MONEY もう一度学ぶお金のしくみ

きわめて経済学的にまっとうな「お金」の教科書、第10章「日本」は日本人なら知っておくべき。

 

 あの小さな円盤や紙切れの本質は何だろうか。そのもの自体は役に立つように見受けられないのに、それでも経験則に反して、もっとも有用な商品と引き換えに手から手へ受け渡される。それどころか、だれもがそれを手に入れるためにいそいそと自身の商品を手放そうとするのだ。カール・メンガーオーストリア学派創始者、1892年)

 

2009年、北朝鮮が紙幣の金額からゼロを2個取り去った新通貨を発行した。新通貨1ウォンは、旧通貨100ウォン相当とされた。

これまでさまざまな国が、インフレと戦うツールとしてゼロを減らした新通貨を発行してきた。1994年、ブラジルは全く新しい通貨レアルを発行して、インフレに苛まれたクルゼイロレアルに換わる存在とした。政府はこのまっさらな新レアルは2750クルゼイロレアル相当であると発表した。

旧通貨を新通貨と自由に交換できるかぎり、このどれも消費者にとって本質的によくも悪くもない。・・・購買力には何の変化もない。

北朝鮮が通貨改革を断行したとき、政府は一定額-公式レートでおよそ690ドル相当(闇市場レートでは、たった35ドル)-の旧通貨しか新通貨と交換できないと発表した。旧通貨を大量に保有していた人は、蓄えた財産の大部分を失った。それこそが狙いだった。北朝鮮政府は公式な配給を基盤とした経済の外で行われる、闇市場の活動を容認できなくなりつつあった。

当然ながら、北朝鮮の一般市民の多くは、冬とハルを植えずにしのげるように現金を蓄えていた。通貨改革の発表後、北朝鮮から漏れ伝わるわずかなニュースによると、貯蓄のある人達は旧通貨を新通貨に変えようと家路を急ぎ、「市場と鉄道の駅では混乱」が見られたという。北朝鮮の人々が割り当て分の旧通貨を新通貨と交換できたのは24時間のみだったのだ。

亡命者の一人「一日であり金すべてが消えました。ショックで病院に担ぎ込まれた人たちもいました」

 

2004年に連邦刑務所での喫煙が禁じられて以来、アメリカの刑務所内取引の代表的な存在になったのが、パック入りのサバ、「マック」だ。

サバは刑務所の外では、ディスカウント店でも人気がない。でも刑務所では、ツナ、カニ、鶏肉、牡蠣より売れ行きがいいー理由の一つは、サバのパックは売店ではおよそ1ドルで販売されていて、マックを単位とするとドル計算がしやすいからだ。

econ101.jp

 

現代経済が繁栄しているのは、人々が特定の財やサービスの生産に特化して、それをまた別の財やサービスの生産に特化している他の人々と取引できるおかげだ。お金はーどんな形をとっているにせよーそれを容易にする。

英『エコノミスト』誌・・・地球外生命体に、金塊でいっぱいの部屋、20ドル紙幣の山、コンピュータスクリーンに映る数字の羅列を見せても、それがどんな機能を持つのか当惑するだろう。これらを我々が尊重するのは、かれにとってはニワシドリのオスの行動(つがいを惹きつけるために、きらきらした物で巣を飾る)のように、奇妙に思われるかもしれない。お金は目的のための手段だ。特化と取引を円滑にして、私たちの生産性を高めて、もっと豊かにする。

 

 お金には耐久性がもとめられる。退職後の備えが枯れたり、解けたり、腐ったり、錆びたり、ネズミに食われたり、消えてしまったりしたら嫌だろう。

ジンバブエは最終的に自国通貨を廃止して、通貨として米ドルを選んだので米ドル紙幣が流通しているけれど、硬貨はないに等しい。ジンバブエの行商人は、ドルを受け取ってお釣りをキャンディやマッチ、コンドームで返してくることもある。

貴金属を追加で生み出すことは(少なくとも安価には)できない。米やタバコのような財は栽培できるが、時間と資源を必要とする。ジンバブエロバート・ムガベほどの専制君主も、米を100兆トン生産するようには政府に指示できなかった。彼にできたのは新ジンバブエドルを何兆も生み出して配布することだったため、最終的には通貨としての価値よりトイレットペーパーとしての価値のほうが高くなってしまった。月ごとのインフレ率が最高潮に達した2008年11月には、ジンバブエのインフレ率はおよそ800億%だったと計算されている。

