世界仮説」・・・この誤謬に囚われると、「成功した人には成功するだけの理由があるのだ」ということになる。だからサクセスストーリーは無条件に支持される。

ハーバード・ビジネス・スクールのエミー・エドモンソンは、「医療過誤のニュースを多く耳にする割には、失敗から体系的に学習するシステムを整えている医療機関はあまりに少ない」・・・経営学の論文「自然界においても実業界においても、失敗は最終的な成功につながると言ってよい。生態系では、老化した生命体が死ぬことによって、活発な成長がもたらされる。ビジネスの世界では、非効率な活動を排除することが富の創造につながる」と指摘されている。

レアケースからの学習の有効性には疑問符・・・卓越したリーダーのスキルとパフォーマンスの相関性は、多くの場合に極めて弱いという。これは、卓越したリーダーの業績は、幸運や偶発的な要素に左右される部分が大きいからだ。

人々の行動を変えるには様々な方法があるが、感動は有効な手段ではない。・・・長続きしない。高揚感はあっという間にしぼんでしまう。・・・プライミング効果・・・あらかじめ果物の話をしてから連想ゲームをすると赤からイチゴやリンゴを連想しやすいというふうに、先行する刺激(プライム)が後続する刺激に対する反応に影響をあたえることを指す。・・・一過性の感動はプライムにはならない。プライミング効果を踏まえると、刺激となる情報を目に見える形で与えることが、自己変革や自己成長に効果的だと考えられる。・・・倫理規定に署名させることはよからぬ行為を減らす効果・・・ウォーキングをして体重を減らしたい人は、歩数計を買って毎日歩いた距離を計測することだ・・・行動を変えるためのこうした方法の大半は、「動かぬ証拠を突きつける」という単純かつ強力な原理に基づいている。だから他人の行動を変えたいなら、計測可能な目標を設定し、目標を約束させ、毎日の行動を計測して頻繁にフィードバックし、必要に応じてインセンティブを設けることが効果的である。

社会心理学者のベノワ・モナンとデール・ミラーがモラル・ライセンシングという興味深い現象・・・一度とても良いことをすると、それどころか、良いことをしようと思っただけでも、「自分は良いことをしたのだから、次はちょっとぐらい悪いことをしてもいいだろう」・・・という気持ちになることを指す。・・・倫理的正当化やメンタルアカウンティングの帳尻合わせ・・・最初の機会に自分が差別をしない公平な人間であることを示した人は、次の機会には差別的な意見を表明しがちだという。・・・このような心理がリーダーシップ教育産業にとって意味するものは明白である。たくさんの公演を聞き、研修を受けるうちには、自分のリーダーシップを褒められるなどして、成果が上がったと感じるだろう。そして自分は多くを学んだ、良きリーダーに近づいたと信じ込むと、その後のリーダーとしての自分の振る舞いに十分な注意を払わなくなってしまうのである。このことは、言行不一致が起きる原因を説明するだけでなく、自分は優れたリーダーだと感じること自体が言行不一致を招くことを示している。・・・ミッション・ステートメント問題・・・多くの企業を調査したところ、ミッション・ステートメントを決定し、オフィスの壁に張り出したり、カードに印刷して配ったりすると、もうそれが実行されているように思い込んでしまうことが判明した。・・・何かを言うことと、それをすることとは別物である。リーダーシップ教育産業で著名な講師やコンサルタントたちも同じ錯覚に陥っている。・・・意地悪く言えば、行動が感心できない人ほど熱く語る。ちょうど公害企業が環境維持に取り組む姿勢をさかんに宣伝するように。

 人生にはトレードオフがつきものである。リーダーシップ教育産業もそうだ。彼らは神話やサクセスストーリーや英雄譚を提供することにかけてはすぐれている。だが職場をより良いところにしたり、リーダーの寿命を伸ばしたり、と言ったことには、少なくともこれまでのところさしたる成果を上げていない。・・・教育よりも感動を、有用なデータよりも高揚感を求めるお客にそれを与えるのは、当然の成り行きとも言える。

 卓越したリーダーと他のリーダを分ける最大の特徴は、謙虚さだという。謙虚な人間は信頼され、部下は一丸となって目標達成に取り組むというのである。・・・スポットライトを浴びたがる目立ちたがり屋ではない。謙虚な人間は自分の能力の限界をわきまえているし、自分の弱点も承知している。どれほど優秀な人間も完全ではないのだから、大勢の知恵を募るほうが一人の頭脳を上回ると考えている。こうした考えに基づいて多くの社員を意思決定に参加させ、謙虚に意見を聞き、フィードバックを求める。・・・しつこく自己宣伝をする人は、他人からの評価が芳しくないことがわかっている。そのイップで、自分の能力や実績を控えめに語る人は、好感度が高い。別の調査では、自慢の多い人間ほど能力が低いという笑えない結果・・・一番有能なのは、ホドホドに謙虚な人間・・・ジム・コリンズ・・・自己顕示欲が強く、のべつメディアに露出して熱心に自己宣伝をするような輩は、その貴重な時間を無駄遣いしている。企業の戦略立案に投じるべき時間が失われてしまうというわけだ。

謙虚であれという教えには重大な問題点がある。第一に、謙虚な人は少ないし、事リーダーに関する限り極めて少ない。・・・それはすでに高い地位に就いているリーダーが対象になっている・・・発展途上のリーダーにとって重要な資質・・・出世の階段を登るときに謙虚さが役に立つとは思えない。・・・慣例を打ち破り、既存製品や産業やビジネスモデルのあり方を変えるような先駆的なイノベーションをもたらす人間には、制約や既成概念に対する軽蔑、逆境や拒絶反応に立ち向かう意志の強さが欠かせないと指摘する。そしてこれらは、自己中心的なナルシストに特徴的な資質・・・確証バイアス(confirmation bias)が効力を発揮する。確証バイアスとは、自分の先入観や価値観や期待と一致する証拠のみを探す傾向・・・要するに人間には、見たいものだけを見て聞きたいものだけを聞く傾向があるということだ。・・・単純接触効果・・・人間は、見慣れているもの、よく知っているもの、記憶に残るものを選ぶものであり、これが広告効果を高めるイロハのイである。・・・自分を売り込むには、謙虚さをかなぐり捨てて、自分の能力や過去の業績や未来の計画に人々を注目させ、自分はその地位にもその報酬にも相応しい人間だと思わせなければならない。・・・カリフォルニア大学バークレー校のキャメロン・アンダーソンらが行った調査では、自信があるどころか自信過剰な人物でさえ、高い社会的地位、尊敬、影響力を勝ち得ていることが判明した。・・・こうしたわけだか、自己卑下や控えめな自己表現は、すでに地位を確立し、立派な評判を獲得している人にとっては魅力になっても、まだそこまで到達していない人にとっては、不安や無能力の表れと受け取られかねない。・・・187のメタ分析・・・リーダーの有効性と結び付けられる資質は7つある・・・内4つは、エネルギー支配力、自信、カリスマ性である。・・・ナルシシズムがリーダーの選択と密接な関係にあることがうかがえる。研究者の多くは、一般の人々と同じく自己顕示欲の強いナルシスト・タイプが大嫌いであることを考え合わせると、こうした研究結果はなおのこと興味深い。・・・ナルシスト型の人間は外交的で自信に満ちており、潜在的なリーダーシップ能力を備えているとみなされるため、リーダーに選びやすい。・・・ナルシスト型の人は自分を目立たせ、さらには際立たせる行動をとるうえ、自分にはリーダーの資格十分だと自惚れ、自分に対する期待値が高い。そういう人間は自分の主張を強く押し出し、自分の利益になるように行動するので、集団をやすやすと支配するようになる。・・・ある調査によると、ナルシシズムは実は一時的に人に好かれる可能性が高い・・・ナルシストが発散する華やかさや外向性に周囲の人は幻惑されるからだ。・・・ナルシシズムがリーダーの地位獲得に役立つ理由として、ナルシスト的性格の特徴と、人々が優れたリーダーの典型的な属性(権威、自信、支配力、自尊心など)と考えるものに共通点や重なり合う部分が多いことを挙げている。・・・ナルシスト型人間はリーダーに選ばれやすい。そもそもこのタイプの人は、リーダーの地位を求めている。

