10万円以上20万円以下腕時計

はじめに

後輩の頼みで3月に(戯れに)書いた5万円以下腕時計、さらにその記事を見た友達から依頼されて5月に書いた10万円以下腕時計の2つの記事がおかげさまで好評いただいており、私のブログはめでたく雑記ブログから腕時計ブログへと変貌を遂げました(アクセス数上は)。一般人向けの記事なので、10万円以下で打ち止めにしようと思っていた(コスパ的には10万円以下が最強)のですが、続き書かないの?と知り合いからよく聞かれるので、運悪く(よく?)風邪をひいたタイミングで書いてみることにします。基本的な方針はこれまでと同様、コスパに優れていて、シンプルで使いやすい腕時計ですが、少し遊んだものも選んでいます。

時計の分類

いつも通りですが、時計は駆動方式に応じてクオーツ、機械式(手巻き、自動巻き)に分かれています。時計ヲタや世界の富豪が好む○○○万円の時計はすべて機械式ですが、時計の精度ではクオーツの進化系である電波ソーラーや、さらにその上位進化系であるGPS電波ソーラーの方が上です(時刻を自動修正するので)。クオーツと機械式のどちらを選ぶかは、実用性やコスパを重視するのか、時計の機構を楽しむ「遊び」も欲しいのか、で決めればいいと思います。

クオーツ部門

クオーツ時計というのは、そもそも機械式に比べると圧倒的に単純な機構で高い精度を実現できるコストパフォーマンスに優れた時計なので、5万円も出せば実用上は十分すぎる性能のクオーツ時計が手に入ります。そこに付加価値をつけようということで生まれたのが、

  1. 電池交換不要の「ソーラー」
  2. 正確性を極限まで高めるための「電波による修正」
  3. 衛星電波を利用することで、電波を受け取れるエリアを極限まで広げた「GPS電波による修正」

の3要素です。10万円以下では流石にGPS電波ソーラーは射程圏外だったので、ここを狙っていくのが、この価格帯では王道の戦略になります。また、無印クオーツとしては最高峰のグランドセイコーも射程圏内になります。

SEIKO

 まずは鉄板のグランドセイコー(GS)からSBGX261、無印クオーツでは最高レベルの9F62という機械(キャリバー)を積んでいます。ステンレスの磨き、サファイアガラスの透明感とコーティングによる視認性、均整の取れたシンプルなデザインとまったく隙がありません。ビジネス用途で機械にこだわりがなければ、一押しです。

 前にも書きましたが、SEIKOのソーラー電波時計ブランドであるASTRONは全体的にアグレッシブなデザイン(非フォーマル)が多く、基本的には高級カジュアルラインという位置づけです。GPS電波ソーラーのExecutive Lineは比較的デザインは大人し目でつけやすいと思いますが、ケース直径が46.1 mmで存在感あるというより、やや大きすぎるきらいがありますが、各社ともチタンを使っているので、重さはあまり感じません。この軽さは実用上の強みである一方、機械式時計ユーザーからは安っぽさを感じる要素になります。

CASIO

CASIOに高級無印クオーツは存在しません。買うなら高級電波ソーラーの雄ことオシアナスになります。オシアナスは高級ラインになるほど、オシアナスブルーが強調されて派手になっていくので、G1100TがGPS電波ソーラーの中では一番(というか唯一の)大人しいデザインになると思います。定価こそ20万円オーバーですが、実勢価格はかなり落ちているので、コストパフォーマンスに優れています。オシアナスは耐磁性でSEIKOのアストロンCITIZENのATTESAに劣ると言われていますが、よほど変な使い方をしない限り、問題はありません。ASTRONと同じく、ケース直径が46.1mmでやや大きく感じますが、付けている分にはそこまで気になりません。

派手でもよければG1100TGも有力候補です。個人的な感想ですが、実物はブルーのベゼルがかなりキラキラしてしまうので、やや付けにく印象があります。眺めている分には綺麗です。

CITIZEN 

ブランディングに失敗したせいなのか、あまり一般知名度は高くないですが、シチズンにはグランドシチズンとでも言うべき高級ラインであるTHE CITIZEN(ザ・シチズン)が存在します。GSよりもさらにシンプルなデザインで、仕上げも悪くないので、試着できる環境の人は、候補に入れるべきです。機能的にはGSにない永久カレンダーを搭載しており、質実剛健の四字熟語が当てはまる一本です。知名度が低い割に実勢価格が強気なのは判断が分かれそうなポイントです。

