決断力

 コンピューターの進歩したこの頃はむしろ、問題を定義されたままに解いたほうがいいのです。当然ながら鮮やかにかつ正しく解けますから、かえって実現も意外とやさしい。

知識は単に得ればいいというものではなく、知識を積み重ねて理解していく中で「知恵」に変えないと生かすことはできない。

何かを覚える、それ自体が勉強になるのではなく、それを理解しマスターし、薬籠中のものにする、その過程が最も大事なのである。

全体を判断する目とは、大局観である。ひとつの場面で、今はどういう状況で、これから先どうしたらいいのか、そういう状況判断ができる力だ。本質を見抜く力と言ってもいい。

その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力だ。直感力のもとになるのは感性である。

数学会のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した小平邦彦先生は、数学は高度に感覚的な学問であると言い、それを「数覚」と名付けている。中学校の幾何学で、図形の問題は、まず補助線が閃かないと解くのが難しいが、将棋も、この補助線のようなひらめきを得ることができるかどうかが、強さの決め手になる。

一局の将棋が初めから終わりの一手まで、一本の線になっているのが私には理想なのだ。

決断をくださないほうが減点がないから決断を下せる人が生まれてこなくなるのではないか。目標があってこその決断である。

そんな馬鹿なと思われることから創造は生まれる。どの世界でも、常識といわれていることを疑ってみることからアイデアや新しい考えも生まれるのではなかろうか。

子供は、好きなことなら時間が立つのも忘れてやり続けることが出来る。本当に夢中になったら黙っていても集中するのだ。集中力がある子に育てようとするのではなく、本当に好きなこと、興味を持てること、打ち込めるものが見つけられる環境を与えてやることが大切だ。

私は、将棋を指す楽しみの一つは、自分自身の存在を確認できることだと思っている。人生は食事をシて眠るだけの繰り返しではない。「こういうことができた」「こういうことを考えた」という部分がある。それは楽しさであり、人生を有意義にさせてくれる。私は、将棋にかぎらず、何かに打ち込んでいる人には、そういう発見があると思っている。

確かに、今の人なら、私が学んだ三年分、ご年分の知識も一冊の本を読めば一気に詰め込むことが出来る。だが、私自身は、それを理解していく過程でこうすれば早く習得できる、こうしたほうが理解が深まるという方法論を得ることが出来た。

升田幸三先生の好きな言葉に「新手一生」という言葉がある。新しい戦型や指し手を創造すると一生使える。棋士たるものは一生をかけても新しい戦型や指し手を生み出すべしというのだ。

個人のアイデアは限られている。何かをベースにして、あるいは、何かをきっかけにしてこそ新しい考えが色々浮かぶ。「真似」から「理解」へのステップは、創造力を培う基礎力になるのだ。

 

決断力 (角川oneテーマ21)

決断力 (角川oneテーマ21)

 
決断力 角川oneテーマ21

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