デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

ティーパーティ運動やウォール街占拠運動の発生、ウィキリークスの登場は、それぞれ目的は違えど、権力を特権エリートから個人の手に取り戻すという願いは一致していた。ビットコインはそうした願望に対して、IT世界が出した明白な答えだった。 

自分が金持ちになりつつ世界も変えられるなんて、ビットコイン以外にない。

5年が経ち、ソースコードでサトシが書いたままのものは、わずか15%だという。

政府やウォール街に対する怒り、シリコンバレーと金融業界の戦い、技術が我々を人間の弱さから救ってくれるのではないかという期待と同時に技術の生み出す力へのおそれなど、現代社会の様々な底流から生まれた集団的発明の物語である。

長い間現金は、匿名性のある支払手段となってきたが、これをデジタルに移行させることは出来ない。デジタルになった途端、銀行などの第三者が必ず関与し、取引を追跡できてしまう。 

僕らが今ここでしているのは、広い意味ではビッグブラザーを過去のものにするという目標に沿った活動だ。とても重要な取り組みだよ。上手く行けば将来振り返った時に、あれが自分の手がけた中で一番大切な仕事だったといえるかもしれない。

 公開鍵暗号の中心要素の一つ「暗号学的ハッシュ関数」をうまく活用したのである。このハッシュ関数は簡単に解けるけれど、逆算がかなり難しい。たとえば紙と鉛筆を使えば「2963*3571」は比較的たやすく計算できる。ところが、掛け合わせて「1036613」になる二つの数字を見つけ出すのはずっと難しい。

 善良な人たちの持つコンピューティングパワーは、悪い奴らと比べると大幅に見劣りするからね。ほかにもいくつか疑問点はあるが、これが決定的だ。

ソフトウェアの最新版には、最初の論文で説明していたシステムに興味深い変更が加えられていた。新規コインは約10分おきに付与されるものとし、ネットワークがそれ以上のスピードでコインを生み出すようならハッシュ関数の難易度を上げていくことにしたのだ。さらにソフトウェアには、最初の4年間は1つのブロックの勝者となると50BTCを、次の4年間は25BTCを、という具合に4年毎に報酬のコインを半減させていき、総発行料が2100万BTCに達したところで発行を止めることも組み込まれた。

 こんなシステムが広く使われるようになったら、国家が自らの家畜をいいように食い物にしている現状に痛烈な一撃となるかもしれない。どう思う?僕らが行きているうちに本物の自由を実現してくれそうな現実的手段があるなんて、考えただけでワクワクするよ。あと必要なのは、このソフトやシステムが実用化出来るだけの信頼性を持ち合わせているという説得力のある証拠だけだ。

現行通貨の根本的問題は、強固な信頼がなければ機能しないことだ。中央銀行には通貨の価値を下げないという信頼が必要だが、不換通貨の歴史を振り返れば、こうした信頼を裏切ったケースは枚挙に暇がない。

経済学者の多くは金本位制からの離脱を行為的にとらえた。・・・強く反対したのは反政府主義者で、 多くは金本位制の廃止によって中央銀行は無制限に紙幣を印刷できるようになり、ドルの長期的価値を毀損し、政府による野放図な歳出も可能になると見ていた。だが2008年まで、これはリバタリアンの間でもかなりニッチな問題だった。潮目が変わったのは金融危機のさなか、FRBが大手銀行を救済し、景気を刺激するために大量の紙幣を刷ったためだ。・・・FRBには通貨発行の公式な制約が存在しないのに対し、サトシのビットコイン・ソフトウェアには、新規コインの発行量に明確な上限が設けられていた。この一件些細な取り決めが、無制限の通貨発行への懸念が高まる世界において、政治的にかなりの重要性を帯びる可能性が出てきた。さらにデジタル通貨につきものの「いかにして利用者に通貨が将来も価値を持ち続けると信じてもらうか」という問題の解決にも役立った。ユーザーは、ビットコインが入手困難になるに連れて価値が上がるはずだと合理的に納得できるようになった。・・・ここには無制限に新札を刷って通貨価値を切り下げるような中央銀行は存在しないんだ。

