MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

かつて、起業家になるのは大変なことだった。・・・ところが、今の僕らは、なんの苦もなくウェブの恩恵にあずかっている。 ・・・もちろん、失敗することもあるだろう。だがその大小は、クレジットカードの支払滞納くらいのもので、生涯にわたる汚名や貧困ではない。ウェブの凄さは、それが発明だけでなく生産の手段をも民主化したことだ。事業アイデアがあれば、ソフトウェアのコードを組むだけでそれを商品化できる。

デザインをいよいよ製品化するときには、大企業に頼み込んで自分の特許をライセンスして貰う必要はない。自分で製品を作れるからだ。・・・ここ20年間のオンラインの歴史は、過去に例のないイノベーションと起業の爆発的な増加の歴史だ。・・・オートメーションの流れはこれからも続くー大手製造業が先進国で創業していくには、そうするしかない・・・中小企業の役割は大きく変わるだろう。スタートアップ企業がテクノロジー業界におけるイノベーションの原動力であるように、・・・起業家や個人発明家のエネルギーと創造力は、製造業を再構築し、その過程で雇用を生み出すようになる。

スティーブ・ジョブズ「一見かなり複雑そうなことでも、探求と学習を通して理解できると知ったことは、大きな自信になった」

僕達がオンラインの世界に生きているという人もいるが、日常の出費や生活となると、それは誤りだ。僕らは物に囲まれたリアルワールドに生きていて、食べ物や服、車や家が欠かせない。・・・ビットの世界は刺激的だが、経済のほとんどはアトムでできている。

 ヴェンカテシュ・ラオ「蒸気機関の最大の功績は、新天地の植民地化を助けたことではなく、時間の植民地化を始めたことにある。・・・余ったエネルギーから生み出されたアイデアは、さらなる時間を生み、その一部が次のアイデアを生むために費やされることで、さらに時間を生む。そこに好循環が生まれるのだ。」

現代のメイカー的家内工業は、市場への販路を支配する工場に品物を納入するのではなく、自分のウェブサイトで、またはエッツィイーやイーベイといった市場を通して世界中の消費者に製品をオンラインで直接に販売する。19世紀の職人と違って、工場からの注文を待つこともなく、独自の製品を発明し、自分だけのマイクロブランドを築こうとする。安い労働力が優位となるコモディティ市場の中で価格を競うのではなく、イノベーションで競争する。独自のデザインを開発し、大量生産品を意識的に避けるような限られた顧客に向けて、プレミアム価格で販売することもできる。

ついこのあいだまで、世界最大規模のコンピューティング施設は政府や巨大企業や研究所のためのものだった。今、それが皆さんのために働いている。

3Dデザイン共有サイトのシンギバーズを訪れた。すると、そこはザ・シムズと同じ世界だった。・・・ありとあらゆる(ドールハウス用の)家具が揃っていて、ダウンロードし放題だった。・・・20分後には、それが手の中にあった。無料で、お手軽で、リアルな世界よりもはるかによりどりみどりで、アマゾンでさえこれにはかなわない。

weekly.ascii.jp

www.thingiverse.com

 10年か20年後の見らに時計を早送りしてみよう。3Dプリンタは、早くて静かになり、プラスチックから木材から食品まで、様々な種類の素材を使えるようになるだろう。・・・今ある最高の玩具工場よりも、なめらかな表面の製品を作ることができるだろう。

ブロックバスターによる独占は終わったのだ。マスマーケット文化は、ロングテールをもつマイクロマーケットに変わった。・・・人間は、20世紀の市場が思っていたよりもずっと多様だったのだ。僕らが若かった頃、店舗での品揃えが限られていたのは、当時の小売業の経済合理性によるもので、人間の嗜好に幅がなかったからではない。人はみな、異なる欲求とニーズをもつ、唯一無二の存在だ。インターネットには、物理的な市場にはない、僕達全員の居場所がある。

