狭小邸宅

「てめぇ、冷やかしの客じゃねぇだろうな。その客、絶対ぶっ殺せよ」 

「はい、絶対殺します」

 

「おい、お前、いま人生考えたたろ。なんでこんなことしてんだろって思ってたろ、なぁ。なに人生考えてんだよ。てめぇ、人生考えてる暇あったら客見つけてこいよ。」 

「いいか、不動産の営業はな、臨場感が全てだ。一世一代の買い物が素面で買えるかっ、臨場感を演出できない奴は絶対に売れない。客の気分を盛り上げてぶっ殺せっ、いいな、臨場感だ、テンションだっ,臨場感を演出しろっ」

「お前らは営業なんだ、売る以外に存在する意味なんかねぇんだっ。売れ、売って数字で自己表現しろっ。いいじゃねぇかよっ分かりやすいじゃねぇかよ、こんなに分かりやすく自分を表現できるなんて幸せじゃねぇかよ、他の部署見てみろ、経理の奴らは自己表現できねぇんだ、可哀想だろ、可哀想じゃねぇかよ。売るだけだ、売るだけでお前らは認められるんだっ、こんな訳の分からねぇ世の中でこんなに分かりやすいやり方で認められるなんて幸せじゃねぇかよ、最高に幸せじゃねぇかよ」

「遊ぶ金にしろ、借金にしろ、金が動機ならまだ救いようがある、金のために必死になって働く。人参ぶら下げられて汗をかくのは自然だし、悪いことじゃない。人参に興味がなくても売る力のあるやつはいる、口がうまいとか、信用されやすいとか、度胸があるとか、星がいいとか、いずれにしろ売れるんだから誰も文句は言わない。問題は、強い動機もなく、売れもしないお前みたいなやつだ。強い動機もないくせに全く使えない。」

「自意識が強く、観念的で、理想や言い訳ばかり並べたてる。それでいて肝心の目の前にある現実をなめる。一見それらしい顔をしておいて、腹の中では拝金主義だ何だと言って不動産屋を見下している。家一つまともに売れないくせに、不動産屋のことを分かったような気になってそれらしい顔をする。客の顔色をうかがい、媚びへつらって客に安い優しさを魅せることが仕事だと思ってる。」

狭小邸宅 (集英社文庫)

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