面白ければなんでもあり

人生のあらゆる出来事すべてを加点法で考えてきたことです。加点法をシンプルに説明すれば、なにもないところに、物事の良いところを加点、つまり評価を乗せていく・・・という考え方です。それを人生の出来事に当てはめると、○○だから面白い!☓☓だから好き!△△だから嬉しい!といったところでしょうか。

藤沢とおる先生のGTOに出てくるようなギャルっているじゃないですか」 ・・・ 「子供の頃、すっごい怖い不良とも、一本のゲームカセットがきっかけで仲良くなれたりしたじゃないですか。あの感覚でいきましょう」 「とすると、同じ趣味をもっている、とかですか?」 「そうそう。・・・」 「一緒の趣味、ゲームとか、漫画とか」 「エロゲー!」 「は?」 ・・・ 「ちょ、ちょっと待って下さい!妹で、ギャルで、エロゲーが好きなんですか?」 「はい!」 「なんでこの妹は、そんなとんでもないことに!?」 「さあ~?」 ・・・これが『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が生まれた瞬間です。

『執筆』へノープランで挑んでも、良い作品を作り上げることは至難の業です。それは、コンパスや地図も持たずにジャングルで目的地を目指すようなものだからです。そんなことが可能なのは人気作家の極一部・・・まさに天才だけだと僕は思っています。ですから、多くの作家にとって『書き始める前の準備』は、とても大切です。物語の行き先を忘れそうになった時、自分の進むべき道を思い出させてくれるからです。作家と新作の小説の打ち合わせをする際、僕は『書き始める前の準備』として、必ずその小説の『家訓』を決めています。・・・『家訓』を決めるのにもっとも重要な鍵となるのは、その作家自身の『性癖』だと、僕は考えています。・・・「本当は自分はこういうものが好きだけど、世間的には受け入れられなさそうだからもう少しそれっぽいものにしよう」というような思考は、自分が好きだという本能に従って作られた作品のパワーには勝てません。・・・性癖は本能的なものですから、良いも悪いもありません。ですが、あえて『良い性癖』というものがあるとするならば、他人に語ったあと、恥ずかしくなって布団の中でゴロゴロ転がるような『後悔』が混ざっているものがそれです。そんな心の奥を暴露するような家訓だからこそ、面白い作品作りのきっかけになるのです。

想定読者というのは、想像上の誰かではなく、自分のよく知る特定の人物でかまわないのです。・・・アイツという言葉がゲシュタルト崩壊を起こすくらい、徹頭徹尾アイツの事を考えるのです。SAOの想定読者は、川原さんと同じネットゲームを楽しんでいる仲間たちでした。・・・今現在、あるいは過去の自分を想定読者にすればいいのです。そもそも小説を書くという行為は、「自分の本能にしたがった性癖を暴露してでも伝えたい何か」を文字で具現化するということです。それならば、自分が想定読者であることに何の矛盾もないはずです。

全方位を狙った射撃はすべての的をはずしてしまうことと同じで、強烈に特定の人間の感情を揺さぶる尖りや個性を持っていないと、誰の思い出にも残らないことになりがちです。つまり、想定読者にすら刺さらない作品が、想定読者を超えた読者に刺さるはずがない、ということです。

こうして欲しい、こんなものを読んでみたい。読後のスッキリ感がある作品というのは、そういう期待に応えられているものです。・・・読者の期待することを、僕はトレンドと呼んでいます。・・・ここでは展開・方向性(気配)と含めた物語のベクトルを、想定しています。・・・自分の「こうしたい」が性癖であり家訓であるならば、想定読者に向けて「こうした方がいい」「こういう展開なら喜んでもらえるだろう」がトレンド、ということです。・・・上向きトレンドとは、いじめられていた子が大逆転劇を演じたり・・・そうなったらいいな、と誰もがつい夢想してしまうもののことです。・・・下向きトレンドとは、延々不幸の連続で最後までそれが覆されなかったり、・・・意外性や驚きばかりを重視した時に起こりがちだと僕は考えています。・・・トレンドは多種多様ですし、読者の趣味嗜好も多岐にわたっています。・・・どれが最適解か。そういう時僕は『想定読者』は誰だったか、というところに立ち戻ります。