独裁的な中央銀行の不公平な通貨政策をはじめ、通貨供給を中央集権的権力に握られることから生じる様々なリスクから身を守ろう。ビットコイン・システムの通過供給の拡大には制限がかかっており、しかも金融エリートに独占されることなく、(CPUの性能に応じて)ネットワーク中に均等に分配される。

ラースローはすぐにGPUをp使って採掘プロセスに参加する方法を見出した。・・・社会主義者のようなことはいいたくない。富が集中したってかまわない。でも今の時点では、通貨が20%の人に偏るより、100%の人に行き渡ったほうがシステムとして成長できるんだ。結論としてサトシは、ラースローに「高速ハッシング」はほどほどにしてほしいと頼んだ。ハッシングとはハッシュ関数に次々とデータを入れて、どんな結果が出てくるか試すプロセスを指す。・・・ネットワークに集まるコンピューティングパワーが増えるほど・・・ネットワークは強靭になることも分かっていた。・・・多数決モデルでも、個人や集団がコンピューティングパワーの50%超を抑えてしまった場合には、ネットワークは危険にさらされる(「51%アタック」)。

僕が何をしようとしているかって言うと、ビットコインと引き換えに食事を届けてもらいたいんだ。・・・ピザ1枚につき1万BTCを提示した。・・・その後も数人がオファーを受けたので、ラースローはそれから2週間ほどピザを食べ続ける羽目になった。

ギャビンがビットコインに惹かれた大きな理由の一つは、一人の開発者ではなくユーザー全員がアップデートや維持管理をするという、分散型ネットワークとオープンソース・ソフトウェアの概念的な魅力だった。

 ギャビンにとって仕事で重要なのは、報酬でも名声でもなく、自分が面白いと思うことをできることだった。

 ジェドとマイスンはこの取引サイトの名前を考えることにした。ジェドは使っていない古いドメインネームがあるのを思い出した。2007年にトレーディングカードゲームマジック・ザ・ギャザリング」のカードを売買するオンライン取引所を立ち上げるために購入していた。名前は「Magic The Gathering Online Exchange」の頭文字をつなげ「マウントゴックス・ドットコム(mtgox.com)」だ。取引所はほんの数ヶ月稼働しただけで閉鎖し、それ以降休眠サイトとなっていた。

やあ、みんな 新しいビットコイン取引所を作ったんだ。 よかったら感想を教えてほしい

この欠陥を突けば、他人名義のウォレットのビットコインを使うことが出来た。・・・あるとフォルツがこのバグを攻撃しなかったことは奇跡に近い。ただシステムにもそうした振る舞いを促すインセンティブがあった。アルトフォルツも、ラースローが先鞭をつけたGPUでの採掘をしており、システムへの信頼が揺らげば保有するコインが無価値になると分かっていた。想定通り市場原理が働いたわけだ。この一件によって、ギャビンは分散型システムの強靭さを改めて確信した。あるとフォルツは、単に受身的にネットワークを使っていたのではなかった。

「Tor(トーア)」・・・サイトを匿名性のカーテンの後ろ側で立ち上げられた。トーアはもともとアメリカ海軍調査研究所が開発し、反体制派の人々や諜報員が通信手段として使っていたが、土台はデビッド・ショームら暗号学者が生み出したアイデアだった。トーア利用のウェブサイトは、トーアのウェブブラウザの利用者しかアクセスできなかった。・・・トーアを使えば、ロスのマッシュルームを買いたい客は追跡されずにシルクロードまで来られる。・・・ロスが解決策として提示したのはエスクロー(第三者預託)サービスだ。この際の預託先となるのはロス自身で、買い手にまともな状態のドラッグが到着するまで代金のビットコインを預かるのだ。そうすれば届いた粉や錠剤が想定とは違った場合、顧客は多少の返金は受けられる。

