TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

ネルソンがつくりあげたものは、命令を単純に実行するのではなく、個人のイニシアチブと批判的思考を大切にする組織文化である。ニコルソンの説明によれば、「ネルソンは市場を作り上げたが、いったん市場が出来上がると、部下の積極性に任せた。こうして、配下の艦長たちは自分たちを戦争の企業家だと考えるようになった」

テイラー・・・銑鉄の扱いがもっとも上手い労働者は、その製造にまつわる科学的な内容を理解することが出来ない。・・・そんな労働者が成功するためには、より知的な人間によって、科学の法則に従って労働の習慣を身につけるよう教育されなくてはならない。

フレデリック・テイラー - Wikipedia

科学的管理法 - Wikipedia

ジェレミー・リフキン「テイラーはおそらく20世紀の人間の私的・公的な生活に対して、他のどんな人間よりも大きな影響を与えてきた」

予測不可能な状態はテクノロジーの進歩のせいで起きている・・・予想不可能な複雑さが、テイラー主義的な効率性に基づく組織にとっては妨げになるのである。この変化こそ、20世紀の尺度では「最高のマシン」だった特任部隊が失敗した原因であった。 

ローレンツ・・・目盛りには、すべての値について小数第六位まで記憶されていたのだが、ローレンツが入力に使ったプリントアウトの数列は、小数第三位までしか表示されていなかった。彼は、0.506127と0.506の違いは取るに足りないと考え、プリントしていた数字を丸めて入力していたのだが、それで問題が起きるとは全く予想していなかった。・・・バタフライ効果

複雑さと難解さは違う。・・・難解・・・突き詰めれば、一連のスッキリ整理された決定論的関係に分解できる。機会のある部分の動きや変更が何を引き起こすか、最終的にはかなり高い精度で予測可能だ。・・・物理的には単純なメカニズムにすぎないのに、それでも結果を予想することはほぼ不可能だ。・・・密度の高い相互作用のせいで、複雑系は非直線的な変化を示す。・・・人間の思考は線形関数に慣れている。反対に、非線形関数に対し、人間は不快感を覚える。・・・要素還元主義的な指示カードは、チェスには役に立たないだろう。相互作用のせいであまりに多くの可能性が生まれるからだ。

バタフライ効果という言葉はほとんど誤解されており、テコの原理と同じ意味で使われている。・・・複雑系の中の小さな事柄は全く影響を及ばさないかもしれない。あるいは反対に重大な影響を持つかもしれない。そして、それがどちらに転ぶかをすることが事実上不可能である、というのが正しい解釈だ。

全てを構成要素に分解し、あるいは個々の要素を最適化するという機械的で還元主義的な考え方は、ニュートンからテイラーにいたる思想家たちによって支持されてきた。しかし、それを用いて複雑系をコントロールしようという試みは、無意味であり、最悪の場合は破滅的な結果をもたらしかねない。

 フレデリック・テイラーのマネジメント方式は、明らかに複雑な問題よりも難解な問題のために生み出されたものだった。・・・どこかの機械にトラブルが起きても、それが他の機械に有機的な影響をおよぼすことはなかった。逆に、一つのイノベーションが「爆発的ヒット」を飛ばして工場主が一夜にして億万長者になることもなかった。・・・計画的な効率性は良きマネジメントの活力源となった。・・・環境が次第に多対多の複雑さを増していくに連れて、我々はますます複雑な解決策を設計していたた。才能のあるマネジャーは、あらゆる可能性をカバーするために入り組んだ手順と組織的ヒエラルキーを開発した。どんな問題も完全に理解可能だという基本的信念は、消えていないのである。20-30年も企業や役所で働いた人なら誰でも、規則と書類がまるで果てしなく増えていくような気がするという経験があるだろう。

 ヘンリー・ミンツバーグ「未知の海で予め決められたコースに身を委ねるのは、氷山に向かってまっしぐらに航行するための一番の方法だ。」

レジリエンス思考・・・強力で専門化された防壁を築く代わりに、パンチをかわし、あるいはパンチから利益さえも得ようとするシステムを構築する。レジリエントなシステムとは、予期できない脅威を前にして、必要なときに自己修復することができるようなシステムだ。

予測を通して、また予期される脅威から、全力で自分を守ろうとする・・・Caltechのジョン・ドイル「強固だが脆弱なシステム」

強固さはシステムの各部分を強化することによって達成される(例えばピラミッド)。これに対してレジリエンスは、変化や損傷に対応して各部分を再構成させ順応させる各要素を繋いでいくことの結果(例えばサンゴ礁

