好き嫌いー行動科学最大の謎ー

好き嫌い―行動科学最大の謎―

好き嫌い―行動科学最大の謎―

 
  • 人間のよろこびは、みな砂糖からくるんではないかと思うんですよ。砂糖は原型的なもの、ある決まったレセプターを刺激する化合物は砂糖だけなんです
  • 口に入れる食べ物は完全に制御したいと思うものだ。ねばねばぬるぬるした食べものや、入っているはずのない塊や硬い粒が混ざった食べものは、むせたり喉に詰まったりするのがいやできらわれる。
  • 人がものを好きだきらいだというときの理由はまったくいいかげんだよ。無理に理由をつけているんだ。
  • 好みは学習するものなのだ。この自明の理は文化全体から個人にまであてはまる。接触効果は生まれる前からはじまっている。・・・においと味はいつも私達のまわりにある。羊水という環境中では、それが私たちの最初の食事体験だ。熟練の官能評価パネリストは、羊水のにおいだけでどの女性がニンニクのサプリメントをのんでいるかまで分かる。・・・1930年台の有名な研究では、乳幼児の好みは誰が食事を与えているかで決まるようだった。「トマトジュースを飲もうとしない赤ん坊は、トマトジュースが嫌いな大人に食事を与えられていることがわかった」
  • ネットフリックスは好みの予測に関して頭打ちに、つまり、いわゆる終端速度に達しつつあった。「アルゴリズムの世界ではよくあるんですがね、そういう状態によく似てきたんですよ。90%の精度を達成するには時間の20%を使いますが、あとの10%に残りの80%の時間がとられるのです」。・・・制限ボルツマンマシンやらランダムフォレストやら潜在的ディリクレ配分法ですでに目いっぱいなレコメンドシステムがさらに複雑になるーそれに見合う成果が果たして得られるのかどうかはまったく見通せなかったのだ。
  • レビューはどれもーいいねもお気に入りもー基本的に役に立たない。経済学者のレイ・フィスマン(Raymond Fisman)が無意味な言葉(チープトーク)とよんだ問題があるからだ。
  • コーネル大学の研究者チームは、90%に近い精度でレビューが本物かにせものかを識別できる機械学習システムを考案した。・・・人間は真実バイアスがかかりやすいからである。私たちは相手が嘘をついているわけはないと思いたがる傾向にあるのだ。
  • フランスの社会学ピエール・ブルデューは次のように主張している。「趣味(例えば明示された選好)とは、他者との間に避けられない違いがあることを実質的に肯定するものである。自らの趣味が正当であることを示したいときに、他者の趣味を拒絶して主張が完全に否定的になるのは偶然ではない」
  • 「趣味はその人の社会や文化に対する考え方を否応なくさらけ出してしまう」と評論家のスティーブン・ベイリーは述べている。「セックスやお金以上にタブーとされる話題だ」