最終的には、ビットコインを活かし、それまでどうにも無理だった取引―ネット上での麻薬販売を可能にする、かつてない試み―である、という結論に達した。加えて、コカインやLSDを自宅や私書箱に届けてもらうのは、怪しげな売人と直接受け渡しするよりずっとましに思えた。

 フォーブス誌・・・このデジタル通貨は「国境を自由に越え、銀行ではなく自分のハードドライブで保管できる。さらにユーザーにとっておそらくもっとも重要なこととして、FRB議長がどれだけ紙幣を増刷しようとインフレ圧力にはさらされない。」

チャック・シューマー上院議員が記者会見を開き、シルクロードという破廉恥なサービスを糾弾し、閉鎖に追い込むよう要求・・・ビットコインについては「資金の出処や、誰が薬物の売買に携わっているかを隠すための、ネット版マネーロンダリングだ」 

グーグルのスイスオフィスで働くイギリス人技術者のマイク・ハーンが、ビットコインに関心を持つシャインのメーリングリストを作成したところ、2011年夏の終わりにはその数は100人を超えた。・・・

  • 水平分散型システムであること。P2Pのシステムであり、政府はビットコインを非合法化出来ても廃止は出来ない。
  • システムに自立性があること。採掘者(P2Pのノード)には採掘を続けるインセンティブがあり、それがシステム全体の安定に寄与する。システムが安定しているほど、多くのユーザーがビットコインを信頼し使うようになる。そうして多くのユーザーが使うと、採掘者のインセンティブがさらに高まる。
  • すべてがソースコードで決まっており、しかもオープンソースになっている。 

5~6のグーグル社員が、ネットワークへアクセスしやすくするため、新たなソフトウェアの開発に取り掛かった。マイクらは・・・「20%ルール」という社内制度をフル活用した。そしてビットコインをウェブサイトに組み込むためのコードベース「ビットコインJ」を開発した。・・・ビットコインJを使えばネットワークに積極的に参加しなくてもビットコインを使えるようになり、それほど技術に詳しくない新たなユーザー層に道を開くものだった。・・・グーグルウォレットではクレジットカードや銀行取引に係る現行の手数料がすべてかかることになる。マイクはアベディアに、管理主体がなく、取引手数料は実質無料など、ビットコインの基本的な仕組みを指摘した。マイクが説明を終えると、アベディアはこう言った。「ここだけの話だが、それが決済システムのあるべき姿なんだろうな」

 既存のシステムのお粗末さが明らかになったのは、金融危機の真っ只中にウォール街の大手投資銀行モルガン・スタンレーが日本の銀行から90億ドルの資本注入を受けたときのことだ。日曜日に両者が合意に達したものの、終末は送金ネットワークが動いてない上に、週明けの月曜日はコロンブス記念日でアメリカの祝日だった。結局、銀行ですら祝日には資金を受け渡しできないことがわかった。日本側は90億ドルの小切手を切るというとんでもない手段に出ざるを得なかった。

一部の言説とは異なり、ビットコインの送金も瞬時には完了しない。ビットコインお取引は一人の採掘者が確認し、ブロックチェーンに記録されて初めて正式に成立する。通常、これには最低10分はかかる。しかし365日24時間いつでも10分あれば取引が完了し、しかもスマートフォンからでも取引できるとなれば、週明けの火曜日まで待たされるよりずっといい。

 アルゼンチンでは、ペソは日々の買い物のために交換手段としては使われていたが、価値を保存する目的では誰も使わなかった。ペソで貯蓄するのは、お金を捨てるのも同然だった。そこで国民は貯蓄を守りたければ、価値の安定しているドルを買った。ペソの相場はあまりにも変動が激しいので、モノの値段は長期的により信頼性の高い尺度であるドルで覚えた。・・・アルゼンチンのような国に住む人にとって、資産を管理しておく手段としてビットコインのほうがドルよりずっと優れていると思えた。アルゼンチンでは怪しげな両替商でドルを購入しなければならず、保管場所はタンスの中やマットレスの下だった。オンラインで購入や保管が出来、どこでも使用でき、秘密鍵で安全に守られているデジタル通貨は、ドルと比べてはるかに優れていた。

