統計という名のウソ―数字の正体、データのたくらみ

 本物の因果関係は擬似相関ではない。しかし、ここから論理上の大問題が持ち上がる。ある関係が擬似相関でないと絶対確実に証明することは決して出来ないのだ。何かまだ検討されていない変数を考慮したら、その関係が擬似相関であることがあらわになるという可能性があるからである。したがって、因果関係を絶対確実に証明することは出来ないと異議を申し立てることが常に出来る。タバコ産業はこの議論を自己弁護に用いた。研究で喫煙と肺癌との間に関係が有ることが示されたからといって、喫煙が癌の原因になることが証明されたわけではないと何十年にもわたって主張し続けたのだ。・・・因果関係を確認したという主張はどれも批判的に検討しなければならない。・・・何らかの理論を要求するというやり方がある。理論とは、その2つの変数を関連付ける因果的な作用についての議論だ。・・・また、見込みのある第3の変数を発見してチェックすることによって、それが擬似相関の原因かどうかを確かめるのもいい。更に研究を行うことで証拠を収集するのもいい。・・・肺がんを抱えた人々の喫煙歴をたどる、喫煙者と非喫煙者の肺がんの発生率を比較する、実験動物を煙草の煙にさらして肺がんを引き起こすなど。それぞれの方法にはそれぞれの限界があるが、こうした方法が全て用いられて、様々な研究が行われ、喫煙と肺癌の繋がりを裏付ける結果が出ており、因果関係があるという確かな証拠となっている。

 

1998年に米国疾病対策予防センター(CDC)が報告したところのよれば、10歳から19歳までのアフリカ系米国人の自殺率が1980年から1995年までの間に倍以上に増え、この増加は白人の青少年の間での増加よりはるかに大きいということだった。

精神医学者や臨床心理学者・・・「心的外傷後奴隷症候群」に触れた。それは「様々な自己破壊的行動として表れうる」ということだった。また、この人達は「家族の崩壊、経済的な機会の乏しさ、診断されていないうつ状態、認識されていないが、近隣で起こった暴力事件について悲しみを覚えていること、さらには、中産階級の一因になろうとすることからくるストレス」を上げた。「社会的地位を上昇させる黒人家庭には伝統的な家族と地域社会の支えが欠けている」というのだった。CDCの報告・・・「社会的地位を上昇させている黒人家庭の青少年は・・・社会に広く見られる対処行動を採用するかもしれない。そこでは、抑うつ状態や絶望への対応として自殺が用いられることがより多い」。言い換えれば、事後的な説明がたっぷり提示されたのだ。

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しかし、この増加が、黒人青少年の行動の変化ではなく、当局がこの人たちの死を処理する仕方の変化を反映しているということもありうる。・・・20世紀の終わりごろに自殺件数が上がるに連れて、原因が特定されていない死亡の件数は下がっているのだ。

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同じ期間に記録された死亡で溺死、銃による死、毒死、転落死の4種類・・・自殺のやり方としてよく用いられるもの・・・ある公務員が、溺れて死んだ少年の死亡証明書に記入する時、その少年の死は事故と記録されるかもしれないし、自殺と記録されるかもしれない。・・・この期間に黒人の少年の自殺件数が上がり、他の原因による死亡が減ったのが見て取れる。

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根源は、社会的地位を上昇させていくアフリカ系米国人家庭の少年が受ける心理的圧力などといったことよりむしろ、当局者が10代の黒人を扱う仕方の変化にあるのかもしれない。・・・自殺に分類される死亡の件数が増えても、自殺行為が増えていることが反映されているとは限らない。当局者が死亡例を自殺に分類する仕方の変化が表れているのかもしれない。

 

統計という名のウソ―数字の正体、データのたくらみ

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