20世紀に特有の3つのボトルネック

  1. 大量生産に見合う
  2. 大量流通に見合う
  3. 消費者の目にとまる

オンラインでグローバル市場に販売すれば十分な需要が見込めるため、より多くのニッチ商品が製造されるようになってきた。・・・本当のウェブ革命は、豊富な品ぞろえ辛子なものが選べるようになったことではなく、僕達が自分のためにものを製造し、それを他の人達も利用できるようになったことにある。・・・企業の後ろ盾や学歴がなくても、才能と情熱があれば、聴衆を見つけられるようになったのだ。

ルーファス・グリスコム「これは、アマチュアルネッサンスなのだ」

製造業は、今やウェブのブラウザからアクセスできるクラウドサービスの一つとなり、誰でも必要なときに必要な分だけ、巨大な工業インフラのほんの一部を利用できるようになった。・・・エリック・リース「製造手段を所有しているかどうかは、問題ではない。製造手段の借り手であることが重要なのだ。」

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

 

 人間はある水準まで満ち足りると、高給でもやりがいのない仕事より、給料は劣っても(といっても生活が保証されれば)やりがいのある仕事を、むしろ積極的に選ぶ・・・エリック・ハーストの研究では、起業家の半数は、金儲けのためだけでなく幸福を追求するために起業するという。

消費者には、自分が創造に手を貸したと感じる製品をより高く評価する傾向・・・「イケア効果」・・・ダン・アリエリー・・・1950年台にインスタントケーキミックスが発売された当初は、拒否反応が起きた。ケーキミックスはお手軽すぎて、主婦の労働や技術が過小評価されると感じた人がいたからだ。その後、食品会社は、レシピを変え、ミックスに卵を加えるようにした。・・・手作業を加えることが成功のカギになったと思われる。

メイカーズ・プレミアム・・・コモディティ化に対する究極の対抗策

BMWでは、3万ドルの3シリーズから7万ドルの7シリーズまで、常に多くのデザイン・・・どの車種も全てBMWらしく見えなければならない。その反面、7シリーズは3シリーズの倍以上の値段に見合うだけの高級感がなければならない・・言葉では言い表せなくても、見ればすぐに分かるような、独特の外観があるはずだ。数十年前には、それを作る能力こそがデザインの匠の証しだったし、デザイナー個人の感性が会社の顔になるようなBMWやアップルといった企業では、今もそうだろう。しかし、今日の殆どの企業では、アルゴリズムがその役割を担っている。

アルゴリズム、ソフトウェア、ハードウェア、そしてデジタル工作機械は、現代のプロダクトデザインの新しいスタンダードだ。対象物に同じ型を押し当てる機械式の型押しと違い、アルゴリズムによる成形は表面や全体の外観を変化させ、一つ一つを別のものへと変形させる。

ニール・ガーシェンフェルド「デジタルファブリケーションを普及させるキラーアプリは、パーソナル・ファブリケーションだと気がついたのです。ウォルマートで買えるものを作るのではなくて、買えないものを作るために使われるのだと」

Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ (Make: Japan Books)

Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ (Make: Japan Books)

 

 3D印刷は、ものづくりの経済を、大量生産から、3Dプリンタを使った小さなデザインショップによる職人モデルへと回帰させる可能性を秘めている。言い換えると、ものづくり、リアルなものづくりが、資本集約型の産業から、芸術とソフトウェアのようなものへと移行するかもしれないということだ。リッチ・カールガード(Forbes)

僕は、ただ楽しむために何かをすることができない。目的がないと面白くないのだ。だから、つい「趣味を仕事に」してしまったあげく、結局楽しめなくなるという悲しい結果に終わる。

 サン・マイクロシステムズの共同創業者ビル・ジョイ・・・コース理論(企業は、時間や手間や面倒や間違いなどの取引コストを最小にするために存在する)の欠陥を就いていた。「一番優秀な奴らはたいていよそにいる」・・・ビル・ジョイの法則・・・取引コストの最小化を優先すると、もっとも優秀な人材とは一緒に仕事ができない・・・会社が雇える人材としか一緒に働けない。・・・ハイエクは社会における知識の利用・・・知識が人々の間で不均質に分散している・・・統制され計画的に協調された組織は分散した知識に手をのばすことが出来ない