人類学者デヴィッド・グレーバー・・・現実には物々交換が一般的であったことはなく、通貨は信用から発達した、すなわち誰が誰にいくら借りがあるかを追跡する手段として発達したというのがグレーバーの主張

われわれが金(きん)を使うのは美しいからではない。そんな考えは馬鹿げている。・・・金が台帳だからだ。首の周りに台帳をぶら下げて、権力と富があるのを見せつけるんだ。銀行など他社に管理を委ねる必要のない台帳だ。

アルゼンチンから届いた最新のエピソード・・・ブエノスアイレスで150万ドルの高級マンションを買うことにした、ウェンセスの妹の友人の話だ。アルゼンチンの不動産取引でおなじみの光景が繰り広げられた。ペソを信用しない売り手は、ドルで、しかも現金での支払いを要求した。150万ドルもの大金を考えると厄介な話だ。だがそれ以上に問題なのは、妹の友人はアルゼンチンの富裕層のご多分に漏れず、資金をドル建てでアメリカの銀行口座に置いていたことだ。そこからアルぜンチンの銀行に送金し、現金で引き出すまでには、銀行に支払う取引と両替の手数料だけで10%近く取られる。金額にして15万ドル、しかも数日待たされる。

こうした問題を避けようと、妹の友人は150万ドル分のビットコインをマウントゴックスで購入した。そして契約時にビットコインウォレットを持参し、公証人の立ち会いのもとで売り手に送金したのである。その後ウェンセスンには妹から、にこやかにそれぞれのスマートフォンを手にした二人の年配の男性の写真が送られてきた。

実際にこれがどれだけ簡単なことかを知ってもらおうと、ウェンセスはプロジェットにスマートフォンを出してもらい、からのウォレットを創らせた。そしてプロジェットの新しいビットコインアドレスを確認し、自分のスマートフォンのウォレットから25万ドル、具体的には6400BTCを送った。それから徴収にスマートフォンを使ってウォレットを創らせると、25万ドルを次々と受け渡していった。誰かがウェンセスの25万ドルを持ち逃げすることも出来たが、この集団に限ってはそんなことはなかった(投資銀行のアレン&カンパニーが毎年主催する、アリゾナ州ツーソン郊外にあるリッツ・カールトン・リゾート・・・IT業界の大物が集まるとびきり排他的で秘密主義的な会合)。

 

将来、あらゆる通貨がデジタル化し、競争が激化すれば効率の悪い現行通貨はすべて姿を消す可能性は十分にある。インターネット上で摩擦なしに取引できるようになれば、おなじみの統合とグローバル化が進み、最終的に6つのデジタル通貨だけが残るだろう。ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元、そしてビットコインである。

 

懐疑論の根っこにあったのは、ビットコインの熱狂的支持者と同じ原体験だ。金融テクノロジーについてシリコンバレーに決定的影響と教訓を刻みつけた「ペイパル事件」である。もちろんペイパルはまだ存在している。だが人々の念頭にあるのは現在のペイパルではなく、今よりはるかに壮大な野心を掲げた創業期の姿だ。・・・創業当初の社内会議でのティールのスピーチは、サイファーパンクのメーリングリストの内容と見まごうばかりだった。

「ペイパルによって世界中の市民が、かつてないほど自らの通貨を直接支配できるようになる」

ペイパルは急成長を遂げたが、株式公開の準備を進めていた2001年、マネーロンダリングなどの違法行為を懸念する政治家によって次々と妨害行為を受けた。・・・新たな制限や制約が課された結果、同社は野心的な創業時の目標から次第に遠ざかっていき、ティールとレプチンはまもなく社を去った。

