NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

 
未だに年功序列・終身雇用を夢見ている脳内お花畑な人にはいい刺激になるかもしれません。中身を知りたいだけならカルチャーデックだけで十分なので、エピソードを読みたい人向けの本です。ただ、これをいくら読んだところで、日本の伝統的な大企業が実践できるとはとても思えません。ネットフリックスのライバルは同じ生産性の高いグーグルであって、自滅している低生産な日本企業ではないので、前提が違いすぎます。新卒を囲い込むべきかどうかや年功序列の維持可能性みたいな馬鹿げた議論をしている企業が参考にできるような話は残念ながら存在しないように思います(5周回遅れくらい?)。個人的にはあまり目新しい議論がありませんでしたが、「報酬」に関する議論は必読だと思います。
  • 経営陣が従業員のためにできる最善のことは、一緒に働く同僚にハイパフォーマーだけを採用することだと学んだ。これはテーブルサッカーの台を設置したり、無料で寿司を提供したり、莫大な契約ボーナスやストックオプションを与えたりするよりずっと優れた従業員特典だ。優秀な同僚と、明確な目的意識、達成すべき成果の周知徹底ーこの組み合わせが、パワフルな組織の秘訣である。
 
  •  社内のどの部署、どのチームの問題であっても、従業員がそれを自分のものとして解決するには、経営幹部と同じ視点が欠かせない。この視点があれば、事業のあちこちに潜む問題や機会を発見し、うまく対処することができる。皮肉なことに、企業はいろいろな研修プログラムに多額の費用をかけ、従業員のやる気を高め業績を測定するために膨大な時間と労力をつぎ込みながら、事業のしくみを全従業員に説明するのを怠っているのだ。

 

  • ネットフリックスでは社内の人材を登用すべきか、社外からハイパフォーマーを連れてくるべきかを判断するための目安を設けていた。「この仕事をするためには、社内で誰も持っていない専門知識が必要か、それともこれはうちがイノベーションを牽引している分野の仕事なのか?」。たとえばクラウドサービスに関しては、うちよりも優れた専門知識が社外にあったから、外から人材を引っ張ってくるほうがずっと効率的だと判断した。データアルゴリズムの開発に関しては、うちがイノベーションの最先端にいて、エリックという第一級の人材が社内にいた。ほかの職務に関しては、社外から人材を採用しなければ、私達はきっと躓いていたに違いない。

 

  • 従業員に能力を超えた仕事や才能と合わない仕事を引き受けるチャンスを与える義務はない。長年の貢献に報いるために別のポストを用意する義務もない。彼らに遠慮して、会社の成功に必要な人事変更を控える義務も、もちろんない。無情だと思われるのはわかっている。会社は従業員の能力開発に特別な投資を行い、
    キャリアパスを提示し、高い定着率を維持するために努力するものだという考えが染みついているからだ。でもそんな考えは時代にそぐわないし、従業員にとってもベストでないと、私は考えるようになった。そういうやり方では、従業員は
    意に添わない職務や、自分の思っているほどーまたは上司に求められるほどーうまくできない職務に縛られて、社外によりよい機会を求められないことが多いのだ。
  • チームリーダーにとって、部下を新しい職務に昇進させ指導することは、とてもやりがいのあることだし、業績にとってもプラスになることがある。だが部下の登用や能力開発が、チームの業績にとってベストな選択でないことも多い。マネジャーにキャリアプランナーの役割を期待してはいけない。変化のめまぐるしい今日の事業環境でその役割を演じようとするのは危険である。

 

  • 「世界中の情報を整理する」という、とんでもなく大きな使命をもっているからだ。それより大きな目標なんてあるだろうか?だからグーグルにとっては、優秀な人材をできる限り多く採用して、必要な資源がすべてそろった環境に置き、アイデアを山ほど出してもらい、そこから最高のアイデアをすくいとる、という戦略がとても合っている。グーグルのリーダーたちは事業を推進する戦略をたくさんもっているから、とにかく数を重視する。
  • ネットフリックスでは基本的に一つのことしかやっていないから、その一つのことの中の職務を果たすための適正なスキルと経験を持つ、適正な人材が必要なのだ。採用プロセスでは候補者にこう伝えた。「もしあなたが精神を解き放って、実現するかどうかもわからない革新的なことを考えるのが好きなら、グーグルが向いていますよ。うちでは一つのことしかやりません。そして一つのプロダクトで顧客を楽しませることに全身全霊を傾けています。だからそれに情熱が書けられないのなら、ぜひグーグルへどうぞ。すばらしい会社ですよ、うちとはまったくちがうだけで」

