現代の名演奏家50 クラシック音楽の天才・奇才・異才

カルロス・クライバー 

父子とも大指揮者となると、エーリヒとカルロスのクライバー父子しかいない。・・・1934年になると、フルトヴェングラーナチス政権と対立し、ベルリンでの公職を辞任・・・クライバーだけでなく、ワルタークレンペラー、ブレッヒなど次々と名指揮者が出ていき、人材不足に陥った。そこへ水性のごとくベルリンに登場したのがヘルベルト・フォン・カラヤンだった。・・・デビュー公演でカルロス・クライバーは「カール・ケラー」という偽名で出演・・・父は「幸運を祈る、ケラー殿」と電報を打ち、息子を励ました。・・・カルロスは自分の実力だけで成功したのだ。

有名になるとクライバーはめったに出演しなくなった。カルロス・クライバーの才能を認めていたカラヤンは、「あいつは冷蔵庫がからになるまで仕事をしない」・・・日本のファンの間では「クライバーの家に空き巣に入り、冷蔵庫をカラにしてこい」

父エーリヒ「可哀想に、あいつには音楽の才能がある」

Various: Complete Orchestra Re

Various: Complete Orchestra Re

 

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アルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリ

20世紀後半最高のピアノ教師・・・ポリーニアルゲリッチという2人の現代最高のピアニストの師なのだ。

 ミケランジェリは、生涯に出た演奏会よりも、キャンセルした演奏会のほうが多い・・・キャンセル魔・・・彼は完璧主義者だったので、ピアノやホールが自分の考えている響きではないと判断すると、その瞬間にキャンセルを決断した。

アルゲリッチ・・・レッスンを受けたのは一年半で4回だけ・・・教えたかったのは「静寂の音楽」だった・・・アルゲリッチもまたキャンセル魔となる。・・・これ以上支持しても意味が無いと判断して・・・ホロヴィッツの元へ・・・弟子入りを断った・・・色々あり65年のショパンコンクールで優勝・・・60年のポリーニに続き「ミケランジェリのでし」が二回連続して優勝・・・一人はミケランジェリのもとへ行く前に優勝し、ひとりは決別した後に優勝したわけで、ふたりとも彼の指導のおかげで栄冠を得たわけではない。

1955年はハラシェヴィチが優勝・・・審査員だったミケランジェリアシュケナージを強く推し、意見が通らないとわかると途中で帰った・・・80年のコンクールではアルゲリッチポゴレリチの演奏を、他の審査員が奇抜すぎると認めず第三次予選で落としたことに抗議して辞任し、彼は天才よと言い残してワルシャワを去った。この事件のおかげで、優勝したダン・タイ・ソンよりもポゴレリチのほうがスターになってしまった。

Maurizio Pollini Complete Recordings on Deutsche Grammophon

Maurizio Pollini Complete Recordings on Deutsche Grammophon

 
Various: Complete Recordings

Various: Complete Recordings

 
Arturo Benedetti Michelangeli -Complete Recordings On Deutsche Grammophon

Arturo Benedetti Michelangeli -Complete Recordings On Deutsche Grammophon

 

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イ・ムジチ

トスカニーニが絶賛、12人の若者の演奏を聞いた。彼らは素晴らしかった。音楽はまだ死んでいなかった。

 巨匠の絶賛・・・リストがベートーヴェンに絶賛されたのが伝説となったのに似ている。

ヴィヴァルディ:協奏曲集<四季>

ヴィヴァルディ:協奏曲集<四季>

 

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 エレーヌ・グリモー

 私は音楽が空間を支配し、空間そのものとなるのを感じた。

彼女はパリ音楽院でも自分の居場所を見つけられず、やめてしまう。・・・チャイコフスキーコンクールに挑戦するが、入賞できない。それなのに、当代一のピアニストになってしまうのだから、音楽院やコンクールは無意味だと言う説の正しさの一例となる。

バレンボイムとは、演奏の方法と曲目で激しく対立した。若きピアニストはマエストロの言いなりにならない。

クレーメルからは譜面上での知的な練習、アルゲリッチからは直感の生命力を教わった。彼女はそれを人生を決定する出会いと記す。

Helene Grimaud: The Warner Recordings

Helene Grimaud: The Warner Recordings

 

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アンネ=ゾフィー・ムター

カラヤンは妻エリエッチに、ムターについてこう語った。「才能があるなんてものじゃない。彼女は、真のヴァイオリンの天才だ」

カラヤンの死により、音楽界から帝王はいなくなった。そしていつの頃からか、ムターは女王と呼ばれている。

個人的に好きなのはヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216(シュトラスブルグ協奏曲)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集