 

両者(ティールとクリス・ディクソン(アンドリーセン・ホロウィッツに所属))はそれぞれのルートで、マウントゴックスの創業者ジェド・マケーレブの会社リップルに行きついた。同社の売り物は、ビットコインに限らずあらゆる通貨の送金に使える暗号化ネットワークだった。政府や銀行にとってはビットコインほどの脅威ではなく、それゆえにアンドリーセン・ホロウィッツとティールから見ればより魅力的で、両者はともに創業資金を提供した。

2人は、ビットコインそのものにも肯定的になっていた。投資会社ファウンダーズ・ファンドは、ティールがペイパルで得た資産の一部を使って設立した。同社はシリコンバレーの住人向けにビットコイン專門のメーリングリストを立ち上げたフェイスブックの技術者を引き抜き、デジタル通貨絡みの投資担当者に据えた。

2010年の時点ですでに、ビットコインが普及すれば当然GPUの次の段階として特定用途向け集積回路(ASIC)が登場するものと見られていた。ASICはたったひとつの作業するためだけに設計された半導体チップだ。GPUよりモサッらに特殊下の進んだ演算処理装置である。ビットコインハッシュ関数を解くためだけのASICを開発できれば、GPUの何百倍もの速さで演算が出来、 結果と居て何百倍ものビットコインを稼げるはずだ。

ただ新ASICを設計・製造するには百万ドル単位の費用と数ヶ月の開発期間が必要な上に、実質的に世界の半導体チップ製造を支配する専業メーカー5社のいずれかと契約しなければならない。2011年から12年の大半を通じて、ビットコインにはこれだけの投資を正当化するだけの価値がなかった。

最初に開発に参戦したのは、カンザスシティの会社バタフライ・ラボだ。2012年6月、バタフライ・ラボの創業者らが2012年10月にカスタムチップを内蔵した採掘専用コンピュータを発売すると発表したところ、たちまち500万ドル分の事前予約が入った。・・・バタフライ・ラボが新製品の発売が遅れると発表・・・中国系移民のイフ・グオが新会社アバロンを設立し、中国の技術チームとともにビットコイン採掘専用のASICチップを開発中だと発表・・・新ASICSは毎秒660億階のハッシュ演算ができると約束した(GPUならせいぜい20億回)・・・2012年の年初から能力が倍増するまでには1年かかったが、アバロン製のマシンが出荷されてからのわずか1ヶ月で再び倍増した。それと同時にネットワークは新規コインの発行間隔を10分に保つため、ハッシュ関数の難易度を自動的に調整した。・・・社名21e6は、ビットコインの総発行量2100万を縮めたものだ。設立したのはシリコンバレーの若き天才バラジ・スリニバサンである。彼はスタンフォード大学学生寮で遺伝子試験会社を設立して成功させた実績をもっていた。・・・アンドリーセン・ホロウィッツの2人の創業者マーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツは、バラジのプロジェクトに個人資産の一部を投じた。・・・ビットコインをめぐる軍備競争が幕を開けたのだ。

