ロブション自伝

料理に革命をもたらしたのは、ジャン・デゥラヴェイヌです。彼以前の料理人は、みな古典から抜け出せなかった。シャルル・バリエのように、モダンな考えを持つ料理人もいましたが、とてもまれでした。シャルル・バリエもまたパイオニアで、自分で鮭を燻製にしたり、フォアグラやパンも作っていました。それに対して、ジャン・デゥラヴェイヌは、料理に調和をもたらした革新者でした。素材や味わいを尊重していました。素材に興味を持ち、その調理の緻密さを追求した、おそらく初めての人物ではないでしょうか。ヨウ素を入れた湯で、魚の火入れをすることを考えだしたのは彼でした。狂気でないとこうしたことを考え出せないでしょうが、アイデアは素晴らしいものだったのです。

私は日本人が好きです。彼らは、仕事の質を認知することが出来、ぞんざいな仕事を嫌い、入念に手を施された仕事すべてを心から賞賛するのです。これは、私にとってとても大切なことです。・・・私達の世代は、基礎を学んできました。そしてその基礎から、すべてを作ることが出来た。まずいものも美味しいものも、古典的なものも創作的なものもです。今日の若者は、訓練も受けていませんし、目標もありません。今日は、それを取り戻さなければならないでしょう。

私は通常、自分自身が食べたい料理を作っています。もしも、若者に助言をするとしたら、自分自身が食べたいものを作りなさいと言うでしょう。・・・難しいのは、他のものを作ること、どこにもないような料理をつくることです。他と違う料理を作る。完成品をつくり上げるまでには、途方も無い数の試作をする覚悟でいなければなりません。

料理を想像するための、たったひとつの秘密、助言、指令ーそれは、一にも二にも、味合うことです。

(料理の盗用について)全く気になりません。それより、かえって誇らしく思うくらいです。他店で、私の料理が、他の料理人を通して作られサービスされるようなことにであると、幸福にさえ感じます。私のアイデアが優れている、あるいはとても優れている、という証明ではないでしょうか。こうした暗黙の承認を得意にも思います。おそらく、こういうことから、料理も進化していくのではないでしょうか。 

 創りだすというアートを伝えていくことはとても難しいと感じています。それは、作る人自身の個性を表現する活動だからです。天賦の才には違いありませんが、それが開花するまでには、たくさんの知識と実践が必要なのです。技術なくして創作することも可能です。しかし、それではすぐに限界が来てしまう。料理は、音楽に似ていて、止むことのない繰り返しと、しっかりとした技術の基盤、そして日常的な実践が大切なのです。実践を積もうとしない、また、レストランの経営をするだけで満足しているような料理人は、もはや料理を創り出すことは出来ません。

ロブション自伝 (中公文庫BIBLIO)

ロブション自伝 (中公文庫BIBLIO)