内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力

内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力

内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力

 
  • 性格の文化が重要視されるようになると、男女を問わず儀礼の価値が壊れ始めた。男性は女性に対して形式的な訪問を重ねて自分の意思を正式に伝えるかわりに、洗練された言葉による求愛をして、「一連の」手の混んだやり取りを求められるようになった。女性と一緒にいるときに静かすぎる男性は、ホモセクシュアルだとみなされかねなかった。1926年に刊行された本には、「ホモセクシュアルの男性はおしなべて臆病で、内気で、引っ込み思案だ」と書かれている。女性もまた、礼儀正しさと大胆さの間で微妙な舵取りをするように期待された。
  • 1950年には、エール大学のアルフレッド・ウィットニー・グリスウォルド総長が、理想のエール大生は「しかめ面の専門家ではなく、円満な人間だ」とした。・・・「学生たちの推薦状を読んでいると、大学が何を望んでいるかだけでなく、4年後に企業の採用担当者がなにを望むかまで考慮するのが常識に成っているのを感じると学長は語った。『外交的で活動的なタイプが好まれる』そうだ。『つまり理想的なのは、平均して80点から85点の成績を取り、課外活動に熱心な学生』である。『抜群の成績』でも性格が内向的な学生はあまり好まれないという」
  • 磨かれたスキルとはどんなものだろうか。誰にも見破られずに嘘の自己紹介をやってのけることだろうか。声や身振り手振りやボディランゲージを効果的に使って、どんな話でも信じさせるーどんな品物でも売りつけるー方法を身に着けなければならないのか。デール・カーネギーが子供だった時代から、それらは打算的な向上心であり、どれくらい成果(よい意味ではなく)をあげたかのしるしだった。・・・デールの両親は高い道徳基準を持っていた。息子には宗教や教育の分野に進んでほしいと期待していた。そのような彼らが「真実か嘘か」と呼ばれるスキルを高く評価するとは考えにくい。その点からすれば、カーネギーがベストセラー本に書いた、他人の尊敬を得たり他人を思いのままに動かしたりするための助言についても同じことが言えるだろう。・・・私達が重要なものを犠牲にしたことに気づかずに、人格よりも性格を重んじるようになったのには、一体どういう経緯があったのだろうか?
人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

 
  • 性格の文化の登場とともに、つまるところ、私達は利己的な理由のために、外交的な性格を築くよう促されたーこれは匿名化が進んだ競争社会で光り輝く手段の一つだ。だが、現在では、より外交的になることは成功を導くだけでなく、私達はより良い人間にすると考えられている。

内向型でも有能なリーダーたち

  • 雄弁さが洞察力の深さと相関しているのならば、なんの問題もないが、研究によればそんな相関関係は存在しない。たとえば、こんな研究がある。二人の大学生に数学の問題を一緒に解かせ、その後各自の知性と判断力を自己評価させた。早口でしゃべり、発言回数も多い学生のほうが、自分の発言が問題を解決するうえで物静かな学生の発言よりも貢献していなくても(さらにSATの数学の点数が劣っていても)、一貫して評価が高かった。また、企業立ちあげのための戦略を各自で練った場合でも、彼らは自分の独創性や分析力を高く評価した。
  • カリフォルニア州立大学バークレー校のフィリップ・テトロックが実施した有名な実験がある。テトロックはテレビで解説する専門家たちーーかぎられた情報を元に長々としゃべることで生計を立てている人々ーーによる経済や政治の予測が当たる確率は素人の予測が当たる確率よりも低いことを、実験から発見したのだ。そのうえ、的中率がもっとも低いのは、もっとも有名で自信満々な専門家だ
    ったーー つまり、HBSの教室で生まれながらのリーダーとみなされるような人々だ。
  • ウォズニアック:これまであった発明家やエンジニアの大半は僕と似ているーー内気で自分の世界で生きている。彼らはアーティストに近い。実際、彼らの中でもとくに優れた人たちはアーティストそのものだ。そして、アーティストは単独で働くのが一番いい。一人ならば、マーケティング委員会だのなんだのに意見を挟まれることなく、自分の発明品の設計をコントロールできる。本当に革新的なものが委員会によって発明されるなんて、僕は信じていない。もし君が、発明家とアーティストの要素を持ったたぐい稀なエンジニアならば、僕は君に実行するのが難しい助言をしようーーひとりで働け。独力で作業してこそ、革新的な品物を生み出すことができる。委員会もチームも関係なく。