 

 法定通貨は繁栄と安定性を促すと主張する。黄金、銀、その他の商品に裏付けられた通貨を使うよりも、こっちのほうがうまくいっている。

 シカゴ大学ブースビジネススクールでは、様々なイデオロギーを持つ著名な経済学者たちを対象に、現代の政策問題について定期的に調査をおこなっている。2012年、ブーススクールでは約40人の経済学者たちにつぎの質問をした。アメリカが原稿の法定通貨の代わりに、一定量の黄金で裏付けられたドルを使うとしたらーつまり金本位制の復活だー物価の安定と雇用面でみると、平均的なアメリカ人の生活は良くなるか?答えはゼロ。一人も居なかった。IGMフォーラムを筆者は何年も見守ってきたけれど、他の質問で回答が全員一致したことは一度もない。

 要するに、経済学者たちは現代経済では内在的価値を持たない通貨のほうが、一定量の商品に固定された通貨よりはるかに望ましいと信じている。お金の決定的な特性の一つが希少性であることを踏まえると、これはまったく直観に反した考え方だ。

 

第二次世界大戦中、ナチスドイツはイギリス政府に揺さぶりをかける狡猾な作戦を仕掛けた。・・・兵器となったのは偽造貨幣だ。・・・目的はイギリスに偽造紙幣を大量に流入させて、英ポンドへの信頼、ひいては経済全般への信頼を損なうことにあった。・・・1945年には、流通ポンド紙幣の約12%(額面で計算)が偽札だった。

【文庫】 ヒトラー・マネー (文芸社文庫 マ 1-1)

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ヒトラーの贋札 (字幕版)
 

 結局この偽造計画はうまくいかなかったようだけれど、その理論自体は実にしっかりしたものだった。およそ50年後、同様の計画がジンバブエで見事に進められた。通貨が國に溢れ、その価値は無に等しくなって、商人たちは紙幣を数えずに重さを量りだした。2008年7月4日、ハイパーインフレが頂点に近づき、首都ハラレの酒場では、ビールいっぱいの値段が1000億ジンバブエドルになった。1時間後には、同じ酒場の同じビールが1500億ドルになっていた。

ジンバブエハイパーインフレ兵器を自国向けに使った。第二次世界大戦のたとえを続けるなら、イギリス政府がロンドンを爆撃するようなものだ。

 

航空会社はあまりに多くのマイル通貨を発行しすぎている。

過剰なマネーサプライの増大は、ハイパーインフレか通貨の切り下げをもたらしかねない。

降雨空会社は、無料航空券との引き換えに必要なマイル数を引き上げてもいい。これが古典的なインフレだ。

国がお金を見境なく発行すると、物価は上がるー当の無責任な政府が物価上昇に歯止めをかけようとしないかぎり。

2012年、ベネズエラはよくある理由から、インフレ率が世界一高いー年間30%ー国の一つに数えられていた。ポピュリストの大統領ウゴ・チャベス箱の問題を解決しようとして、無責任な金融政策に、ダメな政府の教科書から持ってきた別のアイデアを追加した:価格統制だ。

チャベス政権は様々な財、とくに貧民の生活必需品に上限価格(プライスキャップ)を設けた。つまり大衆向け商品は、需要が供給を上回るとき通常生じる価格上昇が許されなかった。するとこれらの商品は売り切れてしまった。その上、統制価格はしばしば生産コストより低かったので、多くの企業が生産を減らした。・・・「食料品の買い物は行き当たりばったりの仕事になった。」

ミルトン・フリードマン「インフレはいつでもどこでも貨幣的現象である」

 

 (アメリカ)映画史上で、興行収入の上位5%を占める映画はなんだろうか。

  1. スターウォーズ、フォースの覚醒(2015)
  2. アバター
  3. タイタニック
  4. ジュラシック・ワールド
  5. アベンジャーズ

でもアベンジャーズだって?あの映画が風と共に去りぬよりも興行的に成功だったって?ゴッドファーザーよりも?ジョーズよりも?いやいや、それはない。

映画のチケット代が10年前、20年前、50年前よりも高いせいだ。商業的成功を本当に示す指標は、インフレ調整した興行収入だ。・・・アメリカで史上最高のインフレ調整済み興行収入をあげた映画は何だろうか。