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2011年から12年にかけて、採掘能力をプールする集団に加入するユーザーが増え続けた。・・・ネットワークの支配力が徐々に集中化するという懸念・・・採掘集団の場合、集団の運営者が集団全体の投票券を握っており、他のコンピュータは単なる働き蜂にすぎない。少数の集団が相当な演算処理能力を擁するようになるなか、こうした集団の運営者が共謀してビットコインのルールを変更したり弱めたりするのではないかという不安の声・・・2013年3月に起きたビットコイン・ネットワーク史上最悪の技術トラブルは、ビットコインに組み込まれたインセンティブがサトシの目論見どおりに機能することを証明した。・・・ネットワーク上のコンピュータ(あるいはノード)のあいだで、ノードが採掘すべきブロック(直近の取引)は何番目か、意見が割れている・・・2009年にネットワークが誕生してから22万5430番目のブロックか、それとも・・・31番目のブロックなのか?
ギャビンはすぐに、このトラブルが長年ネットワーク最大の潜在的リスクと考えられてきた「ハード(硬い)フォーク」だと気づいた。・・・ネットワーク上のコンピュータの一群が、あるブロックを採掘したのはどのノードかという選定について一方の道に進むのに対し、別の一群がそのブロックに別の勝者を選定して別の道に進んでしまった状況を意味する・・・誰がどのビットコインを所有しているのかについて意見の相違があることを意味するからだ。
「まずい状況のようだな。」・・・「完全なフォークだ」・・・ビットコイン価格は、わずか30分で49ドルから45ドルに下落し、それまでの一週間の上昇分が帳消しになった。・・・ビットコイン・ソフトウェアの最新版をダンロードしたコンピュータが、旧来のソフトウェアとそれで動いているコンピュータでは正式なものと認められないブロックを承認し、新規コインを採掘者に付与していたせいだった。・・・旧版ソフト0.7には特定のブロックの承認を禁じるルールが有り、それが新版0.8では承認できるようになっていた。・・・ネットワークの全員が旧版化最新版のどちらか一つに移り、そのスフとが承認したブロックチェーンを採用すればいい。だがどちらを選ぶかを決めるルールがなく、またどちらかを選んだとしてすべてのノードが足並みをそろえるまでどれだけ時間がかかるか皆目見当がつかなかった。・・・ビットコインの原則は民主主義であり、最も多くの支持を得たブロックチェーンを正式なものとする、という結論を出した。今回のケースでは、最新版0.8のブロックチェーンを支持するコンピューティングパワーのほうが多かった。大規模な集団の運営者など最も高度な採掘者が、ソフトをいち早く最新版にアップデートしていたことが大きい。こうした人々が誰よりも大量のコンピューティングパワーを擁しているのであれば、残る人々もアップデートして彼らと行動をともにする必要があると考えた。・・・アップデート済みの採掘者は新規コインを既に獲得しているから、今更手放せと言われても抵抗しそうだった。・・・やや以外だったのは、巨大採掘集団の運営者たちが0.7に戻すとすぐに同意したことだった。
有力な採掘集団BTCにギルドの運営者は、自分の集団が旧バージョンに転換すれば、ネットワークのコンピューティングパワーの過半数が旧バージョンに移るだろうと発言した。そうすると0.8が出て以降に採掘されたビットコインを失うことになる。だがネットワーク全体がユーザーの信用を失えば、損失はもっと大きくなる。
・・・エリュースリア(BTCにギルドの運営者)がソフトを0.7に完全に切り替えると、すぐにビットコインの相場は持ち直した。数時間もしないうちに今回の一件はビットコインの最大の強みを改めて証明したという意見が出てきた。・・・・サトシ・ナカモトがネットワークに組み込んだインセンティブは、またしてもネットワークの参加者に目先の個人的利益より共通の善を優先するよう促すという期待どおりの効果を発揮した。

 

2013年3月27日、ビットコイン・フォーラムやニュースサイト<レディット>は、1BTCがいくらに熟れば時価総額が10億ドルを超えるのかという話題で持ちきりだった。そこで出た結論は91.26ドルだ。・・・

マルク・カルプレス・・・世界最大の取引所を経営して2年になるというのに、いまだ国外でのイベントに一度も参加したことがなかった。その理由は、病気の愛猫ティバンに注射を打てるのは自分だけだと固く信じていたからだ。・・・マウントゴックスの顧客は引き続き日本の銀行を通じて取引をすることになり、銀行がカス一日あたりの送金回数の制約に縛られることになった。口座開設の単純な手続きさえ、承認手続きを完了するのに3週間もかかる始末だった。・・・マウントゴックスの諸問題の原因は明らかだった。マルクの度を超えた無能ぶりである。

