科学者という仕事

 教科書では、すでに出来上がっているものを、読者になるべく理解しやすいように説明することに重点が置かれている。したがって同じ結論が述べられていても、発見者がそれに、どのようにしてたどり着いたかを如実に示している原著の面白みや価値に比べれば、ハイウェイをドライブする楽しみと、前人未到の地を探検するスリル満点の愉快さほどの違いがある。湯川秀樹

本を読むのもいいが、なるべく現論文を読みなさい。そこにはnascent stateの理論がある。朝永振一郎

自分が本当に好きなことをやっていれば、他人がそれを見て辛そうだと思っても、本人にはそれほどではないですよね。好きなことをやるというのは、そういうことなのだと思います。星野道夫

学生の時に出来るだけたくさん「分かる」という経験を積んでおくことが大切だ。わかったときには、ある種の爽快感や感動を覚えることが多い。これは、数学や物理の問題が巧く解けたときのように、分かれば十分な確信度をもって分かる、つまり「分かることは100%分かる」、という感覚である。・・「分かる」という深い理解の積み重ねこそが将来の科学研究の血となり肉となる。「知識より理解」、すなわち「知るより分かる」ということが科学研究のフィロソフィーなのである。

K・R・ポパーは、科学と非科学とを分けるために、次のような方法を提案した。反証が可能な理論は科学的であり、反証が不可能な説は非科学的だと考える。検証ができるかどうかは問わない。

「難しい」というとき、2通りの意味があります。「とにかく手数が多く、ややこしいもの」と「簡単だが、気がつかないもの」と、あなたはどちらをお好みでしょうか?亀井明夫

すぐれた想像力も模倣なくしては成り立たない。しかし、模倣だけでは決してサイエンスにはならない。サイエンスは新しい知の創造に他ならないからである。

「何を研究するか」が一番大切だと思うかもしれないが、その前に「どのように研究するか」という問題意識のほうがより重要だと私は考える。科学的な発想や思考、問題を見つけるセンスから始まって理論的な手法や実験的な手技に見られる基本的な勘所は、すべての分野に共通している。その意味で、「どのように研究するか」という考え方や方法論をしっかり見につけておけば、どんな分野の研究でもできることになる。

私の自然科学研究の経験は、すべてのことに近道のないことを教える一つ一つの積み重ねをたゆまず、飽きることなくやっていく、それがもっとも確実な方法であり、それがもっとも速やかに目的に達する途であると私は信じている。朝永振一郎

「限定的いい加減さの原理」(the principle of limited sloppiness)
もしあなたが余りにいい加減ならば、決して再現性のある結果を得ることはなく、そして決して結論を下すことはできません。しかし、もしあなたがちょっとだけいい加減ならば、何かあなたを驚かせるものに出会ったときには・・・それをはっきりさせなさい。M・デルブリュック

科学者は論理的でなければならないが、論理の積み上げだけでは十分でない。着実な準備の上に論理を超えた信念と実行力が必要で、そこにこそ幸運の女神が微笑む。(中略)秀才であることは、成功するために必要でも十分でもない。堀田凱樹

チョムスキー言語学は、徹底して物理学をモデルにして作られており、できる限り不変的な法則や説明を見つけようとすることが目標である。抽象化と理想化を進めることによって、生データよりも深いレヴェルで説明を与えられることは、物理学の「定石」なのである。そして、最初は研究対象を絞り込むことで、広くて浅い理論ではなく、狭くて深い理論を目指す。

権威への幻惑は真理の最大の敵である。アインシュタイン

「やればできる」と思って実際にやらないのは、できないこととなんら変わりない。アイディアだけで眠っているものを、誰も独創的だとは言わない。また、簡単に誰でもできるようなことをいくらやってみても独創的な仕事にはならない。

独創性とは、「人と同じことはしない」というプリンシプル(原則)である。

研究者として「独創性」こそがもっとも大切だと考えるならば、どの国にいようと、いつの時代に生きようともただひとつ変わらない鉄則がある。それは、他人に左右されず、決して群れないことである。

研究者に必要な能力の基本は、「知力・体力・精神力」である。・・研究者といっても、生身の人間である。一人の人で、これらの三要素をすべて兼ね備えている人はめったにいない。だから、その中のひとつの要素に自信がない場合に、残りの二つで補うことが大切になってくる。むしろ、持たない能力をどうカヴァーするかが問題である。・・人生のレースは才能で勝負しているように見えるが、実は最後は詩嚢のない部分を以下にカバーできるかが肝心です。つまり本当は「ない才能で勝負」するのです。

天才とは努力し得る才だ、というゲェテの有名な言葉は、ほとんど理解されていない。努力は凡才でもするからである。しかし、努力を要せず成功する場合には努力はしまい。彼には、いつもそうあってほしいのである。天才はむしろ努力を発明する。凡才が容易と見る処に、何故、天才は難問を見るということがしばしば起こるのか。詮ずる所、強い精神は、容易なことを嫌うからだということになろう。・・抵抗物のないところに創造という行為はない。
「モオツァルト」小林秀雄

子供の好奇心を、つまらない好奇心から意味のある次元の高い好奇心に導いていくということ、私は、これが科学教育のひとつの基本的な考え方ではないかと思うのです。朝永振一郎