スティーブ・ジョブズ自身は大学をドロップ・アウトした天才だが、アップルにはジョブズのような社員はほとんどいない。Think Differentのキャッチフレーズとは裏腹に、今では他の優良企業と同じように経歴が重視される。・・・オープンなコミュニティではなく、企業の形態を取る限りアップルでさえビル・ジョイの法則に縛られる。

企業に比べてコミュニティでは自由と平等が保たれやすい。企業と違って法的責任とリスクがないからでもある。・・・女医が指摘したのは、労働市場が変化しつつあるということだった。インターネットのおかげで、たまたま隣りに座っている人に仕事を頼まなくてもよくなった。

人材のロングテール・・・ウェブのおかげで、人は教育や経歴にかかわらず、能力を証明することができる。また、グループを作り、本業かどうかに関係なく、企業の外で協力することが可能になる。・・・地理的な制約がほとんどない。才能ある人材はどこにいてもいいし、組織のために引っ越す必要もない。

コース理論に基づいて企業を経営しない僕らは、より多くの志納ある人材を引き入れることが出来ている。ひとところに集まることによってではなく、テクノロジーによって取引コストを最小にしているのだ。

 伝統的な大企業は、オンラインのプロジェクトよりも取引コストがしばしば高くつく。グローバルな人材市場からやってくるオンラインコミュニティの参加者に簡単に頼ることが出来るなら、たまたま隣りにいるだけの、この仕事に向いているかどうかもわからない同僚に頼る必要はない。

企業は、官僚主義や手続きや承認プロセスに満ちている。組織のあり方を守るためにそれは仕方がないことだ。・・・新しい製造モデルには、これまでにない製造企業が必要になる。・・・ウェブ企業のスキルを多く取り入れて、製品周りにコミュニティをつくり育てることで、新製品をより速く、より安く、よりうまくデザインできる企業。・・・不透明な環境に対応するために、組織の一部はより階層化が進むでしょう。ですが、高い機動性とオープン性と変化が常に必要な部分もあるのです。

 企業への投資は、個人投資家保護という名目のもとで、証券取引委員会(SEC)によって厳しく規制・・・近隣の中小企業への個人投資やコミュニティの利益から生まれたガレージ起業への個人投資を阻んでいる。・・・事業との個人的なつながりは、どこかのオフィスでまことしやかに作られたSECの申請書類よりも、よほど適切にリスクを評価する基準になるはずだ。投資業界は今、投資家保護の名目で、富裕層以外の投資資産を独占している。

 ナイキの元クリエイティブディレクター、スコット・ウィルソン・・・しち面倒な企業の製品開発プロセスを回避できた。何層にも重ねられた企業の承認プロセスは、真のイノベーションよりも過去の実績を重視するように出来ている。

画期的なネズミ捕り機を作れば、世界中から注文が殺到するはずだ。それが、アメリカの発明家が何世代にも渡っていたいてきた夢物語だろう。だが現実はちょっと違う。画期的なネズミ捕り機を作ったとしよう、ものすごく運が良ければ、どこかの企業がそれに目をつけ、様々な部署に諮り、安く製造できるようデザインを変え、利益を出せる価格を設定できるかマーケティング部門に決めさせる。完成品が店の店に並ぶ頃には、オリジナルのデザインとは似ても似つかない、まったくの別物になっている。 

 ユーザーの応募した商品アイデアのうちどれを生産するかをコミュニティの参加によって決めた後にも、製品開発のプロ集団がものづくりを助け、ややこしい製造の問題を解決してくれるとしたらどうだろう?それがまさにクァーキー(Quirky)のモデルだ。

Quirky: The Invention Platform

 ロングテールが示すように、新しい時代とは、ブロックバスター(大ヒット作)がなくなる時代ではなく、大ヒット作による独占が終わる時代なのだ。ものづくりにも同じことがいえる。ただ、よりオックなるというだけなのだ。より多くの人が、より多くの場所で、より多くの小さなニッチに注目し、より多くのイノベーションを起こす。

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

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