鎌池和馬伝説

  1. ノロウイルスにかかりながら執筆し続けた。
  2. 「全部頭の中に入ってるんで」と言って、手元に原稿がないにもかかわらず行数単位で正確に記憶した内容を元に打ち合わせを行った。
  3. とある魔術の禁書目録(インデックス)』第2巻をわずか17日間で完成させた。
  4. 禁書目録』第5巻の発売前に第6巻の執筆をほぼ終え、さらに第9巻までのプロットを完成させていた。
  5. 小説の執筆のみならず、原案担当の『とある科学の超電磁砲(レールガン)』においても原案プロットの提出が異常に早い。
  6. 小説の執筆や漫画の原案プロットに加え、特典小説のショートストーリーやゲームの原案シナリオなど複数の仕事を同時に並行作業でこなす事もある。
  7. 2009年4月頃、『ヘヴィーオブジェクト』のあらすじを僕に口頭で伝えてきたので、「それはアリですね、(でも今は忙しいでしょうから)もし書けたらぜひやりましょう」と返答をした数週間後、いきなり僕のもとに第1巻の原稿が届いた。
  8. ヘヴィーオブジェクト』の第2巻について「書いてもいいですか?」と聞かれたので「いいですよ」と答えた数日後、突然僕にメールが届いた。プロットだと思って印刷すると数百枚に及ぶ原稿だった。
  9. 締め切りを全く設定していない原稿や打ち合わせ前の次回の原稿を書き上げ持ってくる。
  10. 雑誌企画用のオリジナルショートストーリーを依頼したところ、完成した原稿と一緒に締め切りを設定していない長編を持ってきた。
  11. 執筆の息抜きは、別の原稿の執筆である。
  12. アニメの脚本会議、アフレコには病気以外では必ず参加し、オリジナルエピソードは基本原案を全て書いている。
  13. アニメのパッケージ特典の小説はアニメシリーズ毎に必ず書きおろす。常に電撃文庫2冊分はある。
  14. これでも、諸般の事情(自主ボツや発売延期など)でお蔵入りになった原稿がかなり存在する。それをまとめると 電撃文庫が五冊はできる。
  15. 多いときで、コミカライズ7本の同時連載の監修を行う。
  16. スクウェア・エニックス社のスマートフォンゲーム『拡散性ミリオンアーサー』のメインシナリオは鎌池さんがすべて執筆し、各カードキャラの設定もすべて監修している。「乖離性ミリオンアーサー」も同様。
  17. 雑誌企画のショートストーリーを一本依頼したら、締め切り前に「10本くらい書いたのでどれか選んでください」と持ってきた。
  18. あいかわらず、設定してもいない締め切りの新作原稿を持ってくる。言っても言っても持ってくる。
  19. 2014年末から毎月新刊を刊行しているのに、今もあと 一年分くらいの原稿ストック がある(2015年10月現在)。
  20. 「どうしてそんなに書けるんですか?」と聞いたら、「(原稿を)書いてないと、墜落するんですよ。飛行機みたいに」と返された。

「全部頭のなかに入ってるんで大丈夫です」 鎌池さん、あなたインデックスじゃないんだから・・・。

共感を抱けるキャラは、必ず憧れと愛嬌を感じさせます。この二要素は、どちらかではなくどちらも兼ね備えていることが理想です。・・・プラスの面とマイナスの面、両方があると、そのキャラクターには人間らしさが生まれます。人間らしさが生まれると、そのキャラクターに対する共感度合いが上がり、ずっっとこの人物の活躍を観ていたいなと思うようになります。

良いアイデアというのは縛りを気にして発言する時より、自由気侭(きまま)に言い放っている時のほうが生まれやすいことが経験則でわかっています。ですから、打ち合わせ中は、出来る限り好き勝手に思いつきを口に出します。

キャラクターの細かい設定を詰めて行く時、さてどっち(どれ)にしよう?ではなく、さてどっち(どれ)だろう?という考え方をしなければなりません。

面白いほうがいいからね 先輩後輩や作家、編集者という立場に気兼ねしていては、面白さや作品のベストを追求できず、最終的な作品の質も落ちかねません。いいものは別け隔てなく採用するのが当たり前という編集部の環境がそこにありました。

苦労と成果は比例しない・・・どんなに時間と労力と思い入れを込めた丁寧な作品だったとしても、読者はその本が面白いかどうかの結果にしか興味がありません。つまり面白さが届かなければ、その裏でどんな努力があろうともつまらないのです。それを理不尽と感じてしまうことは危険です。・・・感じた理不尽を自分が安心するための言い訳に添加するようになっていくからです。この行為には全く生産性がありません。

物事は、敗因よりも勝因の分析の方が難しいのです。

直列回路とは、いわゆるクリエイター脳です。・・・そのことしか考えずにじっくりと一つの仕事に集中して行う作業のことです。・・・並列回路とは、いわゆるサラリーマン脳です。クリエイティブと言うよりは事務的な作業する場合、頭を横一列につなげたイメージで、同時に幾つもの仕事を並列で処理します。こちらは時間効率重視です。

荒木飛呂彦の漫画術に描かれていたことですが、荒木先生は各部のラスト直前にラスボス(一部ならディオ、二部ならカーズ、三部ならDIO)の凄さを明示することで、主人公サイドのピンチを際立たせる展開を好むのですが、その解決策を思いついていない状況でも書き進めるのだとか。JOJO四部では、ラスボスの吉良吉影を強く描きすぎてしまい、しまった・・・。これは仗助勝てないかも・・・とかなり困ってしまったというのです。

  • 一稿目で相談したいいね!ポイントが増えているか、より良くなっているかどうかの確認
  • 細かい整合性のチェック
  • 伝えなかったよくないね!ポイントが自然に消えているかどうかの確認

デビュー前はインプットしかしてこなかったけど、デビュー後はアウトプットしかさせてもらえない ベテラン作家からよく聞く言葉ですが、それくらい作品を生み出し続ける作業とは大変なのです。 しかし、鎌池さんは違いました。年が経てば経つほど、作品を出せば出すほど、全部のバロメータが増えていくのです。

いいね!ポイントは数は多ければ多いほどいいという謂わば節操の無さが特徴だったのですが、今回の勝負ポイントはもっと厳選した、まさに勝負するためのシーンのことです。

挿絵のイラストレータに選ぶポイントは全体的にいい物を描く人ではなく、特化した武器を持つ人でした。オール80点ではなく、ひとつだけの120点があるか。こういったブレイクスルーを大切にしています。

彼は、僕が仕事のミスを報告しに気た時点で、既に状況を把握していたのです。昼行灯を演じることで、現場編集者である僕が、これからも続くその仕事の後始末や今後の新たな仕事に対して変に臆病にならないように、不健全なプレッシャーが掛からないように、敢えて気軽な感じで接してくれていたのです。・・・叱ったり、起こったり、厳しく対応するだけが指導ではありません。失敗は誰でもやってしまうものですから、その後、どう頑張ろうと奮起させてやるかも指導の持つ重要な意味であることをこの時学びました。