  1. 風と共に去りぬ
  2. スターウォーズ(1977)
  3. サウンド・オブ・ミュージック
  4. ET
  5. タイタニック

 実質値では、アバターは14位、アベンジャーズは29位まで急落する。

 

パンフレーション・・・1970年代以来、価値が下がっているのはアメリカドルだけじゃない。私たちはサイズのインフレの万円にも悩まされているらしく、どのサイズの衣服も着実に大きくなりつつある。女性用パンツのサイズ14は、現在では1970年代当時に比べて10センチ大きい。そう、サイズ14は昔のサイズ18で、サイズ10が昔の14だ。・・・女性は小さいサイズに体が入ると喜んで、消費したがる傾向にあるとファッション業界は考えているらしい。

 

累進所得税・・・ある家系の世帯所得が10万ドルから11万ドルになった理由が単なるインフレなら、その家計は高い税率を負わされるべきでないことは認めてほしい。購買力でみると、まったく裕福になっていないのに、税制面で裕福になったかのように扱われるべきではない。結果として、「ブラケット・クリープ」(給料の額面が高くなったために、家系が負担する税率が高くなるが、給与の実質価値は伸びていない現象)を避けるため、所得区分はインフレ調整されている。

 

ボスキン委員会は、CPIは生計費の変動を系統的に年間1.1パーセントポイント過大評価すると結論づけた。・・・この上方バイアスは、社会保障、保険医療、防衛以外のどの連邦制度も上回る政府支出の原因であり、修正せずに放置すると、一見小さな子の手法的誤差が、1996年から2008年の間に国家債務をさらに1兆ドル積み増す結果になると、ボスキン委員会は指摘した。

指数化に連鎖式CPIを使っていれば、社会保障給付金額の伸びはもっと緩やかだっただろう。それは(社会保障給付金の)削減といえる。

緊縮財政派にとって見れば、数十年前から給付金の算出式に誤植があって、誰もが正当な金額より多くを受け取っていたようなものだ。

 

サンフランシスコのFRB職員の説明によると、「(食料とエネルギーの)価格が頻繁に急激に上下しても、価格の撹乱がその経済の全般的な物価水準の動向の変化とは無関係な場合もあります。むしろ、食料とエネルギーの価格の変動は、後に覆(くつがえ)りかねない一次的要因としばしば関係しています。幹線道路で警察車両とすれ違って、強くブレーキを踏み込むようなものだと考えてほしい。たしかに速度は落ちているけれど、いつもの運転速度は正確に表れていない。」

 

期待インフレ率・・・アメリカ政府が1996年に導入した単純ながら協力な債券:米国物価連動国債(TIPS)のおかげだ。

 

貸し手である中国にとっての危険は、アメリカがデフォルトに陥ることではない。彼らの心配はむしろ、議会がFRBに支持して新たにドルを発行し、借金を返済して、既存のドルを減価させ、大規模なインフレを起こして、実際に借りたよりはるかに少ない返済で、貸し手である中国への法的義務を果たすー実質的にはデフォルトするーということだ。

 

人の心理学はややこしい。人々は物価の変動に気づかないわけじゃない。無視したほうが楽なことが多いだけだ。この奇行が持つ意味はたいへん大きい。たとえば物価が安定しているとき、労働者は3%の減給に抵抗するけれど、4%のインフレにおける1%の昇給は受け入れる。

エルダー・シャフィール、ピーター・ダイアモンド、エイモス・トベルスキー「貨幣錯覚の意味は、ゼロインフレと低インフレ率の対比に当たって検討するべきもっとも重要な要素であるかもしれない」

 

 銀行家は特異なことをしてきた:世界の主な宗教をまとめて敵にまわしたのだ。イエスは両替商を寺院から追放した。ムハンマドは高利貸しを禁じた。ユダヤ教の律法では、すべての負債は7年ごとに免除することが定められている。一貫した信条として、金貸しはどこか不正で非生産的だと考えられている。経済学者は、まったく違う見方をする。金貸しは銀行の良い部分だ。本質は、遊休資本を生産的に使える人々の手に託すことにある。

