最新プラットフォーム戦略

原著はいいのだが、翻訳者はあまり信用できないし、訳者はじめにが残念。訳語もあまりこなれていない。ちゃんと研究者に翻訳を頼んでほしかった。
  • B2Bプラットフォームは、サプライヤーに対して何らかの報酬を支払うこともできる。そのためには、買い手に利益をもたらし、そこから得た利益をサプライヤーに還元するのに十分な価値を、フリクションの解消によって創造しなければならない。ところが明らかに、サプライヤーに還元し得るだけの価値は存在しなかったのである。アメリカのほとんどのB2B取引サイトはal.baba.com.cn(後の1688.com.cn)に類似した、オンラインモールであった。
  • 中国と異なっていたのは、アメリカの売り手は、潜在顧客を見つけるためにそれらを利用する必要がなかった、という点である。アメリカのB2Bプラットフォームは総じて、それが低減しようとしたフリクションが十分に大きくなかったために、必要な規模の売り手/買い手の獲得に失敗し、全滅した。価値のパイが小さすぎたのである。初期に参加したバイヤーは、サプライヤーの少なさに失望して去り、初期に参加したサプライヤーは利幅の少なさに失望して、去った。
  • プラットフォームは、参加によって利益を見込めるだけの十分な取引量を確保できないために、売り手\買い手をひきつけることができなかった。プラットフォームは成長せず、間接ネットワークの外部性からのポジティブフィードバック効果を生み出すことができず、風船のようにしぼんでいったのだ。

 

  • シングルサイドビジネスでは、ハーレイ、チェン、カリムの3人が直面した「さて、次の一手は?」という問題は、問題にならない。前途は多難だが、方向は明らかだ。ハムディ・ウルカヤがチョバーニヨーグルトの初回出荷分を売り出そうとした時、彼がやるべきことは、小売店に製品を置いてもらうことだった。そしてロングアイランドの小規模な店3店舗に、彼の製品のすばらしさと消費者の好反応を確信させることで、消費者の需要が生まれた。
  • 一方、マルチサイドビジネスは通常、すぐに「ニワトリと卵」問題に直面する。1998年のオープンテーブルのような、レストランと食事客のマッチメイカーは、その前方にクリアな一本道ではなく、霧深い茂みを見ただろう。まずは登録レストランの確保からはじめよう。レストランオーナーはそのアイデアを気に入ったが、ウェブサイトにはどれくらいのユーザーがいるのか、とたずねる。
  • その返事が「ゼロ」あるいは「少し」であれば、レストランは見向きもしない。マッチメイカーは消費者をウェブサイトに誘導する。消費者はチョバーニヨーグルト同様、そのアイデアを気に入るが、サイトにはレストランがほんの数店舗か、あるいはまったく登録されていないことに気づく。たった1
  • 回の悪印象が、再びサイトを訪れる気をなくさせ、友達にも悪評を振りまく。これが「協調問題」と呼ばれるものだ。どのグループも、別のグループがサービスを利用することに同意するまで、動かないのだ。
  • マルチサイドプラットフォームが協調問題に直面するのは、彼らが売っているものが基本的に、ある顧客グループを別の顧客グループに便利に接続することだからだ。ある顧客グループが棚に並んでいなければ、別の顧客グループに提供するものがない。シングルサイド企業は、この問題にぶつかることはない。通常、洗練されたサプライチェーンから必要なだけ資材を仕入れ、製品をつくり、需要を生み出すことに専念する。チョバーニは、発注した低温殺菌ミルクが届かないかもしれない、といった心配とは無縁である。

 

  • 「出会いを熱望」する顧客グループは、「出会ってもいい」グループへのアクセスを、高く価値づけるだろう。プラットフォームは「出会ってもいい」
    顧客グループの参加に対して補助の支出を惜しまず、アクセスに対してより高く支払うであろう。「出会いを熱望する」顧客グループのメンバーを増加させることで、利益を増大させることができるのだ。これは(やや性差別的かもしれないが)ナイトクラブがしばしば女性を無料で入場させ、無料ドリンクを提供する理由の、シンプルな説明となる。
  • ブエノスアイレスのナイトクラブ・ローズバー(Rosebar)は、この性差を(さらに性差別的かもしれないが)興味深い方法で利用している。クラブは広い座席と無料ドリンクを提供するVIPルームを備える。非常に高い入場料を支払う男性は誰でもVIPルームに入れるが、女性客は非常に魅力的でなければ入れない。この女性たちは一切支払う必要がない。彼らが男性客をひきつけるからだ。女性客は、VIPルーム内の男性客の多くが裕福であることに期待を抱く。たとえそのうち何人かはきわめて不快な人物であっても、だ。
  • ある顧客グループが、プラットフォーム上での取引をコントロールしている場合、プラットフォームはその支配的な顧客グループに各種インセンティブーおそらく助成金ーを提供し、利用を促進する。なぜなら彼らが利用しないかぎり交流がはじまらないからだ。これが、アメリカン・エキスプレスとオープンテーブルが利用者に対して助成金を支出し、WEX Fleet Oneカードが運送会社よりもトラックサービスエリアに対して多く課金する理由なのである。

 

  • 多くのビジネスでは、価格方針を選択する前に、プラットフォームにいくつのグループサイドを載せるのか、あるいはそもそもマッチメイカーとして振る舞うのか否かを選択しなければならない。2007年1月9日、スティーブ·ジョブズがマックワールドコンベンションのステージでiPhoneを発表した時、
    彼はそのビジネスをアプリを含めたすべてをアップルが提供するシングルサイドとして設計していた。この時点では、彼が熟考すべきはiPhone自体の価格をいくらにするかだけだったが、ご存知の通り、ジョブズは後にこの考えを翻したのだ。
  • iPodの成功により、音楽ビジネスでの目覚ましい成功を遂げつつあったスティーブ·ジョブズは、あることを心配していた。「我々のパイを奪うのは携帯電話だろう」。携帯電話メーカーが自身の端末に音楽プレイヤーをインストールすれば、iPodはもはや必要とされなくなる。構築した音楽フランチャイズを守るため、2005年アップルはモトローラと提携してiPodを搭載した端末を開発し、その流通のためにシンギュラー(Cingular=アメリカ最大の携帯キャリア、2007年にAT&Tモビリティとなる)と提携した。そして2005年9月、ロッカー(ROKR)がリリースされるが、評判は芳しくなかった。販売台数も期待に届かなかった。「ジョブズは怒り狂っていた」と評伝で述べられている。

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  • アップルは自社で携帯電話をつくることを決断した。6カ月後の2007年1月9日、ジョブズiPhoneを全世界に発表する。アップルはデザインを担当し、製造はアウトソーシングしたが、アップルが販売するすべての端末はiPhoneだった。アップルは端末を完全なコントロール下に置いたのだ。
  • アップルは、自社のマッキントッシュPCに搭載されているMacOSをベースに、新たな携帯端末向けOSであるiOSを開発し、iPhoneで独占的に使用した。他のハンドセットメーカーはiOSを使用できなかった。
  • またiTunesなどデスクトップ向けアプリのいくつかをiOSに移植し、カレンダーなどいくつかの新アプリを開発し、グーグルマップ、ユーチューブなどのアプリをすべてのiPhoneに搭載した。