ビットインスタント・・・送金業者として登録したにもかかわらず、当てになる銀行口座がなかなか見つからないという問題・・・大抵口座開設の徒kに、顧客が資金の預入と引き出しを日々繰り返すことを説明しなかった。一つの口座で日々数千件もの取引があれば、銀行のコンプライアンス部門には大きな負担になる。その事実が判明した途端、ビットコインとの取引は割に合わないと判断されるのが常だった。
これはチャーリーの大きな弱点の表れで、ウィンクルボス兄弟を苛立たせた。・・・楽観的姿勢は営業マンにはうってつけで、チャーリーが有能なセールスマンなのは間違いなかった。だが問題を無視するのではなく、解決策を考えなければならない経営者としてはおよそ好ましい習性ではなかった。

長らくビットコイン業界の雄として君臨してきたマウントゴックスとビットインスタントの欠陥を目の当たりにしたシリコンバレーの投資家や起業家は、代わりの会社を探し始めた。・・・マウントゴックスの代替・・・ビットスタンプ・・・ビットインスタントの得意分野である、商学ビットコイン取引を望む人たちが注目したのは、2013年にAirbnnbの出身者とゴールドマン・サックスの元トレーダーが設立したサンフランシスコのコインベースだ。

ビットコイン・アドレスには身元情報が一切付随していないため、テロ組織は隠密に資金の授受ができる。これはすべての口座が特定の人物や組織と結びついている従来の銀行業とはまるで違う話だった。

無政府主義者の共同体でも、地元自治体に水や電気の供給継続を立たれたらやっていけない・・・頑なな現実世界とのぶつかり合いが、たいていユートピア思想にもとづく活動が行き詰まる原因となることが多い。

膨大な資金流入・・・ビットインスタントのマウントゴックスの口座には、殺到する買い注文に対応するだけの資金がなかった・・・準備資金を積み増すため、ウィンクルボス兄弟にメールで50万ドルのつなぎ融資を懇願・・・チャーリーはビットインスタントの顧客向けにコインの大部分をマウントゴックスで買い付けていたが、そこでもトラブル・・・注文を受けてから取引が完了するまで30分もかかっていたのだ。・・・事態を悪化させたのは、マルク・カルプレスがちょうどこのタイミングで大掛かりなコード変更を実施・・・「またこうやって我々を振り回すんだな。要点を伝えず、不誠実だ」・・・「そっちからの指示に対応できなきゃ、こっちはサイト閉鎖になるんだぞ!」・・・「誰か助けてくれ」・・・4月10日の注文数は前日の3倍に及び、注文を出してから処理されるまで1時間以上要した。注文成立を待つ間に価格が急騰・・・買い注文の取り消しが相次ぐなか、過去数カ月分の相場上昇に因る利益を確定しようと売り注文も・・・暴落・・・マルク・カルプレスが、問題は取引量のせいでサイバー攻撃ではないとユーザーに説明したことで、事態はしばらく鎮静化・・・ほんの数時間後、今度は本物のハッカーが容赦ないサイバー攻撃を仕掛け、サービスを妨害した。サイトは日中からサービス停止に追い込まれた。

ウェンセスははっきり答えた。「僕はビットコインをとことん信じているから、個人資産の内無謀なほどの割合を投じている。」・・・ロイターの金融担当コラムニスト、フェリックス・サーモン・・・「ビットコインは多くの面で、人類史上、最高かつ最も明快な決済メカニズムだ。今後もっとよいものを作ろうとするならば、ビットコインの問題点だけではなく優れている部分も学ぶ必要がある」
暴落の翌日、ウィンクルボス兄弟はついにNYT紙で、ビットコインに約1000万ドルの大金を投じている事実を公表した。