こちらはエコドライブ版のザ・シチズン、下記のATTESAに比べておとなしいデザインです。フォーマルなデザインで電波ソーラーの時計が欲しいなら、エコドライブ版のザ・シチズンを選ぶのが正解ではないかと思います。

スーパーチタニウム版もありますが、貫禄の30万円オーバーなので、今回は射程圏外ですね。

とはいえ、やはりCITIZEN主力はエコドライブの主力ブランドATTESAです。ASTRONと同じくフォーマルよりは高級カジュアルラインを志向しているのでアグレッシブなデザインになります。CC4000-59Eが一番大人しいデザインで、他社に比べるとケース直径が44mmとやや小ぶりなのが素敵なポイントです。

ブラックチタンモデルはかなり格好いいです。個人的な意見ですが、ROLEXのデイトナっぽいデザインGPS)電波ソーラーが欲しいなら、CITIZENのATTESAを選ぶのが一番近いように思います(結構よく聞かれるので追記)。

まとめ

フォーマルならグランドセイコーのクオーツかザ・シチズン、カジュアルならGPS電波ソーラーの中から好きなデザインを選ぼうという感じでしょうか。

機械式(自動巻き)部門

予算を20万円にすることで一番恩恵を受けるのがこの部門でしょう。5万円以内ならSEIKO一択、10万円以内ならSEIKOとORIENTでしたが、20万円まで予算を増やせば、ようやく様々な海外ブランドも射程圏内に入ってきます。

SEIKO

前回も紹介しましたが、20万円以下ベストバイのひとつはSARX055です。予算を20万円に増やしたところで、GSのメカニカル(機械式)には手が届きません。そこでBaby GSとして名高いこのモデルの出番になるわけです。

SEIKOは2018年、新しく6L35という機械を開発して、その第一弾として限定1881本でSARA015という時計を発売しました。ここで採用されているデザインも、SARX055をベースにしていることから、このデザインの完成度がいかに高いかを実感できるとともに、「今後は中の機械を替えていくから、バーゲンプライスでこのクラスの時計を買えるのは今だけだよ」というSEIKOのメッセージも感じるわけです(新型の6L35は薄型になった一方で、駆動時間(タイムリザーブ)が50時間から45時間と短くなった点・シースルーバックから見える機構の作り込みが大きく変わっていない点が不満です)。

こちらがSARA015、実勢価格で倍近いです。

少し変わり種として、琺瑯ダイヤルが美しいこちらのモデルもデザインがハマればおすすめです。

ORIENT

こちらも前回紹介したオリエントスターのメカニカルムーンフェイズです。20万円以内なら間違いなくベストバイの一本になります。ややデザインがごちゃごちゃしているなぁと感じる人は、廉価ラインを検討してください。

 

TAG HERUER

現在はLVMHグループ傘下、スイスの高級時計ブランドとして有名なタグホイヤーのエントリーライン、カレラのキャリバー5は一本目の高級時計として定番の一本です。タグホイヤーは戦略的に価格付けしているので、RolexやOmegaといったブランドに比べると、比較的コスパに優れた高級ブランドということができます。

国内定価は約30万円であるのに対して、並行輸入価格は20万円以下です。海外の高級時計を並行で買う際は、並行差別(国内定価で買わない場合、定期的なメンテナンス(オーバーホール)費用を高くするぞ、というもの)に気を付けてください(Rolex、Omegaが所属するスウォッチグループIWCを擁するリシュモングループのように、並行差別がないメーカーもあります)。長く使い続け、公式のオーバーホールに出し続ける場合は、割高な国内定価で買うほうが、長期的にお得になることがあります。ただ、キャリバー5について言えば、後述するように汎用ムーブメントが使われており、公式のオーバーホールに出す必要があまりないので、並行で買っていいと思います。

心臓部の機械には汎用ムーブメントであるETA2824のジェネリックであるSellita(セリタ)のSW200が使われています。時計ヲタ的にこの点は物足りなく、SW200を載せていてもっと安い時計があるのだから、コスパもいまいちという結論になりがちです(前回説明したエタポン)が、逆にSW200を載せていてもっと高い時計も存在するわけで、デザインが好きなら、買って後悔するほどコスパやクオリティが低いわけではありません。安定して売れ続けているので、少なくともベンチマークとしては知っておくべき時計と言えます。

