LIFE SHIFT

 70歳、80歳、100歳になった自分が今の自分をどう見るかを考えてほしい。今あなたが下そうとしている決断は、未来の自分の厳しい評価に耐えられるだろうか?・・・人生が短く、人々が人生で多くの遺構を経験しなかった頃は、取り立てて深く考えなくても『私は何者か?』と言うと位の答えは自ずと見えてきた。しかし、人生が長くなり、多くの移行を経験する時代には、人生全体を貫く要素が何かを意識的に問わなくてはならない。

生涯を通じてより多くの変化を経験し、より多くの不確実性に直面する・・・柔軟性をもって、将来に方向転換と再投資を行う覚悟を持っておくこと・・・ポール・オースター「あらゆる自体に備えていないということは、全く備えがないのと同じだ。」

ハーバード大学の経済学者クローディア・ゴールディンとローレンス・カッツによれば、教育とテクノロジーは抜きつ抜かれつの競争を続けてきた。テクノロジーが進歩して、それを使いこなせる高スキル労働者への需要が増加するペースに、教育によって高スキル労働者が供給されるペースが追いつかなければ、高度なスキルの持ち主に支払われる賃金は上昇する。一方、スキルを持たない低学歴層の賃金は下がり、所得格差が広がる。しかし、このように教育の投資利益率が高くなれば、大学に進む人の割合が上昇する。

19世紀は産業革命の時代で、物的資本が経済の原動力・・・20世紀は、教育と人的資本が大きな価値・・・21世紀には、他人が複製したり購入したり出来るようないアイデアイノベーションを創出することを通じて、経済的な価値が生み出される時代になる。

ワトソンは、詳細な癌診断ができる。しかし、これはむしろ、診断に人工知能の力を借りられるようになり、医療従事者に求められるスキルの中身が変わると見たほうがいい。上方を取り出すスキルではなく、高度な直感的判断、対人関係、チームのモチベーションの向上、そして意思決定に関わるスキルが重要になるのだ。・・・長く生産的な人生を送るためには、思考の柔軟性と敏捷性など、どの分野でも役に立つ汎用スキルが一層必要とされるようになる。その結果、汎用スキルへのニーズと専門技能へのニーズの間で緊張関係が生じる。・・・どのような専門技能もいずれ時代遅れになる可能性が高い。

新しい人的ネットワークを築けば、古い友だちの一部と疎遠になることは避けられない。・・・あなたのことを最もよく知っている人は、あなたの変身を助けるのではなく、妨げる可能性が最も高い・・・あなたが今まで通りで変わらないことに最も多くの投資をしている人間だからだ。

大規模で多様性に飛んだ人的ネットワークを重要な無形の資産の一つと位置づけたのは、それが長期にわたり価値を生むものだからだ。・・・グラノヴェター・・・重要なのは人的ネットワーク・・・何を知っているかではなく、誰を知っているかが大切だというのだ。

エクスプローラー・・・新しいものを発見する喜びを味わうために旅に出る冒険者・・・ オットー・シャイマー「システムの端に立ち、自分の思い込みや価値観に新しい光を当てる」・・・「るつぼ」の経験・・・高温で金属を溶かして新しい物質を生成するるつぼのように、その人の人間性を形作る経験が必要なのだ。・・・経験をするだけでなく、その経験について自問しなければ、世界に対する見方を変え、接した人達の人生のスト-リを自分のものにできない。問いを発し、注意深く観察し、熱心に耳を傾けることが必要だ。・・・長寿化時代には変身資産という新しいタイプの資産が重要になる。・・・重要なのは、本やウェブサイトを読むだけでなく、実際に人々と顔を合わせ、理屈抜きの感情レベルの経験をすることだ。

ポートフォリオワーカー・・・非効率性から逃れられない・・・様々な活動に同時並行で携わる人は、刺激と興奮を味わえる反面、その代償として「規模の経済」の恩恵に浴せない・・・重要なのは、互いに無関係のスキルと能力ではなく、互いに関連のあるスキルと能力が要求される活動を選ぶことだ。

