ボクは算数しか出来なかった

ユークリッド平面幾何は論理を教えるための最適な教材であろう。


分からない証明を分かるまで何度も繰り返し、ノートに写したりして苦心惨憺した。その時の経験によると、分からない証明も繰り返しノートに写して暗記してしまうと、自然にわかってくるようである。現在の数学の初等・中等教育ではまず分からせることが大切で、分からない証明を暗記させるなど、持っての外ということになっているが、果たしてそうか、疑問であると思う。


夏休み、冬休みなどを除くと、一年のうち講義を聴くのは八カ月、週2時間では年に64時間にしかならない。毎日8時間ずつ勉強すれば、8日で済む勘定になる。そこで、学校の講義のほうは年度末の試験の前に友人ノートを借りて勉強することにして、丸善へ行って色々な本を買ってきて端から読んだ。


ジーゲル教授が何気なく「朝9時ごろから数学の勉強を始めて夢中になって、夜半の12時まで食事を忘れることがよくある。1日分まとめて夜半に食事をすると、どうも胃の調子がおかしくなって困る」といった。私はこれはかなわない、到底常人の及ぶところではないと思った。


専門バカでないものはただのバカである。」


専門分野を一つ定めてその最先端の見通しの良いところで仕事をしていると、鮮やかな結果は出てくるけれども、あまり珍しい変わったことは出てこない。泥沼に潜って何も見えないところを暗中模索で這いまわっていると、思いもかけない珍しい結果が出てくる。新しい分野はこういう風にして生まれるのではないかと思う。

 

ボクは算数しか出来なかった (岩波現代文庫)

ボクは算数しか出来なかった (岩波現代文庫)