女性や、アジア系アメリカ人などのマイノリティは、典型的な白人男性に比べると、概ね謙虚で控えめであり、自己中心的でない・・・男女の役割分担や文化的期待・・・女性は男性と比べ、いわゆる印象マネジメントにあまり注意を払わないことで損をしている・・・アメリカの企業文化では、自己主張や個人主義的な考え方が重んじられる。これは、アジアの電灯とは真っ向から対立する価値観だ・・・多くのアジア文化では慎み深く控えめであることが良しとされているが、これは現代の職場環境には全くそぐわない・・・リーダーシップ本などでどれほど謙虚さが重視されようと、現実の世界でキャリアアップに役立つのは自己宣伝や自己主張

謙虚なリーダーというものはめったにいない。・・・ナルシスト型の性格や自己宣伝、自己主張と言った行動は、リーダーの選抜や面接評価などで一貫して有利に働く・・・ナルシスト型のCEOは他の経営陣よりも報酬が高く、在任期間も長い。これはおそらく、ライバルを排除する意思があり、そのすべも心得ていることが一因だろう。・・・ビジョンやアイデアを売り込むのが巧いので、他人、とりわけ社外の他人からの支援を取り付けることに長けている。また、人々の注目を集めやすく、このタイプのリーダーがいるだけで物事が進むという面もある。

謙虚なリーダーを選びたいと考えるなら、それはむずかしくない。NPIテストはナルシスト度を計測する信頼の置ける方法・・・選抜時にこのテストを実施すればいい。・・・しかし多くの企業は、そうした選抜方式は採用していない。押し出しが良く、雄弁で、自己宣伝の巧いナルシスト型の人物を好んで採用している。これでは、望んでいることと正反対の結果になるのも当然と言えよう。

自分の気持ちに忠実に振る舞うことは、むしろリーダーが最もやってはならないことの一つである。リーダーは、その状況で求められる通りに、周囲の人が期待する通りに、振る舞わなければならない。

 あなたの実績や過去の貢献はまことにすばらしい。しかし年齢やキャリアを考えれば、あなたはすでに過去の人であって、未来の人ではない。どんな組織もそうだが、我々も未来の為に投資しなければならない。だから、限られた予算をそのために使う必要があるのだ。

日本の組織は・・・・・

自分は大いに会社に貢献した。だから会社は自分に感謝してしかるべきだと思っている人は、考えを改めたほうがよい。昇給をケチるのも、レイオフを繰り返すのも、あれこれt経費を節減するのも、企業が、いや企業だけでなく政府機関も非営利組織も、生き残ろいと将来の繁栄がかかっているからだ。つまり組織は自分の身を守り自己利益を追求している。

 自分の努力と勤勉は必ず認められ、評価され、報われると期待している人は、そろそろ自分で自分をだますのをやめなければならない。もし自分の功績と忠誠心に対して報酬や地位が約束されるという暗黙の契約が存在すると考えているなら、そういう暗黙の契約が存在すると考えているなら、そういう暗黙の契約は決して守られないと肝に銘じるべきだ。それどころか、雇用の約束すらおぼつかないのである。・・・回答者の55%が、採用面接やその後に会社がした暗黙の約束は守られなかったと答えている。・・・全米大学体育協会NCAA)・・・大学も企業と同じで、基調なリソースは、将来の成功に役立つ人間に使いたいのである。怪我をしてプレーできなくなった選手は、将来の役には立たないという冷徹な論理だ。・・・系統的なデータや大学、企業、プロスポーツなど様々な組織での事例を見れば、結論は明らかだ。組織の善意や寛容に期待するのは、端的に言って愚かなことである。

「持ちつ持たれつ」の原則は、他人から受けた親切や行為に対する道義的義務について述べたものである。・・・社会心理学者のロバート・チャルディーニ・・・雇用関係にそうした道義的異義務があるかどうかは、大いに疑問だ。なるほど、社員は会社のために熱心に働き、長い年月を会社の繁栄のために捧げるかもしれない。だが会社はそうした勤労と努力に対して報酬を払っている。となれば、会社としては社員に恩義を感じる謂れはなかろう。これはあくまで労働とお金の交換にすぎないことになる。

職場というのは計算高く、利益優先で、道義心とは無縁であり、さらに言えば通常の行動規範にさえ縛られない、ということである。要するに、あなたが将来役に立つともなされている間は、会社はあなたを厚遇する。だがこの先もうあまり役に立ちそうもないと判断した瞬間に、あなたの過去の貢献は無視されるのである。

社会では競争は一般に好ましいものとみなされているが、ここでもまた、企業の内部ではそうではない。そこでは互いに競争するよりも協力することを求められる。しかも、ここが重要だが、リーダーに協力することを求められるのである。より正確に言えば、リーダンーの利益を自主的に優先し、リーダーの命令にしたがうことを求められる。ッリーダーが部下の幸福を優先し、組織の繁栄のために尽くすのであれば、そのリーダーに協力することは大変結構だ。だが本書でさんざん見てきたように、リーダーは自分の利益を追求する。となれば、部下が同じことをせず、自分で自分の利益を守らないのは、全く理屈に合わない。

以下に優れたリーダーでも、人間である以上、完全ではない。だから、優れたリーダーに付き従うよう奨励するのは、欠陥のある人間を全面的に信頼するよう奨励することにほかならない。これでは、本来なら一人前の人間を、ある意味で幼児化させるようなものではないだろうか。

もしいま読者が、互いに助け合う職場環境と部下思いのリーダーに恵まれているなら、その貴重な瞬間を存分に謳歌してほしい。だが、どこもそうだと思ってはいけないし、現在の状況がずっと続くと期待すべきでもない。世界は往々にして公正ではないのであり、そうわきまえることだ。そして、自分の身は自分で守り、自分の利益は自分で確保する方が良い。他人もそうするなら、なおよい。しっかりと自分のことは自分で考え、リーダーシップ神話に頼るのをやめたら、あなたはもっとずっとうまくやれるはずだ。同時に、信頼に値しない人間を信頼して裏切られたり、失望したり、キャリアを台無しにしたりする危険性も大幅に減るはずである。

ジム・コリンズ・・・「最後には必ず勝つという確信を失ってはいけないが、自分が置かれている厳しい現実を直視する規律も失ってはいけない」・・・ストックデールの逆説・・・生還できなかった捕虜仲間は楽観主義者だった・・・楽観主義者は、現実を直視しようとしない。現実逃避をしたがるダチョウのように、砂の中に頭を突っ込んで災難が通り過ぎていくのを待とうとする。このような自己欺瞞で一時的に楽にはなるかもしれないが、最後は嫌でも現実と向き合わなければならない。そうなったとき、現実はあまりに過酷でもはや耐えられないのである。