 

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エミール・ギレリス

 ギレリス少年がベートーヴェンの熱情ソナタを引き始めると、ルービンシュタインは最初の数小節を聞いただけで、天才だと見抜いた。・・・ソ連国内ではまだ無名に近い。同じオデッサに住むギレリスの一歳上のスヴァトスタフ・リヒテルは、さらに無名だった。なにしろリヒテルはこの時のルービンシュタインの演奏を聞いて啓示を受け、ピアニストになろうと決意したのだ。

第一回チャイコフスキー国際コンクール・・・アメリカからやって来たヴァン・クライバーンという青年が・・圧倒的な腕前だったのだ。・・・審査員の1人リヒテルが、二次選考に残った20名のうち、クライバーンには満点を投じ、15名には0点を投じた。・・・審査委員長のギレリスは当惑しつつ、点数の付け方を説明した。しかしリヒテルは平然と、「好きになれない演奏には点数をつけようがない」と言い放った。・・・当時の最高権力者であるフルシチョフ首相に面会を求め、「クライバーンというアメリカ人を優勝させたい」と伝えた。フルシチョフは、「そいつが、いちばんうまいのか。それなら、そいつにやれ」と許可した。

Beethoven Sonatas

Beethoven Sonatas

 
Van Cliburn Complete Album Collection

Van Cliburn Complete Album Collection

 

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 アルフレッド・ブレンデル

1960年代のウィーンで活躍していた3人の若手ピアニストは、日本では「三羽鴉(がらす)」と呼ばれた。グルダ、デームス、バドゥラ=スコダである。・・・3人と親しくしていながら、当時はあまり注目されていなかったのがブレンデル

「私にとってグールドはなってはいけない演奏家の典型でした。エキセントリックで、何が何でも作曲家の意図や作品の性格に反することをしようとする人でした」

一方のグールドは、「ブレンデルの弾く(モーツァルトの)協奏曲は、私が聞いた中では一番だと思います。熱と愛情がほどよく混じり合っている点で、あれ以上のものは全く想像できません」・・・もっとも、グールドはモーツァルトそのものに「彼の死は早すぎたというより遅すぎた」と語り、「感銘をうけたことはない」とまで言っているので、ブレンデルへの賛辞も皮肉かもしれない。だいたい、演奏そのものではなく、熱と愛情がほどよく混じり合っている点を評価しているのだ。・・・ブレンデル「彼はとても親切なことを書いてくれ、私のモーツァルトの録音を褒めてくれた」と語っているが、これもまた皮肉かもしれない。

一度だけだが会ったことがある。・・・ブレンデルはグールドの演奏について、「リズムを譜面通りに付点リズムで弾いていない」と指摘・・・次にバドゥラ=スコダがブレンデルが弾くベートーヴェンのハンマークラヴィーアの録音を聞かせると、グールドは「譜面にないオクターヴで弾いている」と指摘した。

ブレンデル「グールドはとても感じの良い格好のいい青年」だったと語るが、要するに、その音楽については褒めていない。・・・「あえて申し上げたい。譜面を正確に読むことは極めて難しい仕事です。」

シューベルト:ピアノ五重奏曲<ます>/モーァルト:ピアノ四重奏曲第1番

シューベルト:ピアノ五重奏曲<ます>/モーァルト:ピアノ四重奏曲第1番

 

 アンドレ・プレヴィン

 プレヴィンは作曲家でありピアニストであり、指揮者でもある。・・・現代のモーツァルトと讃えられてもおかしくはない。・・・20世紀のモーツァルトのような人が、すでにアメリカにはいた―レナード・バーンスタインである。・・・20世紀最大のピアニストであるホロヴィッツは、バーンスタインから何度も共演を持ちかけられたが、「君のほうが目立つから、いやだよ」と断り続けたというのだ。

レナード・バーンスタインがサンフランシスコに来て、サンフランシスコ交響楽団を指揮した。それを見学したブレヴィンはすっかり影響されてしまい、その数日後に、モントゥーのレッスンで指揮を始めると、「バーンスタイン君を見たね」と見破られてしまった。手取り足取り教えたわけでもないのに影響を与えたバーンスタインも、見て聞いていただけでそっくりの指揮が出来たプレヴィンも、そして瞬時に見破ったモントゥーも、いずれも天才である。