 

 昔々、各国は強い通貨に誇りを持ち、経済と政治の力の象徴とみなしていた。最近では、外国為替市場は、ブルワーカーの広告に出てくる貧弱な坊やだらけで、全員が顔めがけて砂を蹴立てられたがっている。

2010年にWSJは・・・「少なくとも6カ国が積極的に通貨価値の引き下げに取り組んでおり、中でも目立つのが日本で、5月以来14%上昇した円の増加を止めようと試みている」

フットボール感染で、よく見ようと立ち上がるようなもの・・・イギリスのサッカーと通貨の減価について・・・誰の視界もよくなっていないが、全員かなり居心地が悪くなる

バリー・アイケングリーンのような金融専門家達によると、通貨の弱体化を伴う金融政策の緩和(金利の引き下げ)は、特にデフレがインフレよりも深刻な問題として迫りつつある状況では、世界的な景気回復のための重要な手段だ。

いくつものデパートが揃って大規模なセールを開催する状況だ。揃って同じ割引率を提示しているため、どこも競争相手から顧客を盗みとれない。でも価格低下は人々に再び買い物をさせる重要な刺激で、全体としては店にとって良いことだ。

 

 金本位制は、世界の通貨を相互に固定する方法を示す、重要で直観的な例だ。・・・世界の通貨が黄金にリンクしていれば、通貨同士も互いにはっきりとリンクしている。

金本位制には、不景気を悪化させて不況に変えかねないことは、1930年代に実証されたと言えそうだ。(1929年のアメリカのように)経済が弱っているとき、最善の制作対応は、金利を引き下げて需要を刺激することだ。でも低金利は、他国の人々がアメリカ以外のどこかに投資するためにドルを黄金に買える需要を生み、黄金は国外へ流出する。結果としてジレンマが生じる:国の金準備を守るには、中央銀行金利を引き上げなければならないー弱い経済がその逆を必要としていても。

 

エクアドルのキトの空港に到着したら、100ドルで現地通貨がいくら手に入るだろうか?ははは、ひっかかったな!両替は必要ない。エクアドルの正規通貨は米ドルだ。

最大の欠点は、独自の金融政策を実施できなくなってしまうことだ。FRB金利を決定するにあたって、エルサルバドル(あるいはエクアドルパナマ)の経済状況をあまり考慮しない。

 

通貨同盟の大きな欠点は、加盟国が独自の金融政策を定める力を失うことだ。

グレゴリー・マンキュー「欧州中央銀行はヨーロッパ全体の金利を定める。だが、ある国の情勢ーたとえばギリシャーがヨーロッパの他の国々と違っていたとしても、その国はもはや自国の問題に対処する金融政策を持てない。」

 

 短期金利がほぼゼロだったので、FRBはゼロ下限で動いていた。FRBは、短期名目金利をゼロ以下にする実務的な手法を持っていなかった。

金利の将来計画についての「フォワード・ガイダンス」を発表した。FOMCは、様々な時点で、ある一定期間とか、経済が何らかのベンチマークを達成するとかまでは金利は低いままにしておくと宣言してきた。これは債券購入者に「おい、短期金利は今は低いし、それが来年も低いと約束してあげるから、今二年物の国債を買うなら、その金利が低くても文句言うなよ」と言っていることになる。

FRBはそのお金を作り出す権限を使い、長期国債を購入した。これが量的緩和QE)のやろうとしたことだ。・・・その結果として需要は増え、それだけ金利は下がった(需要と供給の話だ。長期債の需要が増えれば、発行者ーこの場合は財務省と連邦機関ーは低金利国債を販売できる。)。

ベン・バーナンキ「これは実は名前を変えた金融政策に過ぎない。短期金利に注目する代わりに、我々は長期金利に注目はしていた。でも経済を刺激するために金利を引き下げるという基本的な論理は同じだ。」

 