ビットコインの本当の狙い、この技術が重要である本当の理由を堂々と語る勇気もない、お目こぼしを求める弱気な集団に成り下がるのは情けない。ビットコインは社会運動だ。その牙を抜き、単なる気の利いた新技術に見せかけようとする人々は、自らを欺くだけでなく、このコミュニティ全体に対して恐ろしく不誠実な行為を働いている。

クルーグマンは、ビットコインが「価値の保存」という通貨の基本的機能の一つを果たせていない事実を踏まえて、ビットコインが通貨であるという見方に疑問を呈した。価格がこれほど激しく変動することがわかっているのに、ビットコインで資産を蓄えようとする人などいるだろうか、と。
一方コーエンは、今後は新たな設計の優れた暗号通貨が登場し、ユーザーを奪っていくことから、ビットコインが価値を維持するのは困難になると論じた。

初期のビットコイナーの多く、特にリバタリアン思想の支持者たちは、FRB金融危機に際して経済を刺激するため大量の資金を銀行に注入したことで、いずれアメリカでも通貨ドルの価値が下がり、インフレ率が跳ね上がると言った、アルゼンチンと同じような状況が発生すると考えていた。こうした考えに立つと、ビットコインや金のような稀少資産を保有するほうがドルを保有するより安全に思える。しかし2013年末の時点で、インフレの兆しは一切見えていなかった。むしろアメリカ経済が直面していた課題はデフレだった。・・・ビットコインの稀少性は、ユーザーに使うより貯めることを助長するという、当初から批判されていた弊害を生んでいた。

2013年秋、同社は早くも独自仕様の採掘チップを本格的に使い始め、たちまちビットコイン・ネットワーク全体のコンピューティングパワーの3~4%をしめるまでになった。・・・バラジがあまりにも優秀なので、アンドリーセンは2013年末にバラジをアンドリーセン・ホロウィッツの9人目のパートナーに招き入れた。デジタル通貨やブロックチェーン関連の新たな投資機会を探ってほしいというのが抜擢の大きな理由だった。

2014年1月を通じてマウントゴックスのビットコイン価格は、他の取引所より100ドル近く高い状態が続いた。原因は、日本国外の顧客が引き出した資金を送金するのに、マウントゴックスが未だに問題を抱えていたことだ。・・・1月初旬にはマウントゴックスからドルを引き出せないという不満が顧客から手でいたが、今度はビットコインの引き出しを要求したのにコインが届かないという苦情が増え始めたのだ。
2月7日金曜日、マルクがマウントゴックスからの資金引き出しを全面停止すると発表・・・ビットコインプロトコルの欠陥に突き当たったと説明・・・「取引展性(トランザクション・マレアビリティ)」というシステムの欠陥を突いたハッカー攻撃・・・しかしまるくは言わなかったが、他の主要なビットコイン企業は何年も前からこの欠陥を認識し、問題の取引コードを使わないという形で対策を講じていた。・・・ギャビン・アンドレセンは即座に、これはソフトのバグというより奇妙な癖のようなもので、他の人々は問題なく対処しているとマルクに反論・・・「マウントゴックスは自分たちの責任をビットコインになすりつけようとした。公の場で彼らの無能ぶりを暴き出すような反論が展開されていてうれしいよ」

 

スーザン・エイシー(アテイ)
「価値の保存手段として多くは語られるが、違法な送金や商取引の用途もあるかもしれない。不換通貨のライバルかもしれない。これは伝統的な銀行業を破壊するのだろうか。電子商取引や送金を改善するものなのか。多国籍企業にとってこれまでより優れた社内台帳システムになりうるのか。メディアはこうした問題を論じていないが、その見込は十分ある。」

特にギャビンが問題視していたのは、新たなブロックとして確認し、ブロックチェーンに記録できる取引の数に制約があることだった。2014年半ばの時点で、10分毎に各区人できる取引数は約400件に過ぎなかった。ビットコインが毎秒200件の取引を処理できるビザに変わる決済システムを目指すなら、ソフトウェアには相当な変更が必要になる。



デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

 

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