なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?

  • 91歳で生涯を閉じたピカソが、手元に遺した作品は7万点を数えた。それに、数カ所の住居や、複数のシャトー、莫大な現金等々を加えると、ピカソの遺産の評価額は、日本円にして約7500億円にのぼったという。美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家、つまり「儲かった」 画家はいない。

では、両者の命運を分けたのはなんだったのか?

  • それは、ピカソのほうが「お金とは何か?」に興味を持ち、深く理解していた、という点ではなかったか。というのも、ピカソがお金の本質を見抜く類まれなセンスを持っていたことがうかがえる逸話が、数多く残されているのである。

ピカソの絵はなぜ高いのか?

  • 特に、自分の絵を販売することに関しては天才的で、ピカソは新しい絵を描き上げると、なじみの画商を数十人呼んで展覧会を開き、作品を描いた背景や意図を細かく説いたという。
  • 絵が素晴らしいのは前提だ。だが人は、作品という「モノ」にお金を払うのではない。その「物語」を買うのだ、と彼は知っていた。そして、たくさんの画商が集まれば、自然に競争原理が働き、作品の値段も吊り上がる。ピカソは、自分の作品の価値を価格に変える方法"、今でいえば〝マネタイズ"の方法をよく知っていたのだと思う。

なぜピカソは小切手を使ったのか?

  • 生前のピカソは、日常生活の少額の支払いであっても、好んで小切手を使ったという。
  • なぜか? 実は、次のようなカラクリがあったのだ。
  • まずピカソは、当時から有名であった。その彼が買い物の際に小切手を使えば、それをもらった商店主は、小切手をどのように扱うだろうか? ピカソは次のように考えた。商店主は、小切手を銀行に持ち込んで現金に換えてしまうよりも、ピカソの直筆サイン入りの作品として部屋に飾るなり、大事にタンスにしまっておくだろう。そうなれば、小切手は換金されないため、ピカソは現金を支払うことなく、実質的にタダで買い物を済ませることができる。
  • ピカソは、自分の名声をいかに上げるか、のみならず、それをどうやって、より多くのお金に換えるか、という点についても熟知していたのだろう。これは現代の金融でいえば、信用創造、"キャピタライズ"の考え方である。

ピカソはなぜ、ワインのラベルをタダで描いたのか?

  • シャトー=ムートン=ロートシルトというフランス・ボルドー地方にある有名シャトーのワインがある。この1本5万円は下らない高級ワインの1973年モノのラベルは、ピカソがデザインしている。そして、その対価は、お金ではなくワインで支払われた。ピカソの描いたラベルの評判が高ければ高いほど、ワインの価値は高まり、高値がつく。ピカソがそのワインをもらえば、自分で飲むにしろ売るにしろ、価値が高いほうがいいに決まっている。双方に利益のある話である。
  • ちなみに、シャトー名のロートシルトは、英語の発音では、ロスチャイルド。言わずと知れたユダヤ金融の頂点に君臨する一族である。ピカソに限らず、その年ごとに異なる有名アーティストにラベルをデザインしてもらうアイデアを思いついたシャトーのオーナー、フィリップ・ド・ロッチルド男爵(ロッチルドは、ロスチャイルドのフランス語読み)もまた、お金の本質を知っていた。
  • 彼らは解っていたのだ。信頼関係の土台があれば、お金を介さなくても双方の価値を交換することが可能である。むしろ、お金という数値では表現しきれない生の価値を伝えることができる。経済は必ずしもお金という媒介を必要とはしない。お金の達人は、究極的には、お金を使う必要がないのだ。

 

  • 「世の中には、2通りの生き方がある。ひとつはリスクを取る生き方、もうひとつは、人に従う生き方だ。私はリスクを取る生き方をしてきた」といきなり話し始めた。僕は黙って彼の話を聞いていた。
  • 彼はさらに、僕に2つのことを教えてくれた。
  • ひとつは、レバレッジをかけることだ。
  • 僕がいたM&Aの業界では、お金とは再投資するものだった。集めたお金を流し、さらに大きなお金とするのだ。「レバレッジ」という言葉は知っている人も多いだろう。
  • 「ビジネスには、2つのレバレッジがある。 OPTとOPMだ。OPTとは、Other People's Time (人を動かす)、OPMとは、 Other People's Money (人のお金を動かす)のことだ」。
  • OPTについて、「最終的な勝者は、人を動かす者だ。すべてのビジネススキルの中で、組織力学・行動心理学こそ学ぶ価値がある」と彼は言った。
  • 実際、OPMについて、彼は多くを実践していた。若いころ投資銀行で働いていたというだけあって、事業を立ち上げるときの大がかりなファイナンス方法について熟知していた。

 

  • 本書の冒頭で登場したピカソには、次のような逸話もある。
  • あるレストランにピカソが訪れた時、ウェイターの一人がこうピカソに言った。「このナプキンに何か絵を描いてもらえませんか? もちろん、お礼はします」と。
    ピカソは、これに答え、30秒ほどで、小さな絵を描いた。
  • そして、にっこりと笑って「料金は、100万円になります」と言った。
  • ウェイターは驚いて、「わずか30秒で描かれた絵が100万円ですか?」と聞いた。
    それに対して、ピカソはこう答えたという。
  • 「いいえ、この絵は30秒で描かれたものではありません。40年と30秒かけて描いたものです。」
  • ピカソは当時、40歳だった。もちろん冗談のつもりで、ウェイターをからかったのだろうが、ピカソの意図するところはこうだろう。
  • ひとつの物事が結実して目に見える価値になるには、才能と、長い歳月の努力とコミットメントの結果である。だから、目に見える結果だけを評価してはならない。それが生まれ出る原因に、目を向けなければならない。
  • ピカソは、そうウェイターを諭したのではないか?
  • お金とは、常に結果である。それは長い期間における価値の創造の結果でしかない。僕たちが目を向けるべきは、原因たる価値なのである。