異見交論40「国立大学法人化は失敗だ」山極寿一氏(京都大学学長)

  • グローバル時代を迎え、企業は安い人材、また高度な人材を求めて海外へ出口を求めた。日本の大学との連携は全然、進まなかった。いまだに一括採用が横行し、見ているのは大学入学時の偏差値と大学のブランドだけ。

  • 国が大学に求めているものは、前のめり型の国際競争で企業に資する人材育成だ。だから「大学はなっていない」とか「大学の研究力が落ちている」と言っている。研究力といっても、国は論文数しか見ていない。

  • 法人化以来、運営費交付金を削減し、一方で競争的資金を打ち立てるから、研究者はその獲得競争に邁進して、実際の研究時間を減らしている。現状では、明らかに研究者の数と研究時間が減っているのに、企業はますます躍起になって「高度人材育成」「社会に役立つ人材」を求める。政府と企業のミスマッチ、企業と大学のミスマッチが起きているのだ。

  • 研究成果をあげれば、地位の上昇につながる。自分が大きな外部資金を得ることにもつながる。となれば、いきおい研究不正も増える。
  • 一律の指標をもとに財務省から文科省が一生懸命お金を取って、それを実現するという方向になっている。旧ソ連がやっていた計画経済、その失敗例と同じことしているわけだ。こんなことをやって、一体何になるのか。
  • 研究型大学が研究だけに特化することは、公共財であることに反する。総合大学としての大きなミッションは、幅広い教養と幅広い出口を保証することだろう。

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