世界のへんな肉

 一度、味を覚えてしまうと、もふもふしたあどけない顔の動物も、もはやただの肉にしか見えません。日本でも動物園にいる動物たちを指さして「あいつはうまいが、こいつはまずい」と教えて友人たちをドン引きさせてしまうようになりましたが、もし地上から豚や牛や鳥が消えても、私はなんとか生き残れるような気がします。

 

「そうそう。コブ牛とバッファローはぜんぜん違う」

「同じ牛の仲間でしょう?」

「いや、バッファローは悪魔の使いだから食べていいのだ」

 

「おじさん、日付が違うよ」

「いいの。イランの暦では今1300年代だから」

 

サバンナ周辺では、そこに食べ物があればどかっと座って、他人のご飯を勝手に食べていいというルールがあるのだそう。ナイロビに着いてから宿のケニア人に教わったのだけど、そのときは知らなかったから、おじさんたちにはちょっと悪いことをしたかも。とはいえ、「いつも食べられてばっかり」と愚痴を言ったら、「それなら、お前も食い返すのだ」だって。

 

「おばちゃん、リャマおいしい!」

「アルパカもあるよ!」

「リャマだけじゃなくて、アルパカも食べられるの?」

 

釣ったピラニアは焼くか、唐揚げにして食べる。こんがりと焼きあがり、変わり果てた姿となったピラニアに噛み付くのはお腹をすかせた人間だ。凶暴な見た目とは裏腹に味はスズキのように淡白で身もモチモチ。

 

帰国後、友人に「アロワナのスープを食べてみたよ」と報告したら、「アロワナちゃんを!?あんた、もう友達じゃない!」とまさかの絶好宣言。「ごめんね、でも泥臭くてまずかったの。もう二度と食べないから」と謝ったけど、友人の怒りは3ヶ月くらい解けなかった。


世の中の悪をすべて吸い込んだような邪悪な顔、サイボーグのような灰色の固いウロコ……ではなく鎧(甲羅)に、頬から長いヒゲがミョーンと伸びている。触っただけで呪われそうな、こんな気持ち悪い魚を人生で一度も見たことがない。

「鎧は固くて外れないから、そのまま炒めるんだ」と寸胴鍋にドサドサ放り込み、なにやらかき混ぜはじめたんだけど、鍋から聞こえてくる音が、ドンガラ、ガシャガシャ……という、おおよそ食べ物とは思えぬ音で、恐怖をかきたてる。

 持っていたスプーンの角でヨロイナマズの頭をペチペチと連打! もはや、食べ物とは思えない。ヨロイナマズv.s.日本人。パカッと鎧がはずれて身が現れたが、生で見たときよりも茹でたら少し白くなった気がする。おじさん、ニコニコしながら私をじっと見てるから、もう引き返せない。

 覚悟して口に身を放り込むと…………あれ? 濃厚でねっとり。あっさりしたピラニアと違って白子のような味。赤い肝は苦みがあり、あん肝のようにこれまたこってり。

ちょっとうまいんじゃないの?

牧場にワニやピラニアやマラリア蚊・・・・・。やっぱりアンの家と同じなのは見かけだけなのね。分かってはいるが、ここはアマゾン。小川で遊ばないでよかった。

アルマジロ・・・ゼラチンの部分は豚の角煮よりもだいぶコリコリして硬いけれど、赤身は豚よりももっと濃厚で、マグロの頬肉のような味がする。

イグアナ・・・鶏肉の食感に近いけれど、味は脂の乗った白身魚のようだ。あっさりしているけれど旨味がある。鶏のような小骨が多くていく分食べづらいものの、あのごつい顔と愛想のない性格から、何となく虫のような苦い味を想像していたから、意外や意外、うまいではないか。聞けば現地では、樹上のニワトリと呼ばれているのだとか。・・・それからというもの、餌をねだりに来る外面のいい犬よりも、味で勝負のイグアナLOVE。

 なんと、カブトガニ科のカブトガニは、カニというよりサソリや蜘蛛に近い生き物らしい。ど、どういうこと?私たちが食べたのは、蜘蛛に近い生き物だったのだ。あれは海鮮料理ではなくて、蜘蛛の卵炒め。これは知らなくてよかった。知りたくなかった・・・。

 

世界のへんな肉

世界のへんな肉