グーグルで、「著名なCEOの名前+イヤなやつ」のAND検索をかけたのである。すると、スティーブ・ジョブズが、2位のオラクルのラリー・エリソンを遥かに引き離して1位・・・会議の際にエリソンが大爆発することは有名だ。しかも罵詈雑言を浴びせるだけでなく、長井。ときには延々一時間も吠えているという。・・・ジェフ・ベゾス・・・癇癪と罵倒でつとに有名だ。「この問題に今から知性というものを供給してやろう」・・・ポール・アレンは、ゲイツと働くのは「生きた心地がしない」・・・今挙げたリーダーたちは、長期にわたって巨額の報酬を手にし、権力を振るったけれども、謙虚だとか、誠実だとか、部下思いだといった理想のリーダー像からはどう見てもほど遠い。しかもそうしたリーダーは日々増えている。・・・大方の人が、彼らは本当に成功したわけじゃない、と反論する。・・・スティーブ・ジョブズも、一時期は誕生パーティに誰も来てくれなかったらしい。・・・これらのリーダーが本当に成功者なのかどうかを論じるのは勝手だが、彼らには否定できない共通点が一つある。・・・何はともあれ高みにのぼり詰め、権力を手にし、それなりに長い間その地位を維持したという事実である。だから、現実を公正世界仮説に当てはめようとするのは止め、理想とかけ離れた人たちが、なぜどうやって高みに上り詰めたのかを理解するほうが役に立つだろう。この手のリーダーが量産される現状を変えるためには、この理解が欠かせないと私は考えている。

現状は、誠実で謙虚で信用できて部下思いなどなど、多くの人がリーダーの資質と考えるものを待ち合わせていないリーダーが大勢成功しているだけではない。実態はもっと悪い。・・・理想のリーダーだと言われている人たちは、実際そのように見えてしまうのである。これは、人々がリーダーの発する自信満々な雰囲気やオーラに見せられてしまい、彼らが実際に何をしているかをチェックしようとせず、彼らの部下になることがどういうことかを考えようともしないからだ。おとぎ話を信じたがっている人々は、真実から目を逸らし、自分の価値観を覆すような証拠は積極的に見まいとする。こうしたわけで人々は、ほとんどの企業にも政府機関にも存在しないようなリーダーの行動モデルをありがたく信じている。・・・人々が授けられる「キャリアで成功するためのヒント」と言った者は、多くの場合、実際のリーダーの行動とはまるで一致していない。なぜこんなおとぎ話がいつまでも生き残っているのだろうか。・・・「真実に耐えれれない」・・・データによると、多くの人は、悪い情報が目に入らないよう積極的に試みているという。不愉快な真実を避けようとする人たちは、悩ましい症状が出ても医者にかかろうとしない。診断を聞きたくないからだ。言うまでもなく、そのような行動は自体を悪化させるだけである。治療を受けずに放置するほど、症状は深刻化するものだ。多くの人はハッピーな映画を見たがる。少なくともハッピーエンドになる映画、つまり善が悪を倒し、知恵が力に勝ち、正義が不正を打ち負かす映画である。・・・よいニュースや感動的な物語だけを聞きたがり、権力者や組織を批判することを恐れ、多くの職場が抱える問題を直視しようとしない――こうした姿勢がリーダーシップ教育産業を繁盛させ、誠実で謙虚で深思いのリーダーのハッピーな物語が語られるのである。彼らは、理想像に一致しないリーダーのことは語ろうとしない。理想のリーダーとそうでないリーダーの比率といったものも示されないし、リーダーたちがキャリアの最後にどうなったかということも語られない。

リーダーシップ教育産業は、未来のリーダーを育成することや現在リーダーの役割を果たしている人の一段の能力開発をすることが目的である。・・・この業界の多くの人にとっては、今のリーダーはこうだということよりもリーダはこうあるべきだということのほうが重要に・・・長年にわたってリーダーシップ教育が行われてきたにも関わらず悪いリーダーがこれほど多いのはなぜか、といった都合の悪い質問は巧みに回避される。・・・数十年に渡って、膨大な数の著者や講師やリーダーシップコーチが同じようなアドバイス・・・滅多にいないような実に立派なリーダーの研究ばかりが行われている・・・そうした例外的な人物を紹介すれば、他のリーダーも啓発ばかりが行われていることである。こうしたアプローチが成果を上げているという証拠は一つもない。そのことは、仕事満足度の低下、リーダーの在職期間の短縮、離職率の上昇、解雇されるリーダーの増加と言った客観的な数字が証明している。また、こうしたアプローチには理論的な裏付けもない。もちろん、信頼できて深思いの謙虚なリーダーは実在する。そうしたリーダーを私たちは尊敬し、賞賛すべきだ。だが同時に、そうしたリーダーがごく僅かであることも認めなければならない。さもないと、よきリーダーを目指すことの困難を過小評価することになる。

多くの人は、冷静かつ客観的にリーダーの行動に注意を払う代わりに、リーダーが自分の業績を語り、価値観を訴え、心地よい決まり文句を発するのを聞いて満足している。・・・賢いリーダーは、自分の行動が間近でつぶさに観察されないよう注意を払っているからだ。・・・たとえば、52人のマネジャーを対象に行われた3つの異なる調査で、マネジャーの成功と密接に関係する行動に挙げられたのは、人脈作りと政治的駆け引きだった。

良い結果を出すために良からぬことをせざるを得ない時もある。・・・決断する、実行する、改革する、競争環境で勝ち抜くと言ったことには、意志の力が必要であり、さらに、一部の人から反発されかねない行動をとり、反感を買いかねないような資質を発揮することが必要だ。・・・マキアヴェリの真実だ・・・偉大なことを成し遂げるためには、必要とあらばどんなことでもする意思を持たなければならない。困難な戦いを避けてはならないし、人気を失うことを恐れてもいけない。

アドバイスビジネスは、提供したアドバイスが実際に実行されるかどうかはあまり気にしていない。というのも彼らの利益はアドバイスを売った時点で得られるからだ。・・・良きリーダーになるためには、まずはその地位につくために、次に地位を維持するために、自分の置かれた環境で必要な能力や行動を示さなければならない。

勧善懲悪に代表されるように、白黒がはっきり・・・このような思考法は、複雑な現実を過度に単純化しがち・・・誤った確信が持てるので心地よいかもしれないが、何事も白黒をはっきりさせようとする姿勢で臨んでいたのでは、現実の複雑な世界の問題に取り組むのは一段と難しくなってしまう。・・・高い地位の人間ほど複雑な思考法をすることが明らかにされたが、このことは、複雑な問題に取り組むときには高度な評価・分析手法が役に立つことを示唆している。・・・アレクサンドル・ソルジェニーツィン「どこかに悪い人間がいて悪事ばかり働いているなら、彼らを隔離して絶滅させれば良い。だが善と悪を・・・境界線は、あらゆる人間の心の中にあるのだ。自分の心を隔離して破壊することを望む人間がいるだろうか。」

真実と早く向き合うほど、誰にとっても結果はよりよいものになる。 そのためには誰もが、そう、リーダーだけでなくすべての人が、頑張って続けなければならない。

悪いヤツほど出世する

悪いヤツほど出世する

 

 

興味のあることをすればいいのです。

ものすごく大きい、バカみたいな夢を見ることは成功するためのキーだと思います。バカなことを言っている、と思うでしょう? 夢が非現実的であればあるほど、競争者がいなくなる。今現在、私レベルにクレイジーな人は世の中に数えるほどしかいないので、彼らの名前を空(そら)で挙げられるくらいです。

クレイジーはクレイジー同士、惹かれあうものなのです。大きく成功する人は大きな挑戦をします。これはGoogleも同じです。私たちのミッションは世界中の情報を整理して、世界中の人々が整理された情報にアクセスできるようにすることです。こんな素晴らしいアイディアにわくわくしない人などいないでしょう?