相互依存が進んだせいで、縦割り組織はもはや環境を正確に反映するものではなくなった。

問題は、「関係者以外極秘」の論理が、どの情報を誰が知り誰が知るべきでないかを、マネジャーなり何らかのアルゴリズムなり官僚なりが決定できるという仮定のもとに成り立っている点だ。・・・指揮官は確信を持って、「その知識は、チームが取ろうとしている行動や分析官が直面するかもしれない状況とは無関係である」と断言できなければならない。我々の経験では、そう断言できる事例はなかった。・・・有用な予測を立てることは非常に難しくなり、多くの場合不可能だ。何が誰にとってどんな意味を持つかを正確に把握し予見できるというのは錯覚であり、その前提のもとで組織が機能し続けるのは傲慢にほかならない。「関係者以外極秘」は安全に思えるかもしれないが、逆である。相互依存的な状況で安全に機能するには、全チームが、行動しているすべての部隊同士の関わり合いを総合的に理解することが必要だ。計画がうまくいくためには、全員が全体の流れに目を向けなければならない。

 根本的な原因は具体的な手順の欠如ではなく、予測不能な不整合をリアルタイムで修正する能力の欠如にある。

 医学部は教育で、応急処置は訓練だ。教育では、ほぼ無数の脅威を把握して対応するための基本的理解を学ぶ。一方、訓練で身につけるのは予想される問題にのみ有効な、単独の行動だ。言うならば、教育はレジリエントであり、訓練は強固である。

(この視点に立つと、先行研究をエミュレートして論文を書く能力を身につけるのは訓練であり、一から(もちろん文字通りの一からではないが)論文を書く能力を身につけるのは教育ということになるのだろうか)

物理的スペースをどうデザインするかは、人間の行動をどう捉えるかの反映であるが、一方、人間の行動はデザインされたスペースの副産物でもある。・・・イノベーションや創造性を高く評価する企業は、対話を促進する職場環境のあり方を、時間をかけて模索してきた。1941年にベル研究所は慣行を破り、交流を促進する空間づくりを目指した。施設の設計を請け負ったのは、アメリカ最大級の建築設計事務所であるスキッドモア・オーウィングス・アンド・メリル・・・1970年台には、お硬いIBMさえも初歩的なノンテリトリアル・オフィスを試行した。・・・ブルームバーグ「仕事の習慣を命令で変えようとするマネジメントのやり方には限界があると、ずっと思ってきました。命令すればやるでしょうが、目を離すと従業員はいつものやり方に後戻りしがちです。一方、物理的設備は影響がより長く続きます」

 優先すべきは、時機を逸する前に最善の選択をすることだ。私は、特別なことがない限り自分が介入してもさして意味はないことに気づき、やり方を変えた。・・・リッツはすべての従業員に対し、宿泊客に何か特別なことが必要な場合に本来の業務から離脱してもよいと教え、自らの権限を使うことを奨励している。・・・ノードストロームの新入社員に配られるカード・・・従業員マニュアルは非常にシンプルにしてあります。ルールは一つだけです。・・・各自、判断力を駆使して下さい。迷ったときは、臆せずに、いつでもどんなことでも、直属のマネジャーや店長、人事担当者に聞いて下さい。

1980年代、企業は「権限委譲(enpowerment)」を試みるようになった。・・・ケニス・W・トーマス、ベティー・A・ベルトースは、権限の分散で「仕事への自発的モチベーション」が生まれることを明らかにした。・・・権限と最良が十分にあると感じている労働者は20%にとどまり、大半が権利を奪われ、檻に入れられたような気分でいる。・・・物事の相互依存性が高まり、予測が難しくなっている中、部下に細かく口出しするマネジメント法にかかるコストは増している。HBSのロサベス・モス・カンターは、現場に権限を与えることが絶対に必要だという。・・・個々の従業員に裁量権を与えているかそうでないかということこそが、行き詰まる企業と道を切り開く企業とを見分ける一つのポイントである。・・・バーノフとシャドラー・・・「怒りのツイート一つでブランドを破壊できる世界で企業が反撃に出るには、従業員を制約から解き放たなければならない」

私がリーダーとして最も機能していたのは、個別の作戦の判断をしていたときではなく、機動性を損なう組織の壁と官僚主義を防ぐために、情報収集・分析から資源配分まで、一連の流れを監督しているときだった。

 

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

  • 作者: スタンリー・マクリスタル,タントゥム・コリンズ,デビッド・シルバーマン,クリス・ファッセル,吉川南,尼丁千津子,高取芳彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
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