2009年5月4日、『ニューヨーク・タイムズ

ポール・クルーグマンプリンストン大学教授)は、賃金下落が家計債務を悪化させかねず、回復を抑え、デフレと経済停滞をもたらしかねないと警告していた。だからもっと経済刺激をやれと言う。・・・アメリカが日本になってしまうというリスクー何年にも渡るデフレと停滞に直面するというリスクーは、どう見ても高まっているようだ

アラン・メルツァー(カーネギーメロン大学)は状況についてちがった見方をしていた。かれはFRB画素の職務をはるかに超えたことをやったと糾弾し、それがまちがいなくインフレをもたらすと述べた。「独立した中央銀行は、このFRBがやったようなことはしない」・・・次の数年間でFRBはインフレ上昇を無視できなくなる

 

そう、だれも日本になりたくはない。日本は30年に渡り世界最速で成長する経済だったのが、過去18年にわたり這いずるような速度にまで減速してしまった。堕ちた天使だ。誰も日本が繰り返し体験したような、デフレのトラウマを抱えて暮らしたくはない。ケネス・ロゴフ

 

体重を減らすというのがデフレの比喩だと認識できれば、彼がこの演説をしたというのも理解できるはずだ。不換通貨の歴史ー政府が好きなだけお金を造れる時代ー似合って、悩みはいつもインフレだった。無責任な政府は、お金をたくさん作って支払いができる。結果として生じるインフレは、既存の政府債務の価値を減らす。その過程でもちろん、物価上昇のためにそのお金を使っている市民たちは損をする。余計なお金を擦れるというのは、金融政策のチョコバーに等しいーなかなかやめられないのだ。

この無責任な誘惑ーチョコパフェの上にカラメルソースたっぷりーの見本がジンバブエなら、日本は奇妙な例外だ。・・・物価が下落していると、名目金利が安く見えても、実質金利はかなり高くなったりする。消費者たちは購入を先送りして価格が下がるのを待つ。負債の実質価値は上がってしまう。不動産などの資産価格は下がり、家計は富を失って、そうした資産を担保として持つ銀行も被害を受ける。

 

2011年にウォール・ストリート・ジャーナル・・・日本は長年にわたり経済学者たちにとっての謎だった。それはまるで、微熱が続く患者で、それが悪化するわけでもなく、改善するわけでもなく、治りもしないようなものだ

日本は豊かな国だけれど、人口は減少して高齢化しつつある。公的債務もきわめて高いし、組織化された政治的集団の利害が必ずしも経済全体の健康とは一致していない(デフレは貯蓄のある人や、固定収入を持つ高齢者にはありがたい)。

三菱地所が1989年にロックフェラーセンター筆頭株主になったとき、ニューヨーク・タイムズはこの取引について「日本人がアメリカの風景の重要な一部を買い取り続けている最新の事例の一つでしかない」

ご想像通り、銀行はこのバブルに融資した。銀行は景気循環に乗っかる。つまり、景気が良いと融資を増やし、悪くなると融資を減らすーこれにより経済的な変動を増幅してしまう。もっと口の悪言い方をすると、価格が上がると銀行家たちはバカみたいに見境なくなるということだ。日本政府も日本銀行も、酒池肉林の大宴会が進行中なのは分かっていた 。

 不動産価格と株価の急落は日本の銀行を始めとする金融機関に、すさまじい資本損失を生じさせた。家計もまた、巨額の富を消失させた。

ニューヨーク・タイムズ三菱地所が突然ロックフェラーセンターから撤退を決めたのは、ニューヨークからホノルルに至るまで日本企業が1980年代に不動産大盤振る舞いで購入した、目立つ不動産物件からの一連の撤退の中で、最も衝撃的なものだ」

円の急激な増加は日本の輸出業者にとってはつらいものだった。それでも、街頭で暴動が起きたりはしなかった。それどころか、預金保険のおかげで一般市民は銀行破綻から隔離されており、おかげでチャールズ・キンドルバーガーをして「パニックなき破綻」と言わしめたものが生まれていた。