みなさんは成功しないかもしれませんが、我々にも上手くいかなかったことはたくさんあったのです。Googleはたまたま上手くいっただけで、我々がやらなかったこともたくさんあります。しかし我々は多くのことに挑戦することを恐れはしませんでした。だからみなさんにはもう少しリスクを取って欲しいと思います。もしみなさんがリスクを取ることを十分に行えば、きっと上手くいくでしょう。

皆さんは、やりがいがあり活動的で、自分自身が興味のあるエリアを選択すべきです。私はリンクに興味があり、他人はそこに注目していませんでした。なので「これは何かできる」と考えたのです。
そしてそれは多くの人にもあてはまります。興味のあることをすればいいのです。我々にとってそれは重要なことでした。セルゲイを初め、相当なハードワークをこなす人たちがいましたし、それは目的を達成する上で非常に重要なことでした。 


Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

 スタートアップを起業するのに最も適した年齢があるとするならカルビンたちがそれだった。学部学生よりは多少成熟しているものの、まだ家のローンや子育ての重荷を背負っていない。そういう年齢になってしまうと、給料の良い安定した大企業の職を捨てるのは非常に困難になる。・・・面接に当たったYCのパートナーたちが最も警戒するのは「檻に入れられたハッカー」と言う状況だった。つまりハッカーではない創業者が実験を握っていてハッカーたちを部下扱いするようなチームだ。

「君たちは3人のチームだったな。1万700ドルの投資で株式の7%をもらいたい。」出資の見返りとしてYコンビネータ―がスタートアップに要求する株式の割合はどんな場合でもほぼ同一だが、出資額は多少異なる。基本として全チームが1万100ドルを受け取る。これに二人目以降の創業者ひとり当たり3000ドルが追加される。ただし創業者4人以上の場合、2万ドルが上限だ。

グレアム「スタートアップを始めてもたぶん失敗するだろう。ほとんどのスタートアップは失敗する。それがベンチャー・ビジネスの本質だ。しかし、失敗を受け入れる余裕があるなら、失敗の確率が90%ある事業に取り組んでも判断ミスにはならない。40歳になって養わなければならない家族がある状態での失敗は深刻な事態になる。しかし君たちは22歳だ。しっぱいしてもそれがどうした?22歳で在学中にスタートアップに挑戦して失敗したとしても、23歳の一文無しになるだけだ。そして得難い経験を積み、ずっと賢くなっているだろう。これが我々の呼びかけている学生向けプログラムの概要だ。」

 創業者が最初、良くないアイデアを試み、2度めに得たアイデアで大成功をおさめるというのはよくある現象です。我々自身がそれを経験しています。ビル・ゲイツポール・アレンの場合でさえそうだった。彼らの最初の会社はマイクロソフトではなくトラフォデータという会社で、ほとんど利益を上げることが出来ませんでした。

「ピボット」というのはスタートアップの世界でよく使われる用語で、当初のアイデアや戦略を根本的に見直して新しいものを採用することを言う。スタートアップは頻繁にピボットするものだ。

若すぎる起業家の犯しがちな失敗は、誰も金を払おうとしないようなソーシャルななんとか を作ることだ。君たちには人が少しでも金を払うようなプロダクトを作ろうとしてみることがいい練習になる。企業というのはつらい仕事だ。インターネット版の風俗営業みたいなものだな。しかし決して虚業ではない。

32歳はおそらく25歳より優れたプログラマーだろうが、同時に生活コストが遥かに高くなっている。25歳はスタミナ、貧乏、根無し草性、同僚、無知といった企業に必要なあらゆる利点を備えている。・・・所有物が車1台分くらいしか無いか、あるいはそもそも持っていく価値が無いようなものばかりというのが「根無し草性」だ。

貧乏という鞭を当てられているのでなければスタートアップのストレスに耐える気にはなれないと分かっていたんだ。

われわれ、つまり30歳と29歳のコンビがこういう完璧に馬鹿げたアイデアに真剣に取り組んでいたことを考えれば、20歳を少し過ぎたばかりのハッカーたちが我々のところに来て、絶対にビジネスになるはずがないアイデアを得々と語るのに驚いてはなるまい。

われわれはきみたちをクビにはしない。しかし市場が君たちをクビにする。君たちの仕事がつまらなくても、私は君らの後を追いかけ回して、『こんなつまらん仕事、いい加減にしろ』と叱ったりはしない。

実は過去にはイライラして口うるさくしたことがないではない。しかし何の役にも立たなかった。まずい仕事をする人間はいつまでたってもまずい仕事をし続ける。泳ぎを覚えられるか、それとも溺れるか、だ。・・・これまでに成功したスタートアップは皆一切脇見をしないチームだった。寝る、食う、運動する以外はプログラミングしどうしだった。

ハッカーに占める女性の割合はたしかに少ない。しかしそこまで少ないわけではない。・・・これは成功するスタートアップは創業者同士が以前から親しい友人関係にある場合が多いという事実と関係がある。親友というのはたいていの場合、同性だ。元々女性の割合が少ないところに、さらに女性の親友のグループということなると確率は2乗されてさらに少なくなる。

つまりYCに女性創業者が少ないのは何らかの差別によるわけではなく、純然たる確率の問題なのだ。

パーティで出会った多くのコンサルタントたちが、ほとんど弁解するようにして、自分たちの仕事を説明するのを見て不思議な気持ちがした。我々が起業家になるという決心を說明してきたときと同様、彼らは、なぜ今コンサルタントをするのがよいのか様々に正当化していた彼らは起業家に対して引け目を感じているようだった。それを見るのはシュールな経験だった。私の経験から言って、イギリスでは、大学を出たらすぐに起業すると言えば変わり者として多少なりと仲間はずれにされるおそれがある。私は、すぐに起業することが自分自身への最高の投資なのだと何度も主張しなければならなかった。ここでは逆だ。皆が企業こそ普通の生き方だと考えている。そのことになれるのに少々時間がかかった。

<個人的な経験として、アカデミアも同様の傾向があるように思う。知り合いの研究者の多くは、テニュアをまだ取得していない博士課程の学生やポスドクに対して、極めて保守的でほとんどオリジナリティのない研究を薦める傾向がある。曰く、好きな(そして、オリジナリティのある)研究は博士号やテニュアを取ってから好きなだけやればいいという論理だ。しかし、僕が見る限りそう言っている研究者は博士号やテニュアを取得しているにも関わらず、好きでもなければオリジナリティもまるで感じられない研究を依然として続けているようにみえる。逆にオリジナリティを感じる研究を好きにやっている研究者は、残念ながら若いときから好きな研究をやっているのだ。彼らの脳機能が停止しているのは一向にかまわないのだが(納税者としてもの申したい気持ちが無いわけでもないが)、邪悪な病原菌を振りまくのはぜひとも止めていただきたいものだ。※もちろんこれは僕の勝手な意見で、本の内容とは何の関係もない。

 グレアム「いいか、アイデアを生み出すための3か条だ。

  1. 創業者自身が使いたいサービスであること
  2. 創業者以外が作り上げるのが難しいサービスであること
  3. 巨大に成長する可能性を秘めていることに人が気づいていないこと」

 <アカデミックイシューに落とし込めば、自分が好奇心のある分野で、自分以外が分析するのが難しく、巨大に成長する可能性のある分野の研究をしろ、ということだ。間違っても、自分の興味が無く、巨大なリテラチャーが既にあり(自分以外の人も分析可能)、すでに巨大に育っている分野の研究ではない。こう書いてみると、前述した脳機能停止状態の研究者が勧めてくる戦術は、アカデミアにおける大企業病と考えてもいいのかもしれない。

誰かが自分のためにスタートアップを作ってくれるとしたらどんなのがいいか自問してみる。次に、自分以外の誰かにとってどんな困った問題がありうるか考えてみるのも良い。・・・仕事をしていて、ここのところを誰かうまく解決してくれたらなあと思うようなことはなかったのかい?・・・いま解決されていない問題が、後になればニーズなんだ。私のマックブック・エアは起動するのに1分もかかる。・・・グレアムは優れたアイデアというのはいくらでもそのあたりに転がっていて、誰かが拾い上げるのを待っているのだと說明した。「そういう話はいくらでもあるんだ」と彼は締めくくった。