 

  • ネットフリックスは一部の職務に専門性と希少性をもたらしているため、社内の給与水準にこだわれば業績貢献者に経的損失を与えることになる。他社に移ればもっと稼げるのは確実なのだから。優秀な人材が、会社をやめない限り自分の価値に見合う金額をもらえないような制度は廃止しようと決めた。また私たちは、
    従業員に定期的に他社の面接を受けることを奨励している。これは、うちの給与が他社と遜色のない水準なのかどうかを、最も効率的かつ確実に知る方法なのだ。 
  • 給与やその他の報酬に関する情報は従業員に秘密にするべきだと考える企業が多い。私がコンサルティングを行ったある創業者は、報酬情報は医療情報のようなものだといっていた。そんなことはない。私が本当にばかげていると思うのは、
    それほどのお金をかけて手に入れた給与調査のデータを従業員に共有しないことだ。それは給与額の根拠として提示すべき情報なのに。企業は従業員に報酬の根拠を説明する努力を惜しんではいけない。
  • なぜ情報を与えたがらないかといえば、市場全体の水準からすればもっと高い報酬を支払われるべきだと従業員に思われることを恐れているからだろう。また、
    同等の価値の仕事をしている同僚より自分の給与が少ないことを知った従業員が気を悪くするのを恐れている。
  • たしかに給与は不平や噂の格好のタネになる。でもだからこそ、透明性を高めるべきだというのだ。オープンな姿勢でいれば、なぜほかの人があれだけの給与をもらっているのかと従業員に聞かれたときも、説明することができる。金額のちがいを説明する適正な根拠をもつことによって、業績志向の文化が強化される。従業員に公開できる根拠がないという場合、なぜないのかをよく考えた方がいい。
  • 報酬を適正で理にかなったものにするには、給与やその背後にある方針についてオープンに話し合うのが一番だと、私はかねがね考えている。給与情報を公開することが従業員の感情を害すると思われがちなのは、業績への貢献度よりも上司のおぼえや年功などがものをいう不条理がはびこっているせいでもある。実際の貢献度をもとに給与が支払われていれば、こんなふうに説明できる。「彼女は年俸32万5000ドルで、あなたの年俸に比べて不当に多いと思うかもしれないが、
    彼女のおかげでうちは厄介な状況から5回も抜け出すことができた。彼女の優れた決断が会社にもたらした価値を計算すると、こうなる」。当然だが、ここまで情報をオープンにするには、注意深く行う必要がある。情報を共有する理由と、給与額の根拠をきちんと伝えよう。つまり、給与を人事考課に連動させるべきだということ?いや、そうではなく、給与を業績だけに連動させるのだ。このやり方と一般的な慣行の間には大きなちがいがある。
  • マネジャーが受け入れがたい真実を繕い、従業員の解雇を最後の瞬間まで引き延ばし、部下を望まない職務や会社に本当は必要でない職務に縛りつけても、誰のためにもならない。こうしたことの結果、本人だけでなくチームまでもが無力化し、やる気をそがれ、心をむしばまれる。従業員は自分の将来性について本当のことを、リアルタイムで知る権利がある。彼らの、そしてチームの成功を確かなものにするには、ありのままを率直に伝え、新しい機会を探す手助けをするのが一番だ。 

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経書評(太田肇)

  • 勤務時間や休暇、人事評価といった制度は時代遅れになりつつあり、有能な人材を採用し、育成して昇進させるといった理念さえ通用しない。米ネットフリックス(Netflix)では常に最適な人材を獲得し、たえず布陣を入れ替える。そもそもキャリア開発は個人の責任だと伝えている。自由と自己責任が貫徹されたシステムは、「人事管理」という呼び名さえふさわしくないようだ。
  • 付け加えておくと、このような人事システムはシリコンバレーの専売特許ではなく、ヨーロッパやアジアなど世界各地へ、そしてIT系企業以外にも広がりつつある。長期雇用を前提にした社内での人材育成、細かく精緻な評価・処遇制度といった日本企業のシステムが急速に優位性を失いつつある今、対照的な世界を知るだけでも意味があるのではないか。