政策担当者たちはほぼ間違いなく、やるべきことをやりたがらなかった。代わりに生まれたのがゾンビ企業だった。

シカゴ大学ブースビジネススクールの経済学者アニル・カシャップは2006年に、金融システムの清算には日本のGDPの2割ほどかかると試算した。誰も救済なんかしたくないけれど、日本の根本的な問題はお馴染みのものだ。ブーム、破綻、不良債権、銀行破綻。ここで日本は、伝統的な台本から大きく逸脱した。清算するかわりに、対応はおおむね、問題がないふりをするということに終始したのだった。

規制当局は、債務超過の借り手に融資を継続するよう銀行に圧力をかけた。このプロセスは通称「追い銭」と言って、いずれ避けられない企業の破産を先送りにした。ある研究の試算によれば、2000年代初頭には製造業、建設、不動産、小売、卸、サービス部門の日本企業のうち、3割という衝撃的な割合が銀行からの「生命維持」に頼っていた。これらは通称ゾンビ企業と呼ばれたー経済的な意味では死んでいるのに、動きだけは生きているような形を採っている。

ゾンビ企業は多くの短期的な経済ニーズを満たすものではあった。政府は倒産と失業を避けるために、破産寸前の企業を支えたくてたまらなかった。銀行は、追い銭がデフォルトを防いで自分たちのバランスシートの問題がいかに深刻か」を隠してくれたので、役所の言うことをきいた。預金者は損失から隔離されていたので、自分の銀行がどれほどひどい融資をしていようと、資金を引き出そうと殺到することもない。みんな、万事快調のふりをした。

ケネス・ロゴフは、日本の何十年にも渡る問題を「スローモーションの危機」とよんでいる。短期の救済は、長期的な改革を阻害した。ゾンビ企業を生かしておくために、死んでいるべき企業に資本が振り向けられ、革新的で高効率の企業がそうした産業に参入しにくくなった。儲かっていない企業相手に競争してお金を儲けるのはむずかしい。ゾンビたちは追い銭融資(これは基本的に政府の補助金だ)を使い、不自然な高賃金を支払い、非現実的な価格を製品につけた。アニル・カシャップはこう結論づけている。「経済危機について極めて近視眼的な見方をすることで、政治家や規制当局は全員をまちがった場所から抜けられなくしてしまった」

2003年のIMF報告書・・・長引く予想外のデフレは金融政策の有効性を妨害し、金融市場の活動を妨げ、企業の収益性を圧迫し、民間と公共の債務負担を増やした。

ケネス・カットナーは2000年に、当時日銀総裁だった早見優が行った演説についてこう述べている。『彼は日本のデフレが有益か、少なくとも無害であると断言し、対策のための製作手段について強硬に反対した。』

第二次世界大戦後のハイパーインフレが、無責任な金融政策に対する永続的な恐怖心を日本人に植え付けたのだ、と(衆議院議員の一人は)説明した。

 安倍は「経済の三本の矢」を掲げた。もっと財政刺激策を出して経済を一気に始動させる。大量の金融拡大でデフレを終わらせる。構造改革で日本の長期効率性を改善、というものだった。これぞ人呼んで、アベノミクスだ。

 

 2005年にアイダホ州ボイシー市は、公の場での全裸を禁止したが、「真面目な芸術的」表現は例外にした。その直後、ボイシー市のエロチック紳士クラブは「芸術ナイト」を開催するようになった。パトロンたちは鉛筆とスケッチブックを渡され、全裸の女性をヨダレを垂らしつつ眺めるのだ。警察はこのクラブが法を破った(@警官たちは、パトロンたちが芸術に専念していないと結論した」から)としてこのクラブを書類送検した。それでも、この巧妙さには脱帽だーそして規制当局なら、この巧妙さは恐れるべきだ。

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 金融システム規制は、もぐら叩ききみたいなものだ。金融屋は小利口な連中だ。他のみんな同様、政府の指図は嫌う。規制当局が金融システムのある弱点を修正しようとしたら、他の違う問題の扉を開けてしまうことが多い(例えば影の銀行システムの台頭など)。

規制がもたらす費用や不便をひたすら嫌がるばかりで、そうした予防措置が債務危機や不動産暴落を防いだかも、なんてことはまったく考えない。問題が起きる前に止めても英雄に離れない。もちろん、それこそが最も成功といえる政府介入なのだ。そしてなにか悪いことが本当に起きたら、規制当局はそれを阻止できなかったと罵倒される。

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