ヤバい社会学

僕は社会科学という分野全般に腹をたてるようになった。つまり、ある意味、僕は自分に腹を立てていたのだ。社会学者がいつも使っている道具では、僕が目にする人の苦しみを救えなさそうなのが頭にくる。貧しい人たちに家を与え、教育を与え、仕事を与えようと僕の同僚たちが絵に描いてくる机の上の社会政策なんて、どうしようもなくずれているような気がする。 

ぼくはJTが車で殴りこんで銃を撃ち込もうという時、どんなふうに計画をたてるかを、先生たちにとうとうと語った。彼らはよく、まず若い女の子を送り込む。すきを見て敵のギャングにすり寄らせ、奇襲攻撃のために情報を集めさせるのだ。すると先生たちの方は僕に、大真面目な顔で、弁護士に相談しろって言う。どう考えても、僕のやってる調査は普通の学術調査からはみ出してるってことだ。

ポン引きがついてる売春婦(「下請け」と呼ばれている)は、自分一人でやっている「独立系」に比べてはっきりと有利だ。典型的な下請けは、独立系に比べて殴られることが少ない。独立系が大体年に4回ぐらいなのに対して下請けは年に1回ぐらいだ。それに、下請けは稼ぎの方も、ポン引きに33%とられるのに、独立系より週に20ドルぐらい多い。加えて、下請けが仕事をしている時に殺されたって話を僕は聞いたことがない。一方、独立系はここ2年で3人殺されている。・・・どちらのグループもヘロインやクラックをやる人の割合が高い。・・彼女たちとのセックスの需要は大部分が所得の低い人達だ。

 公式な統計ではロバートテイラーに住む大人の96%が仕事をしていない。でも、住人はだいたいアルバイトで表の仕事をしていた。・・・彼女たちはそういうまっとうな事の稼ぎをCHA(シカゴ住宅局)から隠そうとする。団地から追い出されたり、色々な生活保護を受けられなくなったりするからだ。・・・たくさんのご家庭が加わっている大きな交換のネットワークが合って、そこで女の人達は生き延びるために必要な物を借りたり交換したり集めたりしているのだ。・・・女性のネットワークがアパートをみんなで使っていることもよくある。・・・修繕を申請しても、CHAが5人全員に対応してくれる可能性はとても小さいし・・・5人がそれぞれ賄賂を送るのも懐具合からいって難しい。そういう時彼女たちは、最小限の修理に必要なだけの賄賂をみんなで出し合う。

警官の薄汚い面を追いかけるのは怖い。ぶちのめされたりいつも嫌がらせされたりするのは絶対嫌だ。警官は酷いことになった時に助けてくれる人たちだとうっと思ってた。でも、このあたりではそうじゃなかった。僕でさえそうじゃなかった。

「俺の連れか、誰かの連れか、どっちかだ」。僕の専門分野の教えがどう言おうと、この世界に中立なんてものはない。

帳簿で一番驚きだったのは、一番汚くて一番危ない仕事をしている若いメンバーの給料が信じられないぐらい安いことだ。・・・彼らの稼ぎは最低賃金に届くかどうかぐらいだった。・・・だからJTみたいなギャングリーダーの仕事は大変なのだ。給料は安く、昇進の見込みも小さいのに、若い子たちにヤル気を出させてヤクを売るという危ない仕事をやらせないといけない。 

ヤバい社会学

ヤバい社会学

 

Sudhir Venkatesh | Department of Sociology

Sudhir Venkatesh - Wikipedia, the free encyclopedia