第4章

  • クレメント・グリーンバーグ「芸術は、第一に、そして何よりも、好きか好きでないかの問題であるーただそれだけだ」
  • 来館者が見る時間を分析したところ、一枚の絵画に費やす時間の中央値は17秒であることがわかった。
  • イェール大学の心理学教授エドワード・S・ロビンソンによる1928年の研究では、「大規模な展覧会で一人の来館者が一枚の絵を見る確率は平均で約5%であるのに対し、正気の場優れた展覧会での同じ確率は約33%である」
  • 美術評論家のスティーブン・ビットグッドによれば、私たちの美術館での行動はすべて効用を最大にしたいという気持ちで決められているという。
  • 絵を展示室の中央から端に移すと、実験期間中に来館者がその絵を「訪れる」回数が207から17に激減した。人は壁に貼られた長い解説を読みたがらないこともわかっている。・・・ビデオ上映も、立ち止まって見る人は少ない・・・近くに「手軽に見られる」ものがいくらでもある場合は、ビデオは人気がない。
  • 目の動きを追う装置で測定すると、視線の大半は絵の中心部に集まっているのがわかる。画家は中心視の視野が非常に狭いことを知っていて、重要なものを作品の中心に置くようです
  • 最初の50ミリ秒で私たちが認識する重要なことの1つは、それが好きかどうかだ。ドイツの心理学者ハンス・アイゼンクは、「絵画の美的価値の評価は、絵そのものを知覚するのと同時に起こっているのかもしれない」
  • 展示室にいる人々を観察すると、時間を書けてみようと思わない絵を非常に素早く判断していますよ
  • 好きになるには、まずそれについて知らなければならない
  • ほとんどの意思決定について言えば、実際にあったと立証するのが極めて困難なほどの認識プロセスしか、それに先行して実行されていない
  • ウサギはヘビの牙の長さや模様の配置について立ち止まって考えてなどいられない
  • 独創的な芸術は、どれもこれも最初は醜悪に見える。・・・芸術作品に関しては、あまり性急に結論をだすべきでないと思う
  • 鑑賞時間は「それにどれくらい興味を持っているかを示すよい基準になる」
  • 哲学者のルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、とくに「すばらしい」という言葉にうんざりしーもちろん自分の考えを適切に表現できない人はたくさんいて、この言葉をやたらに使う
  • 哲学者のアラン・ド・ボトンは「非常に有名で人気のある絵について考える時でさえ、私たちはなぜそれが好きかという根本の問いの前に押し黙ってしまいがちだ」
  • こうして芸術に対する葛藤が生まれる。この作品が好きだ(好きになるべきだ)と確信できないし、なぜ好きなのかを説明することもできないからだ。・・・多くの人が評論家に対して分けもなく反感を抱く理由は、これを好きになれと支持されるのがいやだからというのもあるだろうが、それよりもなぜ好きなのかを彼らが雄弁に語れるのが面白くないからではないだろうか。
  • 人間はフラクタル図形が好きでたまらないらしい。これは図形の一部を拡大していくと全体の形によく似た形が繰り返し現れる幾何学図形のことで、自然界では雪の結晶や樹木の枝に見られる。画家のジャクソン・ポロックの絵を分析したところ、彼の有名な抽象表現主義の作品にはフラクタル図形が隠れていた。だが、発表当時は悪評を浴びたことを考えると、フラクタル図形だけではポロックの芸術家としての成功は説明できない。
  • 物理学者のリチャード・テイラー・・・フラクタル図形が見る人に好ましい印象を与えるのは、複雑さの指標であるフラクタル次元の数値が一定の範囲内にある場合にかぎられるが、ポロックが技法を極めた晩年に描いた最も有名な絵は、その範囲からはずれているというのである。

Perceptual and Physiological Responses to Jackson Pollock's Fractals

  • カントの1970年の著作「判断力批判」は、長い間美をどう捉えるかの規範とされてきた。カントはここで美を判断するときの態度として妥協のない理想像を述べている。それは「無関心」でなければならないということだ。これは関心がないという意味ではなく、思考の対象に個人の感情的な関心や欲求を抱いてはならないということである。あるものが美しいかどうかを判断するためには、あなたは「ただ観察」しなければならない。あるものが美しいと言うためには、それが「自由美」である必要がある。自由人は、あらゆる概念やレッテル、目的、先入観に縛られない美だ。
  • ほとんどの人がだめだと思う作品をどうすれば確実に見分けられるだろうか。多くの学者がバッドアート美術館(MOBA)に出かけることでこの問題を解決している。十数年前にボストン近郊に設立されたこの美術館は、「だめすぎて目が離せない」をモットーに、文化のガラクタを蒐集している。・・・誰が描いたにせよ、テクニックはなかなかある。だけど見た人が頭をかきむしって、「作者は一体何を考えているんだ?」と言いたくなるような絵ですね。 

museumofbadart.org