美貌格差: 生まれつき不平等の経済学

 テキサス大学のジュディス・ラングロワ・・・人の美しさや、特に人の醜さに関する意見は人生のとても早い時期、おそらく幼年期のうちに形成される。対称性は美しい。左右対称な顔は美しく、逆に非対称なほど醜い顔と認識される。

  1. 何よりもまず、何をもって美しい顔とするかについては、大方の合意が成り立っている。美形は見る人次第であるものだが、大体の人は同じ顔を美しいと考える。誰かが美しいとか並みより上だと思う人はだいたい誰にとっても美しい。一方、見るべきところがないとか醜いとか思われる人は誰が見ても醜い。
  2. だいたいの調査では、美しいと評価される人が醜いと評価される人より多い。
  3. 華の命は短い。そして若さは華である。容姿を評価する歳、年齢を考慮するようにはっきり指示された場合さえ、私たちには決してそうは出来ない。人は年寄りよりも若い人に魅力を感じる傾向がある。
  4. 服装や化粧といった短期の投資で容姿を変えることはできるが、そうやって容姿を改善しても効果は小さい。整形手術をしてさえ大きくは買えられない。豚の耳では絹の財布は作れないという古いことわざは人の容姿にも当てはまる。
  5. 女声と男声では容姿の評価のされ方が違っている。男性に比べ、女性はとても美しいとかとても見にくいとかと評価される割合が多い。また、女性の容姿のほうが、評価が割れることが多い。

 容姿のいい男性の収入は容姿の悪い男性の収入を17%だけ上回るわけだが、他の特徴の違いが男性の収入に与える影響と比べて、これはどうなんだろう?容姿が並みを下回る、つまり残念な見てくれの女性の収入は容姿が並みを上回る、つまり美しい女性の収入を12%だけ下回るのは、他の特徴の影響に比べてどうなんだろう。・・・容姿の良さが男性の収入に与える効果は、数字で見ると1.5年分の通学の効果を上回ることになる。・・・40歳の男性の場合、容姿が収入に与える影響は職歴にして約5年分であり・・・間違いなく存在する。

働いて得られるものが家にいて得られるものを上回るなら人は働くことを選ぶ。働いて得られるものとは収入だ。そして美しさは収入を左右する。・・・美しい人には働いて収入を得ようと言うインセンティブが与えられ、醜い人には労働市場を避けて家に引きこもるマイナスのインセンティブが与えられる。家で過ごす時間の価値も、美形とブサイクでは違っている。そしてどうやら、インセンティブの影響のほうが時間の価値の差よりも大きいようだ。・・・容姿が並みより上か下かは、男が働いて稼ぐかどうかに影響してはいなかった。一方、容姿が並みより上の女性は、並みの女性に比べて、働いている可能性が5%ほど高い。それに、どちらかと言うとほんの一握りである。

 年齢や発表論文数など、教授の収入に影響を与えそうなたくさんの要因を調整してみると、「イケてる」先生は、イケてないがそれ以外は全く同じ特徴の先生より、年収が6%高いという結果になった。

教授の容姿が84%の人より上なのと16%の人より上なのを比べると、講義の評価は5点から1点の段階評価で4.4点と3.6点と、大きく異なっている。教授の3分の2は3.5点から4.5店の間に収まっていることを考えると、容姿の影響は絶大といえる。専門科目になると容姿の影響は小さくなる。入門レベルの授業を取る学生に比べると、専門的な授業を取る学生は、もっと本質的なことに集中しているからだろう。この違いは、選挙での現職と対立候補における美形効果の違いとよく似ている。

 NFLクオーターバックの間では、顔の対称性が84%の人より上であるのと16%の人より上であるのとでは、収入が12%近く違う。この差はアメリカにおける男性一般の収入に容姿が与える影響とあまり違わない大きさだ。一つの要素、つまり選手の純粋な能力だけで稼ぎが決まりそうな仕事にしてはかなり大きな影響に思える。

Dr.ハウス

ハウス:自分が、生まれつき頭がいいから雇ってもらえたんじゃなくて、生まれつききれいだから雇ってもらえたって思うのはイヤなのかな?

キャメロン:ここまで来るのに本当に一所懸命努力したのよ。

ハウス:そんなことしなくてもよかったんだよ。人は最小限の努力で最大限の報酬が得られる道を選ぶよね。それが自然の摂理だ。なのに君はそれに逆らっている。だから僕は君を雇ったんだ。君は金持ちとも結婚できたし、モデルにだってなれたし、ただそういうところへいけばそれだけでみんな君に、受け取ってくれってあれこれ持ってくるんだよ。でも君はそうしなかった。代わりに君は、自分でそのおいしそうな小さいおしりを叩いて必死に働いてきたわけだ。

・・・彼女が選んだ救急医療は とてもたくさんの患者と接触するから 自分の美貌を利用できる良い選択だと示唆している。

宝飾デザイナーにしてミック・ジャガーの娘であるジェイド・ジャガーはこう叫んだことがあるそうだ。「神様、ウチのスタッフときたらなんて素敵なんでしょう。わざわざブサイクな連中を雇って働かせる人達の気が知れないわ」

84%の人より美しい女性勧誘員だと、寄付を取り付けるのに成功する可能性は、16%の人より美しい女性勧誘員の2倍近い。でも、集められる寄付の期待値は3分の2しか増えていない。美しい女性勧誘員はより沢山の人から寄付を集められる。ただ、美しい人にだけ寄付金を渡すのは寄付するかどうかの分かれ道にいる人達で、寄付してもほんの少額だということだ。