ベンチャーファンドの名門、セコイア・キャピタルがスタートアップの持ち込むアイデアを評価するのに使っているシステムだ。「彼らのシステムでは、『需要の緊急性』を重要な要素のひとつとしている。これはつまり新しいアイデアを見たら、まずその時点で他のグループがそのアイデアを追求しているかどうか調べるということなんだ。セコイアは『そのアイデアで、どんなつまらないソリューションでもいいから、今現に誰かが提供していないか?将来のユーザーを奪い合う事になりそうなライバルはいないのか?』と創業者に尋ねる。『いえ、誰もいません』というのが一番いい答えだと思うだろう?しかしそうではないんだ。それはそのアイデアにそれほど差し迫った需要がないことを意味する。」

間違っていても何らかの決断をするほうが、ずるずると決断を引き伸ばすよりずっといいんだ。自分が興味を持てることをやるのが重要なのははっきりしている。しかし、失敗のコストが最小であるようなアイデアを選ぶようにしなけりゃいけない。この場合のコストというのは君らがそれにかける時間だ

ポール・グレアムシリコンバレーで広く引用される格言が好きだー「数字で測れるものを作れ」数字で測ることは、プロダクトのパフォーマンスのある側面を注意深く観察することにつながる。それがプロダクトの改善をもたらす。・・・ある週に目標達成に失敗したら、次の週は二度と失敗しないようにする方法を考え続けろ。目標設定が効果があるのは、集中力が養われるからだ。スタートアップではやるべきことは毎日無数にある。・・・しかし毎週成長目標を決めたら、その目標を達成するのにどうしても必要な仕事はどれとどれなのか、適切な時間の使い方を必死で考え抜く必要がある。・・・数字で測れるものを作るということなのだ。

YCの3ヶ月を無駄にしてしまうやり方で一番よく見るのは、何もしないことだ。毎週なにか新しいことをやり遂げていかないのなら失敗は確実だ。そんなことがあるわけ無いと思うだろう?・・・ビールを飲んでプレイステーションで遊んで過ごしたりはしない。そういう意味で何もしないと言うんでは人だ。そうではなくて忙しく間違ったことをして過ごす人間が多いんだ。・・・新しいユーザーを獲得すると言ったほんとうに重要な目標を達成する役には立たないんだ。・・・君たちがなにか新しいことをやる。するとユーザーから『これは好きだ、これは嫌いだ』と反応が帰ってくる。それで君たちは次に何をやればよいのか、新たな情報を得ることになる。要するに新しいものを作り出さないことは何もしないということなんだ。そこに気をつけないといけない。

グレアムは「ハッカー向け投資ガイド」という記事の中で「真のリスクテイカー」として個人の「エンジェル投資家」を讃えた。・・・グーグルがクライナー・パーキンスとセコイアから投資を受けたことは誰でも知っている。しかし多くの人々はこのベンチャーキャピタリストの投資が非常に遅い段階で行われたことを知らない。・・・ベンチャーキャピタリストは「いち早く尻馬に乗る人種だ」・・・「多くのベンチャーキャピタリストは誰が勝つかあえて予想しようとはしない。彼らは誰かが勝ち始めればいち早く気づく。しかしエンジェル投資家は誰が勝ちそうか予想しなければならない」・・・セコイア・キャピタルから調達・・・YCは最初期のスタートアップに少額を投資するという点ではエンジェル投資家である一方、外部から集めた資金を投資するという点ではベンチャーキャピタリストでもあるような存在となった。

デビッド・リー・・・ 私が投資すべきかどうか判断する際に一番注目するのは創業者です。『私はこの創業者の下で働きたいと思うだろうか』と自問することにしています。・・・「創業者は私にその下で働いてみたいと思わせるような潜在能力を持つ必要があります。もちろんはじめからそんな能力がなくてもかまいません。・・・偉大さというのは最初からはっきり目に見えるものではないのです。だから私は優れたエンジニアである創業者たちが好きです。彼らは最初のアイデアがうまく行かなかったときに方向転換してやり直し、窮地から脱出することができるからです」

 グレアム「常に成長率に目を光らせ、なんとしても設定した目標成長率を達成しなくてはならない。ゲームだと思え。どうしても目標を達成しようと努力しているうちに何をしなければいけないのかが自然にわかってくる。集中が答えを与えてくれる。成長率は羅針盤だ。この次に成長率を聞かれたら即座に数字が答えられるようにしておくんだ。」

グーグルだ!IPOだ!シリコンバレーでは何もかもすごい!・・・キャンベルは、スタートアップライフに対するこの甘い認識に遭遇すると、声を大にしてこう言いたくなる。 「そうじゃない。君たちが自分で手を動かして仕事を終わらせなきゃならないんだ。あのレベルに行くためには、山ほどのきつい仕事や単調でうんざりする作業をする必要がある。自分たちがやらなきゃ、誰もやらない」。年配の応募者たちがスタートアップに必要な仕事について悲しいほど無知なのを見て、キャンベルは対象を最近の大卒に絞った。

ヴィドヤードみたいになるんだ。セールスアニマルに。もしきみたちがセールスアニマルでないなら、そうなるように自分を矯正するんだ。たとえそれがどんなに不快だったとしても。 

最高の人たちは自分のやっているビジネスが好きで好きで仕方がない。愛していると言ってもいい。そうだろう?だからもし君たちがこのNFCを愛しているなら、大きなビジネスになると信じているなら、わたしは真実の愛を求める君たちの邪魔をしたくないんだ。

一緒にブレーンストーミングをして、愚かな決断を辞めさせ、うまくいかないときには元気づけてくれる仲間が必要だ

創業者は必ず二人以上必要だが、多すぎてもいけない。・・・スタートアップを国連のようにはしたくないはずだ。あれは最小の物事を成し遂げるための一種の民主的プロセスだ。

我々は、世界征服計画をでっち上げる練習を何度も繰り返す・・・私達がどうやって勝つのかって?写真を預かるサービスは山ほどあります。そんなにたくさんあるということは、まだ勝てる余地があるという兆候です!まだ誰も正解に至ってないという意味なのです。・・・何をお考えなのかわかっています。なぜ私達なのか?ですね。・・・なぜ君たちなのかを説明することだ。

テクノロジーのハブを作るには2種類の人間さえいればよい。金持ちとハッカーだ。・・・スタートアップという存在を可能にするにはこれらの人々が必要だ。スタートアップが生まれる時にその場にいる必要があるの箱の2種類の人間だけだ。他の人間はどこにいてもよい。

失敗のリスクが許容できる人生の段階にいるなら、スタートアップで成功できるかどうかを知る唯一の方法は実際にやってみることだ

Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール

 

 

数学者たちの楽園: 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

 1951年、ニューズウィークはナードnerdとは、デトロイトで流行っている貶し(ちなみに読みはけなし、とぼしではない!)言葉であると報じた。1960年台には、レンセラー工科大学(ニューヨーク州トロイにある私立工科大学で、英語圏では最高の技術系大学。小規模ながら工学分野での評価が高い)の学生たちは、knurdと綴るのを好んでいたが、これはdrunkを逆から綴ったもの。knurdは、パーティやコンパに行っては酔っ払っている連中とは真逆のタイプという含みがある。

しかし過去十年間に、ナードとしての自尊心が芽生えるにつれ、この言葉は数学の徒やその同類達によって、好意的な意味で使われるようになった。同様にギークgeekもまた、今や褒め言葉だ。たとえば、

geek chic(ギークが好みそうなファッションの意味。具体的には黒いフレームのメガネや、スローガンの入ったTシャツなど)に人気が出ていることや、2005年にタイムに載ったThe Geek Shall Inherit the Earth(ギークが地球を継承する=世界を牛耳るのはギークだ)という見出しの記事などもそのことを示している。

