数学は世界を解明できるか―カオスと予定調和

 ホップ分岐は方程式が非線形であることが本質的である。それまで自然科学においては線型方程式が幅をきかせていた。それはその方程式がもつ単純さとうつくしさ、そしてなにより数学的な取り扱いが比較的簡単であったからでもある。しかし、それがために、多くの興味深い現象が、なにか例外的なものとして、あるいは法則性の発見には馴染まないものとして、つまりは科学的な研究の対象には馴染まないものとして見過ごされたり、無視されたりしてきたことにもなった。 
ホップ分岐の前に現れる安定不動点は古典的な物理・化学に馴染みの深い「平衡構造」を表している。つまり、その構造は、様々な要因によるゆらぎに対して、摩擦や粘性といった一種の復元力によって抵抗性がある構造である。その意味でこの平行構造は性的なものである。結晶はもっとも代表的な平衡構造であるといえよう。
それに対して、分岐のあとに現れる新しい周期解は動的な構造を表している。それは一種の動的平衡状態である。この新しい動的構造をプリゴジン達は散逸構造と呼んだ。それは、開放系に特有の構造であり、エネルギーや物質の絶え間ない出入りを伴うからである。

数学は世界を解明できるか―カオスと予定調和 (中公新書)

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