Longines

時計界の良心として名高いロンジンです。かつては高級ラインも作っていましたが、現在はスウォッチグループの一員として、Omegaと棲み分けるため、比較的廉価なラインを担当しているブランドです(ロンジンと同格にラドー、その下にはティソやミドー、ハミルトンといったブランドがあります)。

ロンジンはブランド力が相対的に弱く、スウォッチグループ傘下で並行差別がないので、総合的に見てタグホイヤーよりも買いやすいです。

マスターコレクションのシンプルな3針モデルは、クラシカルな雰囲気。コスパに優れますが、やや決め手に欠けます。

そこでおすすめなのが、ロンジンらしい堅実さと(並行輸入価格を考慮した)コスパの良さが存分に発揮されたConquest Classicのムーンフェイズです。デザインがごちゃごちゃしていて使い手こそ選びますが、機能性の高さと素性の良さは魅力的です。

また、サンティミエにはムーンフェイズに加えて、時計機構の一つであるレトログラードが搭載されています。折角高いお金を払うので、人とは違うものを・ちょっと変わった機構が欲しい人にはおすすめです。逆行する針の動きは必見。

ロンジンは海外ブランドでは珍しく、クオーツにも力を入れています。

NOMOS

時計というとスイスが有名ですが、ドイツも負けていません。(前回紹介した)ユンハンスと並んで、バウハウス由来のミニマルデザインを採用しているだけでなく、自社オリジナルのムーブメントも設計することから、新興企業ながらそのデザインと技術力の高さが評価されているのがNOMOS(ノモス)です。

NOMOSは並行差別がありますが、そこまで価格差があるわけではないので、並行輸入で買っていいブランドです。TangentはNOMOSを代表するライン、美しいミニマルデザインと裏から見えるムーブメントの華麗さが素晴らしいです。自動巻きではなく手巻きである点は注意してください(手巻きなので、機構は鑑賞しやすいです)。

 Louis Erard

結局似たようなデザインばっかりだなぁと思ったあなた、海外ブランドはデザインの幅広さも魅力の一つです。ルイ・エラールは3針が独立に表示されるレギュレーターのモデルを廉価で提供してくれています。レギュレーターは技術的に難しく、この価格で見られるのは稀です(たとえばレギュレーターで有名なJAQUET DROZは200万円オーバーです)。時計としての精度はやや甘めですが、デザインの独自性や美しさには目を見張るものがあります。ムーブはETA(プゾー)7001がベースになっています。この7001はNOMOSやOmegaが使っていることでも有名なムーブです。

まとめ

前回も書きましたが、30万円以内であれば、日本メーカーがコスパで優位です。ただ、予算20万円であれば、NOMOSやLouis Erardなど、日本にない魅力的なデザインの時計を提供してくれるメーカーが射程圏内に入ってきますので、お気に入りの一本を探す楽しみが出てくると思います(裏から見えるムーブメントの仕上げの美しさにも注目です)。一般に、中価格帯(時計だとアンダー50万円くらいが目安)で海外有名ブランドの時計を国内定価で買おうとすると、(時計マニア的には)やや割高な時計を買わされる可能性がある点は注意してください(たとえば、記事内で紹介した高級時計最初の一本の定番、キャリバー5の国内定価は割高だと思います。)。

追記:なぜ時計マニア的に割高かというと、時計マニアは自社で作った自社ムーブメントのオリジナリティに価値を見出すからで、汎用ムーブは、たとえそれがいくら高性能であっても、オリジナリティがない=致命的な欠点になるからです。

おわりに

私はオーディオやインテリア・デザイン雑貨のブログも運営しているのですが、時計と同じく1. 比較的高級で2. 専門性が高いので敷居が高い趣味であり、3. 技術とデザインという二つの要素が商品の価値を構成しているため、「プロによる玄人のための記事(技術的な側面を重視する傾向)」と「アマチュアによる素人向けの質の低い小遣い稼ぎ記事(商品のスペックや見た目など、知識や経験がなくても分かることを適当に並べているだけ)」という両極端な記事はネット上に散見される一方、「プロによる素人向けの記事(技術を考慮した上で、満足できるデザインの時計をチョイス)」はほとんど存在しません。そこで始めたのがオーディオブログだったわけですが、腕時計の記事も、腕時計市場で似たような役割を果たしてくれたらいいなと思っています。

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