なぜ在宅勤務を喜んでいる場合ではないのか

  • 理由の一つは、会社の業務を代替するアウトソーシング(外部委託)が非常に充実してきたことだ。アメリカのオーデスクや日本のクラウドワークスのようなクラウドソーシング企業を活用すれば、必要とする業務や職務に適った人材を世界中からマッチングすることができる。

  • アメリカ企業はシステム開発のほとんどを、インドをはじめベラルーシウクライナ、フィリピンなどの安価で優秀なプログラマーに委託しているし、研究開発職さえ、ナインシグマなど技術者のプラットフォームを経由してアウトソーシングしている。日本でも、リモートワーク専任の人材派遣業を営むキャスター(中川祥太社長)などの会社を活用する企業が増えてきている。

  • 自社に社員を抱え込んで、人事異動を頻繁にやりながら、5年、10年かけて、自社にだけ精通した会社員を養成していくよりも、その分野のエキスパートを一定期間派遣してもらったほうが合理的であることに、多くの日本企業が気づきはじめたのだ。技術の発達によって外部に業務委託をしても何ら矛盾や支障が生じないほど仕事が平準化され、アウトソーシングを厭わない職場環境になっている。
  • 「ズーム」などのオンライン会議システムの活用が進んでいるが、社員にフルタイムで在宅勤務をさせるくらいなら、もっと能力のあるエキスパートに時間単位で業務を委託したほうがずっと仕事のパフォーマンスは高くなる。テレワークに加えて、AI(人工知能)やRPA(ソフトウェア型ロボットによる業務の自動化)が普及し始めているので、今後は正社員の採用を減らしてアウトソーシングを進める企業が増加していくに違いない。
  • 会社に出社しなくてもできる仕事というのは、大抵は能力とスキルのある人なら誰でもできる仕事だということだからだ。テレワークが普及すればするほど、「誰にも負けないスキルがないか」「実績を残しているのか」といった点がますます求められるのだ。

  • 新卒採用の場面でも、「自分はこれができます」という売り込みがさらに必要になってくる。しかし、日本の大学はすぐに使える実用的な知識とスキルを教えていないので、大卒人材は「使えない人材」だと評価され、採用を見送られ始めるだろう。もっと言えば、大卒よりも、高専や専門学校で使えるスキルを身につけた人のほうが、企業から声がかかりやすくなっていくだろう。

  • マッキンゼー人材がなぜここまで伸びるのかといえば、「新卒採用の場合は32歳、中途採用の場合は35歳までに社長になれないやつはダメだ」と言って、ガンガン鍛えたからだ。日本の大企業とは違って、1年目から経営的な視点を持つようにさせ、徹底的に仕事を任せた。
  • 「日本人はアメリカ人や中国人のようにうまくビジネスができない」という意見もあるが、そんなことはない。単に年功序列などの日本特有の人事システムが、日本企業の経営力の低迷を引き起こしているにすぎない。入社して10年以上見習いみたいな仕事をさせれば、そういう染色体を持った人間が生き残ってしまうのだ。大卒の約3割は3年以内に退職してしまうという統計もあるくらいだ。
  • とはいえ、今のマッキンゼーは様変わりしてしまっている。他のコンサルティングファームもそうだが、クライアント企業が優秀な人材を採用できないからと、コンサルティングファームが頭脳人材の集団派遣をしているというのが実態だ。企画部隊に企画をさせ、企画部隊とは違った実行部隊が実行の面倒を見るというような、いわば「高級人材一時貸し出し会社」のようになってしまった。
  • 最近で言えば「新入社員に社長をやらせる」仕組みがある、藤田晋氏が創業したサイバーエージェントもユニークだ。1年目から社長になれば、戦略だけでなく人事の問題、財務の問題など、経営に必要な幅広いノウハウが実践的に身についていく。

  • 日本の伝統的な企業では、若手・中堅社員は上司の資料づくりばかりで、経営に初めて触れるのは入社してから20~30年後。そんなトップが経営する日本企業の業績が伸び悩んでいるのは至極当然だろう。

  • 日本企業は人事制度を抜本的に見直し、優秀な人材を世界中からサイバー採用したり、加速インキュベート(育成)したりするシステムの構築を、果敢に実行に移していかなければならない。

 

 

gentosha-go.com