中国でのそうした広告を調べた最近の研究によると、雇う条件に容姿を掲げている広告は10%近くに上っている。・・・メキシコの広告には、応募者は写真を同封して「きれいな容姿であること」を示せと要求している例まであった。

化粧品の例で言えば、美形は社会的には役に立っていない。香水やいろいろな化粧品の品質は売り子が美しかろうがなかろうが関係ない。それじゃ売春や映画での演技みたいなサービスはどうだろう?そういう業界で売られるものは、誰が売るかで本質的に違っている。 だからサービスを提供する人の容姿によって、私的な面でも社会的な面でも、価値が異なる。・・・美しい人が提供するのと醜い人が提供するのとでは本質的に違うサービスがある。そして美しい人がそういうサービスを提供したほうが社会全体のためだ。・・・多くの場合、私達がブサイクが嫌いなのは、少数民族に私達がやっている社会的無益な差別と変わらない。実際、そういう差別的な選好は非生産的だ。社会に利益をもたらすことはない。そして醜い人達を特定の役割に押し込めると、人々が容姿と関係なく技能を最も効率的に使うのに比べて、社会の経済効率は悪くなる。経済学者がアフリカ系アメリカ人に対する差別が社会に与えるコスト・・・2009年のアメリカの場合、ブサイク差別で失われている経済効率は雇用者所得全体の0.25%、200億ドルに相当する。・・・私達が美形が好きなのは、ブサイクにサービスを提供されるよりも美形に提供してもらうほうがサービスそのものが本質的に優れているからだという場合がある。・・・音楽の才能は人それぞれに備わったもので、同時に社会にとって有益である。

私達が美形を好むのは、ある程度は純粋に差別だ。・・・私達が美形をひいきするのは、場合によってはある程度、私達が人間全体に幸せをもたらし、社会全体に利益をもたらす理想を好むからだ。

容姿は結婚相手の教育水準に予想どおりの影響を与えている。並より下の人は学のない人と結婚する傾向がある。アメリカのデータでは、容姿が下位15%に入る女性について特にその傾向が強い。・・・容姿の影響は小さくない。・・・男性の就学年数が1年増えると所得は10%増えるのを見た。容姿が並みの容姿の女性に比べて、並より下の女性は稼ぎが11%も少ない男性を夫に迎えている。男性の稼ぎが平均で女性の稼ぎより50%多いとすると、これはつまり、ブサイクな女性はブサイクなせいで並の容姿の女性に比べて収入が15%以上も少なくなるのに等しい、ということだ。

中国・・・奥さんの教育で旦那さんの容姿はあまり大きく違わない。やはり、教育と美貌は交換されているようだ。より具体的には、収益力を高める男性の教育と女性の美貌が交換されている。

1995年に上海の家庭・・・デタラメに組み合わせると、旦那さんも奥さんも美しい夫婦は12%にしかならない。でも、実際には夫婦の25%は夫婦共々美しい。旦那さんも奥さんも並か並に満たない夫婦の割合は、組み合わせがランダムなら45%程度だが、実際には58%に上る。思った通り、夫婦は見栄え一つをとってもお似合いなものなのだ

上位3分の1に入る容姿のの人達の内、55%は自分の人生にとても満足しているまたは満足していると答えている。 容姿の点で中位である半分の人達では53%がそういう答えをしている。でも下から6分の1に入る人達では、満足していると答えたのは45%だけだった。ブサイクだと人生も不幸だ。・・・ドロシー・パーカーが言ったとおりだ。「美人なんて皮一枚だけどブスは骨身にしみる」。

美貌格差: 生まれつき不平等の経済学

美貌格差: 生まれつき不平等の経済学

 

 

  • 1970年代のアメリカ人を対象にした調査によると、容姿が下から15%に入る、つまり並みに満たない(2点か1点の)評価を受けた女性たちは、容姿が並みの女性たちより4%収入が低い。
  • 一方、容姿が上から3分の1に入る、つまり並みを上回る(4点か5点の)評価を受けた女性たちは、並みの女性たちより8%収入が高い。

  • 男性の場合、容姿が並みに満たない人は、並みの男性より13%収入が低く、容姿が並み以上の男性は、並みの男性より4%収入が高い。

  • 見栄えがよくても収入が3~4%しか増えないというのは、あまり大きな額には思えないかもしれない。でも、美しい人は醜い人に比べて一生の稼ぎが23万ドル(約2700万円)多くなると考えると、とても小さいとは言えない額に思えてくる。
  • 女性より男性の収入のほうがずっと容姿に左右されるというのは、予想に反する結果だったが、さまざまなデータにより、その理由は、女性は男性より、外に出て稼ぐべく働くか、あるいは働かないかの選択を行う余地が大きく、容姿がその選択を左右しているから、と考えられる。

  • 対象の会社を全部合わせてみると、重役の容姿が84%の人たちより上であるのと16%の人より上であるのとでは、平均で売上高が7%違っていた。明らかにこの業界では、会社に見目麗しい重役がいると、売り上げは大幅に増えることになる。
  • この手の調査は因果関係については何も語ってくれない。容姿と企業規模に強い正の関係が見られたとして、言えることはといえば「因果関係があるのかもしれない」、思い切ってもそれぐらいだ。単に、見栄えのいい重役は大企業に雇われがちだというだけかもしれないし。