高反応な子供と低反応な子供

  • ケーガンの研究チームは、子供たちに刺激を与える際に、心拍や血圧や指先の温度や、神経系のさまざまな数値の変化を測定した。それらが脳内の扁桃体と呼ばれる器官によってコントロールされると信じられているからだ。扁桃体大脳辺縁系の奥に位置し、ラットなど原始的な動物にもある原始的な脳だ。「感情脳」とも呼ばれ、食欲や性欲や恐怖といった根源的な本能の多くを司っている。
  • 扁桃体は脳内の感情スイッチの役割を担っており、外界からの刺激を受けるとそれを脳の他の部分へ伝え、神経系に指令を出す。その機能のひとつは、外界の新しいものや脅威になるものの存在ーたとえば、飛んでくるフリスビーや、シューッと音を発して威嚇するヘビーーを即座に感知して、瞬時に闘争-逃走反応の引き金を引くことだ。フリスビーが顔面を直撃しそうに見えたとき、屈んで避けなさいと命じるのは扁桃体だ。ガラガラヘビが鎌首をもたげて威嚇してきたとき、逃げなさいと指示するのも同じだ。
  • ケーガンはこんな仮説を立てたー生まれつき扁桃体が興奮しやすい乳児は外界からの刺激に対して大きく反応し、成長すると、初対面の人間に対して用心深く接するようになる。そして、この仮説は立証された。つまり、生後四カ月の乳児が刺激に対してまるでパンクロッカーのように大きく手足を握って反応したのは、外向型に生まれついたせいではなく、彼らが「高反応」であり、視覚や聴覚や嗅覚への刺激に強く反応したせいだったのだ。刺激にあまり反応しなかった乳児は内向型だからではなく、全く逆に、刺激に動じない神経系を備えているからなのだ。
  • 外向型は「社交的」で他人を思いやり、内向型は他人と触れ合うのを好まない「人間嫌い」だという説がある。しかし、ケーガンの研究では、乳児は人間に対して反応しているのではない。アルコールを含ませた綿棒に反応している(あるいは反応していない)のだ。破裂した風船に反応して手足を動かす(あるいは動かさない)のだ。高反応な赤ん坊は人間嫌いではなく、たんに刺激に敏感なのだ。
  • 内向型が外向型の好む雑音レベルで、あるいはその逆で、ゲームをすると、全く違う結果が出た。内向型は高レベルの雑音で覚醒されすぎて、単語ゲームの結果が悪くなり、5.8回で正答できたものが9.1回かかった。
  • 皮膚の電気伝導度を測定して、騒音や強い感情などの刺激に対する発汗量を調べた。その結果、好反応の内向型は発汗量が多く、低反応の外向型は少なかった。低反応の外向型は、文字どおり「皮膚が厚く」、刺激に敏感で、反応はクールだった。・・・社会的な「クール」という概念はここから来ている。・・・嘘発見器ポリグラフ)は皮膚の電気伝導度の検査とも言える。
  • 権力からセックスやお金にいたるまで、様々な報酬を求める傾向によって、外向型は性格づけられているというのだ。彼らは経済的にも政治的にも、そして快楽の点でも、内向型よりも大きな野心を抱いている。・・・外向型の人間が持つ社交性は報酬に敏感だからこその機能ということになる。人付き合いが本質的に心地いいから、外向型は社交的にふるまうわけだ。
  • 内向型が外向型よりも賢いということではない。・・・課題数が多い場合、特に時間や社会的プレッシャーや、複数の処理を同時にこなす必要があると、外向型のほうが結果がいい。外向型は多すぎる情報を処理するのが内向型よりもうまい。内向型は熟考することに認知能力を使い切ってしまうのだと、ジョセフ・ニューマンは言う。何らかの課題に取り組むとき、「100%の認知能力のうち、内向型は75%をその処理にあてるが、外向型は90%をあてる」と彼は説明する。これは、たいていの課題は目的を達成するものであるからだ。外向型は当面の目標に認知能力のほとんどを割り当て、内向型は課題の処理がどう進んでいるか監視することに認知能力を使うのだ。
  • フローを経験する鍵となるのは、行動がもたらす報酬ではなく、その行動自体を目的とすることだ。チクセントミハイはフローが起こる条件について、人間が「報酬や懲罰などを全く考えないほど社会環境から自由になったときである。そういう自律的な境地に達するには、自分で自分に報酬を与えることを学ばなければならない」
  • バフェットは過去の実績を誇りに思っているだけでなく、つねに自分の「内なるスコアカード」にしたがっていることも誇りに思っている。彼はこの世界を、自分の本能に焦点を当てる人と、周囲に流される人とに二分している。「自分であれこれ判断するのが好きなんだ」とバフェットは投資家としての人生を語る。「システィーナ礼拝堂の天井画を描いているようなものだ。『なんてすばらしい絵だろう』と褒めてもらうのはうれしい。けれど、それは自分の絵なのだから、誰かに『なぜ青ではなく、もっと赤を使わないんだ?』と言われたら、それで終わり。あくまでも自分の絵だから。彼らがなんと言おうがかまわない。絵を描くことに終わりはない。それがなによりすばらしいことのひとつだ」