 ハーバード大学のジョン・キャンベル教授がアメリカ金融学会で行った会長スピーチに寄れば、市民が犯しがちな過ちのパターンがいくつかある

  • 株式への投資が少なすぎること・・・株式投資をしていても、十分な分散投資をしていないケースが多い。
  • 局所バイアスの影響を受けやすい・・・なじみのある企業や近くにある企業の株式に投資する傾向が強い
  • 勤務先企業の株式を保有しすぎる・・・雇用と資産の療法を同時に危険に晒す
  • 値上がりしている資産を売却し、値下がりしている資産を保持し続ける傾向があること
  • 投資資産を放置しがちなこと・・・現状維持バイアス

Household Finance

マルチステージの人生では、引退後の所得減少だけでなく、人生の様々なステージを生きる間に経験する所得の変動に、とりわけ所得が大幅に減る移行期間に備えることも重要になる。

ACORNSという会社は、デビットカードやクレジットカードで買物をした時、端数を切り上げて精算し、実際の代金との差額を投資に回すアプリを開発した。引退後の生活資金を確保するには到底足りないが、貯蓄過小の状態を生むバイアスの影響を和らげることが出来る。(現在バイアス・双曲割引)

ウィリアム・フォークナー・・・一斉行進から脱落すれば、踏み殺されかねない

野生の棕櫚 (新潮文庫)

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 しかし、柔軟な働き方を求める個人のニーズが高まれば、全員を同じスケジュールで長時間働かせたい企業のニーズとの間で激しい衝突が起きるだろう。既存の働き方への圧力が強まる結果、時間の構成に関する多様性が増すこと、高スキルの職に就く人達に特有の時間の構成の仕方が生まれること、そして、余暇時間がレクリエーション(娯楽)から自己のリ・クリエーション(再創造)の時間へ変わっていくことは間違いない。

経済学者のダニエル・カーネマンが指摘するように、私達は往々にして誤った楽観主義に流される。私たちが適切な準備や行動をしないのは、それがもたらす結果を恐れるからではなく、未来について愚かなほど楽観的な考えを持っているからなのだ。私達は誰しもマーガレット・ヘファーナンが言う「見て見ぬふり」に陥りやすいのである。長寿化時代の難しい点は、失敗を犯した場合、その悪影響を受ける期間が長くなる可能性があることだ(裏を返せば、窮地に追い込まれても少しずつ挽回できる時間的余裕もあるわけだが)。

テクノロジーのイノベーションと長寿化の信仰の影響により、教育という古い産業が大きな脅威にさらされていることは明らかだ。・・・クリステンセン教授・・・テクノロジーの進歩により、教育分野で「破壊的イノベーション」の機が熟しており、そのイノベーション生涯学習にも好ましい影響を及ぼすという。

社会で若者と高齢者の隔離が定着する過程で大きな役割を果たしたのでは、企業だった。企業が引退という制度を確立させたことの影響が大きかったのである。・・・年令による区別は、マルチステージの人生には適さない。この変化を理解し、受け入れなければ、企業は墓穴を掘ることになるだろう。・・・明示的な年齢差別はともかく、人材の採用、昇進、給与の決定における暗黙の年齢差別を取り除くのは、極めて手ごわい課題だ。それでも、年令による差別をなくし、年齢や年齢の影響を受ける同僚評価とは無関係の客観的な基準を導入する必要がある。・・・3ステージの人生では、年齢は経験を推し量る材料として有効であり、それが昇進と給与に直接反映されるのは合理的だったが、マルチステージの人生では、年齢と経験は比例しないからだ。

政府と企業のルールへのいらだちを強めた人々は、個人単位と集団単位で新しい働き方と生き方を実験したいと思い始めるだろう。それは、間違いなく好ましい材料だ。そのような実験のプロセスを通じて、多くの人が自分にとってまことに大切なものを探索するようになり、ひとりひとりの個性と多様性が奨励され、賞賛されるようになる。こうして、人々は多様な働き方と生き方を選べるようになり、それが100年ライフの果実を生むのだ。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

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