アメリカの教育者チャールズ・J・サイクスは1995年に、ナードには親切にしよう。君たちは将来、ナードに雇ってもらうことになる可能性が高いのだからと先見の明のあるセリフを吐いたが、ナードいじめは今日なお、世界のいたるところで問題になっている。

ホーマーの発明熱が一つの頂点に達するのは、エバーグリーン・テラスの魔法使いの回だ。・・・ホ-マーが黒板に書いた数式や図・・・3987^12+4365^12=4472^12・・・実はホーマーの式は、フェルマーの方程式に対する、いわゆるニアミス解なのだ。・・・1998年にこのエピソードが放映された時点で、ワイルズの証明が発表されてから3年が経っており、フェルマーの最終定理が征服されたことをコーエンはよく知っていた。それどころか彼は、カリフォルニア大学バークレー校の大学院生だった時、フェルマーの最終定理に対するワイルズの証明において重要な役割を演じる仕事をした数学者、ケン・リベットの講義に出席してさえいたのである。・・・彼は普通の電卓をすり抜けるニアミス解を作ることにより、ピエール・ド・フェルマーアンドリュー・ワイルズにオマージュを捧げようとしたのだ。・・・「いい気分だよ。テレビ業界にいると、社会を腐敗させる片棒を担いていでるような気分になることもある。だから、話のレベルを上げる機会があると-特に数学のすばらしさを伝えられたときは-下品なジョークを書いているときの暗い気持ちが晴れるんだ」

J・スチュワート・バーンズ・・・アンハッピリー・エバー・アフターで仕事をしていたときには、バーンズは修士号なんか持っちゃってるギークというレッテルを貼られていた。ところが『ザ・シンプソンズ』の脚本家チームでは、数学の修士号など珍しくもない。ギークのレッテルを張られるどころか、バーンズはトイレ・ジョークの大黒柱として名を馳せるようになった。

ジェフ・ウェストブルック・・・「わたしはコンピュータ科学の理論的な研究をやっていたんだが、仲間たちとワイワイやりながら、たくさんの定理を証明したものだった。ここに来てみて驚いたのは、脚本家チームのミーティングルームで、それと全く同じことが行われていることだった。大きなテーブルを囲んで、みんなで色々なアイデアをキャッチボールする。そこにはクリエイティブな仕事に共通する要素があるーつまり、問題を解こうとしているんだ。数学研究における問題は、定理であり、脚本作りにおける問題は、ストーリーを組み立てることだ。我々はストーリーをバラバラにして分析したいんだ。このストーリーは、要するに何なんだ?ってね」・・・数学的な証明のプロセスは、コメディの脚本を書くプロセスと似たところがある。目的地にたどり着けるという保証がないところも似ているね。・・・目指すことのすべてを満足する-そして面白い-ジョークが存在するという保証はどこにもない。数学で何かを証明しようとするときも、そもそもそんな証明は存在しないのかもしれない。・・・ジョークを探しているときも、定理を証明しようとしているときもーそれが自分の時間を注ぎ込んでやるのに値することなのかどうかを教えてくれるのは、直感なんだ。・・・短い期間で複雑なストーリーを創らなければならないし、克服すべき論理的な障害も多い。物語を造るという作業は、大きなパズルを解くのに似ている。この作品を作るために、どれだけ頭を悩ませているか、分かってもらうのは難しいだろうね。・・・この作品の脚本は本質的にパズルであって、複雑なストーリーラインが『脳みそに負荷をかける』からだろうという点

実写ドラマは実験科学に似ている。役者たちは、それぞれの考えに沿って演技知る。そうやって撮影されたシーンを繋げて、どうにか作品にするしかないんだ。一方、アニメは純粋数学に似ている。あるセリフにどんなニュアンスを含めるか、台詞回しをどうするかまで、徹底的にコントロールできる。あらゆることがコントロール可能だ。アニメは数学者の宇宙なんだ。

 天文学者と物理学者と数学者が、休日にスコットランドに・・・天文学者「おや、スコットランドのヒツジは黒いのだ!」・・・物理学者「いやいや、そうじゃない!スコットランドのヒツジの中には、黒いものがいるということだよ」・・・数学者「スコットランドには、少なくとも1つの平原があって、そこには少なくとも一匹、少なくとも片面の黒い羊がいるということさ」

代数学の父の一人であるニュートンは、発明にも手を染めていた。伝えられるところでは、扉のついていないシンプルな猫の出入り口を最初に作ったのはニュートンだという。それは、部屋の扉の下の方に開けられた穴で、猫が自由に出入りできるようになっていた。しかもその猫穴のすぐそばには、子猫用の小さな穴が空けられていたというのだ!果たしてニュートンは、そこまでマヌケな変人だったのだろうか。・・・J・M・F・ライトの回想によれば、この逸話が事実かどうかはともかく、猫と子猫にちょうど良さそうな穴が2つ空いた扉が存在したことは事実らしい。

ウェストブルック・・・イェール大学の准教授を5年間勤めたのち、AT&Tベル研究所に移った。・・・AT&Tベル研究所を去る時に上司が言った最後の言葉を、彼は今も忘れない。「まぁ、君がそうしたいという理由はわかった。成功しないことを望むよ。ここに帰ってきて研究してほしいからね。」 

グレース・ホッパー・・・コンピュータの欠陥を言い表す言葉としてバグを広めた人物・・・ハーバード大学のMarkIIコンピュータの中に、蛾が入り込んでいるのを見つけたことだ。

 学校教師にわずかな、あるいは生半可な統計の知識を与えることは、赤ん坊の手にカミソリを握らせるようなものだ。カーター・アレクサンダー

デレク・ジーターは、ニューヨーク・ヤンキースでの打撃の成績から「キャプテン・クラッチ」の異名を取る選手だが、統計学者のこうした意見(クラッチヒッターは統計的に観察されない・存在しない)に敢然と異議を唱えた。・・・そんな統計野郎どもは、窓から放り出してやれ・・・しかし残念ながら、ジーターの成績そのものが、ジェームズの結論を支持していた。

オランダの3人の教授、G・リッダー、J・S・クラーマー、P・ホプスターケンは、1994年、「米国統計学会誌」に「10人に減らす:サッカーにおけるレッドカードの影響の評価」

Estimating the Effect of the Red Card in Soccer: When to Commit an Offense in Exchange for Preventing a Goal Opportunity : Journal of Quantitative Analysis in Sports

2つのチームの力が互角なら、そして攻撃側がほぼ確実に得点する状況では、90分の試合で16分以降はいつでも、防御側は違反するだけの価値がある。得点確率が60%の場合なら、攻撃者を潰すのは、48分以降にすべきである。 得点確率が30%しか無いなら、守りの選手が汚い手を使うのは71分経過してからにすべきだ。

リチャード・ファインマン・・・アーティストの友人「わたしはアーティストだから、この花の美しさが分かるけれど、君は科学者だから、やれやれ、これをバラバラに解体する。花をただの物体にしてしまうんだ」何をバカなことを言っているんだろう、とわたしは思う。まず第一に、彼に分かる美しさは、他の人達にも分かるし、わたしだって分かるつもりだ。彼ほど洗練された審美眼はないかもしれないけれど、わたしはその花を美しいと思う。そしてそれと同時にわたしは、彼がその目で見ている以上に、その花についてたくさんのことを見ている。花を構成している細胞がそこにあるのをイメージすることが出来るし、それら細胞の中で起こっている複雑な作用にも、ある種の美しさがある。わたしが言いたいのは、花は1センチメートルのスケールで見たときにだけ美しいのではないということだーもっと小さなスケールで見えてくる花の内部構造もまた、美しい。そこで起こっている反応も面白い・・・科学的知識は、新たに付け加えるものなのだ。・・・なぜ科学は減らすということになってしまうのか、わたしにはわからない。