大切なのは、質問するのをやめないということです。好奇心はそれ自体で存在する根拠があるのです。アインシュタイン

英語では、strategy(戦略)とtactics(戦術)が区別されており、研究を進めるうえでも大切な考え方となっている。戦略とは目的を達しえするための全体的な計画であり、研究の場合は特定の仮説を確かめることである。これに対し戦術とは、その戦略を実行するためのひとつひとつの方法である。戦略は何をするか(what)ということであり、戦術はそれをどのように行うか(how)に対応する。・・・すぐれた研究者は、戦略と戦術のバランス感覚にすぐれているといえよう。・・ひとつの実験が失敗したときでも、どこまで戻り次に何をすべきかを、全体的な研究計画に基づいて的確に判断できる。

研究者にとって特に大切なのは、考えることである。そのためには、考えるための物理的な時間だけでなく、精神的な「飢餓感」が必要となる。

M・ガードナーのパズル集「ひらめき思考」の序文には、次の6つのステップが具体的に示されている。
その問題は、より単純な場合に変えられないか?
その問題は、より解きやすい同等の問題に置き換えられないか?
その問題を解くための簡単な手続き(アルゴリズム)を発明できないか?
数学の別の分野からの定理を応用できないか?
その結果を、よい例と反例でチェックできないか?
その問題を見る角度が実際には回答と無関係に与えれらていて、その存在が話の中で誤った方向に導くことになってはいないか?

すべては出来うる限り単純にされるべきで、より単純という程度ではよくない。アインシュタイン

考えるということは、余分なことを考えないということでもある。・・P・B・メダウォーは、「どんな年齢のどんな科学者でも、重要な発見をしたいと思うなら、重要な問題に取り組まねばならない」と的確に述べている。

研究者になろうというなら、いつかは物にしたいという研究の卵を3つ4つ抱えておけよ。そうすれば情報過多の中でもどんな情報を取り、どんな情報を無視するか効率よく判断できるぞ。小柴昌俊

「何をやるかより、何をやらないかが大切だ」とよくいっている。一人の科学者の一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いなという程度でテーマを選んでたら、本当に大切なことをやる暇がないうちに一生が終わってしまうんですよ。だから、これは自分はこれが本当に重要なことだと思う。これなら一生続けても悔いはないと思うことが見つかるまで研究を始めるなといってるんです。利根川進

すべての科学の基本的な目的は、最小限の仮説または公理から、論理的推論によって最大限の経験的事実に当てはめることです。アインシュタイン

本気で研究者を目指すならば、若いときの時間を出来るだけ浪費せず研究に専念するしかない。自分の能力を過信せず、人一倍研究に時間をかけてみない限り、真理の女神が微笑むかどうかはわからないのだから。

特に、僕のような理論物理学者は、二十代から三十代にかけてが勝負だ。・・疑問を持たなくなったら、新しいビジョンも沸いてはこないでしょう。朝永振一郎

聴衆が自分たちの喜びと知識のために講演者が全力を傾けていると信じるに足る十分な根拠を与えるべきである。M・ファラデー

M・デルブリュック

  • 聴衆は完全に無知であると思えよ。
  • 聴衆は高度な知性を持つと考えよ

「堀田の教え」

  • 聴衆は完全に無知であると思え
  • 聴衆の知性は千差万別であると思え
  • 聴衆がおのおの自身より一段上のレベルまで理解できるようにせよ

「カスのデータは、どんなに積んでもカスはカス」・・科学の価値は、それに費やされたエネルギーとは完全に独立である。そして、どんなにすばらしい結果が出ても、論文がうまく書けなければ伝わらない。最終的には「論文こそすべて」なのである。

科学の教育においても、独創性をいかに育てるかが課題である。・・近年、学生はますます受身的になっているといわれる。先生から指示されるのをじっと待っていることが多く、自分で課題を見つけてそれを解決する力の不足が指摘されている。・・自分で調べ、自分で考え、自分で確かめることではじめて、独創性のある研究の基礎が出来るようになる。・・研究の目的や目標は他人に与えられるものではなく、自分で探し出すものなのだ。その試行錯誤の過程は、結局、自分というものを探し出すことにつながっていく。

ポジティブな情熱を持ち続け、ネガティブな不安を捨てること。これこそが研究に必要とされる、最も単純な動機付けである。カハール

大学での勉学を決して義務だとみなさないように、そうではなくて君たち自身にとって喜ばしく、そして君たちの今後の仕事が奉げられる社会にとっても望ましいことには、精神面での解放された美に接するという、うらやむべき機会なのだと思ってください。アインシュタイン

大学は研究と教育の場であります。私たちの生きている、この世界に内在する真理を探究し、真理を発見し、学生たちに、後進の人たちに、そして学外の人たちにも、真理を伝達することが、大学の本来の使命であります。湯川秀樹

人を育てるには、本気しかない。社員を怒るには、自信がいる。だから、社員以上に働く。24時間、会社のことを考えている。ストレスがたまらないのは、仕事が好きで、楽しいから。藤巻幸夫

科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか (中公新書 (1843))