Tchaikovsky: Swan Lake/Sleepin

Tchaikovsky: Swan Lake/Sleepin

 
Trio Jazz: King Size

Trio Jazz: King Size

 

 ジョン・エリオット・ガーディナー

カラヤンの晩年のコンサートを聞いて、彼が力を行使するやり方にはどこか邪悪なところがあり、それが音楽を損なっているという印象を受けました。そこには何の驚きも、喜びの瞬間もありませんでした。型どおりとしか感じられなかった。全てが自己中心的で、全てが彼を中心に回っていたのです。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 ニューイヤーコンサート・・・指揮者が毎年交代するようになるのは1987年のカラヤンからで、それ以前は、1980年から86年まではロリン・マゼール、その前は1955年から79年まで25年間に渡り、ウィリー・ボスコフスキーがずっと指揮していた。さらにその前はクレメンス・クラウスが1939年から指揮していた。

ピエール・ブーレーズ

「このままでは音楽が死んでしまいます。一体誰が、音楽がはまり込んでいる問題から解放させるのですか!」

 メシアンは即答した。「もちろん、ブーレーズ、君さ!」

ブーレーズは自分が何をするために音楽を学んでいるのかも、よく理解していなかったのだろう。だが、何かをやらなければならないことだけは分かっており、メシアンもまた、この若者が音楽史に残るであろう天才だとも分かっていたのだ。

パリ音楽院時代・・・ランパルによるとブーレーズは「好きな作曲家はまったくなかった」「彼は反抗的で、彼を楽しませる音楽はほとんどなかった」

The Complete Columbia Album Collection [67CD Boxset]

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 ダニエル・バレンボイム

イスラエルがドイツ音楽を受け入れるには様々なプロセスがあり、その多くに、バレンボイムが関わっている。

 イスラエルはドイツ音楽とドイツの音楽家を徐々に受け容れていったが、例外がナチス党員であったカラヤンヒトラーが心酔し「ナチスの音楽」のイメージが強いワーグナーだった。・・・ワーグナーヒトラーが生まれる前に死んでおり、ホロコーストに対する直接の責任はない。

 ミシェル・ペロフ

同業のカップルがうまくいかなくなるのは、どちらかが才能の差を見せつけられることに、耐えられなくなるケースが多い。 二人(アルゲリッチとペロフ)の場合、ペロフがピアノを弾けなくなるという形で現れた。

アルゲリッチが対して練習もしないのに、強大でパワフルで、しかも美しい演奏を、苦もなくしていることに、ペロフが焦ってしまい、さらに自分がアルゲリッチの真似をしてしまうことを恐れるようになった(ベラミーによるアルゲリッチの伝記)

アルゲリッチについては「偉大なピアニストです。彼女には独自のインスピレーションと音楽性があり、あの超絶技巧は、誰もが称賛せざるを得ません」と今も絶賛している。 

ドビュッシー:ピアノ作品全集

ドビュッシー:ピアノ作品全集

 

 マルタ・アルゲリッチ

 ホロヴィッツの終演後、アルゲリッチが楽屋を尋ねると、彼女に気づいたホロヴィッツが「あなたこそ、最高だ」と叫んだので、彼女が「それはあなたのことです」と言い返したという逸話がある。

コラール「ホロヴィッツは、アルゲリッチが自分と同じように弾ける唯一のピアニストであることを認めていた」「ふたりとも自由な心の持ち主で、ピアノを思いのままに操り、一瞬にして聞く人を征服する恐るべき能力を持ったピアニストである」と評している。

 

Martha Argerich: Complete Recordings On Deutsche Gramophon

Martha Argerich: Complete Recordings On Deutsche Gramophon

 

 レナード・バーンスタイン

「さっき、アメリカでもっとも偉大なユダヤ人の作曲家、ジョージ・ガーシュウィンがなくなりました。これからガーシュウィンの曲を弾きますが、終わっても拍手はしないで下さい」

彼はガーシュウィンのプレリュード第二番を弾いた。子どもたちは静かにその音楽を聴いた。

「重苦しい静けさだった。その時初めて、音楽の力を感じた。演奏を終えた後、その場を去りながら、自分がガーシュウィンになったような気がした。その曲を自分が作曲したような気になった」

音楽の力を感じたい青年は、やがてガーシュウィンの次に「アメリカでもっとも偉大なユダヤ人の音楽家」となり、多くの若者に直接・間接に影響を与えた。

The Complete Mahler Symphonies

The Complete Mahler Symphonies