ガウスがジェルマンに宛てた手紙・・・習慣と偏見とに従うなら、女性がこの苦難に満ちた研究に集中しようとすれば、男性よりも無限に多くの困難に遭遇しなければならないでしょう。それにもかかわらず、幾多の困難を克服し、その最も難解な領域に踏み入ることが出来たとすれば、その女性は、崇高な志と優れた天分を持っているに違いないのです。

ソフィ・ジェルマン - Wikipedia

 本日の観客数

  1. 8191
  2. 8128
  3. 8208
  4. No way to tell

 最初の8191は素数、それもメルセンヌ素数・・・2番めの数、8128は完全数として知られている数・・・デカルト完全数は完全な人間と同様、きわめて稀」・・・完全数メルセンヌ素数とは、同数存在することが証明されている・・・メルセンヌ素数は48個しか知られていないから、知られている完全数は全部で48個である。・・・8208は、ナルシシスト数・・・8208=8^4+2^4+0^4+8^4・・・自分自身に含まれる数字から、自分自身を生成するためである。・・・ナルシシスト数は有限個しか存在しないことがすでに証明されている。 


ジャンケンの研究から生まれた数学の中でも特に興味深いのが、「非推移的サイコロ」だろう。・・・ジャンケンのルールは、単純なトップダウン式のヒエラルキーではなく、普通とは違う巡回型のヒエラルキーに支配されている。

Problem 376 - PukiWiki

ウォール街の物理学者

ウォール街の物理学者

 

 バフェットは、非推移的な現象が大好きで、折に触れてサイコロゲームをしようと誘うことで知られている。彼は、何の説明もなく三種類の非推移的サイコロを相手に渡し、どうぞお先に好きなサイコロを一つ選んでくださいと言う。相手は先に選んだほうが有利だろうと考えて、どれか一つを選ぶ。そのほうが、最善のサイコロを選ぶ可能性が高いと思ってのことだ。しかしもちろん、「最善の」サイコロと言うものは存在せず、バフェットは熟慮の上、相手が選んだものより強いサイコロを選ぶ特権を手に入れるというわけだ。・・・バフェットはある時、マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツをこのサイコロゲームに誘った。ゲイツはすぐに、これは何が裏があるとにらんだ。しばらくサイコロを調べたゲイツは、どうぞあなたがお先に選んで下さい、とバフェットに言った。

yamanatan.hatenablog.com

物理学者はどうしていつもいつも、実験室や装置にあれほど金がいるんだ?数学部のようにやればいいではないか。数学者は、鉛筆と紙と屑籠がありさえすれば研究できるんだぞ。いっそ哲学者のようにやってみてはどうだね。彼らは鉛筆と紙しかいらないんだからな。 ・・・数学のような厳密性のない哲学への皮肉・・・数学においては、新たに提唱されたものすべてを、徹底的に検証することが可能だからだ。そうして検証された結果として、既存の知識の体系に組み入れられるか、クズ箱に放り込まれるかが決まる。

デーヴィッド・S・コーエン「わたしはパンケーキ数に関するこの論文を、指導教授で著名なコンピュータ科学者であるマヌエル・ブルムの指導のもとで書き、離散応用数学という専門誌に投稿した」・・・見てくれ、離散応用数学に論文が載ったよ。・・・ケン・キーラーは別だった。そうかい、わたしは2ヶ月ほど前に、その雑誌に論文が載ったよ。・・・ザ・シンプソンズの脚本を書くようになってみたら、離散応用数学に論文が載った唯一の脚本家にもなれないとはね。

科学雑誌『ネイチャー』は「PTAが解散する」でのホーマーのセリフを賞賛した。永久機関を作ろうとする娘に向かって・・・「リサ、熱力学の法則に従うのが、我が家のルールだぞ!」

 アメリカの数学者エドワード・カスナーが・・・10^100と言うか図に名前があればいいのだが、と言った。すると9歳のミルトンが、グーゴルという名前はどうかといったのだ。・・・グーゴルプレックス・・・10^googol・・・ページとブリンが、よくある綴間違いの方を好んだため、そのサーチエンジンは、Googolではなく、Googleになっている。

スタンフォード大学の名誉教授で、コンピュータ科学の世界では神の如き存在であるドナルド・クヌースは、eの熱烈な愛好家である。クヌースは、フォント作成プログラムMetafontを作ったのち、アップデートを公開する際に、eに関係するバージョン・ナンバーを使うことにした。最初のバージョンはMetafont2, Metafont2.7, Metafont2.71........

 スーパーギークなグーグルの経営陣も、eの大ファンだ。彼らは2004年に自社株を売った時、2718281828ドルを調達する計画だと発言した。

 仮に天文学者たちが、観測可能な宇宙の直径を正確に測定しているとして、πの値が小数点以下38位までわかっていれば、宇宙の周の長さを水素原子1個のサイズの精度で弾き出すことが出来るのだ。

Utah teapot - Wikipedia

P=NPは、異なる性質を持つ2つの問題についての命題である。 一方のPはPolynomial(多項式)の頭文字。他方のNPは、Nondeterministic Polynomial(非決定性多項式)の頭文字である。大雑把に言うと、Pタイプの問題を解くのは簡単なのに対し、NPタイプの問題は、解くのは難しいけれどチェックするのは簡単だ。・・・428783を因数分解するのはNPタイプの問題、521と823という2つの因数を使って、521*823=428783が正しいかどうかをチェックするのは簡単・・・根本的な問いは、因数分解は本質的に難しいのか、それとも簡単な問題にするテクニックを見逃しているだけなのか、ということだ。それと同じことが、NPタイプの問題とみられる多くの問題についても言える。・・・NPタイプの問題を解くのは非常に難しいという仮定の上に、いくつか重要なテクノロジーが開発されているからだ。・・・暗号化アルゴリズム・・・

ミレニアム懸賞問題 - Wikipedia

 P≠NPとナビエ-ストークス方程式については、肯定的・否定的のいずれの解決に対しても賞金が与えられる

 ウィリアム・ガサーチが、2002年に、百人の研究者を対象に意見調査を行ったところ、P=NPだと考えるものはわずか9%にすぎず、・・・2010年にも・・・81%がP≠NP支持だった。

 ニンバス

Nimbus - Wikipedia

Arts and entertainment

  • Halo (religious iconography), also known as nimbus, a ring of light surrounding a person in a piece of art
  • Nimbus (literary magazine), published in London (1951–58)
  • Nimbus 2000, a flying broom from the Harry Potter series
  • Nimbus, a spaceship captained by Zapp Brannigan in the animated series Futurama
  • Nimbus III, a planet in the movie Star Trek V: The Final Frontier
  • Flying Nimbus, a magical cloud given to Goku by Master Roshi in the series Dragon Ball

 ニンバスの船体に書かれた数字・・・BP-1729・・・ゴドフリー・ハロルド・ハーディとスリニヴァーサ・ラマヌジャンとの間で交わされた会話・・・わたしが乗ったタクシーの番号が、1729だった。・・・いやいや、それはとても興味深い数ですよ。2通りの異なる方法で、2つの3乗の和として表される最小の数なのですから。・・・1729=1^3+12^3=9^3+10^3

フューチュラマの2Dブラックトップは・・・フラットランドへのオマージュなのである。

 テニュア起因性の知能停滞・・・デネットは、解明される意識の中で・・・・若いホヤは、岩や珊瑚の塊を探して海に乗り出していく良い場所を見つけると、そこにしがみついて一生の棲家にする。棲家探しをするために、若いホヤは神経の萌芽のようなものを持っている。一旦良い場所を見つけてそこに根を張れば、そんなものはいらなくなるので、なんと、ホヤは自分の頭脳を食べてしまうのだ!(一生の棲家を見つけるのは、終身在職権を得るのとよく似ている) 

解明される意識

解明される意識

 

 集団がどれほど大きくても、どれだけ複雑なマインド交換を行ったとしても、新しい人物を2人導入するだけで、すべての絡み合いを解くことが出来るのである。。。。フューチュラマの定理、あるいはキーラーの定理として知られるようになった。

Futurama theorem - The Infosphere, the Futurama Wiki

わたしはほんのイタズラのつもりで、スイート・クライドがファーンズワース教授を相手に、定理の詳細を説明するシーンを3ページほども書いたんだ。何人かの脚本家は、見るからにうんざりした顔で、どうにかそれを読み通したよ。そして4ページ目に入ったところで、ようやく本物の原稿が始まるというわけだ。・・・キーラーは、ただシットコムを面白くするという目的のために、全く新しい数学の定理を生み出した、テレビ史上初めての脚本家という栄誉に値するだろう。

我々の身に起こることは全て、何らかの影響を残すものだろう。大学院で過ごした期間は、自分がより良い脚本家になるために役立っていると思うんだ。全く後悔はしていないね。ベンダーのシリアルナンバーを、数学史上の重要な数である1729にできただけでも、博士号を取った甲斐はあると思えるんだ。博士論文の指導教授がどう思うかは知らないけどね。

数学者たちの楽園: 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

数学者たちの楽園: 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

 

 

このアニメにたくさんの「数学」が含まれていることに気づいたのは、十年ほども見続けた後のことでした。ある回(シーズン10/エピソード2 日本語版DVD『発明は反省のパパ』)に「フェルマーの最終定理」が出てきたのです。それで、ほかの回も注意して見たら、なんと、この作品、実は数学だらけだったんです。

まずデーヴィッド・S・コーエンに電話をかけてみました。その回の責任脚本家として彼の名前がクレジットされていたからです。そうしたら、コーエンはコンピュータ科学の修士号を持っていて、数学の論文も書いていたというじゃありませんか。そして彼は、『ザ・シンプソンズ』の脚本家チームには、強力な数学のバックグラウンドを持つ人がたくさんいるのだと教えてくれました。学士号、修士号、博士号、いろいろです。その内の一人、ジェフ・ウエストブルックにいたっては、コメディー脚本家になる前は、イェール大学の教授でした。

ハーバード大卒で数学の学士を持つアル・ジーンは本書が気に入って、お母さん用に一冊買ったと言ってくれましたし、先に話したデーヴィッド・S・コーエンは、こう書いてくれました。「サイモン・シンの好著、アニメの視聴者にひそかに数学を吹き込もうという、数十年来の陰謀を暴く」とね。


いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

 大規模なマーケティング実験で、一部の顧客には有効期限付きのクーポンを送り、他の顧客には同じような期限なしのクーポンを送った。すると、期限のないクーポンのほうが使える期間は長かったにも関わらず、使われる確率は低かった。・・・データ入力の作業員は給料日が近づくにつれて精を出すようになることがわかった。・・・「イギリス人の頭脳は土壇場で一番よく働く」・・・締切が有効なのは、まさに欠乏を作り出し、注意を集中させるからだ。・・・会議が終わろうとしているときに関係のない話に時間を費やさないし、卒業の直前には大学を最大限に活用することに集中する。仕事でも楽しみでも、時間があまりないときのほうが得るものは大きいのだ。私達はこれを「集中ボーナス」と呼ぶ。欠乏による心の占拠が生むプラスの成果だ。

欠乏は潜在意識レベルでも、人がもっと意識的に行動するときにも、心を占拠することがよく分かる。心理学者のダニエル・カーネマンなら言うだろう。早い思考でも遅い思考でも欠乏は心を占拠する、と。

消防士の死因として、心臓発作の次に交通事故が多いとする推定もある。1984年から2000年まで、自動車の衝突は消防士の死亡者数の20~25%を占めている。そのうち79%で、消防士はシートベルトを着用していなかった。確実なことはわからないが、ただシートベルトを締めることで、その生命の多くが助かったと言ってもおかしくない。消防士はこの統計を知っている。・・・家族にシートベルトをするように言わない消防士もいないと思う・・・なぜ、消防士は消防車から投げ出されて命を落とすのか?・・・集中する力は物事をシャットアウトする力でもある。欠乏は「集中」を生むと言う代わりに、欠乏は「トンネリング」を引き起こすということも出来る。つまり、目先の欠乏に対処することだけに、ひたすら集中するのだ。・・・スーザン・ソンタグ「写真を撮るというのはフレームに入れるということで、フレームに入れるということは締め出すということだ」

ある研究で被験者は、個人的な目標として獲得したいと思う特性を表現する語(たとえば人気や成功)を、書き出すように指示された。半数は自分にとって重要な目標を挙げるように言われ、残りの半数はなんでもいいから目標を挙げるように言われた。その後両グループとも・・・できるだけたくさん目標を挙げるように言われた。すると、重要な目標から始め人たちのほうが、列挙された目標が30%少なかった。・・・重要な目標が活性化されたことで、競合する目標が締め出されたのだ。

処理能力への負荷は、ダイエットが単に難しいだけではないことを示唆している。ダイエット中の人は何をしているときも、心の何処かが食べ物に占領されているので、心的資源が減っていると感じるはずだ。・・・様々な認知テストのすべてで、人はダイエット中だと成績が悪い。・・・ダイエット中の人達の心の一番上にはダイエットに関係する関心事があって、知力を邪魔している。

バックグラウンドで開いているプログラムのせいで、動きが遅くなったコンピュータのたとえを思い出してほしい。あなたはそのコンピュータに向かっていて、他のプログラムに気づいていないとしよう。ブラウザがノロノロとページを開くので、あなたは間違った結論を出すかもしれない。他のタスクで手一杯のプロセッサを、そもそも遅いものと勘違いし、なんて遅いコンピュータだと思うかもしれない。同じように、欠乏による負荷をかけられた頭脳は、元々無能な頭脳と勘違いされやすい。・・・私たちは、貧しい人たちの処理能力が劣っているのではないと、断固として言いたい。全く逆だ。誰しも貧しくなると、有効な処理能力が落ちるのだと言いたい。・・・人は自分の持っているもの(時間、お金、摂取できるカロリーなど)がごくわずかしか無いと考えるとき、欠乏の物理的な意味に重点を置く。・・・負荷をかけられると、少ない心的資源でなんとかやっていかなくてはならない。人は欠乏のせいで莫大な借金を抱えたり、投資しそこねたりするだけではない。生活の他の面でもハンディキャップを負うことになる。まぬけになる。衝動的になる。使える処理能力が減り、少ない流動性知能と実行制御力で、なんとかやっていかなくてはならない―生きるのはさらに大変になる。

ミツバチはぴったり120度の角度で接する壁を作り、見た目完璧な六角形が出来上がる。壁の厚みは0.1ミリ未満、狂いはプラスマイナスわずか0.002ミリ。これは許容誤差2%であり、建築基準として悪くない。ちなみに、米国標準技術局は建築用加工合版の幅に10%の誤差を許容している。ミツバチと同様、ドロバチモスを作るが、こちらはドロで作る。・・巣房はほぼ円筒形だが適当にくっつけられていてミツバチの巣のような精密さは微塵もない。なぜ、ミツバチはそんな精密な構造物を作り、ドロバチはそんな乱雑なものを作るのか?答えは欠乏だ。ドロバチが使う材料は豊富なもの、すなわちドロである。ミツバチが使う材料は乏しいもの、すなわちロウである。

 

3章まで読んだ。4章からはまた時間があるときに。

 

 

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学